怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会 開催しました
 2月26日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め9名でした。
 テーマは、第1部「夢と眠りの物語」、第2部「テーマなしフリートーク」です。今回は、本会のみ4時間。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。
 それでは、当日の会の詳細について、ご報告いたします。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。
 前回同様、あらかじめ作っておいたプラスチック製ネームプレートを、参加者それぞれの前に立てたうえで、参加者を紹介しておきます。今回も、新規の方のみ主催者から紹介し、2回目以降の参加者には、軽く自己紹介をしてもらいました。

 今回のテーマは「夢と眠りの物語」。過去3回のテーマは、どちらかと言うと「ジャンル」的なものだったのに対して、今回は「モチーフ」的なものと言っていいんでしょうか。その点、新しい試みではありました。
 主催者が作った〈夢〉テーマ作品リストのほか、参加者のGreenさんの方で独自に挙げていただいたリストも参考にしながら、話を進めていく形になりました。
 ただ、テーマ的にどのような作品が扱われるか、参加者の方にいまいちイメージが伝わらなかった感もあり、進行がスムーズにいかなかったのは、自分への課題として残りました。

 第1部が終わり、第2部の完全フリートークの時間に入っても、〈夢〉テーマの話が結構続いたので、今回はほとんど〈夢〉テーマで終わったといっていいかもしれません。皆さん心に引っかかるものがあったというべきなのか、興味深いテーマではあったと思います。

 それでは、今回のトピックについて順不同で並べてみます(例によって、記憶にあるものだけですが)。

・人間が見る夢について。夢の内容は大体が支離滅裂で、また、個人的にしか意味を持たないことも大部分。それゆえ、他人と夢の話をしても、あまり興味を持ってもらえないことが多い。
・他人と夢の話をすることがあるか? ほとんどない人が大半。夢の中で危険な目に合うなど、特殊な例を除いては、あまり共通の話題にもならないことが多い。
・夢には記憶が反映される? 外国の風景が夢に出てくるとき、イメージとしての風景が出てくるが、実際に行った場所であれば、映像的にも鮮明になるような気がする。
・夢に関する文学は、古代から存在するが、近代以前のものは神託やお告げとしての夢を描いたものが多い。
・夢をそのまま記述した「夢日記」は、部分的に面白い部分はあるが、全体的には退屈なものが多い。
・夢に関する描写を、古典的な名著から抜粋したアンソロジー、スティーヴン・ブルック編『夢のアンソロジー』は、退屈で眠くなってしまう。
・『夢のアンソロジー』と同じようなコンセプトでも、ボルヘス編『夢の本』は、ボルヘス好みの不思議な描写を含む夢が多く取り上げられており、エンタメ度が高い。
・「邯鄲の夢枕」で知られる沈既済『枕の中の世界の話』、「南柯の夢」で知られる李公佐『南柯郡太守の物語』など、古い中国の夢物語には、現代の夢テーマのSFやファンタジー作品の原型が見られる。
・白行簡『三つの夢の話』は、相手の夢が現実に現れた話、自分の夢を相手に見られた話、同時に同じ夢を見た話、3つの夢のパターンを並べるという構成の夢物語ショート・ショートで楽しい。
・蒲松齢『聊斎志異』の1エピソード『宰相の夢のあと』は、上記『枕の中の世界の話』を元にした話。人間の生のはかなさを描くために、人生2回分以上の時間が夢だった…とするすさまじい物語。
・蒲松齢『聊斎志異』の面白さ。エピソードは数百篇と膨大。妖怪変化や精霊などが出てきたり、色恋を扱ったものが多い。
・都築道夫『有毒夢』の紹介。未来を舞台にした作品だが、あっさり人が殺されてしまう。
・都筑道夫の怪談作品について。怪奇小説としての理想は岡本綺堂と内田百閒だったらしく、実際に後期の作品はこの2人の作風に近くなってくる。後期の短篇集『目撃者は月』では、夢をテーマにした怪奇作品が多かった。
・フィリップ・K・ディック『凍った旅』は、ディック後期の短篇。冷凍睡眠から目覚めた男がコンピュータに強制的に良い夢を見させられるが、男の罪悪感から全て悪夢になってしまうという物語。結構が整っているのと、ディックらしからぬ哀愁感が感じられて、味わい深い作品。
・SF作品だと、タイトルに「夢」とつく作品がよくあるが、内容的には夢と関係なかったりする。
・マーガニータ・ラスキ『ヴィクトリア朝の寝椅子』の魅力について。一種のタイムトラベルものだが、妙な心地悪さのある作品。同じくラスキの怪奇小説『塔』も気色悪さの際立つ作品。
・《20世紀イギリス小説個性派セレクション》は、なかなか面白いセレクションだった。シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナー『フォーチュン氏の楽園』など
・シルヴィア・タウンゼンド・ウォーナーについて。未訳の作品『猫のゆりかご』『ロリー・ウィローズ』などについても。
・キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』の面白さ。画帳に描いたものが夢の中で現実化されるという話。児童文学扱いだがけっこう怖い。映画化作品『ペーパーハウス 霊少女』は完全にホラー映画。
・ボルヘスは夢に関心の強かった作家。『円環の廃墟』について。夢の中で人間を作り出すという幻想小説。「神」のアナロジー?
・ケヴィン・ブロックマイヤー『終わりの街の終わり』について。生者の記憶にある限り、存在を続ける死者の街の物語。何ともいえない魅力のある作品。
・エドモンド・ハミルトン『眠れる人の島』について。
・ロード・ダンセイニ『ぺガーナの神々』について。神々さえも、つかの間の夢に過ぎない…という壮大なファンタジー。〈宿命〉と〈偶然〉が賭をする…というのは、決定論と自由意思の問題を神話に流用したもの? ダンセイニの世界観は、日本人の心性に近い気がする。
・チャールズ・ボーモント『トロイメライ』について。このパターンのオチを知らずに読むと、すごくビックリするのではないか。
・アルベルト・モラヴィア『夢に生きる島』について。ラヴクラフトやクトゥルーのパロディとしての側面も。
・アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』について。夢で世界を改変するというファンタジー。世界改変というすごい能力を描きながら、作品の主眼がそこにはないところに作家性を感じる。映像化作品『レイス・オブ・ヘブン』は、特撮などは控えめだが、わりと原作に忠実な良作。
・内田善美『星の時計のLiddell』について。マンガというより絵画に近い。発想元はアンドレ・モーロワ『夢の家』? 類似した発想のイギリス民話『夢の家』も存在。
・内田善美について。そもそも男性か女性かも不明。作品の再刊は拒絶しているそう。
・アンブローズ・ビアス『アウル・クリーク橋の一事件』について。「夢オチ」の元祖? 現代エンタメでは類似の作品が多く見られる。似たテーマの作品として、エイドリアン・ライン監督『ジェイコブズ・ラダー』など。
・ナサニエル・ホーソーン『デーヴィッド・スワン』の独創性について。現実に「夢」が通り過ぎるという作品。「今までの人生は全て夢だった」というテーマを逆転させたユニークな発想。
・シャーリイ・ジャクスンの作品集『こちらへいらっしゃい』について。収録作品『夜のバス』は、夢テーマ作品の傑作。同時収録のエッセイも面白い。ぜひ復刊してほしい作品集。
・怪奇小説で夢が扱われるときは、たいてい「悪夢」として登場する。わりとワンパターンな使い方が多い気がする。
・ウィルキー・コリンズ『夢のなかの女』について。夢の中で殺されそうになる話。それが真実なのか妄想なのかはっきりしない構成も巧み。
・ロバート・R・マキャモン『夜襲部隊』について。映像化作品も面白かった。
・シーリア・フレムリン『特殊才能』の怖さについて。他人を悪夢にひきずりこむ男の物語。悪夢を扱った作品の中でも、かなりの怖さをほこる作品。
・楳図かずお『神の左手悪魔の右手』について。全体に夢に関連する要素が強い作品。とくに第1エピソード『錆びたハサミ』は、全篇悪夢がテーマになっている。主人公の少年をはじめ子供たちの倫理観の描かれ方などが独特。
・SF作品では、ある時期、睡眠をなくしたらどうなるか?という感じの作品があった。バラード『マンホール69』など。現代では、ナンシー・クレス『ベガーズ・イン・スペイン』などが似たようなテーマの作品。
・現代の夢テーマでは、夢に潜り込む…というタイプの作品が多い。筒井康隆『パプリカ』、映画『マトリックス』シリーズ、ターセム・シン監督『ザ・セル』、クリストファー・ノーラン監督『インセプション』など。
・映画『インセプション』について。夢世界が階層構造になっているところが面白い。
・小川未明『金の輪』について。凄味のある作品。未明には他にも面白い作品がある。
・フリオ・コルタサル『夜、あおむけにされて』について。夢と現実が逆転するストーリー。
・シオドア・スタージョン『熊人形』について。何とも言えない不気味さのある作品。『監房ともだち』など、スタージョンには他にも変な作品がある。
・スティーヴン・ミルハウザー『アリスは、落ちながら』について。『アリス』のパスティーシュ作品。『バーナム博物館』収録作品中では目立たないが、いい作品。
・マーガレット・ミラー『鉄の門』について。ミラー作品では、時折、現実が悪夢のような情景に変貌することがある。精神的に問題をかかえた登場人物が多いせいもあるかも。『心憑かれて』など。
・戦後のニューロティックサスペンスでは、悪夢のような、幻想小説に近い作品もある。ジョン・フランクリン・バーディン作品など。
・フロイト以後における、夢テーマ作品への影響について。一時期は、精神分析的な視点を持ち込んだ作品が多く書かれた。ただ、象徴をちりばめられた作品を読んでも、物語として魅力的ではないものも多い。
・現代では、フロイトやユングの思想は、SFやファンタジーのひとつの素養として読まれていくのではないか。
・筒井康隆はフロイトの影響が強く、夢についての著作も多い。『パプリカ』『夢の検閲官』など。
・スティーヴン・キング作品について。近年の作品はどんどん厚くなっている? キングの文体の特徴について。商品名を羅列する、頭の中に流れるCMを描写する、など。リアリティを出すための技術?
・キング『シャイニング』について。映画版と原作は大分違う。キング自身が再映像化した作品についても。
・キング『ランゴリアーズ』の面白さ。サスペンス度は強烈。映像化作品では、最後に怪物が出てくる場面で白けてしまった…という人も。
・ネルヴァル『オーレリア』について。散文詩のような作品。
・映画、ジャック・リヴェット監督『セリーヌとジュリーは舟でゆく』について。女性二人を描いたファンタスティックな作品。他に似ている作品が思い浮かばない、ユニークな映画。
・駕籠真太郎作品について。もともと成人マンガ畑の人だが、近年はわりとメジャーに。奇想がすごい。人体がバラバラになったりと、筒井康隆を思わせるところもある。
・中野京子『新 怖い絵』について。「普通」の絵画だけでなく、殺人鬼ジョン・ウェイン・ゲイシーのピエロの絵なども収録しているところが面白い。
・久世光彦『怖い絵』について。この著者は、日常にさりげなくフィクションを混ぜるのがうまい。
・殺人鬼たちが描いた絵画展について。
・『マリ・クレール』誌は、安原顯が編集に関わるようになって文芸誌のようになった。
・安原顯が絡んだブックガイドシリーズは、どれも魅力的だった。とくに角川文庫から出た『短篇小説の快楽』は、それぞれの専門家がベストを選んだ魅力的な本。風間賢二『ホラー短篇小説ベスト50』、荒俣宏『ファンタジー短篇小説ベスト50』など。中には「ノン・ジャンル」という、よく分からない分類も。
・新刊情報をどこで入手するか? 「悪漢と密偵」さんのtwitterでの新刊情報は非常に便利。
・図書館の利用法について。マイナーな翻訳ものは、リクエストをしないと入れてくれなくなってしまう。ベストセラーばかり入れるのは図書館としていかがなものか。
・最近の図書館はサービスが行き届いている。深夜まで開館していたり、カフェ併設のところも多し。
・ルネ・マグリットの絵画作品の面白さ。現実にありえない組み合わせ、描かれた内容とタイトルの乖離、描かれた空の美しさなど。マグリットには、似たモチーフの作品が多数あり、それぞれタイトルが違うので、タイトル名を覚えるのが大変。
・ダリの作品について。絵画というより宝飾品に近い扱い。
・クリムト作品の素晴らしさについて。実物を見ると圧倒される。
・ヘンリー・ダーガーについて。世界観の設定の細かさがすごい。死後にダーガー作品の価値を認め保管した家主は偉い。
・宮沢賢治『銀河鉄道の夜』は、夢テーマ作品?
・ブラックウッド『ジンボー』について。隠れた名作。
・ブックガイドについて。ミステリやSFなどはたまにガイドが出るが、ホラーに関しては滅多に出ない。風間賢二『ホラー小説大全』の再刊でも、新しい情報はとくに更新されていなかった。現代のホラー事情が最近はわからなくなっている。
・自由国民社『世界のSF文学・総解説』について。「幻想文学」版もそうだが、あらすじを結末までばらしてしまうのはどうかと思う。トールキンの項目に記された、トールキン自身の歌のカセットが気になる。
・書きたいジャンルの需要がないので、別の分野で書く作家は昔からいた。マシスンのように本質はホラー作家だが、主にSFで活躍した作家もいる。日本でも純文学作家がミステリを書いていた例もある。
・《ドーキー・アーカイヴ》について。サーバン『人形つくり』は面白かったが、あまりバリエーションの書けない作家という印象。何冊か出たら飽きてしまうかもしれない。
・坂口尚の〈夢〉をテーマにした短篇マンガについて。
・夢をテーマにした谷内六郎の画集について。
・妄想が現実化する…というのも〈夢〉テーマのバリエーション? 小松左京『召集令状』、オーガスト・ダーレス『淋しい場所』、フレドリック・ブラウン『発狂した宇宙』、フィリップ・K・ディック『虚空の眼』など。
・映画『ビューティフル・マインド』について。
・映画『眠る男』について。
・映画『マイ・プライベート・アイダホ』について。
・怪奇小説における「手」テーマの作品について。W・F・ハーヴィー『五本指の怪物』、ジェラール・ド・ネルヴァル『魔法の手』、ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ『白い手の怪』、モーパッサン『手』、クライヴ・バーカー『手』、オリバー・ストーン監督の映画『キラー・ハンド』など。
・ジャック・ロンドン『星を駆けるもの』について。精神の力だけで肉体世界を克服する話。『新トワイライトゾーン』のエピソードで、似たようなテーマの作品があったが、そちらでは二重のオチになっていて感心した。
・田中啓文の作品について。ダジャレから発想されていて、その発想力に驚く。『銀河帝国の弘法も筆の誤り』『異形家の食卓』『UMAハンター馬子』など。
・「自動筆記」をはじめ、シュルレアリストたちは夢や無意識の力に関心が強かった。チャンス・イメージなど。
・E・H・ヴィシャック『メデューサ』について。昔から幻想小説の名作と言われていたもの。邦訳がアトリエサードから刊行予定。
・R・L・スティーブンソン『びんの悪魔』について。非常によくできたお話。フリードリヒ・ド・ラ・モット・フーケ『地獄の小鬼の物語』という、そっくりの話がある。


第5回読書会は、3月中旬~下旬に予定しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

3月の気になる新刊と2月の新刊補遺
2月28日刊 『ナイトランド・クォータリー vol.8 ノスタルジア』(アトリエサード 予価1836円)
3月2日刊 真魚八重子『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』(洋泉社 予価1512円)
3月8日刊 パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』(ちくま文庫 予価972円)
3月9日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語3 馬と少年』(光文社古典新訳文庫)
3月11日刊 ダリル・グレゴリイ『迷宮の天使 上・下』(創元SF文庫 予価各972円)
3月中旬刊 ロマン・ギャリ『ペルーの鳥 死出の旅へ』(水声社 予価3024円)
3月16日刊 イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』(白水Uブックス 予価1620円)
3月17日刊 高原英理『怪談生活 江戸から現代まで、日常に潜む暗い影』(立東舎 予価1944円)
3月17日刊 オーリン・グレイ/シルビア・モレノ編『ファンギ 菌類文学アンソロジー』(Pヴァイン 予価1728円)
3月21日刊 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(創元海外SF叢書 予価2592円)
3月21日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵 新版』(創元推理文庫 予価799円)
3月21日刊 キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』(創元推理文庫 予価972円)
3月22日刊 小泉喜美子『痛みかたみ妬み 小泉喜美子傑作短篇集』(中公文庫 予価799円)
3月27日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)


 これはもう、タイトル勝ちですね。真魚八重子『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』は、「なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか」を追った評論。

 『ペルーの鳥 死出の旅へ』は短篇集。ロマン・ギャリは、フランスのゴンクール賞作家、いわゆる「文豪」なのですが、邦訳されている短篇は、ちょっと変わった作品が多く、面白く読んだ覚えがあります。『孤島奇譚』『ヒューマニスト』など。ホラーアンソロジーに収録された短篇『終わらない悪夢』は、純粋なホラー作品ではないですが、迫力のある作品でした。
 他の短篇がどんな作風なのか、気になる作家ではありますね。

 イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』は、〈我々の祖先〉三部作のひとつ(他は『まっぷたつの子爵』(晶文社)と『木のぼり男爵』 (白水Uブックス))。この三部作は、カルヴィーノ作品の中でもエンターテインメント度が非常に高い作品なので、オススメです。

 オーリン・グレイ/シルビア・モレノ編『ファンギ 菌類文学アンソロジー』は、キノコや菌類をめぐる作品を集めたアンソロジーとのこと。収録作品の一部が公開されていましたので、載せておきます。

ぞっとするような正当派のホラー
「菌糸」ジョン・ランガン

奇妙なキノコ辞典からの抜粋のような掌編
「白い手」レイヴィー・ティドハー

ある目的のためにキノコの潜水艦に乗った男の悲しい物語
「かわいいトリュフの女の子」カミーユ・イレクサ

スチームパンクと魔法とラヴクラフトをミックスしたウエスタン風物語
「セージの最後の花」アンドルー・ベン・ロミニ

共通の幻覚体験をもたらす特殊なキノコの話
「巡礼する処女たち」クリストファー・ライス

バロック風の奇怪な物語
「ミッドナイト・マッシュランプス」W・H・パグマイア

探偵ものボディホラー小説
「死体の口、胞子の鼻」ジェフ・ヴァンダーミーア

保守的な植民村に暮らす人々の欲望の物語
「山羊の花嫁」リチャード・ギャビン

苦悩と喪失をめぐる美しい物語
「死者が夢見る場所」A・C・ワイズ 

ほか

 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』は、発刊告知からずっと楽しみにしてきた作品です。紹介文が期待を煽りますね。「謎の支配人、壁に掛けられた抽象画、そして運命の女。偽名でホテルを渡り歩く男が遭遇する異様な一夜に始まる恐怖。J・G・バラード『ハイ・ライズ』+スティーヴン・キング『シャイニング』ともいうべき巨大建築幻想譚!

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

波との暮らし方  パス『波と暮らして』とその絵本化作品
400110864Xぼくのうちに波がきた (大型絵本)
オクタビオ・パス キャサリン・コーワン マーク・ブエナー
岩波書店 2003-06-20

by G-Tools

 メキシコの詩人オクタビオ・パスに、『波と暮らして』(井上義一訳 木村榮一編『美しい水死人 ラテン文学アンソロジー』福武文庫収録)という、幻想的な短篇小説があります。
 海に出かけた男性が、「波」を見初めて家に連れ帰り、一緒に暮らし始めます。最初は楽しかった生活ですが、気まぐれな「波」は、物を壊したりと自分勝手を始めます。逃げ出した男性が、冬に家に戻ってみると…という物語。
 「波」を「女性」の擬人化として描いた、ファンタスティックな作品です。男性をからかったり、嫉妬させたりと、現実の女性のアナロジーとして描かれており、官能的な要素も強くなっています。

 かなりエロティックな作品といえるのですが、なんとこの作品を絵本化した作品があります。それがこれ、『ぼくのうちに波がきた』 (キャサリン・コーワン文、マーク・ブエナー絵 岩波書店)。
 子供向けのアレンジのため、エロティックな要素はなくなっています。そのため、こちらの作品では、主人公は少年で、「波」は少女として描かれています(といっても、ヴィジュアル的にはただの「波」なのですが)。「波」が少女(子供)のように描かれているため、後半に波が荒れ狂う場面も、子供のわがままとして解釈できるところは、見事な換骨奪胎ですね。
 お話の流れは、原作とほぼ同じです。原作では「波」を連れ帰ろうと、飲料水タンクに「波」を入れた主人公が、毒を入れた容疑をかけられ、刑務所に1年間入れられてしまうという部分があるのですが、さすがにそれはカットされています。
 画面いっぱいにヴィジュアル化された「波」が非常にユーモラスに描かれており、見応えがあります。これは絵本ならではの表現ですね。
 絵本だけで読んでも、充分魅力的ですが、原作と絵本を読み比べると、いっそう楽しめると思いますので、気になった方はぜひ。
paz03.jpg paz02.jpg paz01.jpg

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会 参加者募集です
 「怪奇幻想読書倶楽部 第4回読書会」を、下記の日程で開催します。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年2月26日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1200円(予定)
テーマ
第1部:夢と眠りの物語
第2部:テーマなしフリートーク

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。メインは「怪奇幻想」ですが、ミステリ・SF・ファンタジー・文学・コミックなど、関連分野についても話しています。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

第1部のテーマは「夢と眠りの物語」。
 古来より神秘的とされてきた「夢」と「眠り」。古典の時代から現代まで、物語においても、様々に取り上げられてきました。
 例えば、ホルヘ・ルイヘ・ボルヘス『円環の廃墟』、ジョン・コリア『夢判断』、夏目漱石『夢十夜』、エドモンド・ハミルトン『眠れる人の島』、筒井康隆『パプリカ』、キャサリン・ストー『マリアンヌの夢』、内田善美『星の時計のLiddell』、ロバート・R・マキャモン『夜襲部隊』、アーシュラ・K・ル・グィン『天のろくろ』、澁澤龍彦『夢ちがえ』など。魅力的な「夢」と「眠り」にまつわる物語について話したいと思います。

第2部は、テーマを限定しないフリートークとして、最近読んだ面白い本や映画の話、紹介したいオススメ本の話、参加者に聞いてみたい疑問など、興の向くままにおしゃべりしたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

《ナイトランド叢書》の続刊について
 『SFが読みたい!2017年版』(早川書房)を読みました。目当ては2017年度の各出版社の刊行予定なのですが、アトリエサードの出版予定がすごかったです。
 海外怪奇幻想小説を紹介しているシリーズ《ナイトランド叢書》の第三期の続刊が紹介されていたのですが、二期に引き続き、マニアックなタイトルばかりで驚きました。


第二期

クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』(安田均編)
1 ゾシーク篇(発売中)
2 ハイパーボリア篇
3 アヴェロワーニュ篇

オーガスト・ダーレス『ミスター・ジョージ』(中川聖訳)

マンリー・ウェイド・ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』(尾之上浩司訳)

M・P・シール『紫の雲』(南條竹則訳)


第三期

E・ヘロン&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探求』

A・メリット『魔女を焼き殺せ』

サックス・ローマー『魔女の血脈』

E・H・ヴィシャック『メデューサ』

エドワード・ルーカス・ホワイト『セイレーンの歌』『ルクンド』


 すでに1巻が刊行されている、C・A・スミスの短篇集は2分冊ではなく、3分冊になったようです。増補作品も入るのでしょうか。
 ヘロンの『フラックスマン・ロウの心霊探求』は、オカルト探偵ものでは有名な作品の一つですね。《シャーロック・ホームズのライヴァルたち》に分類されることもあります。
 メリット『魔女を焼き殺せ』は、50年近く前の邦訳があるものの、稀書に近い状態だったので、刊行は嬉しいところです。
 ヴィシャック『メデューサ』は、幻想小説の古典的名作と言われているものの一つ。確か《世界幻想文学大系》の幻の候補作の一つにも挙がっていました。
 個人的に一番うれしいのは、エドワード・ルーカス・ホワイトの作品。怪奇アンソロジーのマスターピースとして、作品がよく収録されるホワイトの作品ですが、個人傑作集は編まれたことがなかったので、これは快挙です。
 この感じだと、W・W・ジェイコブスとかシンシア・アスキスあたりの邦訳も夢ではなさそうですね。

 アトリエサードの刊行予定では、SF作品もいくつか挙がっていますが、中では、アルジス・バドリス『無頼の月』が気になります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

邪悪なる祈り  ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』
4336055351悪の誘惑
ジェイムズ ホッグ James Hogg
国書刊行会 2012-08

by G-Tools

 享楽的な領主の父と、厳格なキリスト教徒の母との間に生まれた二人の兄弟。兄のジョージは、父親のもとで、寛大な心を持つ好青年に育ちます。一方、弟のロバートは、狂信的な牧師と母との間で育てられ、他人からは近寄りがたい人間に育ちます。
 成長したロバートは、仇のように兄ジョージを追い回し、嫌がらせをし続けます。やがて、ジョージが死体となって発見されますが、犯人はジョージと口論をしていたドラマンドという男だとされていました。
 やがて父親が亡くなり、ジョージの代わりに、家督をついだロバートでしたが、父親の家政婦だった女性は、ロバートこそジョージ殺害犯だと確信し、調査を始めます…。

 『悪の誘惑』(高橋和久訳 国書刊行会)は、羊飼いから作家になったという、異色の経歴を持つスコットランドの作家、ジェイムズ・ホッグの作品です。
 大きく三部に分かれており、一部と三部は編者からの「客観的な」語り、二部は弟の視点による語りになっています。一部でまず、客観的な事件の顛末が描かれ、二部では弟の狂信的な視点から描かれた「手記」が語られます。そしてまた三部では、その「手記」についての編者の見解が描かれる、といった構成になっています。
 兄弟間の憎しみや、殺人さえ描かれるにも関わらず、一部はかなりユーモアに富んだ筆致になっているのが面白いところです。好青年の兄に対し、弟は徹頭徹尾「嫌な」男で、兄を追い回します。たびたび兄弟は遭遇し、いさかいを起こすのですが、弟がなぜそこまで兄を憎むのかや、兄ジョージの死の真相は前半では明かされません。

 二部では、弟ロバートの視点から描かれた物語が語られますが、ここからが圧巻です。異様なまでの宗教教育を受け、ゆがんだ視点を持った男の独善的な行動が描かれていきます。子供のころから嘘をつき、悪事を働いてきたにもかかわらず、自分は神に許されているという考えを持っているため、自らの行動に対し良心の呵責を全く覚えないのです。 
 やがてロバートの考えに賛同してくれる、謎の男が現れます。最初はロバートの思想や行動を褒め称えていた男は、段々と悪事を働くようにそそのかしていきますが、ロバートもそれに従い、破滅的な行為を繰り返していくことになるのです。
 この「謎の男」、たびたび姿や声を変えたりと、悪魔のような人物なのですが、この男が実在しているかどうかも、じつは定かではありません。ロバートの「悪の心」の分身なのか、それとも本当の「悪魔」なのか。
 殺人を含む、あらゆる悪事を行いながら、独善的な論理でそれらを全て正当化しようとするロバート。その告白が、異様な熱気を持って語られる後半の展開は、凄いの一言です。

 作品全体の構成も、読者を眩惑するような作りになっています。一部の編者の「客観的な」語りと、二部の弟の独白とで、同じ事件に対する細部や解釈が異なっているのです。もちろん二部の語り手であるロバートは「嘘つき」なので、その語りを信用はできないのですが、かといって編者の語りが信用できるかというと、そういうわけでもないのです。
 とくに三部では、発見された手記について、作者自身であるジェイムズ・ホッグ自身も作中人物として登場します。しかも編者はホッグは信用できない…などという意見も書いているのです。
 この時代の小説には、「手記」や「手紙」という設定はよく使われるのですが、この作品では、その視点のずれが多重になっていて、真実がぼやかされる…という効果を発揮しています。

 19世紀前半に書かれた、いわゆる「ゴシックロマンス」に属する作品なのですが、このジャンルの作品としては、分量的にもあまり長くなく、読みやすい作品です。ミステリの先駆的作品としても、熱気に満ちた幻想小説としても読めますが、何より、今読んでも面白さを感じられるという意味で、古典的な傑作と呼んでもいい作品でしょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会 開催しました
 1月29日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第3回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め10名でした。
 テーマは、第1部「奇想小説ワンダーランド!」、第2部「私の読書法」です。本会は4時間、二次会は3時間ほどの長丁場でしたが、話がつきることなく、楽しく終えることができました。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。
 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。
 テーマが「奇想小説」ということで、同時にオススメの「奇想小説」があればタイトルを挙げてくださいとお願いしていました。主催者含め、参加者のオススメ「奇想小説」をまとめたリストを作成し、当日資料として配付しました。

 前回同様、あらかじめ作っておいたプラスチック製ネームプレートを、参加者それぞれの前に立てたうえで、参加者を紹介しておきます。今回は、新規の方のみ主催者から紹介し、2回目以降の参加者には、軽く自己紹介をしてもらいました。
 自己紹介のあとに、主催者や他の参加者から、ちょっとした質問などもはさみながら進んだので、紹介だけで30分以上かかってしまいました。ただ、この時点で話がはずんだ部分もあり、緊張をほぐすのには良かったかなと思います。

 以下、順不同で話題になったトピックの一部を並べてみましょう。例によって、記憶に残っているものだけですが。

第1部
・クライヴ・バーカー作品について。純粋なホラー作品は初期に集中していて、ある時期を境にファンタジーの方向に行ってしまった。面白いのは、やはり初期作品。『血の本』は、スプラッター色が強烈なので避けられがちだが、ブラック・ユーモア作品も入っていたりとバラエティに富んでいる。巻頭の『ミッドナイト・ミートトレイン』に馴れてしまえば、後は普通に読める? 『丘に、町が』は、奇想にあふれた傑作作品。
・サキの作品について。白水Uブックスから刊行されている新訳本は、原著の短篇集単位だが、それ以前のものは、ほぼ全て選集。ちくま文庫から刊行されていた『ザ・ベスト・オブ・サキ』の翻訳は素晴らしい。
・W・H・ホジスンの作品について。《ボーダーランド三部作》の邦訳が揃うとは思わなかった。雑誌『ナイトランド』の編集部にホジスンファンがいる?
・ホジスン『ナイトランド』の面白さ。前半は恋愛もの要素が非常に強いが、後半からは冒険小説的な色彩が強くなる。世界観の独創性は素晴らしい。
・月刊ペン社《妖精文庫》について。まりの・るうにいのカバーと挿絵の素晴らしさ。刊行当時の《妖精文庫》の思い出など。
・ポール・ボウルズ作品について。『優雅な獲物』など。
・多岐川恭作品の面白さについて。変わった作品がたくさんある作家。創元推理文庫から選集も出ている。『異郷の帆』『おやじに捧げる葬送曲』など。
・エドワード・ケアリー『堆塵館』は面白かった。
・シオドア・スタージョン作品の「奇想性」について。「奇を衒って」いるのではなく、感性そのものが相当変わっている。ただ「普通」のユーモアSF(例えば『昨日は月曜日だった』)も書ける器用さも持った作家である。『考え方』『孤独の円盤』『ビアンカの手』『墓読み』『人間以上』『きみの血を』など。
・エドモンド・ハミルトン作品の面白さ。長篇が典型的な娯楽SFなのに対して、短篇ではけっこう先鋭的な作品がある。『フェッセンデンの宇宙』『反対進化』など。ハヤカワSFシリーズ版の作品集『フェッセンデンの宇宙』は、同名の河出文庫版作品集と収録作品が異なるが、ハヤカワ版も傑作揃い。
・バリントン・J・ベイリー作品の面白さ。アイディアの臆面のなさが凄い。馬鹿らしいネタでもそれらしい理屈や哲学がくっついてくるのが楽しい。『ゴッド・ガン』『ブレイン・レース』『大きな音』『ドミヌスの惑星』『禅銃』『カエアンの聖衣』など。長篇よりも短篇の方が面白い。最近出た作品集『ゴッド・ガン』も面白いが、過去に出た作品集『シティ5からの脱出』も面白い。
・ドイツの作家、クルト・クーゼンベルク作品の面白さについて。短篇『ニヒリート』は、接着剤についてだけで一つの短篇になっているというユーモア作品。
・グレッグ・イーガンは、理系でなくても充分読める。短篇のリーダビリティは高い。
・R・A・ラファティの奇想作品について。『九百人のお祖母さん』『スロー・チューズデー・ナイト』『せまい谷』など。
・リチャード・マグワイアのグラフィック・ノヴェル『HERE ヒア』の独創性。複数の時代を一つの場所に詰め込むというアイディアが素晴らしい。
・架空の博物誌について。ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類』、レオ・レオーニ『平行植物』など。
・マルク=アントワーヌ・マチューのバンド・デシネ(フランスのコミック)作品について。3秒間の出来事をいろんなアングルから描いていく『3秒』、神が光臨した世界を風刺的に描く『神様降臨』など。
・ディーノ・ブッツァーティについて。不条理な作風だが、物語性や娯楽性が強いので楽しんで読める。あらすじを紹介すると、意外に何も起こっていないことが多いのに気付いて驚く。大まかにまとめると「不安」がテーマの作家。イラストレーターとしても魅力的。『七階』『バリヴェルナ荘の崩壊』『タタール人の砂漠』『シチリアを征服したクマ王国の物語』など。
・江戸川乱歩『鏡地獄』の独創性。乱歩には『屋根裏の散歩者』『人間椅子』などフェティシズムを扱った作品が多い。『鏡地獄』の鏡は実際に作れるのか?
・西澤保彦のSFミステリについて。「どうしてそうなっているのかはわからないが」、なぜか特殊な設定の世界観で展開されるミステリ。アイディアは面白い。『七回死んだ男』『人格転移の殺人』『複製症候群』『ナイフが町に降ってくる』など。
・諸星大二郎のマンガ作品について。『感情のある風景』のように、哲学的なセンスさえ感じさせる作品のある一方で、『鯖イバル』など、馬鹿らしいアイディアのユーモア作品もある。オススメは『妖怪ハンター』シリーズ。
・伊藤潤二のマンガ作品の面白さについて。どの作品もアイディアの奇想性はすごい。描線も非常に魅力的。自分と同じ顔の気球が首を吊ろうと襲ってくる『首つり気球』、どんどん夢が長くなっていくという『長い夢』、地球を平らげようと悪魔のような星がやってくるという『地獄星レミナ』など。とくに『レミナ』の後半、地球の環境が激変する部分でのヴィジュアル描写はものすごい。
・映画作品『主人公は僕だった』の紹介。小説の登場人物になってしまった主人公が、小説家を探し出し自分の運命を変えようとする話。本来メタな視点であるはずの「作家」が創作物である「主人公」と同じ階層にいるという、ユニークな設定の作品。
・映画作品『フリーズ・フレーム』の紹介。過去に濡れ衣をきせられノイローゼになった主人公が、家中にカメラをしかけて自分の行動を記録に撮るという物語。最後まで主人公が悲惨なので、あまりオススメできない作品。
・澤田知子の写真集『ID400』の紹介。写真家自身がメイクや仮装をして、別の人物になりきるというパフォーマンスを400パターンの証明写真の形でやってしまったという実験的な作品。他の澤田知子作品の紹介も。
・トーベ・ヤンソン『ムーミン』シリーズの面白さについて。原作小説は、アニメと違ってかなり「暗い」。ムーミンパパはやたらと居なくなる。最初の巻は、退屈な部分もあるが、後半の巻は大人の鑑賞に耐える出来映え。
・A・E・コッパード『ジプシー・チーズの呪い』は、コッパード作品の中でも「暗く」、かなり怪奇小説方面に寄った作品。
・半村良『箪笥』は奇想小説? 能登の方言で書かれた作品。作者は地元出身ではないが、方言はかなり正確(らしい)。
・エリック・マコーマックは作風上、係累のいない突然変異的な作家だと感じる。短篇集『隠し部屋を査察して』、長篇『パラダイス・モーテル』など。
・フリオ・コルタサル『占拠された屋敷』は、コルタサルとしては、かなり怪奇方面に寄った作品。他に『続いている公園』など。
・ポピー・Z・ブライト作品について。セクシュアル・マイノリティに親近性を持つ作家。『絢爛たる屍』は、どぎつい設定ではあるものの、中身は意外にも純粋な恋愛小説。
・筒井康隆作品は奇想小説の宝庫。『驚愕の曠野』『虚航船団』『残像に口紅を』など。
・木原善彦による実験小説のブックガイド『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』の面白さ。内容紹介など。
・泡坂妻夫の『しあわせの書』『生者と死者』の超絶技巧。『生者と死者』の袋とじの趣向はすごい。
・レシェク・コワコフスキ『ライロニア国物語』の面白さ。哲学的な寓話集とはいいながら、ユーモラスかつナンセンスな話も多く楽しめる。集中の一篇『こぶ』は『東欧怪談集』にも収録されている。
・国書刊行会の本は、数十年経っても在庫があるものがある。
・エドワード・ゴーリーの絵本について。徹底的にブラックな作品が多い中にあって、エドワード・リア作品のために描いた『ジャンブリーズ』は非常に楽しい作品。
・エドゥワルド・メンドサ『グルブ消息不明』の作品紹介とその魅力。宇宙人が地球にまぎれこむコメディ。そのギャップが面白い。
・東宣出版の《はじめて出逢う世界のおはなし》シリーズは、精力的に面白い作品を紹介していて楽しみ。
・映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』と『コーンヘッズ』の面白さ。
・昔の名画座など、中小映画館の思い出と魅力について。解説者が解説したり、オーナーがお菓子を配ったりなんてこともあったそう。
・ミロラド・パヴィチ『ハザール事典』について。発想はすごいが、個々のエピソードはそれほど面白くない? 通読するより拾い読みする方が楽しい。男性版と女性版の違いは? パヴィチは他にも『風の裏側』など、前衛的な手法の作品を書いている。
・ジュール・シュペルヴィエル作品について。『火山を運ぶ男』のオリジナリティ。『ひとさらい』『海に住む少女』など、発想はぶっ飛んでいても、物語は詩的。
・ボリス・ヴィアン『うたかたの日々』の魅力について。病のイメージの美しさ。ヴィアンは書き飛ばしたような作品も多いが、魅力的な作品も多い。
・芸術がテーマと結びついている作品だと、その芸術に興味がないと、味わいが半減してしまう。フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』など。
・『居心地の悪い部屋』は、ちょっと期待はずれだった。
・角川のホラー作品は、翻訳が読みにくいものが多い。ただ、古くからホラー系統の作品を紹介してくれている出版社ではある。角川ホラー文庫の海外ラインナップは微妙だった。
・ダフネ・デュ・モーリアの短篇について。デュ・モーリアの作品には「嫌な」登場人物がよく登場するが、同じ「嫌らしさ」でも、例えばシャーリイ・ジャクスンの登場人物が理解しがたい人物像が多いのに比べて、デュ・モーリアの場合、現実にありそうな「嫌らしさ」がある。近刊の短篇集『人形』も面白い作品揃い。

第2部
・本棚の並べ方について。出版社別、作者別、文庫の種類別など。テーマ別の分類は難しい?
・図書館の利用について。近い場所にないと使いにくい。本を買うのと併行していると、借りても読み切れない。
・文庫本の値上がりについて。最近の文庫本の値はかなり上がっている? 相対的に以前は割高感のあったちくま文庫が安く思えるようになった。
・本の帯はとっておく派? 捨てる派? デザインの一部になっているものや、情報が書いてあるものは捨てにくい。
・お風呂で本を読む? 駄目になるのを前提で読むこともある。風呂で読む用のプラスチック本もある。
・自分で買った本の方が、ちゃんと読む気になる。が、100円均一の本は例外。
・新しい分野や作家の本を開拓しようとする場合、どういう風にすべきか? アンソロジーで気になった名前を片っ端から芋づる式に読んでみる。
・北欧ミステリは社会問題を扱ったりと、全般的に重い作品が多い。
・読んだ本の記録をつける? ノートに感想をつける。ブログで感想を書く、など。データベースに著作リストを作っている人も。
・蔵書リストの登録について。同じ本を二度買ってしまうことがある。

二次会
・ジュール・ヴェルヌ作品について。ヴェルヌは科学的に正確に書く作家なので、作中の現象が正確かどうか計算が可能。インスクリプト刊の新シリーズについても。
・理系のSFファンは、ハードSFについて、科学的に正確か計算する?
・SFファンは、サイバーパンクでついていけなくなった人も多い? ただ、今読むとそこそこ読めるものも多い。
・かっての福島正実編のアンソロジーのような、入門編的な作品集は今ではなくなってしまった? 福島正実のテーマ別の編集は非常にわかりやすかった。
・SF作品は時間が経つと古びるものだが、フレドリック・ブラウンは今でも古びていない。発想も独特で、フィリップ・K・ディックの先駆者的な面があるのでは?
・アニメ『バーナード嬢曰く』の面白さ。おそらく馴染みのないだろう小説に関する話でも、饒舌に話せる声優のプロ技術に脱帽した。
・ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』のすごさ。語り手の狂信が強烈。手記や編者が多重になっていて、メタな作りになっている。書かれた時代を考えると、非常に先駆的。
・コードウェイナー・スミス作品の視覚的効果について。『人びとが降った日』など。
・ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア作品について。タイトルの付け方が素晴らしい。SFというよりはファンタジー寄りの作風? 『すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた』など。
・電車や乗り物を扱った作品について。ピーター・へイニング編『死のドライブ』、ブッツァーティの鉄道が舞台の作品、フリードリッヒ・デュレンマット『トンネル』など。
・アンソロジー『妖魔の宴』(竹書房文庫)について。中身はけっこうオーソドックス。今では手に入りにくい?
・蔵書数について。手狭な部屋で本を増やさないためには。
・雑誌の魅力。時間が経つと、中身の情報だけでなく、雑誌自体の時代感が出てくるのが魅力。なので、単行本より雑誌の方が捨てにくくなる。
・電子書籍では買いたくない本のジャンルは? 絵本・画集など。
・怪奇小説アンソロジー(特に翻訳もの)は、絶版になりやすいので、集めるのが大変。
・職場で本の話ができる人がいる? ほとんどいないという人が大半。
・短篇集と長編はどちらが読みやすい? 短篇集やアンソロジーの方が、一篇ごとに頭を切り替えないといけないので、時間がかかる。
・ヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』の面白さ。構成上の工夫も魅力的。完全版の邦訳はいつ出るのか? 映画版の方は、入れ子形式の展開がとんでもない。
・音楽を扱った作品について。ルイス・シャイナー『グリンプス』、ジェフ・ゲルブ編『ショック・ロック』など。
・最近面白かった映画について。『ロブスター』など。結婚相手を見つけないと、政府に動物にされてしまうという話。設定はへんてこだが、テーマは意外と真摯にできている。
・最近面白かった本。イヴァン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』について。穴に落ち込んだ兄弟が脱出しようとする話。脱出方法が力業でびっくりする。
・ライトノベルで面白い作品は? 西尾維新《物語》シリーズ、長月達平『Re:ゼロから始める異世界生活』など。
・クラシック音楽を聴くなら何がいい? 名曲集で自分のお気に入りを見つけるのが良し。バロック音楽、サティ、ドビュッシーなど。
・枠物語について。井上雅彦編『物語の魔の物語 異形ミュージアム2 メタ怪談傑作選』は、メタフィクショナルな作品を集めた好アンソロジー。
・ハーラン・エリスン『死の鳥』(原書版)は面白かった。オリジナル版の邦訳はもう出ないのだろうか?
・ホラー小説好きでも、ホラー映画を見るとは限らない。逆もしかり。むしろ小説を読まないホラー映画ファンは多い。
・小説ファンと映画ファンは意外に重ならない?
・ジェシー・ダグラス・ケルーシュ『不死の怪物』について。ロマンス部分が多い。古典的な名作は、読んでみるとがっかりすることも。
・文春文庫のホラー作品は打ち切り?
・パウル・シェーアバルトは難しい。
・翻訳者で作品の雰囲気はずいぶん違う。シャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』の読み比べ。
・大瀧啓裕の訳文は、当たり外れが大きい。ラヴクラフトは微妙だが、C・A・スミスはかなり合っている。すでに普及している作家名や作品名の表記を、わざわざ変えるのはどうかと思う。
・欧米怪奇小説ファンの少なさについて。
・レーモン・ルーセル作品について。創作方法が独特なので、楽しんで読むのは難しい?

 二次会は、お店の都合上、テーブルが分かれてしまったのですが、途中で一部の人の場所を変えて、なるべくいろんな人と話せるようにしました。とはいえ、僕自身が聞けなかった部分もあるので、二次会のトピックについては、書けなかったものもあるかと思いますが、悪しからず。

 今回は、第1回・第2回と比べても、わりと親密な雰囲気の会になりました。発言の多寡はありますが、ほぼ全ての参加者が、何らかの形で話に参加できたのではないかと思います。もともと、聞いているだけでもいいという方針なので、無理に話す必要はないのですが、やはり話の合いの手を入れてくれるだけでも、流れは違ってきますね。
  『ムーミン』の意外な読みどころや、写真集にも面白そうな作品があるなど、僕個人にとっても得るところの多い会になりました。

 第4回読書会は、2月の後半を予定しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

2月の気になる新刊と1月の新刊補遺
発売中 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』(アトリエサード 2376円)
2月7日刊 フリードリヒ・デュレンマット『ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む』(白水Uブックス 予価1512円)
2月17日刊 J・L・ボルヘス『アレフ』(岩波文庫 778円)
2月17日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)
2月中旬刊 只野真葛『奥州ばなし』(勝山海百合訳 荒蝦夷 予価2268円)
2月23日刊 ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』(ハヤカワ文庫SF 予価886円)
2月25日刊 近藤ようこ『帰る場所』(KADOKAWA 予価950円)
2月25日刊 近藤ようこ『水の蛇』(KADOKAWA 予価950円)
2月27日刊 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』(創元海外SF叢書 予価3024円)
2月27日刊 D・M・ディヴァイン『紙片は告発する』(創元推理文庫 予価1188円)
2月27日刊 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫 予価1080円)
2月下旬予定 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国2』(アトリエサード)


 1巻目はもうすでに発売中のようですが、《ナイトランド叢書》の最新刊は、クラーク・アシュトン・スミスの『魔術師の帝国』。かって創土社から出た1巻本を再編集して2分冊にしたもののようです。2巻は今月下旬の発売予定。
 ただ、スミスの作品に関しては、大瀧啓裕訳による創元推理文庫の3冊がありますし、既訳が多いのではないかと思ったのですが、確認してみたら、この3冊も、井辻朱美訳『イルーニュの巨人』も、すでに絶版なのですね。その点、スミス入門編としてはタイミングはいいのかもしれません。

 只野真葛『奥州ばなし』は、分身テーマではよく言及される「影の病」を含む怪異譚集。現代語訳ということで、これは読んでみたいところです。

 ロマンチックSFの名手、ロバート・F・ヤングの短篇集『時をとめた少女』が、ハヤカワ文庫SFから登場です。初訳2篇を含む全7篇を収録とのこと。これは楽しみです。

 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』は、世界幻想文学大賞受賞作品とのことですが、なかなか面白そうです。「中東の専制国家で生きるハッカー・アリフは、恋人から謎の古写本を託される。存在するはずのない本に記された、人間が知るべきではない秘密とは?」。

 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』は、構成のかなり凝った感じのするミステリ。「2014年カリフォルニアで解体予定の家から発見された貴重品箱。そのなかには三つのものが入っていた。1945年に刊行されたパルプ・スリラー。編集者からの手紙。そして、軍支給の便箋に書かれた『改訂版』と題された原稿……。開戦で反日感情が高まるなか、作家デビューを望んだ日系青年と、編集者のあいだに何が起きたのか?」。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇と幻想のロマンス  J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』
448850602Xドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫)
J・S・レ・ファニュ 千葉 康樹
東京創元社 2017-01-21

by G-Tools

  アイルランドの作家、J・S・レ・ファニュ(1814-1873)は、19世紀の怪奇幻想小説の分野では「巨匠」とされる作家の一人です。本邦で有名な作品としては、官能的な吸血鬼小説『吸血鬼カーミラ』や、サイコ・スリラー的な要素もある怪奇小説『緑茶』あたりが挙げられるでしょうか。
 怪奇小説の「巨匠」というと、我々は20世紀以降の作品、ブラックウッドやマッケン、M・R・ジェイムズのような作品を考えてしまうのですが、実のところ、19世紀以前の作品は、20世紀以降の作品のような、純粋な怪奇小説というのは、あまりありません。細かく言うと、「怪奇」や「幻想」そのものが主題になる作品があまりない、ということです。あくまで作品の味付けとしてそれらがある、といった方がいいのでしょうか。
 そうした時代にあって、レ・ファニュは、例外的に怪奇幻想の要素が強い作品を多く書きました。ただ、「ロマンス」や「メロドラマ」の要素は強く、そうしたところが古色蒼然とした印象を与える理由にもなっているのですが、今現在では、逆にその古色蒼然さが魅力ともなっているのです。

 レ・ファニュの主な邦訳としては、以下のようなものがあります。

長編
『墓地に建つ館』(榊優子訳 河出書房新社)
『アンクル・サイラス』(榊優子訳 創土社)
『ワイルダーの手』(日夏響訳 国書刊行会)
『ゴールデン・フライヤーズ奇談』(室谷洋三訳 福武文庫)

短篇集
『吸血鬼カーミラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)
『レ・ファニュ傑作集』(小池滋、斉藤重信訳 国書刊行会)

 短篇作品は80篇ぐらいあるらしいのですが、未訳が多く、まとめて短篇作品を読めるのは50年近く前に出版された『吸血鬼カーミラ』のみでした。そんな状況だっただけに、今回刊行された、レ・ファニュの作品集『ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選』は、怪奇幻想ファンにとって、またとない贈り物となりました。
 以下、収録作品を紹介していきたいと思います。

『ロバート・アーダ卿の運命』
 悪魔らしき人物との契約により、命を狙われる男の物語を、「伝説」と「事実」との2通りで描いた物語です。
 いかにも伝説然とした展開の1話目と、キャラクターを描き込み、小説としての余韻を加えた2話目と、2つの味わいを楽しめます。集中もっとも「怪奇小説」らしい作品です。

『ティローン州のある名家の物語』
 資産家の娘ファニーは、嫁ぎ先の貴族グレンフォーレン卿の屋敷に迎えられますが、屋敷内で気味の悪い盲目の女を見かけます。自分に対して攻撃的な女の態度にファニーは怯えますが…。
 謎の女、夫の秘密、ゴシック的な道具立てたっぷりの作品です。「秘密」に関しては、すぐに気付いてしまうのですが、それでも読ませるサスペンス味は流石というべきでしょうか。

『ウルトー・ド・レイシー』
 ウルトー・ド・レイシーは、政治的な駆け引きで失脚し、財産や領地を失ってしまった結果、二人の娘を伴って、辺鄙な場所に移り住みます。彼の希望は美しい妹娘ウナを資産家の青年と結婚させることでしたが、ウナは見知らぬ男に恋しているようなのです…。  
 先祖の因縁により復讐されるというゴースト・ストーリー。先祖から伝わる警告にもかかわらず、悲劇は起きてしまうという運命譚になっています。

『ローラ・シルヴァー・ベル』
 魔術を使うと噂されるカークばあさんは、捨て子だった娘ローラ・シルヴァー・ベルを可愛がっていました。ある日、ばあさんは汚らしく忌まわしい男に出会い、ローラをよこせと言われますが、すぐにはねつけます。しかし、ローラ自身には男が魅力的に見えているようなのです…。
 妖精に狙われる娘の物語なのですが、さらわれて終わり、ではなく、その後を描いているところが新鮮ですね。しかも、その後が描かれた部分がじつに禍々しい雰囲気なのです。邪悪なフェアリー・テールとでもいうべき作品です。

『ドラゴン・ヴォランの部屋』
 パリに「冒険」のために向かっていた英国人青年ベケットは、旅の途上、馬車トラブルに巻き込まれたサン=タリル伯爵夫妻を手助けします。伯爵夫人に一目ぼれしてしまったベケットは、夫人が不幸な結婚をしていることを知り、自分の手で彼女を助け出そうと考えますが…。
 怪奇幻想味はほとんどない作品ですが、リーダビリティは非常に高いサスペンス小説になっています。青年が伯爵夫人と恋仲になるまでの前半はいささか退屈しますが、後半になり、ある計画が持ち上がってからは手に汗握る展開になります。前半に登場する青年の「病気」がしっかりとした伏線になっているところには感心しました。

 19世紀の作家ゆえと言うべきか、作品の始まりは、たいてい舞台となる村や自然の描写が丁寧にされていきます。一見、退屈になりそうな部分なのですが、情景描写が巧みなので、すぐに作品の舞台に入り込めます。特に、森や古城などが登場する作品の雰囲気は絶品です。
 純サスペンス作品である『ドラゴン・ヴォランの部屋』が典型ですが、レ・ファニュが、怪奇小説の名手である以前に、当時のエンターテイメントの名手でもあったことのわかる作品集でした。レ・ファニュの当時の異名「アイルランドのウィルキー・コリンズ」は、コリンズに劣らぬストーリー・テラーぶりを表わしたものでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する