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悲しき人生  オースン・スコット・カード『無伴奏ソナタ』
無伴奏ソナタ
無伴奏ソナタ (ハヤカワ文庫 SF (644))
オースン・スコット・カード
早川書房 1985-12

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 オースン・スコット・カードの短編集『無伴奏ソナタ』(野口幸夫訳 ハヤカワ文庫SF)の収録作品に共通するのは、人間の醜い部分、暗部が描かれているところでしょうか。かといって、ペシミズムに陥るわけではなく、あくまで希望を失わないところに、カードの美点があります。
 それでは、以下収録作品について、いくつか紹介していきましょう。

 『エンダーのゲーム』 異星人からの侵略をたびたび受けた人類。大人の兵士を多数失った彼らは、子供たちを軍人として鍛えるためのスクールを設立します。十一歳の少年エンダーは、天才的な知略を駆使して、またたくまに指揮官の座を手に入れますが…。
 天才的な少年司令官が、毎回、圧倒的な不利をものともせず、知略のみで勝ち進んでいくという物語。とはいっても、戦闘は実戦ではなく、模擬戦闘なのです。しかしエンダーに対して与えられる課題は、エスカレートしていきます。極端なまでのハンデをつけられることに対して、エンダーは疑問を抱きます…。
 リアルな戦闘シーンもさることながら、結末で明かされる真実には驚かされることでしょう。
 
 『王の食肉』 その星では、王と女王の食事として、国民の体の一部が食べられるというしきたりがありました。肉を集めて回るのは「羊飼い」の仕事。どんなに抵抗しようとしても、彼の杖に触れられると、言うがままになってしまうのです。やがて、五体満足な人々がいなくなったころ、宇宙から来訪者が現れます…。
 人々から憎まれる「羊飼い」。しかし彼はまた、人々を生かすために働いていたのです…。残酷な結末には、賛否両論あるかもしれません。

 『呼吸の問題』 ある日、妻と子供の呼吸のタイミングが一致していることに気づいたデイルは、不思議に思いますが、その直後、事故で二人は亡くなります。そして、デイルの両親を含めた人々の呼吸が一致しているのに気づいた直後に、彼らの乗った飛行機が墜落したのです。これは死のサインに違いない! そう確信したデイルは、それが起こるたびに、うまく災難を免れますが…。
 たびたび死を免れるデイルでしたが、それにも限界が…。死の前兆を読み取れるようになった男の悲喜劇を描く異色短篇です。

 『時蓋をとざせ』 近未来、タイムマシンを悪用する退廃的なグループがありました。彼らは、「死」を味わうために、わざと過去のトラックに轢かれては、現在に戻ってくるというゲームを繰り返していました。グループのリーダー、オライオンを逮捕しようとする刑事の思惑に対し、彼は法律を犯してはいないと言い張りますが…。
 退廃の極致を体現するグループがゲームにしたのは、何と「死」そのもの。「タイムマシン」と言うガジェットに、こんな使い方があったとは驚きです。

 『四階共同便所の怨霊』  妻との不和のため、安アパートに引っ越したハワードは、共同便所に赤ん坊が突っ込まれているのを見つけます。よく見ると、その赤ん坊にはヒレがあり、どう見ても人間ではないのです。やがて、赤ん坊に襲われた彼は、赤ん坊を切り刻んで始末します。安堵したのもつかの間、殺したはずの赤ん坊が、たびたびハワードの前に現れます…。
 利己的で冷血漢の男ハワードの前に現れ続ける謎の赤ん坊。しかもハワードの眼にしか赤ん坊は見えないのです…。 
 赤ん坊は、主人公の罪の意識の象徴なのでしょうか。それにしては、妙に実在感がある赤ん坊のインパクトが強烈。

 『死すべき神々』 突如現れ、地球に対し友好的に振る舞う異星人たち。世界各地に寺院らしきものを立て続ける彼らの目的は何なのか? 疑問を抱いたクレーン老人は、異星人のひとりに疑問をぶつけますが…。
 不死の種族にとっては、死すべき種族こそが「神」である、という逆説を描いたアイディア・ストーリー。短いながらも奥行きの感じられる作品です。
 
 『解放の時』 ある日体の不調に気づいた経営者マーク・タップワースは、突如焦燥感に駆られ、帰宅します。あわてて帰った彼の家には、なぜか棺が置いてあり、彼を驚かせます。ひょんなことから、行き場所のない棺を預かる羽目になったというのです。子供も怖がるだろう、と妻に言いかけた彼は、自分達には子供などいなかったことを思い出します…。
 妻が欲しがっていた子供は結局できなかったはずなのに、なぜ、たびたび子供がいたような気がするのだろうか? これは妄想なのかそれとも…?
 死の寸前に男が見た幻想、それとも妻の願望が現実を改変したのか。多様な解釈が可能な幻想小説です。

 『猿たちはすべてが冗談なんだと思いこんでいた』  民族虐殺から生き延びたアグネスは、長じて人々のためになることをしたいと考えていました。宇宙船のパイロットとなった彼女は、宇宙に突如出現した、謎の物体の調査に赴きます。物体の内部は、地球によく似た環境であり、膨大な人口を養えることを知ったアグネスは、地球からの移住を実現させ、英雄としてあがめられるようになりますが…。
 人類愛に燃える主人公が、新天地を発見し人々を導く…。ストレートなヒューマン・ストーリーが、後半思いもかけない展開になります。ただ、本編より、作中作の「シリル」の物語の方が、寓意に富んでいて、魅力的に感じられます。

 『磁器のサラマンダー』 産褥で死んだ妻を悲しむあまり、娘に呪いの言葉を吐いてしまった父親。その呪いは実現し、娘はひとりではろくに歩けない体になってしまいます。娘が成長するにつれ、後悔の念を深める父親は、魔法のかかった「磁気のサラマンダー」を手に入れて、娘に与えます。やがて娘はサラマンダーを愛するようになりますが…。
 動きを止めると死んでしまうために、常に動き回らなければならないという「磁気のサラマンダー」のキャラクターがユニークです。娘からの愛情を受けても、自分は「磁気」のために、同じような愛情を抱くことはできない、というところも、じつに意味深。
 お伽話風の世界でありながら、どこか「痛み」を伴った寓意ファンタジーです。

 『無伴奏ソナタ』 その世界では、社会は完全に管理されていました。幼くして芸術的な才能を認められた「創る人」は、外部からの影響を受けずに、完全にオリジナルなものを生み出さなくてはならないのです。音楽の才能を認められたクリスチャンは、森の中で暮らしながら、周りの自然から、つぎつぎと曲を生み出していました。
 しかしある男が、バッハの曲が入ったテープを持ち込み、クリスチャンに聞かせようとします。禁じられているにもかかわらず、好奇心に負けたクリスチャンは、テープを聴いてしまいます。
 やがてクリスチャンの作品から、外部の影響を見て取った「監視人」は、彼を追放し、音楽を禁止してしまいます…。
 完全にオリジナルなものを強要する、狂信的な世界。禁じられても、音楽を愛し続ける青年。青年を襲う残酷な運命にもかかわらず、希望を残す結末が感動を呼ぶ傑作短篇です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

9月の気になる新刊
9月5日刊 ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』(小学館文庫)
9月9日刊 ミステリー文学資料館編『江戸川乱歩の推理教室』(光文社文庫)
9月10日刊 東雅夫編『文豪怪談傑作選 室生犀星集 童子』(ちくま文庫 予価1050円)
9月10日刊 アンドリュー・ガーヴ『ヒルダよ眠れ』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価840円)
9月10日刊 フレドリック・ブラウン『天の光はすべて星』(ハヤカワ文庫SF 予価735円)
9月10日刊 スタニスワフ・レム『宇宙飛行士ピルクス物語 上・下』(ハヤカワ文庫SF 予価各840円)
9月10日刊 アーサー・ポージス『八一三号車室にて』(論創社 予価2310円)
9月17日刊 行方昭夫編訳『モーム短篇選 上』(岩波文庫)
9月17日刊 阿部公彦訳『フランク・オコナー短篇集』(岩波文庫)
9月19日刊 広瀬 正『エロス』(集英社文庫)
9月25日刊 コニー・ウィリス『マーブル・アーチの風』(早川書房 予価1890円)
9月25日刊 リン・ディン『血液と石鹸』(早川書房 予価1680円)
9月25日刊 『エドガー賞全集 [1990〜2007]』(ハヤカワ・ミステリ文庫 予価840円)
9月25日刊 小林信彦編『横溝正史読本』(角川文庫 予価540円)
9月下旬刊 ジェラルド・カーシュ『犯罪王カームジン』(角川書店)
9月下旬刊 アルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』(白水社 予価3570円)
9月下旬刊 P・G・ウッドハウス『ジーヴスと封建精神』(国書刊行会 予価2310円)
9月刊 アンドルー・クルミー『ミスター・ミー』(東京創元社)

 ジョー・ヒル『20世紀の幽霊たち』は、キングの息子ということでも話題になったジョー・ヒルの短編集。
 ガーヴ『ヒルダよ眠れ』は、新訳で登場です。おそらく、この作者のいちばん有名な作品ですが、ガーヴの最良の部分が出た作品とは言い切れないんですよね。個人的には、『メグストン計画』『ギャラウエイ事件』あたりの方が良かったような気はします。
 それにしても、早川の9月の新刊は、復刊ものといい新刊といい、異様に充実してます。ブラウン『天の光はすべて星』はともかく、スタニスワフ・レム『宇宙飛行士ピルクス物語』には驚きです。
 新刊としては、コニー・ウィリス『マーブル・アーチの風』『エドガー賞全集 [1990〜2007]』は買いでしょう。とくに『エドガー賞全集 [1990〜2007]』の方は、以前に『エドガー賞全集』『新エドガー賞全集』という、この賞の受賞作品を集めたアンソロジーが出ていて、それの続編という形になるようですね。
 小林信彦編『横溝正史読本』は、角川文庫の横溝正史シリーズの中でも、もっとも入手困難で知られた希少本。まさか復刊されるとは思いませんでした。
 カーシュ『犯罪王カームジン』は、シリーズ・キャラクター「カームジン」の登場作品を集めたミステリ作品集です。
 論創社からは、アーサー・ポージス短編集『八一三号車室にて』が出ます。アンソロジーやショート・ショートが好きな人にはお馴染みの職人作家ですが、本が一冊にまとまるのは初めて。これはいい仕事ですね。
 さて、小説作品以外で、来月いちばん気になるのは、アルベルト・マングェル『図書館 愛書家の楽園』でしょうか。「今東西の実在・架空の図書館を通して、書物と人の物語を縦横無尽に語る」本だそうですが、ボルヘスの友人だったというこの著者、以前に出た『読書の歴史』もなかなか面白いものだったので、期待大です。

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ふしぎな人間たち  シオドア・スタージョン『影よ、影よ、影の国』
影よ
影よ、影よ、影の国―怪奇とファンタジーのスタージョン傑作選 (ソノラマ文庫―海外シリーズ)
シオドア・スタージョン
朝日ソノラマ 1984-01

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 いまや、日本でも根付いた感のあるスタージョン人気。復刊により、代表的な作品もずいぶん読めるようになりましたが、唯一復刊されていない短編集がこれ、『影よ、影よ、影の国』(村上実子訳 ソノラマ文庫)です。
 傑作揃いの『不思議のひと触れ』『輝く断片』などの収録作品に比べると、明らかに「小粒」と言わざるを得ないのですが、それでも中には、スタージョンらしい異様な発想や展開を見せてくれる作品も含まれています。

 『影よ、影よ、影の国』 子供嫌いな継母から、ことあるごとに叱られていた少年ボビー。ある日、おもちゃ遊びを禁じられた彼は、影あそびを始めます。罰を与えているはずなのに、部屋から聞こえる笑い声に継母は激昂しますが…。
 子供の想像力を扱ったダーク・ファンタジーです。こういう孤独な子供を描かせると、スタージョンは上手いですね。

 『秘密嫌いの霊体』 ある日、風変わりな娘マリアに一目惚れしたエディ。しかしマリアには秘密がありました。彼女は「憑衣」体質であるというのです。それは、周りの人々の悪意や憎悪を感じ取り、真実を人々の前にさらけ出してしまうという能力でした。人前に出るのを嫌がるマリアをパーティに連れ出したエディは、彼女の告げ口によって、仕事を失ってしまいます…。
 美人で聡明ながら、秘密をまったく守れない妻。夫が考え出した打開策とは…?
 「霊」が憑くのではなく、「憎悪」が憑いてしまう、という発想は、じつにユニーク。エンタテインメント性の強いアイディア・ストーリーです。

 『金星の水晶』 重要な資源である「金星水晶」を手に入れるため、宇宙船で金星に向かったクルーたち。しかし、技術者や専門家ばかりのクルーの中で、喜劇役者スロープスは、ただ一人場違いな人間でした。何の役にも立たないスロープスを、皆は笑い者にします。やがて到着した金星で、先住民である〈わめき屋〉たちにクルーたちは襲われます。スロープスは一人で彼らに向かっていきますが…。
 人間とは異なる宇宙人の文化と同時に、軽んじられていたスロープスの本当の性質もまた明らかになります。明かされる真実も、じつに諧謔に富んだもの。認識の相対性を描いた、スタージョンらしい佳作です。
 
 『嫉妬深い幽霊』 若く美しい娘アイオラ。しかし、彼女の周辺に近付く男たちには、必ず災難が降りかかるのです。それは彼女に恋慕する「嫉妬深い幽霊」のせいだと考えたガスは、ある対策を考えますが…。
 幽霊を欺く手段が、ちょっと拍子抜けです。軽めのゴースト・ストーリー。

 『超能力の血』 超能力を持つ「ぼく」の血を引いた娘トウィンクは、生まれる前の胎児ながら、父親とのテレパシーを発達させていました。事故の衝撃で、母体ともども傷を負ったトウィンクが瀕死の状態であると思い込んだ「ぼく」は、彼女を生かすべきなのか逡巡します…。
 超能力を持つ親子の絆を語った作品。赤ん坊の原初的な感情に圧倒される父親の苦悩が読みどころです。

 『地球を継ぐもの』 愚かな行為を繰り返し、絶滅の淵に立たされた人類は、自分たちの英知を合金に彫り込み、次代の生命に残そうと考えます…。
 人類を継ぐ種族は、ある動物。この動物の選択がスタージョンならではというべきでしょうか。シリアスなテーマながら、動物のあっけらかんとした様子がユーモアを持って描かれます。

 『死を語る骨』 発明家ドンジーが作り出したのは、骨からその生前の記憶を追体験できるという装置でした。羊や牛の意識を体験した彼は、ふと疑問にとらわれます。一週間前に事故死した女性ユーラの骨を見てみれば、彼女の死因がわかるかもしれない。愛人と駆け落ちをしようとした矢先の事故だと言われているが、彼女はそんな人間ではないはずだ。ユーラをないがしろにしていた夫ケリーに、ユーラの骨で記憶を追体験させようと、ドンジーは考えますが…。
 「骨」の人生を追体験できるという装置をめぐるファンタジー。動物の「骨」を体験するユーモラスな前半部分と、不幸な女性ユーラをめぐるシリアスな後半部分とが、コントラストをなしています。

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深夜のショッカー  ロバート・ブロック『夜の恐怖』
夜の恐怖夜の恐怖 (1960年) (世界ミステリシリーズ)
中田 耕治
早川書房 1960

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B0018B7IIMデッド・サイレンス
ライアン・クワンテン, アンバー・ヴァレッタ, ドニー・ウォルバーグ, ボブ・ガントン, ジェームズ・ワン
ジェネオン エンタテインメント 2008-07-09

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 最近、ある映画作品を見て、思うところがありました。具体的なタイトルを挙げさせてもらうと、ジェームズ・ワン監督のホラー映画『デッド・サイレンス』なのですが、結末を見終えて思いました。これってロバート・ブロックじゃない?
 刺激的なストーリー、悪趣味すれすれのブラック・ユーモア。ホラー小説を書き続けてきた、ロバート・ブロック風の味がそこにはありました。その意味で、ブロック作品は、いまだにアメリカの映画や小説に影響を与え続けているんだなあ、と嬉しくなりました。
 現在でも、サービス精神にあふれたロバート・ブロックの作品は、楽しく読むことができます。ホラーといっても、例えばスティーヴン・キングのように、リアルで身につまされるような類いのものとは異なります。ブロックの作品は、ある種「フィクション」であることを意識しつつ楽しむ、というタイプの作品なのです。
 今回は、そんなブロックの短篇を集めた『夜の恐怖』(中田耕治他訳 ハヤカワ・ミステリ)です。

 『夜の恐怖』 深夜に玄関のドアの音で眼をさました、ボブと妻のバーバラ。そこに立っていたのは友人のマージョリイでした。彼女はたしか、神経障害で精神病院に入院していたはず。病院から逃げ出してきたというマージョリイは、夫が、自分を病院に閉じ込めたというのですが…。
 深夜に精神病院から脱走してきた女性の告白。彼女の言っていることは本当なのか、妄想なのか? すべてが妄想だと思わせてじつは…というストーリーは、予測がつきやすいものの、結末の処理は非常に巧妙です。

 『湖畔』 刑務所で知り合った男から、隠してあるという大金の情報を手に入れたラスティは、金を手に入れるため、男の未亡人ヘレンに近付きます。男の話とはまるで違うヘレンの容姿に失望しながらも、ラスティは金を手に入れるために、ヘレンに惚れたふりをよそおいますが…。
 大金を横取りしようという男の犯罪計画。しかしそこには落とし穴が…。単純なクライム・ストーリーかと思いきや、終盤のどんでん返しには驚かされます。

 『心の友』 包容力のある母性的な妻を持つジョージ。何の不満も感じずに過ごしていたジョージのもとに、ふとしたことから、大金が転がり込みます。友人のロデリックは、妻を始末して人生を楽しむべきだ、とジョージをそそのかしますが…。
 悪魔的な友人ロデリック。彼の言うことに心を惹かれながらも、誘惑をはねのけるジョージでしたが…。ブロックの技が冴えるサイコ・サスペンス作品。

 『みごとな想像力』 手伝いの青年と妻との不倫に気づいたローガンは、ある計画をたてます。ただ殺すだけでは能がない。彼の計画は着々と進みますが…。
 「想像力」を駆使した犯罪の結果とは…。ポーの作品に触発されたと思しい犯罪小説です。

 『趣味をもつ男』 ボーリング大会で盛り上がっているある街。酒場には、ボールを入れたバッグを持った男たちがたむろしていました。そこで「ぼく」は、スポーツを馬鹿にする、傲慢な男と出会います。やがて男は「人切り魔」の話を始めますが…。
 殺人を匂わせる不穏な男。彼は殺人鬼なのだろうか? ブロックらしいオチが楽しめる、鮮やかな作品。

 『幸運の女』 ツキに見放され、アル中寸前になっていた青年フランキーは、ある夜、赤いドレスの黒髪の美女に出会います。彼女の指し示す通りに行った賭けも行動も、すべてが上手くいくのです。しかも、彼女の姿は自分以外には見えないらしいのです。彼女は幸運の女神に違いない。しかし調子にのった彼は、彼女を邪慳に扱ってしまいます…。
 「幸運の女神」をめぐるファンタジー、なのですが、作者がブロックだけに、結末はホラーのそれになっています。

 『真珠の頸飾り』 東洋から来たという美しい王妃。彼女の持つ真珠の頸飾りに眼を奪われた、詐欺師の二人組は、頸飾りを盗み出そうと画策します。相棒のウィリアムは、王妃を口説いたとジェリーに自慢しますが、その直後に姿を消してしまいます。相棒の行方を知っているという王妃に誘われ、彼女のもとを訪れたジェリーでしたが…。
 近付く男たちが次々と失踪してしまうという、謎の王妃。彼女の正体とは…? 結末の強烈なブラック・ユーモアが読みどころです。

 さて、上記でふれた『デッド・サイレンス』ですが、簡単に紹介しておきましょう。
 ジェイミーとリサの若夫婦のもとに、ある日、腹話術の人形が送られてきます。人形と妻を部屋に残したまま、ジェイミーは外出しますが、帰宅すると妻は殺されていました。しかも舌を切り取られて。
 警察に容疑者扱いされたジェイミーは、妻の死は腹話術人形と関係があるのではないかと考えます。謎を解くために、その人形を作った腹話術師の住んでいた町、そして彼自身の故郷でもある、レイブンズ・フェアに向かいます…。
 この『デッド・サイレンス』の結末なのですが、これ、人によっては受け入れがたいものかもしれません。つまり、あまりに大げさで、ある意味「馬鹿らしい」からです。
 そしてそれは、ブロックの『夜の恐怖』の収録作品で言うと、『趣味をもつ男』『真珠の頸飾り』などの味に、非常に似ています。これらの結末を「ブラック・ユーモア」として、受け入れられるかどうかで、「B級ホラー」を楽しめるかどうかが、決まるように思います。逆に言うと、ロバート・ブロックの作品が好きな方は、『デッド・サイレンス』も楽しめるでしょう。
 興味を持たれた方は、『デッド・サイレンス』を見て、感想でも聞かせていただくと、嬉しいです。

君は自由なんだ  ジェニファー・イーガン『古城ホテル』
4270003197古城ホテル
子安 亜弥
ランダムハウス講談社 2008-03-20

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 ある男が構想した独創的なホテル。それは「想像力」によって癒しを与えるホテル。しかしホテルの予定地である、その古城にはいわくがあったのです…。
 ジェニファー・イーガン『古城ホテル』(子安亜弥訳 ランダムハウス講談社)は、二つの物語が交錯する、「想像力」と「再生」の物語。
 主人公ダニーは、30代も半ばを過ぎて、何事もなせない自分に忸怩たる思いを感じていました。そんな彼がたのみにしているのは、幸運のシンボルの「ラッキーブーツ」と、他の人間とつながっていることを感じさせてくれる「携帯電話」だけでした。
 そんなある日、数十年ぶりに、いとこのハワードから連絡が入ります。成功を収め、莫大な財産を築いたハワードは、ヨーロッパのある古城を買い取り、そこにホテルを建てる計画をあたためているというのです。そしてその手伝いをしてもらいたい、とも。
 行き詰まっていたダニーは、一も二もなく引き受けますが、不安をも感じていました。かっては仲のよかった二人が、疎遠になるきっかけを作った、少年時代のある事件。ハワードは自分に復讐をしようとしているのではないか…?
 やがてたどり着いた古城は、電波も通じない辺境の場所にありました。ダニーの命綱である携帯電話が通じないことを手始めに、超自然的な出来事がダニーを襲います。ダニーは精神的に追いつめられ、城から逃げ出そうと考えますが…。
 もともと精神的な不安定さをかかえる青年ダニーが、古城の超自然的な現象によって、さらに精神を病んでいく…という、典型的な「幽霊屋敷」テーマで始まるこの物語。じつは序盤すぐに、この物語が、作中人物によって書かれた「小説」であることが明らかになります。
 刑務所に服役する男レイ・ドブズが、更正プログラムの一環である創作クラスで書いた作品なのです。死んだような生活を送っていたレイに小説を書くきっかけを与えたのは、講師である女性ホリーでした。ホリーに読んでもらいたいがために必死で書いた小説は、やがて他の囚人たちをも魅了し始めます。しかし、囚人たちの間で「小説」をめぐり、軋轢もまた起こり始めるのです…。
 この作品、「21世紀のゴシック・ゴースト・ストーリー」という謳い文句から、本格的な「幽霊」小説、「怪奇」小説を期待しがちですが、じつは主眼はそこにはありません。たしかに超自然的な現象は起こります。死んだ双子、年齢不肖の男爵夫人、地下牢、と雰囲気も題材も「怪奇」小説のそれなのですが、それにもかかわらず、主眼は、登場人物たちの人間ドラマにあるのです。
 そして、この作品の題材である「古城ホテル」。作中作内で、ハワードが構想する古城ホテルのコンセプトもなかなか興味深いものです。

 そう、僕の使命は想像力を呼び覚ますことなんだ。人を自分自身の想像の旅人にさせる。

 娯楽産業にイメージを与えられることに慣れきった人々に、自分で想像する能力をよみがえらせる、というコンセプトなのです。そしてこれはまた、この物語全体のテーマでもあります。
 何かになりたくて、しかし何者にも成りきれない未成熟な大人ダニー。少年時代の傷をかかえるハワード。ハワードの親友でありながら、彼の妻との不倫に悩む側近ミック。
 そして、枠となる物語の方でも、友人を殺したという、小説の語り手レイ。子どもの死と麻薬に溺れた過去を持つ教師ホリー。二つの物語に登場する、ほぼ全ての人物が、何らかの重い過去を背負っています。そして彼らが、古城での体験、小説作りの過程において、過去の傷やトラウマを克服するのもまた「想像力」なのです。その意味で、結末付近でレイがホリーに語る言葉は、重要な意味を感じさせます。

 「分からないのか? 君は自由なんだ」

 作品の後半、互いに平行して進められてきた二つの物語が交錯し始めます。フィクションであったはずの物語が、やがて現実の物語へと結びつくのです。レイが殺人を犯した理由とは何なのか? そしてレイの書いた物語はまた、ホリーの心をも変えていくことになるのです。
 謳い文句のような「幽霊」小説、「怪奇」小説とはニュアンスが異なる作品なのですが、人間の「過去」と「再生」の物語として、じつに読みごたえのあるドラマです。結末も、単純なハッピーエンドでこそありませんが、希望を残す肯定的なもの。
 物語の構成上、作中作の途中で中断が入ったり、いきなり語り手が顔を出したりと、読者がいまどちらの物語を読んでいるのか、わかりにくくなるところも多々あるのですが、それもまた、この作品の魅力の一端ともなっています。
 「ホラー」小説だと思って、手に取らないのはもったいありません。ジャンルとは関係ない、一編の「小説」として、多くの人に読んでいただきたい作品です。
 

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乱歩大正浪漫  東 元『江戸川乱歩怪奇短編集 赤い部屋』
赤い部屋江戸川乱歩怪奇短編集~赤い部屋 (ヤングジャンプコミックス)
東 元
集英社 2008-07-18

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 現在でも人気のある江戸川乱歩作品。映像化作品をはじめ、漫画化作品も数多く出版されてきました。ですが、私見によれば、今までの漫画化作品は、乱歩作品の怪奇性・官能性を強調したタイプの作品が多かったように思います。最近の作品から挙げると、丸尾末広 『パノラマ島綺譚』(BEAM COMIX エンターブレイン)などは、その最たるものといえるでしょう。
 もともとの乱歩作品自体に、そういう要素が強いのは事実なので、それはそれでひとつの方向性だとはいえます。
 今回、乱歩作品の漫画化を担当したのは、東 元。大正時代を舞台にした作品には定評のある作者です。たおやかな描線で描かれた、今回の漫画化作品『江戸川乱歩怪奇短編集 赤い部屋』(ヤングジャンプコミックスBJ 集英社)は、今までの漫画化作品よりも、より繊細で、ロマン性の高まった作品集に仕上がっています。
 原作として取り上げられているのは、主に初期短篇です。収録作品のタイトルを挙げておきましょう。

 『百面相役者』
 『双生児』
 『人間椅子』
 『鏡地獄』
 『人でなしの恋』
 『赤い部屋』

 基本的には、原作に忠実な漫画化となっていますが、いちばんの特色としては、全体が枠物語のかたちになっているところでしょうか。この世の快楽に倦み果てた会員たちが集う、秘密倶楽部「赤い部屋」を舞台に、毎回ゲスト会員たちが、自身の物語を語る、という構成の連作短編集となっています。
 もちろん乱歩作品であるので、猟奇的な事件が起こるわけですが、それらの事件よりも、より印象に残るのは、たおやかな女性像です。『人間椅子』に登場する女性作家、『鏡地獄』のお手伝いの女性、そして『人でなしの恋』の人妻…。「妖艶」というよりは「清楚」といった方がふさわしい女性たちには、とても魅力があります。
 その点でより魅力的なのは、冒頭に置かれた作品『百面相役者』でしょう。まるで本物としか思えない、複数の人物に化ける、美貌の女役者を描いたこの作品、女役者のみならず、作中で描かれる芝居の雰囲気も巧みで、見事な出来になっています。
 そう、作品を通して、大正時代の雰囲気が上手く醸成されているのにも感心しました。そしてそれがいちばんよく出ているのが、最後に置かれた『赤い部屋』です。絶対に捕まらない「プロバビリティー(可能性)の犯罪」を追求した青年が、最後に選んだ犠牲者とは…。
 夜の都会を背景に、秘密倶楽部の終焉を描いたこの作品、結末の付け方も絶妙なのですが、最後から1ページ前、見開きで描かれる夜の風景の美しさは絶品!
 上記でもふれたように、この作品集、猟奇性はあまり強くありません。それゆえ、乱歩独特のどろどろとした情念はあまり感じられないのですが、そのかわり、透明感のあふれるロマン性の強い作品集になっています。
 初期短篇を中心に集めたのも、「大正浪漫」という、この作品集のテーマにマッチするがゆえでしょうか。乱歩作品の新たな魅力を描き出した、という点でも、出色の作品といえるでしょう。ぜひ、続きのシリーズも描いていただきたいですね。
 参考に、著者のホームページアドレスを貼っておきます。画風を見てみたい方はどうぞ。
http://www3.ocn.ne.jp/~azumagen/

8月の気になる新刊
8月4日刊 T・S・ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』(河出文庫 予価998円)
8月6日刊 『文豪怪談傑作選 小川未明集 幽霊船』 東雅夫編(ちくま文庫 予価945円)
8月上旬予定 都筑道夫『ポケミス全解説』(フリースタイル 予価2310円)
8月中旬刊 ドナルド・A・スタンウッド『エヴァ・ライカーの記憶』(創元推理文庫 予価1470円)
8月中旬刊 パトリシア・A・マキリップ 『ホアズブレスの龍追い人』(創元推理文庫 予価1155円)
8月21日刊 広瀬正『ツィス』(集英社文庫)
8月25日刊 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『たったひとつの冴えたやりかた』(早川書房 予価1050円)
8月25日刊 野田昌弘『スペース・オペラの読み方』(ハヤカワ文庫JA 予価840円)
8月下旬刊 D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』(創元推理文庫 予価903円)
8月下旬刊 M・ジョン・ハリスン『ライト』(国書刊行会 予価2730円)
8月刊 アレクサンドル・デュマ『メアリー・スチュアート』(作品社 予価2200円)

 本来なら、創元あたりから出そうなストリブリングの文庫化『カリブ諸島の手がかり』は河出文庫から出版。
 都筑道夫『ポケミス全解説』は、以前から予告が出たり消えたりしていましたが、今回はようやく出そうな感じですね。
 ドナルド・A・スタンウッド『エヴァ・ライカーの記憶』は、以前文春文庫から出ていたものの復刊でしょうか。
 今月に引き続いて、広瀬正『ツィス』が出ます。これ順当にすべての作品を復刊するのでしょうか。
 ティプトリー『たったひとつの冴えたやりかた』は、改訳単行本版だそうですが、何かオマケがあるなら気になりますね。
天使の誘惑  トム・リーミイ『サンディエゴ・ライトフット・スー』
サンディエゴサンディエゴ・ライトフット・スー (サンリオSF文庫)
トム・リーミイ
サンリオ 1985-10

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 わずかな作品を残し、早逝した作家トム・リーミイ。しかし彼の作品は、レイ・ブラッドベリにも通じる叙情性、そしてブラッドベリにはない官能性をもたたえた、珠玉のファンタジーとなっています。
 短編集『サンディエゴ・ライトフット・スー』 (井辻朱美訳 サンリオSF文庫)には、そんなリーミイの佳作が収められています。いくつか紹介していきましょう。

 『トウィラ』 ミス・メイハンの教室にやってきた転校生の少女トウィラ。愛らしい容姿、娘を溺愛しているらしい両親。なにも問題はないように思えたものの、ミス・メイハンは、どこか嫌な気持ちを抱きます。やがてトウィラは、クラスメイトたちの間に軋轢を起こしはじめます。その矢先、ある少女が強姦されて殺されているのが発見されますが…。
 小悪魔的な魅力を持つ少女が、学校を引っ掻き回す、という類いの話かと思って読んでいると、驚くべき展開に! 少女トウィラの背後には、とんでもない存在がいることが明らかにされます。ホラーとファンタジーの境界線上の作品です。

 『ハリウッドの看板の下で』 事故現場に必ず現れる謎の美少年。しかも彼らは、ひとりではなく何人もいるようなのです。その人間離れした美貌に惹かれた「俺」は、彼らのひとりを捕まえ監禁しますが…。
 人間とは思えない美少年の正体とは…? 露骨といっていいほどの性的な要素を含んだ作品ながら、まったく先の読めない展開には、驚かされることでしょう。

 『亀裂の向こう』 ある日突然、一定の年齢以下の子どもたちが、大人を襲い、殺戮をはじめます。やがて姿を消した彼らは、ふたたび町を襲撃します。なんとか撃退したものの、後に残された死体から、子どもたちは性的に成熟し、子孫を残せるまでに変化していることが明らかになります…。
 子どもたちが、突然「怪物」というか「ミュータント」化して、大人を襲い始めるというパニック・ホラー小説。直裁的な暴力描写といい、物語の盛り上げ方といい、じつに手慣れた筆致の作品です。長編化しても面白くなりそうな作品ですね。

 『サンディエゴ・ライトフット・スー』 母親の死をきっかけに、田舎からロサンジェルスにやってきた、15歳の少年ジョン・リー。彼は、絵を描いているという、美しい中年女性スーと出会います。やがて二人は恋に落ちますが、スーの元恋人に殺されそうになったジョン・リーは、成り行きから彼を殺してしまいます。裁判所の命令によって引きはなされてしまったことに加え、ふたりの年齢差に悩むスーは、あることをしようと考えますが…。
 純真無垢な少年と、初老の域に入ろうとする女性。年齢差のある二人の恋を、ほろ苦く描いた純愛物語です。純粋なラブ・ストーリーとしても出色の出来ですが、物語の要所要所に散りばめられた、ファンタジー的な要素が、物語の完成度を高めています。
 そしてこのファンタジー的な仕掛けが、切なすぎる結末を導き出すのです。刹那であるがゆえの永遠の恋…。リーミイの最高傑作といっていい作品でしょう。

 『ウィンドレヴン館の女主人』 ロマンス小説作家アグネスは、本がようやく売れ始めたことに安堵したものの、失業中の夫のコンプレックスからくる、夫婦間の軋轢に心を痛めていました。やがてアグネスは、現実から遊離して物語の中に没入していきますが…。
 苦しい現実生活から、フィクションの世界に逃げ込んでしまう女性の物語。物語の地の文と、作中作とが、技巧的に描き分けられています。

 『デトワイラー・ボーイ』 私立探偵バート・マロリーは、知り合いが殺されたことから、殺人事件の輪の中に巻き込まれてしまいます。やがて、殺人が起きた場所の近くには、かならず一人の青年がいたことが明らかになります。純粋な性格ゆえに、周りの人間から愛されている青年デトワイラーには、しかしある欠点がありました。背中に瘤がある、せむしだったのです。デトワイラーを疑うマロリーは、彼にはいつもアリバイがあること、そしてマロリー自身がデトワイラーに好意を抱きつつあることに、困惑を覚えます…。
 異形の青年デトワイラーの秘密とは…? ハードボイルド風ファンタスティック・ストーリー。

 『琥珀の中の昆虫』 家族と車で出かけている最中、嵐のために足どめを余儀なくされた少年ベン。居合わせた人々とともに、最寄りの邸に避難した彼らでしたが、その邸にはいわくがありました。五十年前に住んでいた家族が忽然と消えたのです。突然、ベンはいわれのない恐怖感に襲われますが…。
 嵐の夜、邸に閉じ込められた数人の男女。そして邸に起こる超自然的な現象。典型的なゴシック・ホラーの筋立てかと思いきや、後半にはB級SFになってしまいます。前半の雰囲気醸成が上手かっただけに、後半の展開には少しガッカリしてしまうかもしれません。

 『ビリー・スターを待ちながら』 恋人と車で立ち寄ったレストランで、男に置き去りにされてしまったスザンヌ。行く当てのない彼女は、やがてそのレストランでウェイトレスとして働き始めます。その美しさから、いろいろな男たちから声をかけられるスザンヌでしたが、彼女は頑なに自分を捨てた恋人「ビリー・スター」を待ち続けます…。
 恋人に捨てられた女がひたすら男を待ち続けるという、一見、普通小説的な作品。シンプルな筋立てながら、味わいのある小品です。

 リーミイ作品の特徴は、物語がいかにファンタスティックなものであれ、そこに性的な要素が強いこと。そしてその最たるものが、いくつもの物語に登場する「天使」です。これは実際に「天使」であることもあるし、「天使のような」純真な青年として現れることもあります。どちらにせよ、本来「天上的存在」で性を持たないはずの「天使」が、リーミイ作品では、実在的な「肉体」を持って現れてくるのが特徴です。
 「肉体」といえば、『亀裂の向こう』『デトワイラー・ボーイ』に登場する殺人や暴力の描写も、かなり直裁的で、その意味でも「肉体」が強い要素となって現れています。それらの性的・肉体的な要素、言うならば現実的な要素が、SF・ファンタジー的な要素と違和感なく同居しているのが、リーミイの最大の魅力といっていいかもしれません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学



プロフィール

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。雑誌に埋もれた短編を紹介する「埋もれた短編発掘!」コーナーもあり。「奇妙な味」の作品がお好きな方は必見です。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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