1970年代ホラーを読む

404265701X悪魔のワルツ (角川ホラー文庫)
フレッド・M・スチュワート 篠原 慎
角川書店 1993-04

by G-Tools

フレッド・M・スチュワート『悪魔のワルツ』(篠原慎訳 角川ホラー文庫)

 もとピアニストの作家マイルズは、世界的ピアニストであるダンカンのインタビューに訪れます。狷介で知られるダンカンとその娘ロクサーヌは、なぜかマイルスを気に入り、何くれとなく親切にしてくれるようになります。
 しかし、マイルズの妻ポーラは、ダンカン父娘の行動に疑いを抱きます。やがてダンカンは老衰で死にますが、それを境にマイルズの行動に微妙な変化が起こります。しかもピアノの腕が突如上達し、そのタッチはダンカンを思わせるものだったのです…。

 人格交換を扱ったホラー作品です。一応、人格交換が行われたかどうか、明確に記述はされないのですが、ダンカン父娘が、過去に魔術にかかわったと思われる伝聞情報や、実際に魔術を行う場面も描かれるので、実際に人格が交換されたことはわかってしまいます。
 それがわかってしまったら面白くないのかといえば、そういうわけではなく、結構面白いのですよね。夫の人格が変わってしまってから、妻が真実を求めて調査を重ねていくのですが、その過程で、ダンカン父娘の噂やスキャンダルが掘り起こされていくのです。父娘のいびつな関係や、過去の軋轢、娘のロクサーヌに至っては、過去にすでに人格交換がなされているのではないかという疑いも持ち上がります。
 夫の魂が失われたことを確信した妻は、自らも魔術を使って復讐のために立ち上がります。結末で、その強烈な方法が暗示されるに至って、ダンカン父娘よりも妻ポーラの行動の方に戦慄を感じさせられるのです。



hepa.jpeg
ヘパイストスの劫火 (1980年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
トマス・ペイジ 深町 真理子
早川書房 1980-06

by G-Tools

トマス・ペイジ『ヘパイストスの劫火』(深町眞理子訳 ハヤカワノヴェルズ)

 地震による地割れから現れたのは、古代から地中で暮らしていたゴキブリに似た虫たちでした。虫たちには触角により火を起こす能力がありました。炭素そのものを食料とする彼らは、火災を起こし、それにより食料である灰を作ろうとしていたのです。
 頻発する火災により大量の死者が出るなか、科学者たちは、虫たちを殲滅するための手段を探し回りますが…。

 ゴキブリをテーマにしたパニック・サスペンス作品です。題材が題材だけにゲテモノ作品かと思いきや、意外にも丁寧に書かれた作品です。
 このゴキブリ、動きが遅く、人間を直接襲うことはありません。ただ、ものすごく頑丈でウィルスに対しても強く、半端ではない生命力を持っています。科学者たちは、虫たちの天敵を探し、サソリ、クモ、猛獣など、様々な生物と戦わせますが、どれも歯が立ちません。
 人間が殺そうと思えば、数匹は殺せるのですが、知らない間に家に火を付けられてしまえば、それでおしまいなのです。
 やがて、虫たちの撃退方法が見つかり、事態は収束したかに見えますが、研究に飽き足らない科学者の独断により、新世代の虫が生み出されてしまいます。人間とコミュニケートできるほどの知能を持つ彼らを撃退することは可能なのか? 後半は積極性を増した虫たちとの戦いが描かれます。

 虫たちと人類との戦いといっても、そんなに緊迫した感じではありません。火災によって被害は出るのですが、虫たちは基本的には人間を襲わないので、スプラッター的な描写もほとんどありません。それもあって、ゴキブリを題材としながらも、意外と後味も悪くないのです。
 作品の大部分は、虫たちの生態やその弱点を探す研究について描かれます。そこがこの作品の一番面白いところで、様々な生物たちとの戦いの描写や、虫自身の生態の研究部分はそこだけでも面白く、ストーリーの展開がゆっくりなのもあまり気になりません。
 変わり種のパニック小説として、一読の価値がある作品です。



B000J9496Iデラニーの悪霊 (1971年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ラモナ・スチュアート 小倉 多加志
早川書房 1971

by G-Tools

ラモナ・スチュアート『デラニーの悪霊』(小倉多加志訳 早川書房)

 大学教授の夫と離婚後、二人の子供と暮らす主婦ノラは、作家として生計をたてていました。世間では、若い女性を狙った連続殺人が続くなか、ノラは、弟ジョエルの様子がおかしくなったことに気付きます。やがて、ジョエルの恋人だった女性が首を切断されて発見されますが…。

 悪霊に憑依された男が殺人を繰り返す…という話を、取り憑かれた男の姉の視点で語るという、オカルト・サスペンス小説です。正直、ホラー作品のテーマとしては手垢のついたパターンではあるのですが、語り手の女性ノラのキャラクターが立っていて、それなりに面白く読ませます。
 弟が取り憑かれているのは、すぐわかってしまいます。読者の興味としては、どのように取り憑かれたのか、取り憑いているのは誰の霊なのか? といった部分で読んでいくことになります。この取り憑いている霊の生前の姿を、語り手ノラが調査していくのですが、この犯人(というか霊)の生い立ちや周囲の環境の描写が、なかなか面白く読めます。
 ホラーとしての結構よりも、キャラクター描写に生彩があるタイプの作品ですね。



B000J8U2N8タリー家の呪い (1977年)
ウィリアム・H.ハラハン 吉野 美耶子
角川書店 1977-08

by G-Tools

ウイリアム・H・ハラハン『タリー家の呪い』(吉野美耶子訳 角川書店)

 アパートの取り壊しのため、立ち退きを求められている中年男性が主人公。長年仲良く暮らしていた同じアパートの住人たちも、次々と引っ越しを決めて出ていきます。そんな中、主人公は、何ともいいようのない音を何度も耳にするようになります。
 精神的な病気ではないかと考え、医者にかかる主人公ですが、医者の判断は特に異常はないというものでした。友人は霊能力者の助けを借りるべきだと諭しますが、主人公は意に介しません。
 一方、数百年前にイギリスからアメリカに渡ったタリー家の末裔を探す男が描かれます。息子たちの系図をたどり、どれも子孫が途絶したかに見えた途端、また子孫がいたことがわかり、となかなか現代の末裔にたどり着くことができません。
 2つのパートがどのように結びつくのか? 結末寸前まで、その関係性はまったくわかりません。アパートを舞台にしたパートでは、だんだんと人がいなくなる建物の中で怪奇現象が頻発するようになるという心霊小説的な味わい、系図をたどる男のパートでは、一族の歴史をたどっていく面白さがあります。
 そして結末において、二つのストーリーが交錯し、印象的な幕切れを迎えます。読んでいてなかなか本題に入らないのは確かなのですが、構成や語りに工夫がされており、飽きずに読むことができるのは、ミステリやサスペンスの技法が上手く使われているからでしょうか。ミステリタッチのオカルトホラー小説として、佳作といっていい作品かと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

恐るべき子供たち  ジョン・ウィンダム『呪われた村』
4150102864呪われた村 (ハヤカワ文庫 SF 286)
ジョン・ウィンダム 林 克己
早川書房 1978-04

by G-Tools

 ある夜、郊外の村ミドウィッチに未確認飛行物体が着陸した直後、周辺のあらゆる生物が眠らされてしまいます。住民はすべて無事でしたが、村に住む受胎可能な女性の全てが妊娠していたのです。生まれた子供は、みなが同じく銀色の髪と金色の瞳を持っており、異常なまでのスピードで成長します。成長した子供たちは集団で行動するようになり、村の人々は彼らを恐れはじめますが…。

 ジョン・ウィンダム『呪われた村』(林克巳訳 ハヤカワ文庫SF)は、ホラー的要素の濃いSF作品です。
 異星人らしき存在の子供たちが成長するにしたがい、不気味な行動を見せ始めます。集団で行動する彼らは意識を共有しており、誰かが知識を得ると、他の仲間も同じ知識を得るのです。また自分たちに危害を与えようとする人間に対しては、テレパシーで相手を操り殺すことも可能なのです。
 危険な存在は排除すべきだと考える人間、いくら異星人の子供でも自分で生んだ子供は殺せないという母親、政府が極秘に村を監視するなか、子供たちと村人たちの対立は日に日に大きくなっていきます。

 子供たちの「親」である異星人は序盤で退場した後、まったく姿を現しません。あくまで彼らが残した子供たちと、地元の人間たちとの対立が静かに描かれていくという作品です。人間とは異質の子供たちの動向と思想、そして彼らに対する大人たちの考察などが地道に描かれるので、派手さはあまりありません。
 事件らしい事件は、成長した子供たちが、自分たちに危害を与えようとした人間に報復する場面ぐらいで、それに対しても冷静に対処しているのです。異質とはいえ、姿形は人間であり、意思の疎通もある程度できるところから、怪物じみた印象は受けず、またそれゆえ逆に、不気味さを感じさせる存在なのです。

 子供が相手だけに、親子の情愛が葛藤を引き起こすのかと思いきや、登場人物たちは、意外なほど情愛的な面では淡白です。排除すべき敵であると冷静に判断しているのは、イギリス作品ならではでしょうか。そのあたりも、この作品に「静かな」イメージを受ける要因の一つかもしれません。

 日常に徐々に非日常的な要素が忍び込んでくる…。地味ながら、全体に抑制の利いた語り口で描かれる作品は、モダンホラーの一つの原型的な作品ともいえますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

B級ホラーの職人芸  ショーン・ハトスン作品を読む
 ショーン・ハトスン(1958-)は、イギリスのホラー作家。ホラー以外の邦訳も何冊かあるようですが、ホラー作品は、1980年代後半に、ハヤカワ文庫NVの《モダンホラー・セレクション》で刊行された3冊のみのようです。
 このハトスン、悪趣味、猥雑さ、派手さをモットーとする《ナスティ・ホラー》系統の作家で、邦訳された作品を読む限り、ストーリーの整合性や丁寧な人物描写などよりも、スプラッターシーン、残酷シーンに極端にベクトルを振った感じの作家です。 
 いわゆるB級ホラーといっていいのですが、悪趣味さが突き抜けていて、ある種、清々しいまでの徹底ぶりです。ただ「悪趣味」といっても、本当に肉体的なものだけに限定されていて、人間関係のドロドロしたものとか心理的な嫌悪感といったものは少ないので、変な言い方ですが、後味は意外と悪くありません。『スラッグス』のナメクジみたいな嫌悪感はありますが。
 それでは、以下、3冊のホラー作品を見ていきたいと思います。



hutson1.jpgスラッグス (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
シヨーン・ハトスン 茅 律子
早川書房 1987-06

by G-Tools

ショーン・ハトスン『スラッグス』(茅律子訳 ハヤカワ文庫NV) (1982)

 下水で大量発生したナメクジは、従来の種とは異なる、巨大で肉食性の生物でした。水道を通り、民家に侵入したナメクジたちは人を襲い始めます。衛生検査官ブラディは、彼らを殺すための手段を探し回りますが…。

 巨大化したナメクジが人を襲う…という、シンプル極まりないストーリーの作品なのですが、襲われる人たちや、調査を続ける主人公たちの行動が、カットバックでテンポよく描かれていくので、リーダビリティは非常に高いです。
 キャラクターたちの人物の掘り下げなどは全くなく、ただただ人が襲われて死んでいくシーンを詳細に描いていくという作品です。
 襲ってくるのがナメクジということで、イメージ的には弱そうに感じてしまいますが、この作品中のナメクジは強靱な歯を持ち、一度食いついたら話さないという強力な力を持っています。多数のナメクジにとりつかれたら、そのまま喰い殺されてしまうのです。
 また、体内に寄生虫を持ち、彼らが出す粘膜を口にしてしまっただけで、狂犬病のようになり死んでしまいます。
 人がナメクジに襲われるシーンを描くにあたって、著者は、体の部位だとか内臓の部分など、喰われている箇所を詳細に描写していきます。いちいち残酷シーンが強烈なのです。その極めつけは、サラダと一緒にナメクジの一部分を食べてしまった男の描写でしょう。
 やがて、下水道でナメクジが繁殖していることに気付いた主人公ブラディは、案内人とともに地下に潜り込むことになります。彼らを全滅させ、地下から生還することができるのでしょうか?
 スプラッターシーンが視覚的かつ具体的なので、その種の作品が苦手な方は読まない方が吉でしょう。悪趣味なホラー小説の一つの極致ともいうべき作品です。



hutson2.jpgシャドウズ (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
船木 裕 ショーン・ハトスン
早川書房 1988-10

by G-Tools

ショーン・ハトスン『シャドウズ』(船木裕訳 ハヤカワ文庫NV)

 超自然現象を専門とするノンフィクション作家ブレイクは、心霊治療を行う男マシアスを取材し、彼の力の秘密を調査しようとしていました。
 一方、人間の潜在意識を研究する女性科学者ケリーは、催眠術を使った実験の際に、被験者が急に豹変し、暴れ出すのを目撃します。人間の心には誰でもある邪悪な領域、その部分を解放する手段があることを知り、彼女は戦慄します。
 やがて、マシアスを主賓としたパーティーの席に集まった人々が、凶悪な殺人や傷害事件を起こし始めます。しかも犯人は皆、犯行の意識がないというのです。すべては、人間の心の奥底に秘められた領域「シャドウズ」が原因なのだろうか?
 ケリーはブレイクと協力し、真相を調べ始めますが…。

 前半は、主人公たちが、ひたすら心霊術や超心理学などの研究を続けるという、地味なシーンが続くのですが、後半から、怒濤のスプラッターシーンが展開されます。
 本来は温厚な普通の人間たちが、突如豹変し、周りの人間に襲いかかる様を、詳細に描いています。演出は派手で、政治家が除幕式の最中に他の人間の体をまっぷたつにしたりと、悪趣味そのもの。このあたり、作者の本領発揮といったところでしょうか。
 怪しげな人物が実は犯人ではなく、真犯人は全く別の人間…というミステリ的な趣向もありますが、正直、ミステリとしては穴だらけです。序盤から登場し、思わせぶりに重要人物扱いしていた心霊治療者マシアスが、いつの間にかフェイドアウトしてしまうなど、ストーリーとしては、かなりずさんなところがありますね。
 ただ、スプラッターシーンは、著者が嬉々として描いているのがわかるぐらい生彩に富んでいて、この部分のみに限るなら、ホラーとしては魅力的な作品といえるかもしれません。



hutson3.jpg闇の祭壇 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
茅 律子 ショーン・ハトスン
早川書房 1988-04

by G-Tools

ショーン・ハトスン『闇の祭壇』(茅律子訳 ハヤカワ文庫NV)

 建設現場で発見された地下の古代の遺跡から、多数の人骨が発見されます。そこは古代のケルト人が祭事に使っていた場所でした。女性考古学者キムを初めとする発掘メンバーが調査を進めるなか、関係者が次々と殺されていきます。
 殺人と同時に、子供が何人も失踪し、キムの娘もまた姿を消してしまいます。
 人間の仕業とは思えない殺害現場を見たウォレス警部は、事件には古代のケルト神話が関係しているのではないかと考えますが…。

 発掘された古代遺跡の調査と平行して、連続殺人が描かれます。殺人事件の原因は、どうやら古代ケルトの宗教的なものにあることが匂わされます。実際、黒魔術の儀式を行っている怪しい男とその一味が描かれるので、よくある邪教集団ものかと思ってしまうのですが、それを裏切る後半のひっくり返しが強烈です。
 お話の体裁は、連続殺人の犯人は誰か? というミステリ的な展開で進むように見えるのですが、殺人シーンを見る限り、明らかに超自然的な存在が犯人なので、フーダニット的な興味は湧きにくいですね。
 そもそも、直接的に行われる殺人のほか、何らかの超自然的な原因による事故や惨劇も多数混じっているので、常識的な意味での「犯人」がいるのかどうかもはっきりしないのです。
 殺人や人体損壊のシーンは異様に詳細、残酷描写は強烈で、おそらく作者が一番描きたかったのはこれらのシーンなのでしょう。例えば、これは事件ではなく、ただの偶然だと思うのですが、青年が落ちてきた強酸をかぶってしまうシーンがあります。そこでも酸で顔や体が溶けるシーンが詳細に描写されるのですが、その強烈さは目を覆うほど。また、話の筋には直接関係のない闘犬の描写などもはさまれ、こちらも無意味なほど派手な残酷描写がなされます。
 全体にスプラッターシーンが派手で、その意味では面白いのですが、問題は、本筋であるストーリー自体がだれ気味なところ。伏線らしき描写が全然伏線でなかったりと、つっこみ所が非常に多いのです。
 テーマであるケルトの伝説と殺人事件のつながりがはっきりせず、もどかしさがあるのですが、結末付近でようやくそれが明確になり始めます。そこからは非常に盛り上がります。かなり絶望的なシーンで終わるのですが、この手のホラー作品で、これだけスケールが大きいものは、なかなかないのではないでしょうか。
 弱点はいろいろあるものの、B級に徹した作りで、ホラーとしては好感の持てる作品といえますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

連鎖する呪い  マイケル・マクダウエル『アムレット』
4150404763アムレット (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
マイケル マクダウエル 冬川 亘
早川書房 1988-02

by G-Tools

 ライフル工場が唯一の産業である小さな田舎町で、義母とともに暮らす若妻サラ。徴兵されていた夫は、ライフルの暴発事故により植物状態で家に帰ってきます。介護を要する夫と口うるさい姑との生活の中で、サラは健気に家庭を守ろうとしていました。
 夫がこんな状態になったのは、夫の親友でありライフル工場の責任者でもあるラリーのせいだと逆恨みする義母は、ある日見舞いに訪れたラリーに対し、奥さんへ上げてくれと美しい首飾りを渡します。ラリーの妻は、首飾りを身につけた直後に豹変し、家族を惨殺してしまいます。
 その後も、首飾りを手に入れた人間とその周りの人間が死んでいくことに気付いたサラは、すべては義母の仕業なのではないかと考え始めますが…。

 マイケル・マクダウエル『アムレット』(冬川亘訳 ハヤカワ文庫NV)は、呪いの首飾りをめぐるホラー作品です。主人公サラの義母が間違いなくその元凶であることはわかるのですが、白を切り続ける彼女からは、なかなか真実を聞き出すことはできません。
 この首飾りの威力が強烈で、身につけた瞬間から凶暴になり、あっという間に殺人を犯してしまうというゾンビウイルスそこのけの威力なのです。
 首飾りの呪いについて、具体的な情報がほぼ全く明かされないため、それを拾ったり、触った瞬間に、その人物の死が決定してしまうという恐ろしいもの。首飾りを手にした人物が死に、次に手に入れるのは誰なのか? というサスペンスもあります。

 ある程度話が進むと、首飾りを手に入れた人間が惨劇を引き起こすというパターンがわかってしまうので、その意味で展開に驚きはないのですが、飽きずに読ませるのは、作者の筆力ゆえでしょうか。
 凶行場面の描写が詳細でショッキングなのと(美容院で髪をはぎ取ったり…)、ブラック・ユーモアを交えた人物描写が冴えているせいなのもあるかと思います。ことに主人公サラの義母のキャラクターが強烈です。息子を産んだのは自分が楽をするため。そして、自分と息子以外は、すべて敵であり死ねばいいと、日頃から公言し、嫁のサラに対しても虐待まがいの発言を繰り返します。
 しかし、実の家族を全て亡くし、家もないサラにとっては、この義母の家だけが我が家であり、不具になってしまった夫の面倒を見ることは、自分の義務だと思い込んでいるのです。そんな息のつまるような生活の中、首飾りによる殺人が続き、それが義母の仕業だと確信するようになったサラは、逆に義母と夫に対して憎しみを覚え始めます。

 サラは、首飾りを見つけ破壊しようと町中を探しまわりますが、なかなか出会うことができません。保安官の協力を得るものの、惨劇は続き、やがて町の中心であるライフル工場に首飾りは姿を現します。クライマックスでは、工場を舞台に、大惨劇が繰り広げられるのです。

 ブラック・ユーモアあふれる人物描写と、要所で見せ場となるショッキングシーン。テーマはオーソドックスながら、読ませるホラー作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

7月の気になる新刊
7月6日刊 イサベル・アジェンデ『精霊たちの家 上下』(河出文庫 予価各1188円)
7月6日刊 澁澤龍彦『極楽鳥とカタツムリ』(河出文庫 予価950円
7月6日刊 アレクサンドラ・オリヴァ『ラスト・ワン』(ハヤカワ文庫NV 予価1253円)
7月11日刊 内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』(講談社選書メチエ 予価1944円)
7月11日刊 ボンテンペッリ『鏡の前のチェス盤』(光文社古典新訳文庫)
7月12日刊 エラリー・クイーン『アメリカ銃の謎 新訳版』(創元推理文庫 予価1080円)
7月12日刊 夢野久作『夢Q夢魔物語 夢野久作怪異小品集』(平凡社ライブラリー 予価1512円)
7月14日刊 紀田順一郎『蔵書一代 なぜ蔵書は増え、そして散逸するのか』(松籟社 予価1944円)
7月17日刊 リズ・ベリー『月影の迷路』(国書刊行会 予価3024円)
7月20日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の秘密 新版』(創元推理文庫 予価799円)
7月25日刊 スタニスワフ・レム『主の変容病院・挑発』(国書刊行会 予価3024円)
7月28日刊 A・E・ヴァン・ヴォークト『宇宙船ビーグル号の冒険 新版』(創元SF文庫 予価950円)
7月28日刊 キャリー・パテル『墓標都市』(創元SF文庫 予価1447円)


 アジェンデ『精霊たちの家』は、幻想的要素のある大河小説。アジェンデ作品は、ラテンアメリカ小説の中では圧倒的に読みやすいので、オススメです。

 澁澤龍彦『極楽鳥とカタツムリ』は、著者の著作の中から、動物をテーマにした物語を集めたというアンソロジー。これは面白そうですね。

 内田隆三『乱歩と正史 人はなぜ死の夢を見るのか』は、アカデミックな視点の評論だと思いますが、題材が乱歩と正史ということで、気になりますね。

 7月の新刊で一番気になるのがこれ、ボンテンペッリ『鏡の前のチェス盤』です。マッシモ・ボンテンペッリ(1878-1960)は、イタリアの作家。ユーモアとファンタジーにあふれる作品は、今読んでも面白く、戦前の日本でもいくつかの作品が訳されています。
 ちくま文庫から刊行された短篇集『わが夢の女』(岩崎純孝他訳 ちくま文庫)には、いわゆる《奇妙な味》に近い味わいの作品が収められています。
 ずいぶん昔に、このブログでも紹介したことがあります。
 ブルジョワ娘の空の散歩  マッシモ・ボンテンペルリ『わが夢の女』

 今回刊行される『鏡の前のチェス盤』は、長編ファンタジーのようですね。「語り手である「ぼく」が10歳のころ、部屋にあった鏡のなかの世界に入り込んだ体験を回想するファンタジー。チェスの駒が会話し、現実と非現実の境が曖昧な迷宮ワールドを描く、キャロルの〝アリスもの〟を思わせる幻想的色彩の強い物語。」だそうで、これは楽しみ。いずれ短篇集も新訳刊行してほしいところです。

 ついに、国書刊行会の〈スタニスワフ・レム・コレクション〉 が完結。長かったですね。最終巻は、『主の変容病院・挑発』。レムの処女長篇『主の変容病院』のほか、ナチスによるユダヤ人大虐殺を扱った架空の歴史書の書評『挑発』や『二一世紀叢書』など、メタフィクショナルな中短篇5篇を収録とのこと。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会 開催しました
 6月18日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め9名でした。
 テーマは、第1部「欧米怪奇幻想小説入門(英米編1)」、第2部「ファンタスティック・マガジン」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。
 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 今回第1部のテーマは「欧米怪奇幻想小説入門(英米編1)」ということで、英米の怪奇小説を古典から現代まで、大まかにたどっていこうという試みです。資料として、代表的な英米怪奇小説の作品名と作者名を年表にしたものを作りました。
 合わせて、第1・2回で使用した「怪奇アンソロジーリスト」を増補した資料も用意しました。

 本当は、時代順に見ていこうという心積もりだったのですが、細かく見ていくと時間がかかってしまうのと、あまり馴染みのない時代の作品(特にゴシック・ロマンスなど)もあるため、時代的に行ったり来たりという感じになってしまいました。
 また、英米編とはいいつつ、フランスやドイツ・ロシア作品の話にもなったりと、少しまとまりに欠けた気はしています(話題が広がるという意味では楽しいのですが)。

 第2部は、「ファンタスティック・マガジン」と称して、怪奇・幻想に関わる雑誌についてのトークでした。『ナイトランド』以外は、基本的に、ほぼ昔の雑誌ばかりになってしまいましたが、珍しい雑誌を持ってきてくださった方もありました。ビジュアル的に見て楽しいものが多かったので、こちらはなかなか盛り上がったかと思います。

 それでは、話題になったトピックを順不同で挙げていきます。

第1部
・ゴシック・ロマンスについて。必ずしも超自然現象が発生せず、人間の仕業であることもある。わりとご都合主義。宗教的な描写が多い。
・ホレス・ウォルポール『オトラント城奇譚』について。怪奇幻想小説の嚆矢とされる作品。かなり荒唐無稽な時代劇だが、それが逆に面白い。
・クレアラ・リーヴ『イギリスの老男爵』について。『オトラント城』に直接的な影響を受けている作品。『オトラント城』の超自然要素を不自然だとして、その部分を自然に描いた、というコンセプトの作品だが、今読むとあまり面白くない。ただ、後半の資産相続をめぐる部分が下世話で、そこのところは面白く読める。
・ウィリアム・ベックフォード『ヴァテック』について。邪悪な魔術に入れ込む母子の地獄墜ちの物語。主人公たちが行う所行は残酷そのものだが、描写のデフォルメが強烈であまり陰惨にならないのが面白い。
・ウィリアム・ゴドウィン『ケイレブ・ウィリアムズ』について。メアリ・シェリーの父親にして、無政府主義者のゴドウィンが、自分の思想をエンタテインメントの形で描いた作品。ミステリの元祖ともいえるサスペンス小説。主人公が罪を暴こうとした領主から迫害される作品。その追い詰め具合が強烈だが、主人公の動機が「好奇心」というのが、ちょっと動機としては弱い気がする。白水Uブックス版には、結末が2パターン収録されている。
・マチューリン『放浪者メルモス』について。魂を手に入れようと時空をめぐる怪人の話。宗教談義の部分が長いが、物語そのものは面白い。語りが入れ子状になっていて複雑。国書から出た合本版は、分厚くて読みにくい。
・メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』について。作者が若くして書いた傑作。哲学的なテーマをはらんでいて、学問的な対象になるのも納得。物語は悲劇的なトーンが濃い。
・海外と日本のロボットや機械に対するイメージの違いについて。海外では、『フランケンシュタイン』やチャペック『ロボット』など、ロボットや機械は人間に敵対するものとしてのイメージが強いが、日本ではロボットや機械を「友人」や「仲間」として考える傾向がある。手塚治虫の『鉄腕アトム』の影響もあるのではないか。
・ジェイムズ・ホッグ『悪の誘惑』について。まっすぐに育った兄と狂信的な環境で育てられた弟の物語。物語が手記という形になっており、超自然的な現象が本当なのかどうかが曖昧になる構成。作者自身までが顔を出し、手記の真実性を曖昧にするなど、技法としては、かなり近代的な傑作。今読んでも面白い。
・ディヴィッド・パンター『恐怖の文学』について。恐怖小説についての通史。ゴシック・ロマンスが主体の本。2巻は出ないのだろうか。
・エドガー・アラン・ポーの作品について。ほとんどが短編作品だが、だいたいの作品において無駄が感じられない。ポーの短編作品を映画化した作品を見て、間延びした感じを受けるのは、原作に無駄がない証拠か。
・ブルワー=リットン『幽霊屋敷』について。最も怖い小説と言われることがあるが、今読むとそれほどではない。後半オカルト科学っぽい展開になったりと、意外に近代的な要素がある作品。
・フィッツ=ジェイムズ・オブライエンについて。ポーとビアスの間をつなぐと言われる作家。ホラーというよりファンタジーに近いが、傑作が多い。『あれは何だったか?』は、乱歩の分類することろの「透明怪談」で、ユニークな発想。光文社古典新訳文庫の選集『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』は訳も読みやすい。
・J・S・レ・ファニュについて。基本的に長篇はゴシック・ロマンスに分類される作家。今読むと長篇は退屈なものが多い。短篇は近代的な作品がある。『吸血鬼カーミラ』や『緑茶』は、今読んでも面白い。最近出た傑作集『ドラゴン・ヴォランの部屋』も面白かった。
・ロバート・ルイス・スティーヴンソンの作品について。『ジキル博士とハイド氏』は、二重人格を扱った傑作。短篇でも面白い怪奇作品が多い。
・怪奇小説を精神分析的な視点で読むという批評があるが、不毛な気がする。
・アーサー・マッケンについて。気色の悪い作品が多い。純粋な怪奇小説とはいえない作品も多いが、『夢の丘』は傑作だと思う。『怪奇クラブ』『白魔』など。
・M・R・ジェイムズについて。伝統的なゴースト・ストーリーを一つの様式にまで高めた作家。主人公は学識豊かな古文書学者とか考古学者で、遺跡や古文書の調査の過程で幽霊や妖怪に遭遇する…というパターンが多い。アンソロジーで読むと安定した感じだが、続けて読むと飽きてしまうことも。
・アルジャーノン・ブラックウッドについて。イギリスでは初?の怪奇プロパー作家。オーソドックスな怪奇作品だけでなく、変わった発想のものも多い。『人間和声』『ケンタウロス』など。
・ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』について。『フランケンシュタイン』などと並び、学問的な対象になることも多いが、そこまで高尚な作品ではないと思う。エンタメとしては非常に優れている作品。
・W・W・ジェイコブズ『猿の手』について。3つの願いをめぐる作品だが、それぞれの願いとその顛末の流れが完璧に近く、大変な傑作だと思う。
・フランシス・バーネット『白い人たち』について。あまり知られていないが、ゴースト・ストーリーの傑作。
・オーガスト・ダーレスの怪奇小説について。少年や子供を題材にしたジェントル・ゴースト・ストーリーに味がある。
・ちくま文庫は、時々怪奇幻想系のいい本が出る。風間賢二編『クリスマス・ファンタジー』『ヴィクトリア朝空想科学小説』は、すごくいいアンソロジー。
・国書刊行会《世界幻想文学大系》には、訳が読みにくいものも結構あった。ペトリュス・ボレル『シャンパヴェール悖徳物語』は、まるでマンガで使うようなルビの使い方がされていて、驚かされた。
・ダイアナ・ウィン・ジョーンズについて。意外にブラックだったり、怖い作品もある。
・アイルランドの怪奇小説について。ケルト文化に通じる作品には、キリスト教圏とは違った味わいがある。
・フィオナ・マクラウドについて。神話的な味わいのある短篇作品を書いた作家。『ケルト民話集』など。
・都筑道夫編『幻想と怪奇』(ハヤカワ・ミステリ)は、日本では先駆的な怪奇アンソロジー。古典的な作品に混じって、スタインベック『蛇』やカポーティ『ミリアム』など、従来は怪奇小説とはされていなかった作品を収録したところが新しい。
・ロバート・ヒチェンズ『魅入られたギルディア教授』について。霊に憑かれる男の物語だが、それが女性らしい霊で肉感的なところが斬新な作品。
・ジョン・ケンドリック・バングズ『ハロウビー館のぬれごと』は、幽霊を凍らせて退治するというユーモア怪談。楽しい作品。
・ダフネ・デュ・モーリア『レベッカ』について。ゴシック的な作品。短篇に比べてロマンティックな要素が濃い。
・アシモフ他編『クリスマス13の戦慄』について。わりと伝統的な怪談の多いアンソロジー。ラムジー・キャンベル『煙突』は、サンタの死をテーマにしたショッキングな作品。
・アンソロジー『バレンタイン14の恐怖』について。ウィリアム・F・ノーランの『ピエロに死を!』がバットマンをモデルにしたユニークな恐怖小説。
・ゾンビもの作品について。ホラー分野では従来マイナーだったゾンビが今や主流派に。日本ではマンガなどにも取り上げられるようになった。
・J・スキップ&C・スペクター編『死霊たちの宴』について。ゾンビをテーマにしたアンソロジー。ブライアン・ホッジ『がっちり食べまショー』は、タイトルからして強烈。後に長篇化するフィリップ・ナットマン『始末屋』は、知性を保ったゾンビを扱った作品。
・《破滅もの》における、イギリス作品とアメリカ作品の違いについて。イギリス作品はリアリズム重視で、暗い世相を描くのに長けているが、アメリカ作品では楽天的で簡単に復興してしまうものなどもある。
・フェリース・ピカーノ『透きとおった部屋』について。1970年代の作品だが、ストーカー的な題材を扱った面白い作品。
・怪奇小説の主流はバッド・エンドにある? アメリカ作品、とくにモダンホラーでは怪物や幽霊は退治されてハッピーエンドになってしまうことが多い。
・スティーヴン・キング『霧』の面白さ。映画化作品はちょっとどうかと思う。
・ジェームズ・ハーバートの『霧』について。霧によって人間が凶暴化する。B級だが面白い。
・怪奇実話について。怪奇小説と怪奇実話のファン層は、意外と重ならない? フィクション好きからすると、怪奇実話はあまり想像力の飛躍が感じられない。
・スティーヴ・ラスニック・テム『深き霧の底より』について。山奥の村を舞台にした静かなホラー。村人たちの間で怪奇現象が頻発する様を細かく描いた作品。雰囲気は素晴らしい。怪奇現象の一環として登場する熊が暴れるのは、ちょっと雰囲気を崩しているような気がする。
・モダンホラー作品とゴシック・ロマンスは意外に共通点があると思う。
・ロバート・コーミア作品について。子供を主人公にしても、かなり心理的にきつい作品を書く作家。『フェイド』は透明になる能力を持った少年を主人公にした超能力悲話的な作品。他に『心やさしく』など。
・サイモン・クラーク『地獄の世紀』について。大人が突如、子供を襲い始めるホラー作品。かなり残酷。後半ちょっと宗教的なトーンになってしまうのが残念。永井豪『ススムちゃん大ショック』にテーマが似ている。
・パトリック・レドモンド『霊応ゲーム』について。怪奇小説的な部分も素晴らしいが、少年小説・青春小説的な部分も素晴らしい。同著者の『復讐の子』も面白い。
・M・R・ケアリー『パンドラの少女』について。ゾンビウィルスが蔓延した世界で、知性を保ったままの少女をめぐるホラー作品。イギリス作品らしいシビアな作品世界が読みどころ。
・東雅夫編のアンソロジー《世界幻想文学大全》は、怪奇幻想のオールタイムベストで、ラインナップ的には初心者にオススメ。ただし、名訳を集めるというコンセプトなので、現代人には多少読みにくいものもあり。
・『怪奇小説傑作集』について。1巻からではなく2巻からの方が読みやすい。4巻フランス編は、怪奇小説というより編者澁澤龍彦の個性が出たアンソロジー。小ロマン派やシュルレアリスム系の作品が面白い。
・シャルル・クロス作品の面白さ。訳されている戯曲もコントのようで面白い。
・グザヴィエ・フォルヌレについて。『草叢のダイヤモンド』が非常に傑作なので、他にも傑作があるのかと思っていたら、近年出た短篇集を読んでがっかりした。一発屋?
・ロシアの怪奇小説について。
・レーミゾフの作品は非常に暗くて陰鬱。『小悪魔』など。
・アレクサンドル・グリーンについて。ロシアには珍しい陽性の作家。アルトアーツから近年刊行された短篇集が面白い。他に『深紅の帆』『黄金の鎖』など。
・仁賀克雄編『幻想と怪奇』について。異色作家系の作品を集めているので、非常にリーダビリティが高く面白い作品が多い。
・E・F・ベンスン作品について。『いも虫』など、一風変わったゴースト・ストーリーが印象的。
・河出文庫から出た《怪談集》シリーズは粒ぞろい。日影丈吉編『フランス怪談集』は、オーソドックスな怪談が多く、『怪奇小説傑作集』の4巻よりも、怪奇味が強い。ただし訳はあまり良くない。
・森英俊・野村宏平編『乱歩の選んだベスト・ホラー』について。『猿の手』の異稿版が収録されており貴重。
・ドイツ・ロマン派のメルヘン作品について。ルートヴィヒ・ティーク『金髪のエックベルト』は強烈な作品。ジョージ・マクドナルドなど、イギリス作品における影響も。
・伝説的な作品『吸血鬼ヴァーニー』はいつか読んでみたい。
・三津田信三『シェルター』について。核シェルターになぜか、マニアックなホラー映画がいっぱいあるという作品。有名無名のホラータイトルが言及されるのが楽しい。
・《異形コレクション》シリーズの『屍者の行進』は傑作揃いのアンソロジーだった。
・ケン・リュウ作品の面白さについて。中国や日本を舞台にした作品もあり、日本人にも馴染みやすい。「奇妙な味」やアイディア・ストーリーもあり、オールドSFファンにも馴染みやすいのではないか。
・中村融編『夜の夢見の川』について。巻頭のクリストファー・ファウラー『麻酔』が強烈なインパクトの怪作。
・ジェフ・ゲルブ編『ショック・ロック』について。収録作のスティーヴン・キング『いかしたバンドのいる街で』が、バカらしいアイディアながら印象が強い。
・岩波少年文庫から出ている3巻本のホラーアンソロジーは粒ぞろい。ただ、リチャード・ミドルトンなどは、子供が読んでも味わいがわかるのだろうかと心配になる。
・キノコをテーマにしたアンソロジー『FUNGI』について。日本の怪奇SF映画『マタンゴ』に影響を受けた作家たちの作品集。メインのトーンはホラーだが、変わった発想の作品も含まれており面白い。続刊は出るのだろうか。

第2部
・雑誌『幻想と怪奇』について。日本における、怪奇幻想系雑誌のさきがけ。創刊からの数号の充実度に比べ、終刊直前の薄さが目立つ。
・雑誌『牧神』について。怪奇幻想系の特集号が多い。執筆陣は非常に充実している。
・『このホラーが怖い!』について。1冊だけ刊行されて終わってしまったムック。ベスト企画の1位がロバート・エイクマン『奥の部屋』なのはビックリ。
・雑誌『奇想天外』1期について。海外作品中心、異色作家中心のラインナップで面白い雑誌だった。付録もついていて楽しい雑誌。
・雑誌『別冊奇想天外』について。主に海外作品とリストなど資料が充実していた雑誌。ファンタジー特集号は、荒俣宏入魂の一冊で、今見ても素晴らしい内容。
・同人誌『NULL』の合本の紹介。
・雑誌『OUT』について。初期はサブカル的な内容だった。
・雑誌『ムー』について。SF特集などもあった。
・雑誌『遊』について。稲垣足穂の追悼特集号のアートディレクションは素晴らしい。ただ内容は難解。
・雑誌『SFマガジン臨時増刊 ホラーマガジン』の紹介。モダンホラーブーム期に一冊だけ出たホラー増刊号。コラムや年表など貴重な企画も。
・雑誌『幻想文学』と『小説幻妖 弐』について。『小説幻妖 弐』の特集は「ベルギー幻想派」、今でも類似企画はほとんどない充実した特集。

二次会
・ブラックウッド『いにしえの魔術』と萩原朔太郎の『猫町』について。
・《世界幻想文学大系》第1期の本は、すき間がきつくて、本が箱から取り出しにくい。
・H・P・ラヴクラフト作品について。創元版全集は、3巻から訳者が変わるが、1~2巻の方が読みやすい。
・ラヴクラフトの最高傑作は?『ピックマンのモデル』『狂気の山脈にて』『宇宙からの色』『時間からの影』など。
・『クトゥルーの呼び声』は結末が印象的で、悪夢のような作品。
・ジョン・フランクリン・バーディン作品について。『悪魔に食われろ青尾蝿』『殺意のシナリオ』『死を呼ぶペルシュロン』の三作は、どれも悪夢のようなサスペンスで、とくに『悪魔に食われろ青尾蝿』はホラーと言ってもいい作品だと思う。
・《小学館ミステリー》では、何がいちばん面白いか。ジョン・フランクリン・バーディン『殺意のシナリオ』、エセル・リナ・ホワイト『バルカン超特急 消えた女』、ジョセフィン・テイ『魔性の馬』など。
・江戸川乱歩作品の面白さ。いちばん傑作だと思う作品は?『孤島の鬼』『陰獣』など。
・乱歩『黄金仮面』について。他人のキャラクターを使ったパスティーシュはなかなか難しい。
・天知茂主演『江戸川乱歩の美女シリーズ』について。突っ込みどころが多いけれど面白い。
・ロバート・ブロック作品の面白さ。『アーカム計画』はクトゥルー系の長編の中では屈指の傑作。
・猟奇事件が起こると、ホラー・バッシングが起こることが多いが、お門違いだと思う。
・国書刊行会《ゴシック叢書》は、厳密にはゴシックではない現代作品が多いのはどうかと思う。
・ジャック・ケルアックについて。『オン・ザ・ロード』『路上』など。
・池澤夏樹の『個人編集 世界文学全集』について。たまにユニークな巻がある。ジーン・リース『サルガッソーの広い海』など。
・国書刊行会の箱入り本は本棚に並んでいると独自の重量感がある。特に『ラヴクラフト全集』の存在感は強烈。
・夢野久作作品の面白さについて。短篇作品も傑作が多い。
・ボルヘス編『バベルの図書館』について。アンソロジー全体の統一感がすごい。

 次回、第7回読書会は、7月末ごろを予定しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

奇妙な分身  クリスティーン・キャスリン・ラッシュ、ケヴィン・J・アンダースン『残像を殺せ』
448880117X残像を殺せ (創元ノヴェルス)
クリスティーン・キャスリン ラッシュ ケヴィン・J. アンダースン Kristine Katheryn Rusch
東京創元社 1996-06

by G-Tools

 車の修理の手伝いを求められたところ、突然暴行され、放火されてしまった女性レベッカ。意識を取り戻し、助かったと思いきや、自分の体が男のものになっているのに気がつきます。しかもその姿は、自分が殺されかかった犯人そのものだったのです。
 レベッカを助けたのは、人間によく似た妖精の一族「ダークリング」たちでした。彼らには、体を再生させる能力があるのです。しかし何らかの要因で、再生の際に、体が変貌してしまったというのです。ダークリングが言うには、外見に囚われず、彼女の正体を見破ってくれる人間がいれば、レベッカは元に戻れるはずだと言うのですが…。

 クリスティーン・キャスリン・ラッシュ、ケヴィン・J・アンダースン『残像を殺せ』(藍堂怜訳 創元ノヴェルズ)は、殺された女性が蘇ったものの、犯人の姿形になってしまうという、面白い設定の作品です。呪いを解くために、元の彼女をよく知る人間のもとを訪れるヒロインですが、本人しか知り得ない情報を話したために、逆に怪しまれてしまいます。
 殺害現場を目撃していた少年たちの証言により、レベッカは犯人として追われてしまうことにもなります。唯一の理解者ともいうべき弟に接触しようとするレベッカですが、本物の犯人との遭遇で、それも失敗してしまうことに。

 もともと孤独だった彼女を助けてくれる人間はほとんどおらず、ダークリングたちに援助してもらうことになるのですが、ダークリングたちの中でも、反目や陰謀があり、一筋縄ではいかないのです。
 このダークリングという種族、周囲で人間が死ぬと、その影響で肉体に変貌が及んでしまうという、奇妙な特徴を持っています。例えば、人間に恋をしたダークリングが、肉体が変わってしまったため、本人であると認めてもらえなくなってしまったりします。肉体の変貌だけでなく、それにより魔力を高めることもできるのですが、それを目的に、やがてダークリング内での殺人も発生し、彼らの中でも犯人捜しが始まります。

 元に戻ろうとするヒロインのほか、殺人を続ける犯人、犯人を探す警察、陰謀を進めるダークリング、それを追う別のダークリングなど、視点が次々に入れ替わります。同時進行で複数のパートが進行し、それがサスペンスを高めており、リーダビリティは非常に高いです。

 「ダークリング」という妖精族が登場したり、蘇りの魔法があったりと、題材としてはファンタジーなのですが、精神を病んだ殺人犯や、孤独なヒロインの内面描写など、サイコ・スリラー的な要素も強く、ジャンルが混合したハイブリッド・エンターテインメントになっています。非常に面白い作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会 参加者募集です(再掲)
 延期していました「怪奇幻想読書倶楽部 第6回読書会」ですが、改めて、下記の日程で開催いたします。若干名の参加メンバーを募集しますので、参加したい方がおられたら、連絡をいただきたいと思います。
 連絡いただきましたら、改めて詳細をメールにてお送りいたします。

お問い合わせは、下記アドレスまでお願いいたします。
kimyonasekai@amail.plala.or.jp


開催日:2017年6月18日(日曜日)
開 始:午後13:30
終 了:午後17:30
場 所:JR巣鴨駅周辺のカフェ
参加費:1300円(予定)
テーマ
第1部:欧米怪奇幻想小説入門(英米編1)
第2部:ファンタスティック・マガジン

※「怪奇幻想読書倶楽部」は、怪奇小説、幻想文学およびファンタスティックな作品(主に翻訳もの)についてのフリートークの読書会です。
※個人の発表やプレゼンなどはありません。話したい人が話してもらい、聴きたいだけの人は聴いているだけでも構いません。
※基本的には、オフ会のような雰囲気の会ですので、人見知りの方でも、安心して参加できると思います。

 第1部のテーマは「欧米怪奇幻想小説入門(英米編1)」。
 ゴシック・ロマンス、怪奇スリラー、ゴースト・ストーリー、異色短篇、パルプ小説にモダンホラー。一口に「怪奇幻想小説」と言っても、その種類は様々です。
 欧米の怪奇幻想小説に興味があるけれど、まず何を読んだらいいの? どんな作品があるの? といったところから、お勧めアンソロジーや参考書の紹介まで、欧米の怪奇幻想小説の本場であるイギリス・アメリカ作品を概観していきたいと思います。

 第2部は「ファンタスティック・マガジン」と題して、怪奇幻想や関連領域を扱った雑誌について語りたいと思います。
 古くは『幻想と怪奇』や『牧神』、新しいところでは『ナイトランド』、また『ミステリマガジン』の《幻想と怪奇》特集や『SFマガジン』の幻想小説を扱った特集、『ユリイカ』の作家特集など。
 雑誌そのものでも、雑誌の特定の号や増刊でも構いません。こんな雑誌がこんな特集をやっていた!というものでもOK。「ファンタスティック」な雑誌について話し合いたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

癒しと呪い  トマス・M・ディッシュ『M・D』
M・D〈上〉 (文春文庫) M・D〈下〉 (文春文庫)
 信じていたサンタクロースの存在を否定され、ショックを受けていた幼い少年ビリーの前に現れたのは、「マーキュリー」を名乗る神でした。神はビリーに、癒しと呪いの能力を持つ「カデューシアスの杖」を授けます。
 しかし、杖は無条件に願いをかなえるものではなく、代償を伴うものでした。ビリーは、杖を使い、家族の健康や長命を願いますが、願いそのものは叶ったものの、予期せぬ悲劇が続いてしまいます…。

 トマス・M・ディッシュ『M・D』(松本剛史訳 文春文庫)は、人間の健康をつかさどる魔法の杖を手に入れた少年の人生を描いた作品です。この「カデューシアスの杖」、使えば使うほど効果が上がっていき、しかも無制限に使うことができます。しかし他人に健康や癒しを与えれば、その代償として、別の人間に死や病を与えなければならないのです。
 とりあえず、愛する家族に健康を与えたいと、杖の能力を使うビリーでしたが、願いそのものは叶うものの、結局それらが無駄になってしまうような事態が副産物として起こってしまうのです。
 しかも、「マーキュリー」は、叶えられるのは人の健康と病に関する願いだけであって、能力を使われた人間の運命がどうなろうと、感知しないというのです。例えば父親の健康を願った直後に、その当人が事故死してしまいます。「カデューシアスの杖」にコントロールできるのは、体の健康のみであって、事故は力の及ぶところではない…というのです。
 この作品で主人公に能力を与える神「マーキュリー」は、ホラー作品によく登場するような「悪魔的存在」とは異なります。そもそも彼には善も悪もなく、人間を堕落させようとする意図もないのです。ただ結果がどうなるかを面白がっているような、トリックスター的存在として描かれます。

 一方、主人公ビリーも、子供時代から人の死や不幸を何度も目の当たりにしながら、それにほとんど動揺もせず、目的のためには手段を選ばないという、強烈な個性を持つ人間として描かれます。杖による被害も、個人レベルだったものが、やがて世界的な疫病を引き起こすまでになったりと、スケールが広がっていってしまいます。
 やがて医者になった彼は、世界を破滅させるような事態を引き起こすことになるのです。

 主人公を含め、ほぼ全ての人間が死んだり不幸な目に会ってしまうという、徹頭徹尾、暗いホラー作品なのですが、なぜか読後感はそんなに悪くないという、不思議な作品です。登場人物たちの運命に対する皮肉と悪意がところどころに感じられるところは、作者ディッシュの個性というべきでしょうか。モダンホラーの変わり種であり、強烈な個性の感じられる傑作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する