アフリカの神々  ジョン・ファリス『サーペント・ゴッド』
god.jpeg
サーペント・ゴッド (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジョン・ファリス 工藤 政司
早川書房 1987-11

by G-Tools

 結婚式場で突然錯乱したブラッドウイン少尉は、サーベルで花嫁と父親を惨殺し、自らも命を絶ちます。その後もブラッドウイン一族には、たびたび奇怪な事件が持ち上がります。
 一方、医者として活動する男は、アフリカの奥地で数百年生きているという謎の女性に出会いますが、その直後に、精神を病んでしまいます。錯乱した男は、息子の頭蓋骨に対して手術を行おうとしますが失敗します。命をとりとめた息子ジャクソンは、成人するに及び、自らも医者となります。ブラッドウイン家当主の後妻ノーラと出会ったことから、ジャクソンは、再びアフリカの呪術と相対することになりますが…。

 ジョン・ファリス『サーペント・ゴッド』(工藤政司訳 ハヤカワ文庫NV)は、アフリカの蛇神をテーマにした伝奇ホラー作品です。
 冒頭にブラッドウイン少尉が錯乱する事件とその顛末が描かれ、次の章ではアフリカで医者が土俗の神と呪術に出会う事件が描かれます。その2つの流れがどこで結びつくのかわからないまま物語は進みますが、やがて医者の息子ジャクソンは、ブラッドウイン家当主の後妻ノーラと恋人関係になり、ブラッドウイン家の呪いと向き合うことになるのです。
 序盤はブラッドウイン家の次男チャールズの視点、中盤からは医者になったジャクソンの視点で描かれ、正直、主人公は誰なのかはっきりしません。
 序盤で視点人物となるチャールズが、後半フェイドアウトしてしまったり、ブラッドウイン家の過去の事件とアフリカの呪いとの結びつきがはっきりしなかったりと、作品としてのバランスは非常に悪いです。ただ詰め込まれたネタの豊富さもあり、ホラー作品として、どこか捨てがたい味を持った作品といえます。

 やたらと沢山の伏線が詰め込まれているのが特徴で、いくつもの謎が登場します。ブラッドウイン少尉が錯乱したのはなぜなのか? 数十年前に失踪したブラッドウイン家の長男の行方は? 過去にブラッドウイン家に起こった事件とは? 当主の後妻ノーラの正体は? アフリカで医者が出会った謎の女性の正体は? ジャクソンが死にかかった手術は何のためだったのか?
 詰め込みすぎて、最終的に解決しない伏線や謎がたくさん残ります。おそらく著者が伏線を回収しきれていないだけだと思うのですが、不思議なことに、逆にそうした部分が物語に広がりを与えているのですよね。読者がサイド・ストーリーをいくつも想像できるような膨らみがあるといってもいいかもしれません。
 決して「傑作」ではないのですが「面白い」作品だといえます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

新年のご挨拶
 2018年最初の更新になります。今年もよろしくお願いいたします。

 昨年は読書会に関連して、同じテーマを扱った作品の集中読書をすることが多く、そのおかげで例年になく本が読めた年でした。ただそのおかげで、読みたい本、買い込む本が増えてしまい、結局、積読本が倍増してしまったのは、悩みどころでもありますね。

 年末、年初に読んでいた本からいくつか紹介していきたいと思います。



448801075X肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)
エドワード・ケアリー 古屋 美登里
東京創元社 2017-12-20

by G-Tools

エドワード・ケアリー『肺都』(古屋美登里訳 東京創元社)
 堆塵館は崩壊し、穢れの町から逃げ延びたアイアマンガー一族は、ロンドンに入り込みます。一族の影響なのか、ロンドンの内部は闇におおわれ、人々の間では奇妙な病気が蔓延していました。
 ロンドンを支配しようとする一族に反発するクロッド、そして子供たちとともに逃げ延びたルーシーは、互いに相手を探し始めます…。

 《アイアマンガー三部作》の完結編です。舞台をロンドンに移し、各勢力が縦横無尽に動き回るという、大スペクタクルになっています。
 国をひっくり返そうとするアイアマンガー一族、ビナディットやピナリッピーとともに出奔したクロッド、アイアマンガー一族を追う警察、一族の宿敵とも言うべき謎の男ジョン・スミス・反アイアマンガー、ロンドンの子供たちの助けを借りクロッドを探すルーシー、クロッドの命を狙うモーアカス、暴走するリピット…。
 敵役だと思っていた人物が味方についたり、逆に裏切られたり、追い詰められた一族のためにクロッドが奔走したりと、個性豊かな登場人物たちがこれでもとばかりに動き回り、最後まで息つく暇がありません。
 クライマックスでは、絶大な力を持ちながら今まで受身だったクロッドの活躍も見られます。結末にたどり着いたときの感動はひとしおですね。
 一作目、二作目を含め、素晴らしいシリーズでした。



4885880947魔法にかかった男 (ブッツァーティ短篇集)
ディーノ ブッツァーティ Dino Buzzati
東宣出版 2017-12-13

by G-Tools

ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』(長野徹訳 東宣出版)
 初期から中期にかけての、ブッツァーティの未訳作品を集めた作品集の第一弾です。てっきり落穂拾い的な作品集かと思っていたのですが、さにあらず。「全盛期」のブッツァーティ作品で、非常に充実した短篇集でした。
 迷い込んだ猫を隠したことから起こる事件を描いた「騎士勲章受勲者インブリアーニ氏の犯罪」、学校で「変わってしまった」弟を描く「変わってしまった弟」、悪魔との契約テーマの「エレブス自動車整備工場」、得体の知れない男に一生を通じて追いかけられるという「個人的な付き添い」、悪夢のような不条理小説「あるペットの恐るべき復讐」など。
 巻末の中篇といっていい長さの「屋根裏部屋」は特に力作です。ある日、画家の家の屋根裏部屋に突如リンゴの山が現れます。その香りと味はこの世のものとも思えず、しかもリンゴはいつまで経っても腐らないのです。これは「禁断」のリンゴかもしれないと考える画家でしたが…。
 最初から最後まで、リンゴをめぐる画家の「不安」のみが描かれるという、純度の高い寓話小説です。代表作『タタール人の砂漠』とどこか通じるところもある作品ですね。



4121015614吸血鬼伝承―「生ける死体」の民俗学 (中公新書)
平賀 英一郎
中央公論新社 2000-11

by G-Tools

平賀英一郎『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』(中公新書)
 フィクションの吸血鬼ではなく、主に東欧に伝わる吸血鬼伝承を追った本です。吸血鬼の本質は「生ける死体」だとしていて、それゆえ、血を吸わない吸血鬼というのも出てきます。「民俗学的な吸血鬼」なので、ドラキュラのようなスマートなものではなく、元は農民で体は半分腐っていてと、ほとんどゾンビみたいです。
 東欧、中欧、バルカン諸国、トルコなど、それぞれの国の吸血鬼伝承をその国の名称で細かく見ていくという堅実な内容です。吸血鬼といっても、国によってその内容に魔女や人狼、夢魔などを含んだりしていて、同じ「吸血鬼」でもその意味するところはグラデーション状…というのが興味深いですね。
 「ドラキュラ以前」の吸血鬼像を知りたい方には、オススメしておきたいと思います。ロシアや東欧の吸血鬼小説を読む際にも参考になるんじゃないでしょうか。



B000J8DKMS蛾 (1979年) (サンリオSF文庫)
ロザリンド・アッシュ 工藤 政司
サンリオ 1979-10

by G-Tools

ロザリンド・アッシュ『蛾』(工藤政司訳 サンリオSF文庫)
 大学教授ハリーは、古い屋敷に魅せられ、そこに通ううち、屋敷を見に訪れた人妻ネモに惹かれはじめます。屋敷で行われたパーティの席上、ハリーはネモに幽霊らしき存在が取り憑くのを目撃します。直後にネモと肉体関係を結んだハリーは、彼女に殺されそうになりますが、何とか逃れます。
 ネモの日記を盗み読んだハリーは、彼女が何人もの男性と関係した直後に、彼らを殺害していることを知ります。ハリーが目撃した幽霊は、かって屋敷に住んでいた女優サラ・ムーアであり、殺人を犯しているのはネモに取り憑いたサラではないのかと考えたハリーは、ネモを救うために奔走することになりますが…。

 人妻ネモは、最初は地味な中年女性として登場します。それだけに、人格が豹変したような行動は幽霊に憑かれたせい、と解釈してしまいがちなのですが、客観的に幽霊のせいだとは書かれていないのがポイントです。殺人もネモの妄想の可能性があり、ハリーも最初はその疑いを持って動くことになります。
 霊の存在はともかく、殺人自体の真実が疑えなくなった時点で、ハリーはネモを守ろうと決心します。場合によっては自分も人殺しを辞さないという覚悟を固めますが、その間にもネモは別の男性を誘惑し始めていました…。
 幽霊が本当に存在するのかが、最後まではっきりとわかりません。それに加えて、序盤は殺人が真実なのか否か、後半からは更なる殺人を防げるのか、ネモを救えるのか、といったサスペンスが発生するなど、一冊でいろいろな要素が楽しめます。
 ホラーとサスペンスの境界線上の作品として、秀作の一つではないでしょうか。



B000J835HI嵐の通夜 (1980年) (サンリオSF文庫)
ロザリンド・アッシュ 工藤 政司
サンリオ 1980-10

by G-Tools

ロザリンド・アッシュ『嵐の通夜』 (工藤政司訳 サンリオSF文庫)
 ヨーロッパに留学していたベスは、農園を営む実家に帰省します。両親はすでに亡く、双子の兄トムが農園を取り仕切っていました。帰省直後に強烈な嵐に襲われた館は、崩壊の危機に陥ります。飛行機でやってくるはずの従兄エドワードの行方もわからない状態で、一行は不安な夜を過ごしますが、館の外に出たベスの幼馴染モーリスが、首をはねられた状態で見つかります…。

 嵐を迎えた広壮な館の中で繰り広げられるゴシック・ロマンです。ヒロインのベスは、従兄エドワードに恋心を抱いていますが、野生的な魅力を持つモーリスにも惹かれています。兄のトムは妹に偏執的な愛情を抱いており、モーリスとの仲を嫉妬している…という、複雑な構図が描かれます。
 やがてモーリスが殺され、迷信深い使用人たちは怯え始めます。館の女中頭ナンは、現地の魔術師とされており、彼女の言動が混乱に拍車をかけていきます。
 嵐の一夜を描く物語であり、実際の一夜の時間経過がそれぞれの章を成しているという趣向です。
 『蛾』と異なり、明確に超自然現象が発生するという点で「ホラー小説」といっていい作品です。嵐がやってきてからの館の雰囲気は素晴らしいですね。後半に起こる超自然現象もじつに夢幻的で、幻想小説好きにはオススメしたい作品になっています。ちなみに、スティーヴン・キングが激賞した作品だとか。


 最後に、2018年度刊行予定の本の中から、気になる本をご紹介しておきたいと思います。

ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』(水声社 2月予定)

マルク・パストル『悪女』(創元推理文庫 3月予定)
 「バルセロナの吸血鬼」と呼ばれた実在の犯罪者に想を得て書かれた作品だそうです。

ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』(東京創元社 11月予定)
 『10の奇妙な話』の作者による短篇集です。

アンナ・スメイル『鐘』(東京創元社 12月予定)
 鐘の音で人々が支配される世界を舞台にした作品、らしいです。世界幻想文学大賞受賞作品。

アナトール・フランス『ペンギンの島』(白水Uブックス 3月予定)
 洗礼を施されたペンギンが人間になってしまうという作品。中央公論社の『世界の文学』に入っていたこともある作品ですね。

オラフ・ステープルドン『スターメイカー』(ちくま文庫)
 国書刊行会から単行本の出ていた作品の文庫化。

スティーヴン・ミルハウザー『危険な笑い』(白水社 6月予定)
 ミルハウザーの短篇集です。

シャルル・バルバラ『ウィテイントン少佐』(国書刊行会)
 表題作は、雑誌『幻想文学32号』に翻訳が掲載されてますね。人形テーマの幻想小説ですが、短篇作品なので、他にも作品が収録されるんでしょうか。

フィオナ・マクラウド『夢のウラド』(国書刊行会)

南條竹則編訳『英国怪談集成』(国書刊行会)

垂野創一郎編訳『ドイツ幻想小説集』(国書刊行会)

イサベル・アジェンデ『日本人の愛人』(河出書房新社)

ダグラス・アダムス『長く暗い魂のティータイム』(河出文庫 3月予定)
 「ダーク・ジェントリー」の2作目。

ケラスコエット『サタニエ』(河出書房新社)
 『かわいい闇』で話題を呼んだバンド・デシネ作家の新作だそう。

マリアーナ・エンリケス『わたしたちが火の中で失くしたもの』(河出書房新社 9月予定)
 「ラテンアメリカ新世代の「ホラー・プリンセス」による悪夢のような12の短篇集」だそうで、これは気になりますね。


 ※ネット上に公開されていた、「読んでいいとも!ガイブンの輪」の「来年の隠し玉」の内容レジュメを参照させていただきました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

2017年を振り返って
 もうすぐ、2017年が終わります。今年は昨年に引き続き、個人的にはなかなか充実した年になったのではないかと思います。

 昨年末から始めた「怪奇幻想読書倶楽部 読書会」が本格的にスタートし、レギュラーメンバーも定着してきました。テーマ別読書会ということで、毎回テーマに関してはいろいろ考えているのですが、「夢と眠りの物語」(第4回)や「リドルストーリー」(第5回)あたりは、なかなかユニークなテーマだったのではないかと思います。
 幻想文学的なテーマに混ぜて「私の読書法」(第3回)とか「ブックガイドの誘惑」(第5回)なんてのも取り上げました。年末にやった「本の交換会」(第10回)や「年間ベストブック」(第11回)も好評だったようです。
 7月開催の第7回からは、テーマとして個人作家の特集を始めました。この路線はわりと好評で、ラヴクラフトやシャーリイ・ジャクスンの回はなかなか盛り上がりました。
 来年も、この作家特集は続けていきたいと思っています。取り上げたいと思っている作家は、エドガー・アラン・ポオ(一月予定)、ステファン・グラビンスキ、ディーノ・ブッツァーティ、ロード・ダンセイニ、レイ・ブラッドベリ、ロアルド・ダール、スタンリイ・エリンなど。

 読書に関していうと、この一年は読書会のテーマに合わせて、旧作の再読や読み残し的な読書が多かったな、という印象です。作家のまとめ読みをしたことで、ラヴクラフト、シャーリイ・ジャクスン、リチャード・マシスン、H・G・ウェルズといった作家像が新たになったという収穫もありました。
 個人的に一番の収穫だったのは、古典から現代ものまでの怪奇・ホラー作品をかなりの数読めたということでしょうか。ゴシック・ロマンスやモダンホラー系の長篇は、じっくり読んでみるとそれぞれの面白さがありました。
 ハヤカワ文庫の《モダンホラー・セレクション》に関しても、ほぼ読破できました。B級作品はたくさんあるものの、つまらなくて読めない…という作品がなかったのは、意外でしたね。

 結果的に、今年の新刊はまだ読めていないものが多いのですが、面白かったものに関して、言及しておきたいと思います。


 まず、日本作家から。



恐怖小説 キリカ ししりばの家
 『ぼぎわんが、来る』でファンになった澤村伊智の作品が、今年2冊ほど出ました。メタな趣向を使った『恐怖小説 キリカ』(講談社)、幽霊屋敷ものにひねりを加えた『ししりばの家』(角川書店)、2作とも水準以上の秀作でした。



奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い (角川ホラー文庫) ハラサキ (角川ホラー文庫) 迷い家
 今年度の日本ホラー小説大賞作品からは、木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』(角川ホラー文庫)、野城亮『ハラサキ』(角川ホラー文庫)、山吹静吽『迷い家』を読みました。
 異世界とサイコスリラーを合わせたかのような『ハラサキ』、不思議な道具を使った異界の屋敷探検が楽しい『迷い家』もなかなかですが、メタな趣向と登場する怪奇現象の新しさで、『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』が一番面白かったでしょうか。



わざと忌み家を建てて棲む 忌物堂鬼談 (講談社ノベルス) 魔邸
 三津田信三作品も、安定した作りで楽しませてもらいました。人工的な幽霊屋敷というテーマを扱った『わざと忌み家を建てて棲む』(中央公論新社)、所有するだけで祟られる「忌物(いぶつ)」をめぐる連作短篇集『忌物堂鬼談』(講談社ノベルス)、「神隠し」とミステリを組み合わせた『魔邸』(角川書店)もなかなかでした。



君と時計と嘘の塔 第一幕 (講談社タイガ) 君と時計と塔の雨 第二幕 (講談社タイガ) 君と時計と雨の雛 第三幕 (講談社タイガ) 君と時計と雛の嘘 第四幕 (講談社タイガ)
 タイムリープをテーマにした、綾崎隼《君と時計》4部作(講談社タイガ)は、ハラハラドキドキの連続で楽しませてもらいました。


 海外の翻訳ものもいろいろな秀作・傑作がたくさんありました。



約束 時間のないホテル (創元海外SF叢書) 深い穴に落ちてしまった 鏡の前のチェス盤 (古典新訳文庫) 引き潮 穢れの町 (アイアマンガー三部作2) (アイアマンガー三部作 2) 魔法にかかった男 (ブッツァーティ短篇集)
 まずは文学作品。
 イジー・クラトフヴィル『約束』(河出書房新社)は、監禁をテーマにしたサスペンスがとんでもない展開になってしまうという怪作。
 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(東京創元社)は、エッシャー風のホテルで展開するモダンホラー的長篇でした。これは読書会でも話題になりましたが、前半が面白いという人と後半が面白いという人に分かれていましたね。
 イヴァン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』(東京創元社)は、穴に落ちた兄弟をめぐる寓話で、なかなか考えさせられる作品でした。
 『鏡の前のチェス盤』(光文社古典新訳文庫)は、イタリアの異色作家ボンテンペッリのファンタジー長篇。「不思議の国のアリス」的な世界観で展開されるナンセンス作品でした。
 ロバート・ルイス・スティーヴンスン&ロイド・オズボーン『引き潮』(国書刊行会 2700円)は、オフビートな航海物語で、妙に心に残る作品でした。
 マリオ・レブレーロ『場所』(水声社)は、エンタメに富んだ不条理小説。
 話題になった、エドワード・ケアリー《アイアマンガー三部作》も評判に違わぬ傑作でした。
 ロマン・ギャリ『ペルーの鳥 死出の旅へ』(水声社)は、秀作が集められた短篇集。とくにジャンル小説というわけではないのですが《異色作家短篇集》に入ってもおかしくないテイストの作品集だと思います。
 年末から刊行の始まった、ブッツァーティ未訳短篇集の第一弾、『魔法にかかった男』(東宣出版)も非常にいい企画でした。



闇夜にさまよう女 最後の乗客 (マグノリアブックス) 魔女の棲む町 (マグノリアブックス) ダーク・マター (ハヤカワ文庫 NV ク 22-4) 誰がスティーヴィ・クライを造ったのか? (DALKEY ARCHIVE)
 エンタメ作品では、以下の作品に楽しませてもらいました。
 セルジュ・ブリュソロ『闇夜にさまよう女』(国書刊行会)は、凝りに凝ったサイコスリラー。ひっくり返しが好きな人には楽しめるのでは。
 マネル・ロウレイロ『最後の乗客』(マグノリアブックス)は、幽霊船テーマにひねりを加えた作品。
 トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』は、超自然現象に対するアプローチが面白かったですね。
 ブレイク・クラウチ『ダーク・マター』(ハヤカワ文庫NV)は、パラレルワールドをテーマにしたSFサスペンス作品。
 《ドーキー・アーカイヴ》の新刊、マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』(国書刊行会)は、ホラーがかったメタフィクションで、ブラック・ユーモアにあふれた秀作でした。



ドラゴン・ヴォランの部屋 (レ・ファニュ傑作選) (創元推理文庫) 人形 (デュ・モーリア傑作集) (創元推理文庫) ぼくが死んだ日 (創元推理文庫) 夜の夢見の川 (12の奇妙な物語) (創元推理文庫) FUNGI-菌類小説選集 第Iコロニー(ele-king books) 時をとめた少女 (ハヤカワ文庫SF) ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF) イヴのいないアダム (ベスター傑作選) (創元SF文庫)
 短篇集では、J・S・レ・ファニュの怪奇小説集『ドラゴン・ヴォランの部屋』(創元推理文庫 予価1080円)、、デュ・モーリアの初期作品を集めた、ダフネ・デュ・モーリア『人形 デュ・モーリア傑作集』(創元推理文庫)、ひねりの効いたゴースト・ストーリー集、キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』(創元推理文庫 予価972円)など。
 アンソロジーでは、「奇妙な味」作品を集めた作品集である、中村融編『夜の夢見の川 12の奇妙な物語』(創元SF文庫)、菌類をテーマにしたユニークなアンソロジー、オーリン・グレイ/シルビア・モレノ編『ファンギ 菌類文学アンソロジー』(Pヴァイン)が面白かったです。
 SFでは、ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』、ハーラン・エリスン『ヒトラーの描いた薔薇』(ハヤカワ文庫SF)、アルフレッド・ベスター『イヴのいないアダム』(創元SF文庫)などのベテラン勢の短篇集が、安心して楽しめる作品集でした。



魔術師の帝国《1 ゾシーク篇》 (ナイトランド叢書) 魔術師の帝国《2 ハイパーボリア篇》 (ナイトランド叢書) 魔女を焼き殺せ! (ナイトランド叢書2-6) 魔女王の血脈 (ナイトランド叢書2-7) ジョージおじさん〜十七人の奇怪な人々 (ナイトランド叢書)
 《ナイトランド叢書》(アトリエサード)は、クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国1、2』、オーガスト・ダーレス『ジョージおじさん 十七人の奇怪な人々』、A・メリット『魔女を焼き殺せ!』、サックス・ローマー『魔女王の血脈』が出ました。
 なかでは、ダーレスの手堅い怪奇小説集『ジョージおじさん』とメリットの怪奇スリラー『魔女を焼き殺せ!』が面白かったですね。



アンチクリストの誕生 (ちくま文庫) ワルプルギスの夜:マイリンク幻想小説集 永久パン 他一篇 火の書
 クラシック作品では、レオ・ペルッツ『アンチクリストの誕生』(ちくま文庫)、グスタフ・マイリンク『ワルプルギスの夜 マイリンク幻想小説集』(国書刊行会)、アレクサンドル・ベリャーエフ『永久パン 他一篇』(アルトアーツ)、ステファン・グラビンスキ『火の書』(国書刊行会)など。



怪談生活 江戸から現代まで、日常に潜む暗い影 (立東舎) バッドエンドの誘惑~なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか~ (映画秘宝セレクション) 死の舞踏: 恐怖についての10章 (ちくま文庫) H・P・ラヴクラフト:世界と人生に抗って
 評論・エッセイでは、読んだものは少ないですが、以下のような本を面白く読みました。
 高原英理『怪談生活 江戸から現代まで、日常に潜む暗い影』(立東舎)は、江戸の怪談随筆をめぐるエッセイと著者の回想が入り混じったユニークな作品。
 真魚八重子『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』(洋泉社)は、タイトル通り、バッドエンド映画の魅力について語った評論です。
 何度目かの復刊ですが、スティーヴン・キング『死の舞踏』(ちくま文庫)は、小説、ラジオ、テレビ、映画など多面的にホラー作品について語った評論集で、今でも読み応えがあります。新たについた序文や索引など、資料としても有用ですね。
 ミシェル・ウエルベック『H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って』(国書刊行会)は、客観性には欠けるものの、著者の筆致の面白さを楽しむタイプの評論といっていいでしょうか。個々のラヴクラフト作品のあらすじや評価について知りたい読者には、ちょっと方向性が違う本かもしれません。


 あと、コミック作品で記憶に残った作品です。



《完全版》サイコ工場 A(アルファ) (LEED Cafe comics) 《完全版》サイコ工場 Ω(オメガ) (LEED Cafe comics) 黄色い悪夢 (LEED CAFE COMICS) 本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇 (LEED CAFE COMICS)
 今年は、リイド社の「リイドカフェコミックス」レーベル作品が非常に面白かったです。
 1990年代作品に増補改定を施したという、谷口トモオ『《完全版》サイコ工場 A(アルファ)』『《完全版》サイコ工場 Ω(オメガ)』は、強烈かつシャープなサイコホラー作品集でした。
 黄島点心『黄色い悪夢』は、絵柄がグロテスクなものも多いですが、奇想に富んだ作品揃いで楽しませてもらいました。蚊の視点から描いたホラーなんて初めてです。
 佐藤将『本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇』は、お父さんが娘の本棚の小説を盗み読むという面白いコンセプトで楽しい作品でした。



BOX~箱の中に何かいる~(3)<完> (モーニング KC) 諸星大二郎劇場 第1集 雨の日はお化けがいるから (ビッグコミックススペシャル)
 諸星大二郎は、迷宮やゲームをテーマにした『BOX~箱の中に何かいる~』が3巻で完結。年末には、読み切りを集めた『諸星大二郎劇場 第1集 雨の日はお化けがいるから』(ビッグコミックススペシャル)も出て、こちらも安定した出来の作品集でした。



<たそがれの市 あの世お伽話 夢十夜 桜の森の満開の下 (岩波現代文庫) 夜長姫と耳男 (岩波現代文庫)
 近藤ようこは、このところぐんと評価が上がっている作家ですね。
 『夢十夜』(岩波書店)は、漱石の同名作品のコミカライズ化。復刊ものも何冊か出ました。坂口安吾原作の『桜の森の満開の下』『夜長姫と耳男』(岩波現代文庫)、『帰る場所』『水の蛇』(ビームコミックス)。
 いちばん良かったのは、あの世とこの世の往還を描いた『たそがれの市 あの世お伽話』(角川書店)でしょうか。



狂気の山脈にて 1 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス) 狂気の山脈にて 2 ラヴクラフト傑作集【電子特典付き】 (ビームコミックス) 狂気の山脈にて 3 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス) 狂気の山脈にて 4 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)
 近年、ラヴクラフトのコミカライズを精力的に進めている田辺剛の『狂気の山脈にて』(ビームコミックス)は、4巻で完結。これは今のところ、作者の最高傑作といっていいんじゃないでしょうか。



辺獄のシュヴェスタ(5) (ビッグコミックス) 辺獄のシュヴェスタ(6) (ビッグコミックス) キリング・アンド・ダイング
 竹良実『辺獄のシュヴェスタ』は六巻で完結。非常にハードな復讐物語でしたが、結末では感動が得られます。
 エイドリアン・トミネ『キリング・アンド・ダイング』(国書刊行会)は、じんわりとした感動がくるグラフィック・ノヴェル。



アマネ†ギムナジウム(1) (モーニング KC) 好奇心は女子高生を殺す 1 (サンデーうぇぶりSSC) 惑星クローゼット (1) (バーズコミックス) 銀河の死なない子供たちへ(上) (電撃コミックスNEXT) HOTEL R.I.P. 1 (秋田レディースコミックスデラックス) ことなかれ(1) (Nemuki+コミックス)
 連載中で追いかけ始めたのは、以下の作品です。
 古屋兎丸『アマネ†ギムナジウム』(モーニングKC)は、趣味で作った少年人形と学園が実体化するという作品。生徒の少年たちの青春模様と、学園の「作者」であるヒロインのメタな物語が組み合わさったユニークな作品です。
 高橋聖一『好奇心は女子高生を殺す』(サンデーうぇぶりSSC)は、女子高生のコンビが毎回不思議な目にあうというSFファンタジー。つばな『第七女子会彷徨』に似たテイストですが、あちらよりもシビアで苦い味わいです。
 つばな『惑星クローゼット』(バーズコミックス)は、眠るたびに他惑星に転送されてしまうというヒロインが主人公。そこで出会った少女とともに、その星の秘密を探っていくという冒険もの。
 施川ユウキ『銀河の死なない子供たちへ』(電撃コミックスNEXT)は、不死の子供たちが生命について学ぶという物語。長大な時間の流れがあっさりと表現されるのに驚きます。
 西倉新久『HOTEL R.I.P.』(秋田レディースコミックスデラックス)は、あの世とこの世の境にあるホテルで展開されるヒューマン・ストーリー。単純な人情話にならないところにバランスの良さを感じます。
 オガツカヅオ、星野茂樹『ことなかれ』(Nemuki+コミックス)は、都市伝説を調査する「ことなかれ課」の活躍を描いたオカルト連作ストーリーです。日常と非日常の境目の描写が上手いですね。



五佰年BOX(1) (イブニングコミックス) 五佰年BOX(2) (イブニングコミックス)
 今一番続きが楽しみなのが、宮尾行巳『五佰年(いほとせ)BOX』(イブニングコミックス)。
 隣人の家から見つかった奇妙な箱の中には、数百年前と思しい人々が生活する世界が入っていました。主人公は、箱の中で襲われている少女をとっさに助けてしまいますが、その結果、現実の歴史も変わっていたのです…。
 異色のパラレルワールド+歴史改変もの作品です。主人公は元の世界を取り戻そうとしますが、歴史が変わる条件もわからず、試行錯誤を繰り返すのです。2巻まで出ていますが、本当に物語の予測がつかず、続刊が楽しみです。


Mooncop
 最後に、洋書ですが、Tom Gauldのコミック『Mooncop』(Drawn & Quarterly Pubns)。
 タイトルは「月のお巡りさん」とでもいった感じでしょうか。過疎化する月の町で、孤独な生活を送る警官の物語です。だんだんと町の人々は地球に帰ってしまい、店もどんどんと機械化されていくなか、警官は…という物語。ブラッドベリ『火星年代記』を思わせるテイストで、しみじみとした味わいがあります。
 作者のTom Gauld(トム・ゴールド)は、旧約聖書のエピソードを元にしたグラフィック・ノヴェル『ゴリアテ』(パイインターナショナル)が紹介されています。
Mooncop2.jpg Mooncop1.jpg


 新年初めには、また記事を更新したいと思いますが、今年は一旦これで終了としたいと思います。一年間ありがとうございました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

吸血鬼小説を読む
 「吸血鬼」とは、主に人間の血液を吸い、栄養源とする怪物です。蘇った死者、または不死の存在であるともされています。古くはギリシャ・ローマの昔から、吸血鬼を思わせる伝承は存在しますが、メジャーな存在になったのは近代になってからといっていいでしょう。

 文芸・小説の世界で一番最初に影響力を及ぼしたのは、おそらくジョン・ポリドリ『吸血鬼』(今本渉訳 須永朝彦編『書物の王国12 吸血鬼』国書刊行会収録)です。19世紀前半に書かれたこの作品、バイロンの影響が濃いといわれますが、登場する吸血鬼ルスヴン卿が、貴族的で残酷なキャラクターとして描かれています。その影響か、これ以後の吸血鬼作品には、貴族的な吸血鬼が数多く登場するようになります。
 
 19世紀のエポックメイキングな作品としては、やはりJ・S・レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」(平井呈一訳『吸血鬼カーミラ』創元推理文庫収録)とブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)が挙げられます。
 「吸血鬼カーミラ」は、女吸血鬼の登場する同性愛的な要素の強い作品。一方『吸血鬼ドラキュラ』は、吸血鬼小説の集大成的な大作といえます。現代の吸血鬼のイメージの源泉は、ほぼこの作品から来ているといっていいのではないでしょうか。

 20世紀も半ばを過ぎると、オーソドックスな吸血鬼ものや、「ドラキュラ」タイプの作品は減ってきます。ステレオタイプになりがちなのを避けてか、作家たちも工夫をした作品が増えてくるのです。
 吸血鬼を実在の「種族」として科学的に説明したものや、ウィルスや病気による「感染症」と捉えたもの、精神的な病気と捉えたもの、もしくはパロディとして描かれたものなど、バリエーションは多彩になっていきます。

 リチャード・マシスン『アイ・アム・レジェンド』(尾之上浩司訳 ハヤカワ文庫NV)は、吸血鬼が「感染症」だというアイディアが使われた作品です。大量の吸血鬼が襲ってくるというイメージは、ロメロ監督のゾンビ映画の発想元ともなりました。
 H・H・エーヴェルス『吸血鬼』(前川道介訳 創土社)や、シオドア・スタージョン『きみの血を』(山本光伸訳 ハヤカワ文庫NV)、ガイ・エンドア『パリの狼男』(伊東守男訳 ハヤカワ・ミステリ)などは、吸血行為が「病」として描かれた作品ですね。

 悪役として描かれていた吸血鬼側を主人公にした作品も現れ始めます。ホイットリー・ストリーバーやアン・ライスの作品は、吸血鬼の自意識を描き「悩める吸血鬼像」を生み出しています。
 アン・ライスの吸血鬼作品はまた「ヒーロー」としての吸血鬼作品のさきがけともなりました。

 また『吸血鬼ドラキュラ』のテイストを現代に復活させようとした作品もあります。スティーヴン・キング『呪われた町』(永井淳訳 集英社文庫)や、そのフォロワー的な作品である、ロバート・R・マキャモン『奴らは渇いている』(田中一江訳 扶桑社ミステリー)は、力業で吸血鬼の侵略を描いています。

 古典から現代まで、様々な吸血鬼作品がありますが、以下、その一部から紹介していきたいと思います。



4488501095怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫)
G・アポリネール 他 青柳 瑞穂
東京創元社 2006-07-11

by G-Tools

 テオフィル・ゴーチェ「死女の恋」(青柳瑞穂訳 澁澤龍彦編『怪奇小説傑作集4』創元推理文庫収録)
 純朴な青年僧侶が恋をした、妖艶な美女クラリモンドは死者であり、吸血鬼でした。青年を愛するクラリモンドは、彼を傷つけないように少しづつ生気を吸い取っていきますが…。

 登場する女吸血鬼クラリモンドが可憐です。青年の師である聖職者セラピオン師は、クラリモンドを邪悪なものとして滅ぼそうとします。青年は彼女が吸血鬼とわかってからも、彼女の愛が真実であることを確信するのです。
 明らかに吸血鬼側に思い入れがあるタイプの作品で、本来善の側であるはずのセラピオン師が悪人のように描かれています。19世紀前半に書かれた作品なのですが、この時代に、吸血鬼が「悪」や「怪物」ではなく、人間味にあふれた存在として描かれているのがユニークなところです。20世紀後半以降に多く書かれるようになる「苦悩する吸血鬼」のプロトタイプ的な作品といえるかもしれません。



4488506011吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)
レ・ファニュ 平井 呈一
東京創元社 1970-04-15

by G-Tools

J・S・レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」(平井呈一訳『吸血鬼カーミラ』創元推理文庫収録)
 父と共に城に暮らす令嬢ローラは、事故により城で預かることになった美しい女性カーミラに惹かれるようになります。しかしカーミラの行動には不審な点がいくつもありました。
 時を同じくして、城の周辺では原因不明の衰弱死を遂げる人間が相次いでいました。ローラ自身も急激に体調が悪化していきますが…。

 この時代の作品としては、女性の吸血鬼を登場させたところがユニーク。カーミラの妖艶な雰囲気が印象的です。
 1872年の作品ですが、棺桶で眠る、杭を刺されると死ぬ、などの吸血鬼の代表的な特徴がすでに現れています。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』以前の吸血鬼小説としては最も有名なものではないでしょうか。
 現代の読者としては、カーミラが吸血鬼であることはすぐに分かってしまいます。ただそれが分かっていても読ませられてしまうのは、ムード作りの名手であるレ・ファニュの筆力といっていいのでしょうか。



4891764201ドラキュラ
ブラム ストーカー Bram Stoker
水声社 2000-04

by G-Tools

ブラム・ストーカー『ドラキュラ 完訳詳注版』(新妻昭彦/丹治愛訳・註 水声社)
 言わずと知れた、吸血鬼小説の頂点といえる作品です。トランシルヴァニアに住む「吸血鬼」ドラキュラ伯爵が、ロンドンに来襲し恐怖を撒き散らす…というストーリー。
 関係者の日記や書簡によってストーリーが展開し、話者もたびたび変わるので、ドキュメンタリー風の臨場感があります。

 翻訳も非常に読みやすく、何より膨大な註と付属の資料が参考になります。本編から削除されたエピソード「ドラキュラの客」も収録しています。
 実は「吸血鬼」にはいろいろ制約があって、その一つとして「所有」している場所でないと移動できないとか、必ず棺で寝ないといけないとかのルールがあります。わざわざ、大量の棺を運ばせて複数の屋敷に分散させるとか、結構面倒くさいことをしています。
 ドラキュラ側も、主人公であるヴァン・ヘルシング側も、吸血鬼のルールとそれを撃退するためのルールを互いに知った上で、知的な応酬をするという感じなのが面白いですね。またヴァン・ヘルシング側が、何人かのチームを組んで応酬するところがまた興味深いです。
 註にもいろいろ面白い部分があって、例えばドラキュラに襲われたルーシーに男たちが輸血をするシーンがあるのですが、血液型も調べずに輸血をしていたりします。そもそも「ドラキュラ」発表時には輸血の技術も血液型の知識も普及していないらしいのです。
 ドラキュラもヴァン・ヘルシングたちも、ロンドンからトランシルヴァニアまでかなりの距離を移動するのですが、このあたりの海外遠征の描写もかなり忠実らしくて、これは名優ヘンリー・アーヴィングのマネージャーをしていたストーカーの海外知識が反映されているとか。



4828831029モーパッサン怪奇傑作集 (福武文庫)
ギ・ド モーパッサン 榊原 晃三
福武書店 1989-07

by G-Tools

ギイ・ド・モーパッサン「オルラ」(榊原晃三訳『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫収録)
 透明で、人の生気を吸い取る謎の怪物に襲われた男の物語です。作中に「吸血鬼」の言葉は出てきませんが、ほぼ「吸血鬼」といっていいかと思います。
 作中に登場する怪物がすごく無気味で、姿は見えないながら実体はあり、牛乳と水を好むなど、妙なリアリティがあります。怪物の正体を探ったりする過程は非常にSF的です。
 語り手の男が狂気にとらわれており、怪物の存在が妄想である可能性も示唆されるという、多面的な作品でもあります。



frans3.jpeg
フランス幻想文学傑作選 3 世紀末の夢と綺想
窪田般弥 滝田文彦
白水社 1983-04

by G-Tools

J・H・ロニー兄「吸血美女」(小林茂訳 窪田般彌/滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社収録)
 うら若き美女イヴリンは、ある日突然息を引き取りますが、すぐに息を吹き返します。しかし記憶はあるものの、彼女の人格自体は変わっていたのです。一緒に暮らしていた家族の体調が悪くなっていきますが、イヴリンを見初めたジェイムズとの結婚以降、家族は健康を取り戻します。
 代わりにジェイムズの体調が悪化し、やがてイヴリンは夫の血を吸っていることが発覚します。ジェイムズはそれでもイヴリンを愛しますが、イヴリンは突如息を引き取ります。再び目を覚ましたイヴリンの人格は元の人格に戻っていました。結婚自体の記憶もない彼女は困惑しますが…。

 タイトル通り、吸血鬼になってしまった美女を描く作品なのですが、アイデンティティーと夫婦の愛情がメインテーマという面白い作品です。
 この作品での吸血鬼の扱いは独特で、例えば吸血行為自体は口をあてるだけで血を吸い取れる(噛まなくてもよい)とか、そもそも吸血鬼自体が異次元(?)から来た別人格なのです。しかも主人格が戻ってきてから、夫妻が再び愛情を取り戻す過程が描かれるという部分もユニークです。
 イヴリン自身が後半、吸血鬼人格と入れ替わりに、別の世界に行っていたことが明かされるのですが、この別世界がすごく無気味なんですよね。かすかな「クトゥルー」感もあったりと、今読んでも面白い作品です。



ザ・キープ〈上〉 (扶桑社ミステリー) ザ・キープ〈下〉 (扶桑社ミステリー)
F・ポール・ウィルスン『ザ・キープ』(広瀬順弘訳 扶桑社ミステリー)
 トランシルヴァニアの古い城に駐留することになったナチスドイツ軍。正体の知れない怪物に、兵士が次々と殺されていきます。虐殺が続くことに危機感を覚えたドイツ軍は、ユダヤ人の歴史学者クーザに調査を命じます。
 やがて城に巣食う魔性のものと接触したクーザは、彼を利用してドイツ軍を排除しようと考えます。一方クーザの娘マグダが出会った謎の男グレンは、魔性のものの事情を知っていることを仄めかしますが…。

 最終的には厳密な「吸血鬼もの」とは言えなくなるのですが、中盤までの展開はハラハラドキドキの連続で、非常に面白いエンタメです。深夜の古城で、目にも留まらぬ速さで跳梁する吸血鬼のイメージが強烈ですね。



4102216022薔薇の渇き (新潮文庫)
ホイットリー ストリーバー Whitley Strieber
新潮社 2003-08

by G-Tools

ホイットリー・ストリーバー『薔薇の渇き』(山田順子訳 新潮文庫)
 数千年にわたって生き続ける女吸血鬼ミリアムは、自身の孤独をまぎらわせるために人間を吸血鬼にしパートナーとしていました。しかし人間から吸血鬼になった者の寿命は数百年であり、現在のパートナーであるジョンもまたその限界に近づいていたのです。
 ジョンの老いを防ぐためと自身の体の秘密を知るために、老衰の研究を進める科学者サラに接近するミリアムでしたが…。

 自身の寂しさをまぎらわすために、常にパートナーを求める吸血鬼、というユニークな吸血鬼像を描いた作品です。その人物像は「人間的」なのですが、一方で人間は食料に過ぎず、パートナーでさえ対等の存在ではないという意味では、やはり「怪物」に近い存在でもあるのです。
 ストリーバーは、吸血鬼を、人間とは異なる進化を遂げた別の種族として描いています。血液の成分が人間とは異なったり、脳の作りが異なっていたりと「科学的」に描写します。このあたり、人狼を人間とは別の種族として描いた『ウルフェン』と共通するところがありますね。
 科学者サラを支配下に置こうとするミリアムと、恋人との愛を信じミリアムに抵抗しようとするサラの精神的な戦いが読みどころです。ミリアムの寵愛を失い嫉妬にかられたジョンの不穏な動き、ミリアムの数千年にわたる過去の回想なども読み応えがあり、吸血鬼小説の名作の一つといっていいのでは。



4102216030ラスト・ヴァンパイア (新潮文庫)
ホイットリー ストリーバー Whitley Strieber
新潮社 2003-12

by G-Tools

ホイットリー・ストリーバー『ラスト・ヴァンパイア』(山田順子訳 新潮文庫)
 不老の吸血鬼ミリアムは、同じ種族の伴侶を探すため、タイのヴァンパイアの集会を訪れますが、すでに仲間たちは壊滅させられていました。
 パリに飛んだミリアムでしたが、その後をCIAのヴァンパイア捜査班が追い続けます。捜査班のリーダー、ポールは、人間でありながらヴァンパイアなみの回復力を持つ男。殺される寸前まで追い詰められながら、なぜかミリアムはポールに惹かれはじめます…。

 『薔薇の渇き』の続編です。全篇、人類と吸血鬼との戦いが描かれ、アクション重視のエンタメに仕上がっています。人類はヴァンパイアが作り出した家畜だった…みたいな伝奇的な設定も出てきたりと盛り沢山です。前作とずいぶん趣が違いますが、これはこれで面白いですね。
 第一作『薔薇の渇き』が1981年、二作目『ラスト・ヴァンパイア』が2001年と、20年ぶりに描かれた続編であるせいか、前作との矛盾点や設定の後付けが目立ちます。前作では吸血鬼の孤独感がテーマだったと思うのですが、続編では仲間の種族がたくさんいることになっています。
 前作で最後まで抵抗を続けたヒロイン、サラが再登場しますが、あっさりとミリアムの軍門に下っているのもちょっと違和感が。単体作品として見ればなかなか面白い作品なのですが、前作と続けて読むと、ちょっと気になる点がないでもありません。
 ちなみに『ラスト・ヴァンパイア』の後に、もう一作シリーズ作品があるのですが未訳です。



奴らは渇いている〈上〉 (扶桑社ミステリー) 奴らは渇いている〈下〉 (扶桑社ミステリー)
ロバート・R・マキャモン『奴らは渇いている』(田中一江訳 扶桑社ミステリー)
 ヨーロッパからやってきた吸血鬼の王コンラッド・ヴァルカンは、その力を利用して吸血鬼を増やしていきます。暴走族や殺人者などを手下に引き入れ、その軍勢は数十万単位に。さらに超自然的な力による砂嵐で、ロサンジェルス全体に閉じ込められた人間たちは次々と殺戮されていきます…。
 ハンガリーからの移民であり、かって父親を吸血鬼に殺された警部パラタジンは、事態が吸血鬼のせいであり、彼らの王を倒すしかないと考えます。味方はいじめられっ子の少年、不良上がりの神父、コメディアン。彼ら4人は王を倒せるのか…?

 数世紀を生きる吸血鬼の王によってロサンジェルス全体が制圧されるという、とにかくスケールの大きい作品です。
 吸血鬼の王の能力がものすごく、肉体的な力だけでなく精神的な支配力、さらには超自然的な能力まで持っており、町はあっという間に制圧されていきます。事態が悪化するなか、彼らに歯向かう4人の人間が登場し、本拠地の城に乗り込む…という展開は非常に熱いです。
 最後の部分がわりとあっさりしているのですが、なかなかに読み応えのある作品。



フィーヴァードリーム〈上〉 (創元ノヴェルズ) フィーヴァードリーム〈下〉 (創元ノヴェルズ)
ジョージ・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』(創元推理文庫)
 南北戦争前夜、持ち船を失ったアブナー・マーシュ船長のもとに、ジョシュア・ヨークと名乗る男が訪れ、アブナーの共同経営者になりたいと持ちかけます。ジョシュアの莫大な資金を元に、二人は豪華な蒸気船フィーヴァードリーム号を完成させます。
 意気揚々とミシシッピ川の船旅に出発した一行でしたが、なぜか、ジョシュアは夜にしか姿を現しません。問い詰めたアブナーは驚くべき話を聞きます。ジョシュアは人間とは別に進化した種族であり、血を糧とする「吸血鬼」だというのです…。

 アメリカ南部、蒸気船に命をかける男と吸血鬼との友情を描いた、異色の吸血鬼小説です。
 同族を血の縛りから解放しようとする「正義」の側のジョシュアに対抗する存在として、「悪」の側のダモン・ジュリアンという吸血鬼も登場し、彼ら二人の対決がたびたび描かれるのですが、ジョシュアがあっさりと負けてしまうこともあり、こちらの展開は、多少消化不良の感がないでもありません。
 それよりも、豪華船を作り、競争に勝とうとする男たちの熱い思いを描いた部分が、一番の読みどころでしょうか。女性キャラも登場するものの、総じて影が薄いです。吸血鬼ものにつきものの耽美性は薄いですが、非常に豊潤な物語といえます。



4828849327なぞのうさぎバニキュラ (Best choice)
デボラ・ハウ ジェイムズ・ハウ Deborah Howe
福武書店 1990-12

by G-Tools

デボラ&ジェイムズ・ハウ『なぞのうさぎバニキュラ』(久慈美貴訳 ベネッセ)
 飼い主の家族が映画館で拾ってきたうさぎを飼いはじめたことから、奇怪な事件が続発します。「バニキュラ」と名付けられたうさぎが原因だと考える犬のハロルドと猫のチェスターは、家族を守ろうと対策を練りますが…。

 うさぎの「吸血鬼」が登場する作品です。ただ「吸血鬼」とはいっても、うさぎが吸うのはなんと野菜の血! 「血」を吸われたトマトが真っ白になったりします。
 チェスターが飽くまでうさぎを撃退しようとするのに対して、犬のハロルドは同情心からチェスターの邪魔をしたりするようになるのも面白いところ。最後のオチも大団円で楽しい作品です。



B000J79KPAパリ吸血鬼 (1983年) (ハヤカワ文庫―NV)
クロード・クロッツ 三輪 秀彦
早川書房 1983-11

by G-Tools

クロード・クロッツ『パリ吸血鬼』(三輪秀彦訳 ハヤカワ文庫NV)
 ドラキュラの息子フェルディナンは人間と吸血鬼のハーフ。父親ともども長年暮らした城を追い出され、パリで自活をすることになります。夜警の職についたものの、生活は楽にならず、食料である血もなかなか手にはいりません…。

 とにかく主人公のフェルディナンが、徹底的に不幸な目にあいます。吸血鬼としての能力を利用して人間を襲おうとしますが、ことごとく失敗してしまうのです。職も追われ、飢餓状態になったフェルディナンに起こった変化とは…?
 吸血鬼を題材とした「ユーモア小説」といえるのですが、吸血鬼の性質や特徴などは非常によく描かれています。主人公が全くいい目を見ないので、このまま終わってしまうのかと思いきや、思いもかけない展開に。非常に後味のいい作品です。



sinku.jpg怪奇幻想の文学〈第1〉真紅の法悦 (1969年)
新人物往来社 1969

by G-Tools

荒俣宏/紀田順一郎編『怪奇幻想の文学1 真紅の法悦』(新人物往来社)
 いわゆる「ひねった」作品は少なく、真っ向から吸血鬼が登場するという作品の多い、全体に正統派の吸血鬼アンソロジーです。
 収録作品は、ジョン・ポリドリ「吸血鬼」、レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」、E・F・ベンスン「塔のなかの部屋」 、F・G・ローリング「サラの墓」 、マリオン・クロフォード「血こそ命なれば」、カール・ジャコビ「黒の告白」 、M・W・ウェルマン「月のさやけき夜」、リチャード・マシスン「血の末裔」、D・H・ケラー「月を描く人」、ジョン・メトカーフ「死者の饗宴」。

 F・G・ローリング「サラの墓」 は、教会の修理で墓を動かしたがために、封印されていた女吸血鬼が復活する…という話。この吸血鬼、巨大な狼に変身したりと強力なのですが、珍しく人間の犠牲が出る前に倒されるという、この手の吸血鬼ものには珍しい展開です。

 マリオン・クロフォード「血こそ命なれば」は、財産家の父が死に、雇い人に財産を持ち逃げされた孤独な青年のもとに、かっての想い人の女吸血鬼が夜な夜な血を吸いにくるという物語。非常にロマンティックな雰囲気なのですが、吸血鬼がゴーチェ「死女の恋」のように優しくはなく残酷なところが印象的。

 D・H・ケラー「月を描く人」は、強圧的な母親に支配されていた青年画家が、母親の死後、精神病院に収容され、そこで奇妙な絵を描き始める…という話。いわゆる「絵画怪談」と「吸血鬼もの」を合体させた作品です。青年の死後、伝記作家が精神病院長に青年の人生を聞き取るという語りもユニークです。



B000J85DLOドラキュラのライヴァルたち (1980年) (ハヤカワ文庫―NV)
マイケル・パリー
早川書房 1980-09

by G-Tools

マイクル・パリー編『ドラキュラのライヴァルたち』(小倉多加志訳 ハヤカワ文庫NV)
 古典的な作品から現代作品まで、幅広い吸血鬼作品を集めたアンソロジーです。珍しい作品が集められているのが特徴。ラムジー・キャンベル、ジャン・レイ、M・R・ジェイムズ、マンリー・ウエイド・ウェルマン、ロバート・ブロックなど。

 とくに珍しいのが、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』に影響を与えたと言われる吸血鬼小説の一つ、作者不詳の「謎の男」です。1860年にドイツ語で書かれ、英語に翻訳された作品だそうです。
 領地の城に向かう途中のファーネンベルク勲爵士の一行は、狼の群れに襲われ廃墟となった城に逃げ込みます。そこで一行は謎の男に助けられます。後日知り合いになった男はアツォと名乗り、ファーネンベルクの城に出入りするようになります。
 令嬢のフランチスカはアツォに夢中になりますが、婚約者のフランツと従妹のベルタはアツォに不審の念を抱きます。アツォは夜にしか現れず、食事も全くとらないのです。やがてフランチスカの体調が悪化し始めますが…。

 婚約者のフランツが柔弱であることに不満を抱いているフランチスカが、影のあるアツォに惹かれはじめるという、恋の鞘当て的な部分もあり、それぞれのキャラクターも立っています。とくに印象深いのが、後半に現れるベルタの婚約者の軍人ヴォイスラウです。 戦争で片腕を失ったかわりに、強大な力の出る黄金の義手を身につけて現れるという強烈な登場シーンです。その力で、アツォの人間離れした怪力に対抗する…というシーンもあります。やがてフランチスカの命を救うために、ヴォイスラウはある手段を提案しますが…。
 夜にしか活動しない、人間の食事を取らない、人間離れした怪力、棺桶で眠るなど、「謎の男」アツォの性質は、本当に「ドラキュラ」を彷彿とさせます。邦訳で60ページほどの作品ですが、物語として充分に面白く、これは手軽な形で読めるようになってほしいですね。



4562028947吸血鬼伝説―ドラキュラの末裔たち
仁賀 克雄
原書房 1997-02

by G-Tools

仁賀克雄編『吸血鬼伝説 ドラキュラの末裔たち』(原書房)
 20世紀前半に活躍したホラー・SF作家たちの吸血鬼短篇を集めたアンソロジーです。基本的に「怪物」としての吸血鬼をテーマにした作品が多く、オーソドックスながら怪奇味あふれるタイプの作品が好きな方にはお勧めできるアンソロジーですね。
 収録作品は、カール・ジャコビ「黒の啓示」、カール・ジャコビ「血の末裔」、レスター・デル・リ「炎の十字架」、エドモンド・ハミルトン「吸血鬼の村」、シリル・M・コーンブルース「心中の虫」、バセット・モーガン「狼女」、ウイリアム・テン「夜だけの恋人」 、シーバリー・クイン「影のない男」、クラーク・アシュトン・スミス「アブロワーニュの逢引」、ロバート・E・ハワード「墓からの悪魔」、オーガスト・ダーレス「お客様はどなた?」、ヘンリー・カットナー「わたしは、吸血鬼」、A・E・ヴァン・ヴォクト「聖域」、ロバート・ブロック「マント」、チャールズ・ボウモント「会合場所」。



4390114182ドラキュラ学入門 (現代教養文庫)
吉田 八岑 遠藤 紀勝
社会思想社 1992-03

by G-Tools

吉田八岑、遠藤紀勝『ドラキュラ学入門』(現代教養文庫)
 吸血鬼についての総合的な入門書です。フィクションの吸血鬼よりも、民俗学的な伝承や、歴史的な記述の方に筆が多く割かれています。写真がたくさん載っており、ヴィジュアル的にも楽しい本です。
 ドラキュラのモデルになった実在の人物ヴラド・ツェペシュや「血まみれの伯爵夫人」エリザベート・バートリーの伝記なども収録されています。



hartman.jpg
フランツ・ハルトマン『生者の埋葬』(絹山絹子訳 黒死館附属幻推園)
 上記『ドラキュラ学入門』にも言及がありますが、オーストリアの医師フランツ・ハルトマンが「早すぎた埋葬」の例ばかりを集めたユニークな本です。
 「早すぎた埋葬」とは、仮死状態の人間が生きたまま埋葬されてしまう、という事例のこと。仮死状態で埋葬されてしまった人間を見て、吸血鬼だと思い込んだ例もあるのではないかと言うのです。
 以下のページで入手できます。
 http://klio.icurus.jp/kck-dic/info.html



4791756657陳列棚のフリークス
ヤン ボンデソン Jan Bondeson
青土社 1998-09

by G-Tools

ヤン・ボンデソン『陳列棚のフリークス』(松田和也訳 青土社)
 「早すぎた埋葬」に関しては、こちらの本にも詳しく語った章があり、参考になります。こちらは、医師が医学史の変わった現象をいろいろ取り上げるというコンセプトの本です。「人体自然発火」「胎内感応」「巨人」など、風変わりな題材が取りあげられています。



kyuketuki.jpg
吸血鬼の事典
マシュー バンソン Matthew Bunson
青土社 1994-12

by G-Tools

マシュー・バンソン『吸血鬼の事典』(松田和也訳 青土社)
 吸血鬼に関する百科事典とも言うべき本です。吸血鬼に関する伝承、歴史的な事件などから、小説や映画などのフィクションの紹介まで、いろいろな話題が盛り込まれています。欧米だけでなく日本やアジア諸国にまで言及しているのがすごいですね。
 とくに伝承や伝説に関しては変わったものが取り上げられていて面白いです。例えば「付喪神」の項目。ユーゴラスヴィアのイスラム教ジプシーによれば、三年間放置された農具は吸血鬼になるとか。
 吸血鬼を扱った小説に関してもかなり詳しく、『ドラキュラ』や『カーミラ』などの有名作だけでなく、マイナーな作品や未訳の作品まで紹介していて参考になります。それぞれの紹介文もよくまとまっていて、わかりやすいですね。巻末のリストも貴重です。



B00ALSRTDCドラキュラ文学館 吸血鬼小説大全 (別冊幻想文学 7)
東 雅夫
幻想文学出版局 1993

by G-Tools

『別冊幻想文学 ドラキュラ文学館』(幻想文学出版局)
 雑誌『幻想文学』の別冊として刊行されたムックです。吸血鬼「小説」に関する限り、最も有用なガイドブックといえるのではないでしょうか。吸血鬼を扱った小説のリストや登場する吸血鬼のキャラクター名鑑、各国の吸血鬼文学の事情を語ったエッセイ、吸血鬼をテーマにした短篇もいくつか収録されています。
 ちなみに収録短篇は、以下のようなもの。

須永朝彦『小説ヴァン・ヘルシング』
バイロン卿『断章』(南條竹則訳)
ステンボック伯爵『夜ごとの調べ』(加藤幹也&佐藤裕美子訳)
城昌幸『吸血鬼』
A・クビーン『吸血鬼狩り』(前川道介訳)
シーベリィ・クィン『月の光』(村社伸訳)

 エッセイでは、前川道介「死者たちの血の渇き ドイツ吸血鬼文学誌」、森茂大郎「メタファーとしての吸血鬼 フランス吸血鬼文学誌」、大石雅彦「吸血鬼における神話作用 スラヴ吸血鬼文学誌」などの、英米以外の国の吸血鬼文学事情が参考になりますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第11回読書会 開催しました
 12月23日の土曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第11回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め12名でした。
 テーマは、第1部「吸血鬼文学館」、第2部「年間ベストブック」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 第1部のテーマは「吸血鬼文学館」。
 主に、欧米の吸血鬼をテーマにした作品について話しました。ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』やレ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』などの定番作品のほか、伝統的な吸血鬼のイメージ、20世紀以降の「悩める吸血鬼像」、派生作品としての「ゾンビもの」との相違点など、いろいろな面での話が出たように思います。

 第二部は「年間ベストブック」。2017年度に読んで面白かった本について、参加者それぞれに挙げていただき、紹介していくという企画でした。あくまで今年度読んだもの、そしてジャンルの縛りはなし、ということだったので、いろいろなジャンルのタイトルが挙がりました。
 参加者のshigeyukiさんのダブリ本放出企画などもあり、年末らしい、楽しい企画になったのではないかなと思います。

 以下は話題になったトピックの一部です。

●第一部
■ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラに』ついて。
・手記や日記などで構成された作品で、ドキュメンタリー風味のリアリティがある。H・G・ウェルズ『宇宙戦争』との共通点も感じられる。
・呼ばれないと入れない、棺で寝なければいけない、倒し方に決まりがある、など、吸血鬼のルールがやたらと多いのが特徴。そういう枷がなければ、強すぎてしまう、というのも原因か。
・平井呈一訳は結構クセがある。完訳を謳った水声社版の方が読みやすい。
・ロンドンとトランシルヴァニアを往復、長距離の移動があったりエキゾチックな雰囲気が強い。
・『ジョジョの奇妙な冒険』一部の主人公ジョナサンは、『ドラキュラ』登場人物のジョナサン・ハーカーから名前を取っているのだろうか。
・当時の最新のテクノロジーや技術が出てきたりと、当時の「情報小説」的な趣もある。
・どちらかと言うと、ドラキュラ側よりヴァン・ヘルシング側の方がルールを破っている感じがする。

■J・S・レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」について。
・洗練された吸血鬼小説。翻訳も読みやすかった。
・カーミラについていた年配の貴婦人の正体は?
・この当時の吸血鬼作品では、一族が吸血鬼というものがよくある。
・同性愛的な雰囲気が非常に濃い作品。

■ポピー・Z・ブライト作品が代表的なものだが、LGBT的なテーマを描くために、吸血鬼テーマが使われているタイプの作品もある。

■吸血鬼と「早すぎた埋葬」について。
・「早すぎた埋葬」で仮死状態だった人間の姿を見て、吸血鬼だと勘違いした例もあるのではないか。
・「早すぎた埋葬」については、ヤン・ボンデソン『陳列棚のフリークス』で一章が割かれている。 当時の人は非常に恐れて、生き返ったときのためのベルが鳴る装置などもあったとか。
・キリスト教圏ではその教義上、肉体の破損を非常に恐れる。吸血鬼や「早すぎた埋葬」が恐れられたのは、そのせいもあるかもしれない。

■「悩める」吸血鬼について。19世紀までの作品では、吸血鬼は単なる「怪物」として描かれることが多かったが、20世紀以降の作品では、吸血鬼自身の自意識が描かれたり「悩める」吸血鬼像が描かれることが多い。

■ニューオーリンズを舞台にした吸血鬼ものについて。
・ヴードゥの伝承やフランス由来の文化など、吸血鬼作品の舞台に相応しい街なのではないか。
・この手の作品の嚆矢は、アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』?

■ゾンビものと吸血鬼ものとの関係について。
・もともと吸血鬼とゾンビの由来は異なる。もともとゾンビは宗教的なもので、今のような「感染」のイメージを帯びるようになったのは、リチャード・マシスン『アイ・アム・レジェンド』からロメロのゾンビ映画を経てからでは。
・ゾンビもの映画では、2000年代になってから登場した「走るゾンビ」の影響で、ゾンビ映画が流行るようになったのかもしれない。
・ゾンビは現代では代表的なアイコンになってしまった。
・フィクションにおいて、吸血鬼よりもゾンビの方が「扱いやすい」のも、好まれる一因かもしれない。

■ジョン・ポリドリ『吸血鬼』について。
・吸血鬼テーマを流行らせることになった最初の作品と言われる。
・貴族的な吸血鬼像(バイロンがモデル?)の代表例。

■コリン・ウィルソン『宇宙ヴァンパイア―』について。吸血鬼テーマの、B級だが面白い作品。クトゥルーっぽさもあり。ウィルスンは『ロイガーの復活』など、他にもクトゥルー的な作品があり。

■ミルチャ・エリアーデ『令嬢クリスティナ』について。観念的な吸血鬼もの。日本で出た《エリアーデ幻想小説全集》(作品社)は世界に類を見ない良い企画だと思う。

■ロシア・スラヴ系の吸血鬼小説について。ロシアやスラヴ系の吸血鬼ものは、英米のものとは違って、かなり土俗的なタイプの吸血鬼が登場する作品が多い。ゴーゴリ『ヴィイ』、A・K・トルストイ「吸血鬼」など。

■ストーカー『ドラキュラ』とレ・ファニュ『カーミラ』のヤングアダルト向けリライト作品について。解説も充実していてわかりやすい本だった。もともと『ドラキュラ』は冗漫な部分があるので、ダイジェスト版の方が読みやすいかも。

■ギイ・ド・モーパッサン「オルラ」について。
・透明な怪物(吸血鬼)が登場する作品。新種の生物というSF的な解釈も可能。
・怪物が実在するかははっきりないように描かれている(語り手の妄想の可能性)。
・モーパッサンの怪奇作品は精神異常のあるキャラクターが多いので、怪異現象が実際に起こっているかはわからない。

■吸血鬼と耽美について。
・いつごろからか、吸血鬼のキャラクター自体が大きくなり「ヒーロー」として描かれるようになってきた。
・吸血鬼であることが「属性」であり「スキル」のように描かれる例もある。
・「年をとらない」という性質が「耽美」と結びついた作品。萩尾望都『ポーの一族』など。日本のフィクションではこの傾向が強いかもしれない。

■吸血鬼とその「パワー」について。映画『ブレイド』など、近年の作品では吸血鬼になると「力」が強くなる、というタイプの作品がよく見られる。考えたら、本家の「ドラキュラ」も怪力という設定だった。

■ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの吸血鬼小説『MORSE -モールス-』とその映画化作品について。
・小児性愛や同性愛などの雰囲気が強い小説。映画版ではそのあたりがマイルドになっている。リメイク版はさらにその傾向が強い。
・招き入れられなければ入れない、などの伝統的な吸血鬼の属性が描かれている。

■精神的な吸血鬼について。実際の血ではなく「生気」を吸い取るタイプの作品もある。コナン・ドイル「寄生体」など。

■テオフィル・ゴーチェ「死女の恋」について。「可憐」な女吸血鬼の登場する作品。19世紀にあっては、こうした「人間味」の強い作品は珍しい。

■《ダレン・シャン》シリーズについて。吸血鬼をテーマにしたヤングアダルトシリーズ。《ハリー・ポッター》と人気を二分していた時期も。

■デボラ・ハウ/ジェイムズ・ハウ『なぞのうさぎバニキュラ』について
・吸血ウサギの登場する児童向け作品。野菜の血を吸い、吸われた野菜は真っ白になるところがユニーク。
・主人公が犬と猫で、うさぎとは話が通じないという、複雑な擬人化も面白い。

■キム・ニューマンの《ドラキュラ紀元》シリーズについて。ドラキュラがイギリスを支配した後の世界を描く改変世界もの。有名人が多く登場したりなど、趣向が凝らされている。

■スティーヴン・キング『呪われた町』について。
・アメリカの町に吸血鬼が現れるという、ある種無茶なネタを力業で描ききった傑作。
・勧善懲悪ではない結末も余韻がある。

■ロバート・R・マキャモン『奴らは渇いている』について。キング『呪われた町』の影響が強い作品。ロサンジェルス全体が吸血鬼の支配下になるなどスケールが大きい。ただ結末は多少投げやりなところも。

■H・H・エーヴェルス『吸血鬼』について。サイコ・スリラー的な要素の濃い吸血鬼作品。シオドア・スタージョン『きみの血を』と似た印象。

●第二部
以下、ベストに挙げられた本のタイトルです。

J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋 レ・ファニュ傑作選』
中村融編『夜の夢見の川』
イジー・クラトフヴィル『約束』
マルレーン・ハウスホーファー『壁』
スティーヴン・ロイド・ジョーンズ『白夜の一族』
マリオ・レブレーロ『場所』
A・メリット『魔女を焼き殺せ!』
ステファン・グラビンスキ『火の書』
木犀あこ『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』
綾崎隼《君と時計》シリーズ
トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』
ジェリー・ユルスマン『エリアンダー・M の犯罪』
トマス・パーマー『世界の終わりのサイエンス』
ブレイク・クラウチ『ダーク・マター』
マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』
佐藤将『本田鹿の子の本棚 暗黒文学少女篇』
レオ・ぺルッツ『アンチクリストの誕生』
佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』
ウンベルト・エーコ『異世界の書』
エリアス・カネッティ『マラケシュの声』
アンディ・ウォーホル『ぼくの哲学』
エリック・ホッファー『波止場日記』
スーザン・ソンタグ『写真論』
原美紀子『These are days』(写真集)
清野賀子『至るところで 心を集めよ 立っていよ」(写真集)
エドワード・ケアリー『堆塵館』
ステファン・グラビンスキ『動きの悪魔』
ケヴィン・ウィルソン『地球の中心までトンネルを掘る」
スーザン・テリス『キルト ある少女の物語』
ロジックLogic『1 - 800 - 273 - 8255』(洋楽)
ディーノ・ブッツァーティ『世紀の地獄めぐり』
マグナス・ミルズ『フェンス』
キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』
イバン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』
アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』
ミック・ジャクソン『10の奇妙な話』
ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』
ジョナサン・オージエ『夜の庭師』
ジャック・ヴァンス『天界の眼:切れ者キューゲルの冒険』
バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』
ダフネ・デュ・モーリア『鳥』
レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』
柞刈湯葉『横浜駅SF』
エドゥアルド メンドサ『グルブ消息不明』
阿部共実『月曜日の友達』
O・グレイ、S・モレーノ=ガルシア編『FUNGI 菌類小説選集―第Ⅰコロニー』
B・クラウチ、J・キルボーン他『殺戮病院』
三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』
中野京子『新 怖い絵』
ファン・ガブリエル・バスケスの『密告者』
角田光代の『源氏物語』
遠田潤子の『冬雷』
唯川恵の『淳子のてっぺん』
ジーン・ウルフの『ケルベロス 第五の首』
中村融編『猫は宇宙で丸くなる』
マージェリー・アリンガム〈キャンピオン氏の事件簿〉シリーズ
『窓辺の老人』『幻の屋敷』『クリスマスの朝に』
シャーリイ・ジャクスン『野蛮人との生活』
テッド・チャン『あなたの物語』
グレッグ・イーガン『祈りの海』
グレッグ・イーガン『ディアスポラ』
飛浩隆『グラン・ヴァカンス』
真魚八重子『バッドエンドの誘惑』
ナマニク『映画と残酷』
スティーブン・ピンカー『暴力の人類史』
陳浩基『13・67』
ジョー・ネスボ『その雪と血を』
アンデシュ・ルースルンド、ステファン・トゥンベリ『熊と踊れ』
ジョルジョ・シェルバネンコ『虐殺の少年たち』
新羽精之『新羽精之探偵小説選II』
陳舜臣『炎に絵を』
笹沢左保『人喰い』
ケン・リュウ『母の記憶に』
アレクサンル・ベリャーエフ『ドウエル教授の首』
吉屋信子『鬼火・底のぬけた柄杓』
ソートン・ワイルダー『わが町』
アルフレッド・ヒッチコック『ヒッチコック映画自身』
H・G・ウェルズ『宇宙戦争』ラジオドラマCDブック
ケン・リュウ『母の記憶に』
甲田学人『霊感少女は箱の中』
木原善彦『実験する小説たち』
フランク・ミラー/ デイブ・スチュアート/ ジェフ・ダロウ『ザ・ビッグガイ& ラスティ・ザ・ボーイロボット』

●二次会・三次会

■レイ・ブラッドベリ作品について。
・ブラッドベリ作品は初期に傑作が集中している。
・晩年になってから書かれた作品はひどいものがある。たまにはっとさせられる作品があるが、創作年を見ると古かったりする。
・作品集『黒いカーニバル』と『十月はたそがれの国』は傑作揃い。
・「優しく雨ぞ降りしきる」は、素晴らしい傑作。
・短篇「誰も降りなかった町」は天才的な着想だと思う。

■スティーヴン・キング作品について。
・中篇「霧」と映画化作品『ミスト』について。映画版のオリジナルオチはどうかと思う。
・キングの傑作は初期に集中していると思う。
・キングの作品のテーマはB級のことが多いが、圧倒的な筆力があるので、それが気にならない。『呪われた町』『クージョ』など。
・短篇『ナイト・フライヤー』は、飛行機の乗って現れる異色の吸血鬼小説。

■ジェームズ・ハーバート作品について。
・登場人物の描写がかなり上手い。ただ、その直後に殺されてしまうのは、あえてやっているのだろうか。
・どの作品もけれんが強いが、徹底したエンタメ精神に貫かれているので、B級なりの面白さがある。
・オススメ作品は? 『鼠』『霧』『ザ・サバイバル』など。
・ハーバートの映画化作品はあまり聞かない。映像映えしそうだが何故だろうか。『月下の恋』など。

■角川書店の日本ホラー小説大賞の受賞作品について。最初の頃に比べ、キャラクター要素の濃い作品が多くなっている。シリーズ化を意図した作品も。澤村伊智作品は、登場人物は共通していても、内容は単発的なものが多い。

■《世界幻想文学大系》について。
・造本のレイアウト・デザインは素晴らしいが、可読性には問題がある。
・十代ではなかなか手に取りにくい価格だが、そのときには憧れの叢書だった。
・古書価がいちばん高いのは、おそらくレ・ファニュ『ワイルダーの手』、次に『サラゴサ手稿』か。ミステリファンが探している巻がとりわけ高くなっているような気がする。

■翻訳もの読者は時代小説があまり読めない、ということについて。
・舞台が現実世界と地続きな気がするから。
・江戸時代あたりが舞台だと駄目だが、思いっきり過去に行くと気にならなくなってくる。鎌倉時代あたりなど。
・過去の時代が舞台でも翻訳もの場合、あんまり気にならない。ファンタジーとして読めるからだろうか。
・宮部みゆきの時代ものについて。ファンタジー的な要素が強いので、普通の時代小説とは違った感覚で読める。

■東京創元社の翻訳ものについて。近年の作品は傑作揃い。とくにヤングアダルトものに収穫が多い。

■三津田信三作品について。
・近作は幽霊屋敷ものが多い。『わざと忌み家を建てて棲む』はその極致のような作品。
・幽霊や化け物に追いかけられる描写に迫力がある。その際の擬音語・擬態語の表現力がすごい。

■筒井康隆作品について。
・他には真似のできない独創性がある。
・しょうもないアイディアでも傑作になっている作品があるのがすごい。
・ホラー作品でも傑作が多い。「鍵」「母子像」など。
・筒井康隆編のアンソロジーは秀作揃い。とくに『異形の白昼』のレベルは高い。

■半村良作品について。
・『石の血脈』は傑作。
・晩年のシリーズものはあまり良くない。
・短篇はいいものが沢山ある。

■オススメの古本屋は?
・西荻窪の盛林堂、中野のまんだらけ、荻窪のささま書店、鶯谷の古書ドリスなど。

■B級作品について。
・小説作品において、確実に残るのはA級作品で、B級作品は確実に手に入らなくなっていく。電子書籍があると言っても、B級は電子化さえされないのではないか。
・ハヤカワ文庫《モダンホラー・セレクション》なども手に入りにくくなりつつある。図書館によっては、このあたりを揃えているところもあるとか。

■シーベリイ・クイン《ジュール・ド・グランダン》ものについて。
・B級だが面白い。毎回ミステリタッチだが、原因はほぼ必ず超自然現象である。ミステリタッチにする必要があるのだろうか。
・長篇『悪魔の花嫁』は、短篇に比べてかなりだれる。

■グレッグ・イーガン作品について。短篇の方が面白いという人と長篇の方が面白いという人が。

■エドワード・ケアリー作品について。どの作品にも巨大な館や町などが登場する。そうした「小世界」を創るのが非常に上手い作家。『アルヴァとイルヴァ』など。

■レオ・ペルッツ「アンチクリストの誕生」について。最後のオチが「びっくりする」と言われていたが、そうでもなかった。

■ジャン・レイ作品について。
・ベルギーの大衆的作家。作品の出来不出来が激しいが、時折すごい傑作がある。
・『ゴルフ奇譚集』はB級な出来だった。
・『マルペルチュイ』『新カンタベリー物語』は傑作。

■恒川光太郎作品について。面白い作品は? 『秋の牢獄』『スタープレイヤー』など。

■アガサ・クリスティの映像化作品について。ポワロのイメージがデヴィッド・スーシェで固まってしまっているので、新作の映画版は受け入れがたい。

■「イヤミス」について。最近は「イヤミス」の対象範囲が広がっているように思う。考え方によっては、ホラー作品は全て「イヤミス」では?

■ノスタルジーを扱った作品について。少年時代がモチーフになっている作品では、大抵「いじめ」や「心の傷」が描かれることが多く、そのあたりが受け入れられないことがある。

■まりのるうにいの本について。

■《妖精文庫》(月刊ペン社)について。
・今でも素晴らしいラインナップだと思う。古書価もあまり高くないので、古書でも手に入れて読んでほしい。ウォーナー『妖精たちの王国』など。
・別巻『別世界通信』(荒俣宏)の巻末のガイドは当時、非常に重宝した。著者らしい尖ったラインナップだった。

■W・H・ホジスン『ナイトランド』について。超未来で展開される冒険ロマンス。世界観が独創的で、サイドストーリーがいくらでも作れそう。英米では同じ設定を使った作品もあるらしい。

■ボルヘスのミステリ好きについて。ボルヘスは英米のミステリ作品が非常に好きだったらしい。実作にもそれが反映されている。

■マーク・Z. ダニエレブスキー『紙葉の家』について。非常に凝った本でもともと定価も高かったが、古書価が万単位に。

■太宰治「駈込み訴え」と「きりぎりす」について

■ビデオで深夜映画を録画していた時代、結末まで撮りきれず中途半端に見た映画はやたらと心に残ってしまう。

■文学全集の定期配本について。少しづつ読んでいかないと、あっという間に積読がたまってしまう。


「第12回読書会」は、1月28日(日)に開催予定です。テーマは、

第一部:迷宮と建築幻想
第二部:作家特集 エドガー・アラン・ポオ

詳細は後日あらためて公開したいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

1月の気になる新刊と12月の新刊補遺
発売中  武田雅哉『中国飛翔文学誌 空を飛びたかった綺態な人たちにまつわる十五の夜噺』(人文書院 6696円)
12月26日刊 『別冊映画秘宝 鬱な映画』(洋泉社 予価1620円)
12月26日刊 トーマス・カリナン『ビガイルド 欲望のめざめ』(作品社 予価3024円)
1月6日刊 ジョイス・キャロル・オーツ『とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢』(河出文庫 予価1404円)
1月10日刊 パコ・ロカ『家』(小学館集英社プロダクション 予価3024円)
1月10日刊 メアリー・シェリー『マチルダ』(彩流社 予価2052円)
1月10日刊 朝里樹『日本現代怪異事典』(笠間書院 予価2376円)
1月12日刊 リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(東京創元社 予価2376円)
1月12日刊 ジェームズ・ロバートソン『ギデオン・マック牧師の数奇な生涯』(東京創元社 予価3456円)
1月20日刊 イタロ・カルヴィーノ『木のぼり男爵』(白水Uブックス 予価1944円)
1月24日刊 アリ・ランド『善いミリー、悪いアニー』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価1080円)
1月27日刊 『ユリイカ2月号 特集クトゥルー神話』(青土社 1512円)[
1月29日刊 沖田瑞穂『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』(原書房 予価2484円)
1月31日刊 柳下毅一郎監修『J・G・バラード短編全集5』(東京創元社 予価3888円)
1月31日刊 C・デイリー・キング『タラント氏の事件簿 完全版』(創元推理文庫 予価1296円


 『中国飛翔文学誌 空を飛びたかった綺態な人たちにまつわる十五の夜噺』は、中国の飛行にかかわる伝承や逸話を古典の時代から現代まで扱ったという本。武田雅哉さんの著作は、毎回非常に面白いテーマを扱っていますが、これまた面白そうですね。値段がちょっとネックではありますが。

 トーマス・カリナン『ビガイルド 欲望のめざめ』は、ドン・シーゲル監督の映画『白い肌の異常な夜』の原作小説。リメイク映画版に合わせた翻訳出版のようです。映画はサスペンス映画として有名なものなので、原作も気になりますね。

 『家』は、スペインの漫画家パコ・ロカによるコミック作品。前作『皺』は「老い」や「認知症」をテーマに象徴的な表現を使った意欲的な作品だったので、こちらの作品も楽しみです。

 朝里樹『日本現代怪異事典』は、現代日本の怪異や都市伝説などを紹介する事典です。以前に同人誌版が出ていたのですが、予約が殺到していて全然買えませんでした。これは期待大です。

 創元社の新刊からは、二作品が気になる作品です。
 リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』は、人類滅亡のときを迎え、老学者が幼い少女と同居生活を始める…という物語。
 ジェームズ・ロバートソン『ギデオン・マック牧師の数奇な生涯』は「突然、悪魔に命を助けられたなど冒涜的な告白をし、失踪してしまった牧師。彼の手記に書かれた波瀾に満ちた生涯とは。スコットランド随一の作家によるブッカー賞候補作!」という内容です。

 アリ・ランド『善いミリー、悪いアニー』は、殺人鬼の母親を告発した娘が、母親の法廷に証人として立つ…という話らしいです。「異色のサイコ×法廷×学園ミステリ」ということで、気になる作品です。

 『ユリイカ2月号』の特集は「クトゥルー神話」。ラヴクラフトでなく「クトゥルー」というところがミソでしょうか。公開されている目次を転載しておきます。

目次予定*【対談】黒史郎×森瀬繚/稲生平太郎×高橋洋【創作】酉島伝法/高山羽根子/赤野工作/藤田祥平【論考/エッセイ】伊藤博明/大野英士/小森健太朗/田中千惠子/立原透耶/寺田幸弘/廣田龍平/大久保ゆう/西貝怜/逆卷しとね…

 『J・G・バラード短編全集5』は、シリーズ最終巻。これはいいシリーズでした。他のSF作家の短篇集も出してくれると嬉しいですね。例えばシオドア・スタージョンとか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

生きている屋敷  ロバート・マラスコ『家』
ie.jpg
家 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ロバート マラスコ 小倉 多加志
早川書房 1987-12

by G-Tools

 主婦マリアンは、夫と息子と共に、手狭になったアパートで暮らしていました。ある日新聞で貸別荘の広告を見た夫婦は、破格の安値であったことからその家を借りることになります。しかしそれには条件が一つありました。所有者である老兄妹の母親の面倒を見てほしいというのです。ただ生活の世話はいらず、三度の食事のみを部屋の前に置いておけばいいという話でした。
 不審に思ったものの、家の魅力に惹かれた夫婦はその条件を飲みます。夫の伯母を含め4人で引っ越してきた一家でしたが、やがて、家族はみな異常な心理状態を経験するようになります。この家を出るべきだと主張する夫に対し、マリアンはなぜか反対しますが…。

 ロバート・マラスコ『家』(小倉多加志訳 ハヤカワ文庫NV)は、正統派といっていい幽霊屋敷小説です。
 主人公たちが立派な屋敷を借りることができたと喜んだのもつかの間、家族のそれぞれが、突然激高したり残酷な行為を行ったりと、異常な心理状態になっていきます。勘がいい夫は屋敷のせいではないかと考えますが、妻は気のせいだといって取り合いません。
 住んでいるはずの家主の母親は全く姿を見せず、本当に存在するのかどうかもわからないのですが、主人公マリアンはだんだんと影響を受け始め、ついには家族を捨ててでも彼女に尽くすべきだと考えるにいたるのです。

 明確な心霊現象はあまり起こらず、登場人物たちがだんだんと精神的に追い詰められていくという展開なので、地味といえば地味なのですが、非常に「怖さ」の感じられる作品です。家族が弱っていくたびに、屋敷の部屋や調度が新しくなっていったり、過去に死んだ人物の写真が現れたりという描写は、なかなかインパクトがあります。
 幽霊屋敷ホラーの傑作の一つといっていいのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

無垢な悪魔  バーナード・テイラー『神の遣わせしもの』
kamino.jpeg
神の遣わせしもの (1980年) (海外ベストセラー・シリーズ)
バーナード・テイラー 武富 義夫
角川書店 1980-12

by G-Tools

 画家のアランは、妻ケイトと4人の子供とともに、休暇旅行としてピクニックに訪れていました。そこで出会った妊婦と言葉を交わしたケイトは違和感を覚えます。何人も子供を産んだといいながら、妊婦はまるで子供に対して興味がないようなのです。しかもケイトが抱かせた赤ん坊に対する態度を見る限り、子供を抱いたこともないかのようでした。
 ある日突然、夫妻の家を訪問してきた妊婦は産気づき、そのまま女児を産み落とします。しかし赤ん坊を放ったまま、妊婦は行方をくらませてしまいます。
 捨てられた赤ん坊はボニーと名付けられ、夫妻の養子となります。その直後、夫妻の末っ子の赤ん坊が窒息死し、その後も子供の突然死が続きます。ボニーが犯人ではないかと気付いたアランは、ボニーを家族から引き離そうとしますが…。

 バーナード・テイラー『神の遣わせしもの』(武富義夫訳 角川書店)は、養子にした子供が家族を崩壊に導くという恐怖小説です。
 両親とも最初はボニーをかわいがりますが、語り手アランの方は、だんだんとボニーの不審な行動に気付き始めます。親の前では純真な子供を演じながら、義兄弟たちには悪意ある行動を繰り返すのです。実子の訴えが事実だと確信したアランは、ボニーを家族から引き離そうとします。
 しかし、妻のケイトはボニーを溺愛しており、アランの話を信じようとしません。やがて実子を引き離そうとしたことが誘拐行為と捉えられてしまい、夫婦の仲も悲惨なことになっていくのです。

 語り手アランが、すでに悲劇が起こってしまった後に回想しているという体裁の作品なので、物語が悲劇的な結末で終わることはわかっています。また犠牲になるのは皆子供だということもわかっているので、その点後味は非常に悪いです。
 ボニーの犯行は、一度も直接的には描かれないので、彼女が超自然的な存在だとは、最後まで明確にされません。しかし、読んでみるとどう考えても超自然的存在だとしか取れないようになっていて、その辺りの描き方のバランスが非常に上手いですね。
 ボニーが本当はいったいどういう存在なのか? ボニーの母親は何者だったのか? といった部分は最後まで全く明かされません。この手のテーマの作品で、「悪魔的な子供」を描くのに、宗教的・オカルト的な背景を全く使わないところは逆に新鮮に感じます。全体に不気味なトーンの支配する恐怖小説の佳作でした。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第11回読書会 参加者募集です
 2017年12月23日(土曜日・祝日)に「怪奇幻想読書倶楽部 第11回読書会」を開催いたします。
 若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年12月23日(土曜日・祝日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1500円(予定)
テーマ
第1部:吸血鬼文学館
第2部:年間ベストブック

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。


第1部のテーマは「吸血鬼文学館」。
 J・S・レ・ファニュ『吸血鬼カーミラ』や、ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』、テオフィル・ゴーチェ『死女の恋』、シオドア・スタージョン『きみの血を』、リチャード・マシスン『アイ・アム・レジェンド』、ジョージ・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』、スティーヴン・キング『呪われた町』…。
 古典の時代から現代に至るまで、吸血鬼をテーマにした作品は世界中で書かれ続けてきました。テーマとしての吸血鬼は映画やコミックなどにも拡散し、特に吸血鬼もののファンでなくても、何冊かは吸血鬼テーマの作品を読んだことがあるのではないでしょうか。
 現代でも創作され続けている「吸血鬼」。その魅力はどこにあるのか? 怪奇幻想ジャンルのテーマの中でも最もメジャーといえる「吸血鬼」について話していきたいと思います。

第2部のテーマは、「年間ベストブック」。
 今年(2017年)に読んだ本について、参加者それぞれに面白かった作品を挙げていただき、それについて話していこうという企画です。あくまで「今年読んだ本」なので、2017年度刊行作品でなくても構いません。
 事前にメールにて3作~5作(もっと挙げたい方はいくつでもかまいません)のタイトルを挙げていただき、紙にまとめたいと思います。
 なお、ジャンルは怪奇幻想ものにこだわらなくても結構です。

※「ベストブック」は、タイトルだけでも構いませんが、一言感想や面白かった部分なども付け加えていただけると嬉しいです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する