最近読んだ本

4150413878白夜の一族〔上〕 (ハヤカワ文庫NV)
スティーヴン・ロイド・ジョーンズ 林 香織
早川書房 2016-06-23

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スティーヴン・ロイド・ジョーンズ『白夜の一族』(林香織訳 ハヤカワ文庫NV)

 傷ついた夫と幼い娘を連れた女性ハナは、追手から逃げ続けていました。その追手は、ただの人間ではなく、歳を取らず、変身能力を持つ怪物のような男。その男「ジェイカブ」は、数世代にわたって、ハナの一族を追い続けていたのです。
 用意していた隠れ家に辿り着いたものの、衰弱していく夫を前に憔悴するハナでしたが…。

 数世代にわたって一族の女性を追ってくる怪物的な男から逃げ続けるヒロインを描く物語です。この追手の男の変身能力が驚異的で、老若男女誰にでも化けられるのです。そのため、身近な家族でさえ安心はできず、普段から相手を識別する方法を考えなければなりません。
 現代のハナの物語と、1970年代のその母親の世代、そして19世紀ハンガリーの物語と、大きく3つの物語が展開していきます。世代を変えて襲ってくる「ジェイカブ」と、なぜ「ジェイカブ」がハナの一族を追い続けるのかが徐々に明らかになる展開は、じつにサスペンスフル。
 後半には「ジェイカブ」と同じルーツを持つ一族や、その一族を監視する機関の存在が明らかになるなど、スケールが大きくなっていきます。伝奇アクションホラーの佳作といっていいかと思います。



4488014623時間のないホテル (創元海外SF叢書)
ウィル・ワイルズ 若島 正
東京創元社 2017-03-21

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ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(茂木健訳 東京創元社)

 ニールは、クライアントの代わりにイベントに参加し、レポートにまとめるという仕事を生業にしていました。イベントに参加するために泊まることになったホテル「ウェイ・イン」には、不思議な抽象画が飾られていました。そこで出会った女性ディーが言うことには、「ウェイ・イン」の各部屋には、それぞれ異なった手書きの抽象画が飾られており、チェーンの数を考えると、数万枚にも及ぶ絵があるはずだというのです。
 イベントの主催者に出入りを禁止されてしまったニールでしたが、ふとホテル内を歩き続けていると、いつまでも終点につく気配がないのです。いくらホテルが広いといっても、ここまで広いはずがない…。やがて再会した女性ディーは、このホテルの秘密をニールに明かすことになりますが…。

 迷宮のようなホテルを舞台にした幻想小説です。前半は、主人公ニールが、ビジネスとしてイベントに参加するという、リアリズム風の展開が続くので、ちょっと退屈しますが、ホテルの秘密が明らかになってからの後半は、俄然、面白くなってきます。
 何より、迷宮のようなホテルが魅力的です。作者が建築関係の仕事をしていたというだけあって、作中のホテルの存在感が強烈なのです。物語が進むにつれ、ホテル自身が魔力を持った存在であり、主人公ニールもまた、ホテルの魔力に触れうる人間であることがわかってきます。
 主人公が女性関係にだらしなかったり、モラルに欠ける面があったりと、感情移入しにくいキャラクターになっているのですが、そうした性格設定が、「ウェイ・イン」での事件に巻き込まれる要因にもなっているように見えるところは、上手いですね。
 後半はホラー的な色彩が強くなるのですが、そうなってから結末までが意外と短いので、ホラー作品として見ると、ちょっと物足りない感はあります。



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場所 (フィクションのエル・ドラード)
マリオ レブレーロ Mario Levrero
水声社 2017-04

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マリオ・レブレーロ『場所』(寺尾隆吉訳 水声社)

 男が目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋でした。そこから出ようとするも、ドアを開ければ、また同じような部屋が続いているのです。前へ進み続けると、人が住んでいるような部屋が現れますが、言葉も通じずコミュニケーションを取ることができません。
 部屋によっては、食料やベッドがある部屋が存在し、それらを活用しながら男は出口を探し続けますが、一向に出口は見えてきません…。

 連続する部屋の中にも違いがあり、食料があったり、寝床があったり、電気が通っていたりします。食料は食べれば、なぜか補充されたりと、住もうと思えば、ずっと住んでいられる部屋もあるのです。
 やがて意思を通じることのできる人間たちと出会うものの、彼らもまた、なぜこの場所に連れてこられたかは皆目わからないのです。
 迷宮のような場所から出ようとする男を描いた不条理小説、といっていいのでしょうか。不条理小説と言うと、観念的で難解なものを思い浮かべてしまいますが、意外とエンターテインメントしているところが魅力的です。具体的なサバイバルの描写や、迷宮の探索、やがて出会う仲間や女性との別れなど、冒険小説的な要素が強いのが特徴です。
 レブレーロはウルグアイの作家で、この『場所』もカルト的な人気がある作だとのこと。『場所』を含む三部作があるそうで、他の2つの作品もぜひ読んでみたいですね。



404897324X無名恐怖 (BOOK PLUS)
ラムゼイ キャンベル Ramsey Campbell
アーティストハウス 2002-06

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ラムゼイ・キャンベル『無名恐怖』(アーティストハウス)

 出版エージェントとして順風満帆な生活を送るバーバラのもとへ、ある日1本の電話がかかってきます。それは何年も前に殺されたはずの娘アンジェラからのものでした。
 もともと娘の死を信じ切れていなかったバーバラは、恋人の男性とともに、娘を探し始めます。やがて、あるカルト教団が娘の失踪に関わりがあるらしいことが判明しますが…。

 カルト教団にさらわれた娘を取り返そうとする母親の物語。というと、超自然味のないスリラー的な作品を想像しますが、娘に超能力的な力があったり、超自然的な存在の影がほのめかされたりと、スーパーナチュラル風味もある作品です。
 全体に派手さはありませんが、娘を探すための調査や探索など、主人公とその周辺の人物がいろいろ動き回るので、退屈はしません。
 登場するカルト教団の教義が「名前を持たない」というもので、さらわれ、洗脳された人間は、自分の名前すら言えなくなってしますのです。このカルト教団を含め、後半まで終始持続する、作品の不気味な雰囲気は素晴らしく、〈雰囲気派〉作家の面目躍如といったところでしょうか。
 エンターテインメントとしては読むには少々きついかもしれませんが、恐怖小説としてはなかなかの佳作ではないでしょうか。



4150121222ヒトラーの描いた薔薇 (ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン 川名潤
早川書房 2017-04-20

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ハーラン・エリスン『ヒトラーの描いた薔薇』(伊藤典夫ほか訳 ハヤカワ文庫SF)

 ハーラン・エリスンの日本オリジナル短篇集です。収録作品のどれを取ってもエネルギーに満ちた作品揃いです。人種差別をテーマにした『恐怖の夜』『死人の眼から消えた銀貨』などの、直接的なメッセージを含んだ作品にしてから、今読んでも生命を失っていません。
 善人が地獄へ送られてしまうという不条理を描いた『ヒトラーの描いた薔薇』、自らの分身が現れるという『解消日』、故郷で裏切り者の烙印を受けた帰還兵が、人々に「死」をまき散らすという『バジリスク』、ガーゴイルの石像が人々を虐殺するという『血を流す石像』、目覚める際に、自分の腹に現れた「口」をめぐって展開する物語『睡眠時の夢の効用』などが印象に残ります。
 とくに、『睡眠時の夢の効用』は、わき腹に現れた口という、突拍子もないイメージから、生と死をめぐる壮大なテーマへと至る傑作です。

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5月の気になる新刊と4月の新刊補遺
4月26日刊 オーガスト・ダーレス『ジョージおじさん 十七人の奇怪な人々』(アトリエサード 予価2592円)
5月1日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)
5月16日刊 イタロ・カルヴィーノ『まっぷたつの子爵』(岩波文庫 561円)
5月17日刊 河出書房新社編集部編『文藝別冊 澁澤龍彦入門』(河出書房新社 予価1512円)
5月19日刊 エイドリアン・トミネ『キリング・アンド・ダイング』(国書刊行会 予価3672円)
5月22日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の不信 新版』(創元推理文庫 予価799円)
5月22日刊 M・R・ケアリー『パンドラの少女 上下』(創元推理文庫 予価各972円)
5月24日刊 キャサリン・ダン『異形の愛』(河出書房新社 予価4104円)
5月24日刊 デイヴィッド・ホワイトハウス『図書館は逃走中』(早川書房 予価1944円)5月29日刊
エドワード・ケアリー『穢れの町 アイアマンガー三部作2』(東京創元社 予価3024円)
5月29日刊 柳下毅一郎監修『J・G・バラード短編全集3』(東京創元社 予価3888円)
5月29日刊 パトリック・ネス/シヴォーン・ダウド『怪物はささやく』(創元推理文庫 予価864円)
5月29日刊 アーサー・C・クラーク『地球幼年期の終わり 新版』(創元SF文庫 予価864円)
5月予定 ジュール・ヴェルヌ『蒸気で動く家 〈驚異の旅〉コレクション』(インスクリプト 予価5940円)


  《ナイトランド叢書》の新刊は、短篇の名手オーガスト・ダーレスの傑作集『ジョージおじさん 十七人の奇怪な人々』です。ダーレス作品は、アンソロジーにはよく収録されますが、単行本で邦訳があるのは『淋しい場所』(国書刊行会)のみだったので、ファンには嬉しい刊行ですね。

 イタロ・カルヴィーノの『まっぷたつの子爵』が岩波文庫入り。戦争の事故でまっぷたつになった子爵の左右半身が、それぞれ善と悪を体現するようになるという、寓話的作品の傑作です。
 これでカルヴィーノの《我らの祖先》三部作が、すべて復刊され、手に入りやすくなりました。他の2作も含め、《我らの祖先》シリーズは、カルヴィーノ作品の中では、物語性が強いエンターテインメントなので、オススメしておきたいと思います。

 M・R・ケアリー『パンドラの少女』は、映画化によるタイアップ文庫化でしょうか。ゾンビものの新機軸であり、破滅SF的な要素もある作品です。近年のホラー作品の中では出色の作品だと思います。

 キャサリン・ダン『異形の愛』は、かってペヨトル工房から出ていたものの復刊です。フリークスの一家のサーカスを舞台に、家族の愛憎を描く作品。題材は強烈ですが、中身はかなりまっとうな家族小説で、一読の価値がある作品だと思います。
 
 エドワード・ケアリーの《アイアマンガー三部作》の2作目『穢れの町』が登場です。1作目は非常にハラハラドキドキさせる良質のエンターテインメントでした。続編も楽しみです。

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4月の気になる新刊と3月の新刊補遺
3月25日刊 マネル・ロウレイロ『最後の乗客』(マグノリアブックス 予価957円)
3月28日刊 マリオ・レブレーロ『場所』(水声社 予価2376円)
4月4日刊 稲垣足穂『天体嗜好症 一千一秒物語』(河出文庫 予価1296円)
4月6日刊 山本弘著、尾之上浩司監修『世にも不思議な怪奇ドラマの世界「ミステリー・ゾーン」「世にも不思議な物語」研究読本』(洋泉社 予価1944円)
4月6日刊 ケン・リュウ『紙の動物園 ケン・リュウ短篇傑作集1』(ハヤカワ文庫SF 予価756円)
4月7日刊 マイケル・イネス『ソニア・ウェイワードの帰還』(論創社 予価2376円)
4月11日刊 江戸川乱歩『乱歩の変身 江戸川乱歩セレクション』(光文社文庫)
4月14日刊 いわむらかずお『うそみーるめがね』(復刊ドットコム 予価1998円)
4月18日刊 岡本健『ゾンビ学』(人文書院 予価3024円)
4月19日刊 皆川博子『辺境図書館』(講談社 予価1728円)
4月20日刊 図書の家編『少女マンガの宇宙 SF&ファンタジー1970-80年代』(立東舎 予価1944円)
4月20日刊 ウィリアム・ゴールディング『蠅の王 新訳版』(ハヤカワepi文庫 予価1188円)
4月20日刊 ハーラン・エリスン『ヒトラーの描いた薔薇』(ハヤカワ文庫SF 予価1080円)
4月20日刊 ケン・リュウ『母の記憶に』(新ハヤカワSFシリーズ 予価2376円)
4月20日刊 『SFの書き方「ゲンロン 大森望 SF創作講座2016-2017」全講義録』(早川書房 予価1728円)
4月27日刊 カート・ヴォネガット『人みな眠りて』(河出書房新社 予価2160円)
4月28日刊 中村融編『夜の夢見の川 12の奇妙な物語』(創元SF文庫 予価1058円)
4月28日刊 ロバート・シルヴァーバーグ『時間線をのぼろう 新訳版』(創元SF文庫 予価1080円)


 山本弘著、尾之上浩司監修『世にも不思議な怪奇ドラマの世界「ミステリー・ゾーン」「世にも不思議な物語」研究読本』は、タイトル通り《ミステリー・ゾーン》と《世にも不思議な物語》のガイドブック。
 DVDマガジンの『ミステリーゾーン』も完結し、研究書なりムックなりが欲しいなと思っていたところなので、ファンには嬉しい企画ですね。

 いろいろ話題になった、ケン・リュウの第一短篇集『紙の動物園』が分冊文庫化。第二短篇集の邦訳『母の記憶に』も出るようです。

 この間出た短篇傑作選が好評だった影響でしょうか、再度ハーラン・エリスンの短篇集『ヒトラーの描いた薔薇』が登場です。これは楽しみ。

 4月の新刊でいちばん気になるのはこれ、中村融編『夜の夢見の川 12の奇妙な物語』です。2015年に出た『街角の書店』の続編的アンソロジーのようです。ケイト・ウィルヘルム、ロバート・エイクマン、キット・リードの作品など、〈奇妙な味〉の12篇を収録。

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3月の気になる新刊と2月の新刊補遺
2月28日刊 『ナイトランド・クォータリー vol.8 ノスタルジア』(アトリエサード 予価1836円)
3月2日刊 真魚八重子『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』(洋泉社 予価1512円)
3月8日刊 パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』(ちくま文庫 予価972円)
3月9日刊 C・S・ルイス『ナルニア国物語3 馬と少年』(光文社古典新訳文庫)
3月11日刊 ダリル・グレゴリイ『迷宮の天使 上・下』(創元SF文庫 予価各972円)
3月中旬刊 ロマン・ギャリ『ペルーの鳥 死出の旅へ』(水声社 予価3024円)
3月16日刊 イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』(白水Uブックス 予価1620円)
3月17日刊 高原英理『怪談生活 江戸から現代まで、日常に潜む暗い影』(立東舎 予価1944円)
3月17日刊 オーリン・グレイ/シルビア・モレノ編『ファンギ 菌類文学アンソロジー』(Pヴァイン 予価1728円)
3月21日刊 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』(創元海外SF叢書 予価2592円)
3月21日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵 新版』(創元推理文庫 予価799円)
3月21日刊 キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』(創元推理文庫 予価972円)
3月22日刊 小泉喜美子『痛みかたみ妬み 小泉喜美子傑作短篇集』(中公文庫 予価799円)
3月27日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)


 これはもう、タイトル勝ちですね。真魚八重子『バッドエンドの誘惑 なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか』は、「なぜ人は厭な映画を観たいと思うのか」を追った評論。

 『ペルーの鳥 死出の旅へ』は短篇集。ロマン・ギャリは、フランスのゴンクール賞作家、いわゆる「文豪」なのですが、邦訳されている短篇は、ちょっと変わった作品が多く、面白く読んだ覚えがあります。『孤島奇譚』『ヒューマニスト』など。ホラーアンソロジーに収録された短篇『終わらない悪夢』は、純粋なホラー作品ではないですが、迫力のある作品でした。
 他の短篇がどんな作風なのか、気になる作家ではありますね。

 イタロ・カルヴィーノ『不在の騎士』は、〈我々の祖先〉三部作のひとつ(他は『まっぷたつの子爵』(晶文社)と『木のぼり男爵』 (白水Uブックス))。この三部作は、カルヴィーノ作品の中でもエンターテインメント度が非常に高い作品なので、オススメです。

 オーリン・グレイ/シルビア・モレノ編『ファンギ 菌類文学アンソロジー』は、キノコや菌類をめぐる作品を集めたアンソロジーとのこと。収録作品の一部が公開されていましたので、載せておきます。

ぞっとするような正当派のホラー
「菌糸」ジョン・ランガン

奇妙なキノコ辞典からの抜粋のような掌編
「白い手」レイヴィー・ティドハー

ある目的のためにキノコの潜水艦に乗った男の悲しい物語
「かわいいトリュフの女の子」カミーユ・イレクサ

スチームパンクと魔法とラヴクラフトをミックスしたウエスタン風物語
「セージの最後の花」アンドルー・ベン・ロミニ

共通の幻覚体験をもたらす特殊なキノコの話
「巡礼する処女たち」クリストファー・ライス

バロック風の奇怪な物語
「ミッドナイト・マッシュランプス」W・H・パグマイア

探偵ものボディホラー小説
「死体の口、胞子の鼻」ジェフ・ヴァンダーミーア

保守的な植民村に暮らす人々の欲望の物語
「山羊の花嫁」リチャード・ギャビン

苦悩と喪失をめぐる美しい物語
「死者が夢見る場所」A・C・ワイズ 

ほか

 ウィル・ワイルズ『時間のないホテル』は、発刊告知からずっと楽しみにしてきた作品です。紹介文が期待を煽りますね。「謎の支配人、壁に掛けられた抽象画、そして運命の女。偽名でホテルを渡り歩く男が遭遇する異様な一夜に始まる恐怖。J・G・バラード『ハイ・ライズ』+スティーヴン・キング『シャイニング』ともいうべき巨大建築幻想譚!

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《ナイトランド叢書》の続刊について
 『SFが読みたい!2017年版』(早川書房)を読みました。目当ては2017年度の各出版社の刊行予定なのですが、アトリエサードの出版予定がすごかったです。
 海外怪奇幻想小説を紹介しているシリーズ《ナイトランド叢書》の第三期の続刊が紹介されていたのですが、二期に引き続き、マニアックなタイトルばかりで驚きました。


第二期

クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国』(安田均編)
1 ゾシーク篇(発売中)
2 ハイパーボリア篇
3 アヴェロワーニュ篇

オーガスト・ダーレス『ミスター・ジョージ』(中川聖訳)

マンリー・ウェイド・ウェルマン『ジョン・サンストーンの事件簿』(尾之上浩司訳)

M・P・シール『紫の雲』(南條竹則訳)


第三期

E・ヘロン&H・ヘロン『フラックスマン・ロウの心霊探求』

A・メリット『魔女を焼き殺せ』

サックス・ローマー『魔女の血脈』

E・H・ヴィシャック『メデューサ』

エドワード・ルーカス・ホワイト『セイレーンの歌』『ルクンド』


 すでに1巻が刊行されている、C・A・スミスの短篇集は2分冊ではなく、3分冊になったようです。増補作品も入るのでしょうか。
 ヘロンの『フラックスマン・ロウの心霊探求』は、オカルト探偵ものでは有名な作品の一つですね。《シャーロック・ホームズのライヴァルたち》に分類されることもあります。
 メリット『魔女を焼き殺せ』は、50年近く前の邦訳があるものの、稀書に近い状態だったので、刊行は嬉しいところです。
 ヴィシャック『メデューサ』は、幻想小説の古典的名作と言われているものの一つ。確か《世界幻想文学大系》の幻の候補作の一つにも挙がっていました。
 個人的に一番うれしいのは、エドワード・ルーカス・ホワイトの作品。怪奇アンソロジーのマスターピースとして、作品がよく収録されるホワイトの作品ですが、個人傑作集は編まれたことがなかったので、これは快挙です。
 この感じだと、W・W・ジェイコブスとかシンシア・アスキスあたりの邦訳も夢ではなさそうですね。

 アトリエサードの刊行予定では、SF作品もいくつか挙がっていますが、中では、アルジス・バドリス『無頼の月』が気になります。

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2月の気になる新刊と1月の新刊補遺
発売中 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国1 ゾシーク篇』(アトリエサード 2376円)
2月7日刊 フリードリヒ・デュレンマット『ギリシア人男性、ギリシア人女性を求む』(白水Uブックス 予価1512円)
2月17日刊 J・L・ボルヘス『アレフ』(岩波文庫 778円)
2月17日刊 『楳図かずお『漂流教室』異次元への旅』(平凡社 予価1296円)
2月中旬刊 只野真葛『奥州ばなし』(勝山海百合訳 荒蝦夷 予価2268円)
2月23日刊 ロバート・F・ヤング『時をとめた少女』(ハヤカワ文庫SF 予価886円)
2月25日刊 近藤ようこ『帰る場所』(KADOKAWA 予価950円)
2月25日刊 近藤ようこ『水の蛇』(KADOKAWA 予価950円)
2月27日刊 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』(創元海外SF叢書 予価3024円)
2月27日刊 D・M・ディヴァイン『紙片は告発する』(創元推理文庫 予価1188円)
2月27日刊 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』(創元推理文庫 予価1080円)
2月下旬予定 クラーク・アシュトン・スミス『魔術師の帝国2』(アトリエサード)


 1巻目はもうすでに発売中のようですが、《ナイトランド叢書》の最新刊は、クラーク・アシュトン・スミスの『魔術師の帝国』。かって創土社から出た1巻本を再編集して2分冊にしたもののようです。2巻は今月下旬の発売予定。
 ただ、スミスの作品に関しては、大瀧啓裕訳による創元推理文庫の3冊がありますし、既訳が多いのではないかと思ったのですが、確認してみたら、この3冊も、井辻朱美訳『イルーニュの巨人』も、すでに絶版なのですね。その点、スミス入門編としてはタイミングはいいのかもしれません。

 只野真葛『奥州ばなし』は、分身テーマではよく言及される「影の病」を含む怪異譚集。現代語訳ということで、これは読んでみたいところです。

 ロマンチックSFの名手、ロバート・F・ヤングの短篇集『時をとめた少女』が、ハヤカワ文庫SFから登場です。初訳2篇を含む全7篇を収録とのこと。これは楽しみです。

 G・ウィロー・ウィルソン『無限の書』は、世界幻想文学大賞受賞作品とのことですが、なかなか面白そうです。「中東の専制国家で生きるハッカー・アリフは、恋人から謎の古写本を託される。存在するはずのない本に記された、人間が知るべきではない秘密とは?」。

 ゴードン・マカルパイン『青鉛筆の女』は、構成のかなり凝った感じのするミステリ。「2014年カリフォルニアで解体予定の家から発見された貴重品箱。そのなかには三つのものが入っていた。1945年に刊行されたパルプ・スリラー。編集者からの手紙。そして、軍支給の便箋に書かれた『改訂版』と題された原稿……。開戦で反日感情が高まるなか、作家デビューを望んだ日系青年と、編集者のあいだに何が起きたのか?」。

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新年のご挨拶
 あけましておめでとうございます。2017年初の更新になります。今年もよろしくお願いいたします。

 12月の半ばから咳が止まらず、風邪かと思っていたのですが、年末に病院で診てもらったところ、軽い肺炎になっていました。おかげで年末からずっと寝ています。
 この際、懸案の本を読んでおこうかな、ということで、気になりつつも積んでいた本を中心に読みました。これだけ続けて本を読めたのは、随分久しぶりな気がします。


4003279026遊戯の終わり (岩波文庫)
コルタサル 木村 榮一
岩波書店 2012-06-16

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4003279034秘密の武器 (岩波文庫)
コルタサル 木村 榮一
岩波書店 2012-07-19

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4891762861すべての火は火 (叢書アンデスの風)
フリオ コルタサル Julio Cortazar
水声社 1993-06

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フリオ・コルタサル『遊戯の終わり』(木村榮一訳 岩波文庫)
フリオ・コルタサル『秘密の武器』(木村榮一訳 岩波文庫)
フリオ・コルタサル『すべての火は火』(木村榮一訳 水声社)

 まずは、幻想短篇の名手とされるコルタサルの作品集をまとめて読みました。アンソロジーなどの収録作はわりと読んでいますが、今まで肌に合わないと思って、作品集には手を出していませんでした。まとめて読んでみると、なかなか面白く読めたのは意外でした。
 『遊戯の終わり』収録作では、メタフィクション的な掌編『続いている公園』、セーターを着るだけの話が異界へ通じる幻想小説になってしまうという『誰も悪くはない』、オーソドックスな怪奇もの『いまいましいドア』、同時代に同じ人間が転生するという『黄色い花』、山椒魚に意識が乗り移ってしまうという『山椒魚』などが面白いですね。
 『秘密の武器』収録作では、写真の中の人物が動き始めるという『悪魔の涎』、女性の過去の悪夢が恋人に影響していくという『秘密の武器』『すべての火は火』収録作では、渋滞している道路上で日常生活を始めてしまう人々を描いた不条理小説『南部高速道路』、年老いた母親に息子の死を隠すため、親戚一同が息子のふりをして手紙を書くという『病人たちの健康』、観客として観劇中に、急に役者として舞台に出されてしまう男を描いた『ジョン・ハウエルへの指示』などが印象に残ります。
 コルタサル作品は、明確な幻想小説でない場合でも、筆致が幻想小説っぽいので、読むのに集中力を要しますね。


4334752721すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)
オルダス ハクスリー Aldous Huxley
光文社 2013-06-12

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4151200533一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル 高橋和久
早川書房 2009-07-18

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オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(黒原敏行訳 光文社古典新訳文庫)
ジョージ・オーウェル『一九八四年 新訳版』(高橋和久訳 ハヤカワepi文庫)

 ディストピア小説の古典として名高い2作ですが、読むのは初めてです。

 ハクスリー『すばらしい新世界』は、人間の出生・成長が完全に管理された世界を舞台にした作品。親子関係は存在せず、階級ごとに条件付けられた人間は、それぞれの役目を疑問に思うことはないようになっていました。最上位階級に属しながら、幸福感を感じられないバーナードは、「野蛮人」の青年ジョンと出会うに及び、社会の仕組みに疑問を抱きます…。

 オーウェル『一九八四年』は、全ての国民の思想が統制され、政府にとって都合の悪い過去の事実はすぐに書き換えられてしまう世界が舞台。記録の改竄作業を行っていた主人公は、体制へ批判的な考えを抱くようになる…という物語。

 どちらの作品も極端な管理社会ではあるのですが、対照的といってもいいほど、社会の描かれ方は異なります。ハクスリー作品は、風刺的なタッチが強いのに対して、オーウェル作品はシリアスなタッチですね。
 とくにオーウェル作品後半の行き詰るような閉塞感は強烈です。現在でも重要なテーマをはらんだ部分も多く、古典的傑作と言われるだけのことはある作品でした。


443422719XSF小説論講義―SFが現実に追い越されたって本当ですか?
青木 敬士
江古田文学会 2016-11

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 ちなみに、なぜこのディストピア小説2作を読む気になったかというと、青木敬士『SF小説論講義―SFが現実に追い越されたって本当ですか?』(江古田文学会)という本を読んだからです。この本の中でオーウェル『一九八四年』が取り上げられており、こんなに面白そうな作品だったのか! ということで読もうと思ったのですが、 オーウェルを読むなら、ハクスリーも読んでおかないとな、ということで2作を読むことになりました。
 『SF小説論講義』は、大学の講義が元になっているらしいのですが、SF小説を一冊も読んだことのない人を対象にしたSF論、というコンセプトの講義です。オーウェルの章では、作中で展開される言語の改変や、それが人間に与える影響を、マッキントッシュのCMやニコニコ動画などに言及しながら語っています。
 他にも、小川一水『ギャルナフカの迷宮』を題材にして物語の作法を語る章だとか、アニメ『イブの時間』を題材にしたロボット論など、興味深いテーマがいっぱいです。語り口も柔らかで読みやすく、オススメの一冊です。


415010194910月1日では遅すぎる (ハヤカワ文庫 SF 194)
フレッド・ホイル 伊藤 典夫
早川書房 1976-05

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フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
 
 作曲家であるリチャードは、友人の物理学者ジョンとともにハワイへ出かけますが、その間にアメリカとの連絡がとれなくなったというニュースを耳にします。アメリカ大陸の人間は、都市ごと消滅していたのです。
 同時に、世界中で異なる時代が出現していました。フランスやドイツでは第一次大戦、ギリシャでは古代、故郷のイギリスもまた微妙に異なる時間に属していたのです。この事態を改善するため、イギリス政府が中心になり調査隊を各地に派遣することになりますが…

 1966年発表の時間SFの名作の一つに数えられる作品です。パッチワークのように、異なる時代が同時に出現してしまった地球を舞台にしています。作者がプロの天文学者でもあるために、かなり専門的な議論も頻出します。
 事件が起こるまでが長いことと、主人公の職業であるクラシック音楽への言及が多いことなどもあって、とっつきにくい話ではあるのですが、その発想や時間に関する議論は興味深く読めます。
 ハードSFというよりは、ファンタジー、幻想小説に近い味わいなのも意外でした。


4879843520幻想の坩堝
三田 順
松籟社 2016-12-14

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岩本和子・三田順編訳『幻想の坩堝』(松籟社)

 ベルギーの幻想小説を集めた本邦初のアンソロジーです。純文学系の作家よりも、大衆小説系の作家の作品の方が面白く読めますね。
 ジャン・レー『夜の主』は、中年になった男性が、かっての家族の幻影に出会うという物語。こう紹介するとノスタルジックな作品を思い浮かべますが、実際は逆で、禍々しい暗黒小説ともいうべき力作になっています。
 トーマス・オーウェン『不起訴』は、何者かに尾行されていると感じている男のモノローグが、やがて不条理な事態に至るという不気味な作品。
 集中いちばん面白かったのは、フランス・エレンス『分身』という作品。あるオランダ人一家の気弱な青年が植民地に渡ったことから、性格が豹変していきます。その秘密を探りに出かけた「私」は恐るべき事実を知ります。青年が語るには、自分の分身が現れたが、それは女性の形をしており、その女性を妻にしたというのです。しかもその「妻」から子供が生まれるに及び、青年の性質は更に変化していきます…。
 「分身」を扱った作品なのですが、何ともユニークな発想で描かれています。不気味さと同時に、そこはかとないユーモアも漂う幻想小説です。


4062117983オデット
ロナルド・ファーバンク 山本 容子 柳瀬 尚紀
講談社 2005-12-14

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ロナルド・ファーバンク『オデット』(柳瀬尚紀訳 講談社)

 オデットは、両親を失い、叔母に引き取られた幼い少女。夜中に聖母マリアに会いたいと屋敷を抜け出し、娼婦と出会ったオデットでしたが…。
 世間ずれした娼婦と、純真無垢なオデット、二つの全く異なる世界観を持つ二人が出会ったときに生まれたものとは? 原題のサブタイトル「けだるい大人のための童話」の通り、アンニュイかつ美しい作品です。


4488010555堆塵館 (アイアマンガー三部作1) (アイアマンガー三部作 1)
エドワード・ケアリー 古屋 美登里
東京創元社 2016-09-30

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エドワード・ケアリー『堆塵館』(古屋美登里訳 東京創元社)

 19世紀イギリス、ロンドン郊外のごみ山の中に立つ巨大な屋敷「堆塵館」。そこはごみで財を成したというアイアマンガー一族が建てたものでした。地上の階では、純潔のアイアマンガーが、地下の階では、一般の人間と結婚したアイアマンガーの子孫が召使として働いていました。
 アイアマンガー一族には、生まれた時に与えられる「誕生の品」を生涯持ち続けなければならないという掟がありました。主人公クロッドは、その品物の声を聞くことができるという能力がありました。物たちは、それぞれ自分の名前を叫び続けているのです。
 一方、孤児院で生まれた少女ルーシーは、アイアマンガーの血が入っているということで、堆塵館で召使として働くことになります。厳しい掟に反抗し続けるルーシーでしたが、館の中でクロッドと出会ったことから、互いに愛し合う関係になります…。

 《アイアマンガー三部作》の1作目に当たる作品です。ごみ山の中に立つ巨大な屋敷、エキセントリックな登場人物、物の声を聞くことのできる少年、孤児ながら自らの運命を切り開こうとする少女。魅力的な要素のたっぷりつまった物語です。
 「誕生の品」を身につけ続けなければならないというアイアマンガー一族の掟が、単なる設定だと思いきや、そうしなければならない理由が後半に判明するなど、細かい伏線もしっかりしています。
 一族の掟を守り続けなければならないと思い込んでいた主人公クロッドが、少女ルーシーとの出会いにより、一族を裏切る方向へ動き出すことになります。一度、屋敷に召使として入った人間は二度と出れないという掟があるなか、ルーシーを外へ連れ出すことができるのか…というのが、主人公の当面の目的になっています。
 物語のほぼ全体が屋敷の中で起こるにもかかわらず、最初から最後まで波乱万丈の物語で、これはぜひ続編を読みたい作品になりました。続編は5月ごろ刊行予定ということで、楽しみにしたいと思います。

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2016年を振り返って
 もうすぐ2016年が終わります。今年は、とても変化のある年になりました。
 ブログ開設10周年を迎えたこと、twitterを始めたことなど、いろいろありますが、何といっても、いちばんの変化は、テーマ別のフリートーク読書会「怪奇幻想読書倶楽部」を始めたことですね。11月に第1回、12月に第2回を行いました。
 僕自身、人前で話したり、積極的に企画を考えたりするタイプではない…と自認していたので、何とか開催を終えて、自分で自分にびっくりしているぐらいです。
 フリートークという点で不安を感じつつも、またそれゆえに話が盛り上がることもありました。フリートークで一番いい点は、自分が話したい話題をすぐ出せる、というところですね。他の人があまり興味がなくて続かない場合もありますが、またすぐに別の話題が出てきます。
 参加者同士の相性、テーマとの相性などもあり、毎回どういう方面に話が流れるか、事前には全然わかりませんが、それがまた面白いところでもあります。

 まだ2回ほど開催したのに過ぎませんが、自分でも課題というか、問題点などがいくつか思い浮かんでいて、そのあたりを、これから改善していけたらな、と思っています。


 それでは、2016年度刊行で面白く読んだものをまとめておきたいと思います。


日時計 鳥の巣 (DALKEY ARCHIVE) 処刑人 (創元推理文庫) くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
 まずは、シャーリイ・ジャクスン。今年は、生誕100周年ということもあり、ジャクスンの邦訳が、改訳・新訳含めて多く刊行されました。
 ブラック・ユーモアに満ちた終末もの『日時計』(渡辺庸子訳 文遊社)、多重人格をめぐるサスペンス『鳥の巣』(北川依子訳 国書刊行会)、青春幻想小説『処刑人』(市田泉訳 創元推理文庫)、いわずと知れた名短篇集の改訳『くじ』(深町眞理子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)など。
 一気に邦訳が進んだ感じですが、未訳の作品も刊行してもらえると嬉しいですね。


虚構の男 (ドーキー・アーカイヴ) 人形つくり (ドーキー・アーカイヴ)
 刊行が開始された《ドーキー・アーカイヴ》(国書刊行会)は、風変わりなエンターテインメント作品を収録するシリーズです。どんでん返しの頻発するサスペンス、L・P・デイヴィス『虚構の男』(矢口誠訳 国書刊行会)、官能的な幻想小説集である、サーバン『人形つくり』(館野浩美訳 国書刊行会)は、どちらも魅力的な作品でした。


〈グレン・キャリグ号〉のボート (ナイトランド叢書) 塔の中の部屋 (ナイトランド叢書) ウェンディゴ (ナイトランド叢書)
 《ナイトランド叢書》(アトリエサード)からは、ウィリアム・ホープ・ホジスン『〈グレン・キャリグ号〉のボート』(野村芳夫訳)、E・F・ベンスン『塔の中の部屋』(中野善夫・圷香織・山田蘭・金子浩訳)、アルジャーノン・ブラックウッド『ウェンディゴ』(夏来健次訳)が刊行されました。
 ホジスン作品は、かなりアクション要素の強い怪奇冒険小説、ベンスン、ブラックッドの作品集は安定した作りで、クラシック・ホラー好きには格好の贈り物となりました。


狂気の巡礼 奥の部屋: ロバート・エイクマン短篇集 (ちくま文庫) 南十字星共和国 (白水Uブックス) むずかしい年ごろ ロルドの恐怖劇場 (ちくま文庫) 10の奇妙な話
 怪奇幻想分野の作品集としては、ステファン・グラビンスキ『狂気の巡礼』(芝田文乃訳 国書刊行会)、ロバート・エイクマン『奥の部屋』(今本渉訳 ちくま文庫)、ワレリイ・ブリューソフ『南十字星共和国』(草鹿外吉訳 白水Uブックス)、アンナ・スタロビネツ『むずかしい年ごろ』(沼野恭子、北川和美訳)、アンドレ・ド・ロルド『ロルドの恐怖劇場』(平岡敦編訳 ちくま文庫)、ミック・ジャクソン『10の奇妙な話』(田内志文訳 東京創元社)などが良かったですね。


ロシア幻想短編集 名前のない街: ロシア幻想短編集Ⅱ 灰色の自動車: A・グリーン短編集 鼠捕り業者 他2篇: アレクサンドル・グリーン短編集Ⅱ (アルトアーツ) ロシアSF短編集
 アルトアーツから刊行された、ロシアの幻想小説ものも未訳のものばかりで、貴重な収穫でした。西周成編訳『ロシア幻想短編集』と続編の『名前のない街 ロシア幻想短編集Ⅱ』、アレクサンドル・グリーン短編集『灰色の自動車』『鼠捕り業者』『ロシアSF短編集』も珍しいラインナップでした。

 ほかに短篇集で面白かったものとしては、

あまたの星、宝冠のごとく (ハヤカワ文庫SF) ルーフォック・オルメスの冒険 (創元推理文庫) ゴッド・ガン (ハヤカワ文庫SF) 死の鳥 (ハヤカワ文庫SF) 伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ (ハヤカワ文庫SF) 楽しい夜 30の神品 ショートショート傑作選 (扶桑社文庫)
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『あまたの星、宝冠のごとく』(伊藤典夫、小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF)
カミ『ルーフォック・オルメスの冒険』(高野優訳 創元推理文庫)
バリントン・J・ベイリー『ゴッド・ガン』(大森望、中村融訳 ハヤカワ文庫SF)
ハーラン・エリスン『死の鳥』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
『伊藤典夫翻訳SF傑作選 ボロゴーヴはミムジイ』(伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫SF)
岸本佐知子編訳 『楽しい夜』 (講談社)
江坂遊選『30の神品 ショートショート傑作選』(扶桑社文庫)


 長編作品では、

ラスト・ウェイ・アウト (ハヤカワ・ミステリ文庫) ハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫) ジグソーマン (扶桑社ミステリー) カエアンの聖衣〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫SF) 奇妙という名の五人兄妹
フェデリコ・アシャット『ラスト・ウェイ・アウト』(村岡直子訳 ハヤカワ・ミステリ文庫)
クレア・ノース『ハリー・オーガスト、15回目の人生』(雨海弘美訳 角川文庫)
ゴード・ロロ『ジグソーマン』(高里ひろ訳 扶桑社ミステリー)
バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣 新訳版』(大森望訳 ハヤカワ文庫SF)
アンドリュー・カウフマン『奇妙という名の五人兄妹』(田内志文訳 東京創元社)

 日本作家の作品では、

三丁目の地獄工場 (角川ホラー文庫) ずうのめ人形 怪談のテープ起こし QJKJQ やみ窓
岩城裕明『三丁目の地獄工場』(角川ホラー文庫)
澤村伊智『ずうのめ人形』(角川書店)
三津田信三『怪談のテープ起こし』(集英社)
佐藤究『QJKJQ』(講談社)
篠たまき『やみ窓』(KADOKAWA)

 コミック作品では、

カナリアたちの舟 (アフタヌーンKC) 異世界の色彩 ラヴクラフト傑作集<ラヴクラフト傑作集> (ビームコミックス) 闇に這う者 ラヴクラフト傑作集<ラヴクラフト傑作集> (ビームコミックス) ぐらんば (バーズコミックス) 盆の国 (torch comics) 宇宙のプロフィル (ヤンマガKCスペシャル)
高松美咲『カナリアたちの舟』(講談社アフタヌーンKC)
田辺剛『異世界の色彩 ラヴクラフト傑作集』(エンターブレイン)
田辺剛『闇に這う者 ラヴクラフト傑作集』(エンターブレイン)
押切蓮介『ぐらんば』(バーズコミックス)
スケラッコ『盆の国』(リイド社torch comics)
こがたくう『宇宙のプロフィル』(ヤンマガKCスペシャル)

などを面白く読みました。


 それでは、2017年もよろしくお願いいたします。

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1月の気になる新刊
1月7日刊 アルフレッド・ベスター『破壊された男』(ハヤカワ文庫SF 予価864円)
1月11日刊 オスカー・ワイルド『幸福な王子/柘榴の家』(光文社古典新訳文庫 予価950円)
1月12日刊 ウォルター・テヴィス『地球に落ちて来た男』(二見書房 予価2700円)
1月12日刊 ダフネ・デュ・モーリア『人形 デュ・モーリア傑作集』(創元推理文庫 予価1080円)
1月12日刊 G・K・チェスタトン『ブラウン神父の童心』(創元推理文庫 予価799円)
1月12日刊 ムア・ラファティ『魔物のためのニューヨーク案内』(創元推理文庫 予価1404円)
1月12日刊 ジュール・ヴェルヌ『地球から月へ 月をまわって 上を下への』(インスクリプト 予価6264円)
1月18日刊 高原英理『ゴシックハート』(立東舎文庫 予価972円)
1月18日刊 イジー・クラトフヴィル『約束』(河出書房新社 予価2592円)
1月18日刊 澤村伊智『恐怖小説 キリカ』(講談社 予価1620円)
1月19日刊 近藤ようこ『夢十夜』(岩波書店 1404円)
1月21日刊 J・S・レ・ファニュ『ドラゴン・ヴォランの部屋』(創元推理文庫 予価1080円)
1月21日刊 イヴァン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』(東京創元社 予価1620円)
1月28日刊 『J・G・バラード短編全集2 歌う彫刻』(東京創元社 予価3888円)
1月28日刊 カーター・ディクスン『かくして殺人へ』(創元推理文庫 予価929円)


 1月の注目本は、創元推理文庫の2冊、デュ・モーリアの短篇集『人形 デュ・モーリア傑作集』と、レ・ファニュの傑作集『ドラゴン・ヴォランの部屋』でしょうか。

 『人形 デュ・モーリア傑作集』は、デュ・モーリアの初期短篇14編を収録とのこと。
 東京創元社のHPより、紹介文を引用しておきましょう。
 島から一歩も出ることなく、判で押したような平穏な毎日を送る人々を突然襲った狂乱の嵐「東風」。海辺で発見された謎の手記に記された、異常な愛の物語「人形」。上流階級の人々が通う教会の牧師の徹底した俗物ぶりを描いた「いざ、父なる神に」「天使ら、大天使らとともに」。独善的で被害妄想の女の半生を独自形式で綴る「笠貝」など、短編14編を収録。
 収録作品は以下の通り。

『東風』
『人形』
『いざ、父なる神に』
『性格の不一致』
『満たされぬ欲求』
『ピカデリー』
『飼い猫』
『メイジー』
『痛みはいつか消える』
『天使ら、大天使らとともに』
『ウィークエンド』
『幸福の谷』
『そして手紙は冷たくなった』
『笠貝』

 19世紀最大の怪奇作家のひとり、J・S・レ・ファニュは、すでに創元推理文庫に、長年のロングセラー『吸血鬼カーミラ』がありますが、久方ぶりの短篇紹介になりますね。『ロバート・アーダ卿の運命』『ティローン州のある名家の物語』『ウルトー・ド・レイシー』『ローラ・シルヴァー・ベル』『ドラゴン・ヴォランの部屋』の5篇を収録しています。
 『ティローン州のある名家の物語』は、シャーロット・ブロンテの長編『ジェイン・エア』に影響を与えているということでも有名な作品ですね。
 レ・ファニュといえば、長編作品も全て絶版状態です。『墓地に建つ館』『ワイルダーの手』は、長大すぎて少々きついですが、『アンクル・サイラス』『ゴールデン・フライヤーズ奇談』は、今読んでもなかなか面白いと思うので、ぜひ復刊してほしいところです。

 数年前から刊行予告が出たり消えたりを繰り返していた、インスクリプトの《ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション》は、ようやく始動のようです。全巻の構成は以下の通り。

第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円+税[完訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊)特大巻:5,800円+税[完訳]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊)予価:5,000円+税[本邦初訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊)予価:5,500円+税[本邦初訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊)予価4,200円+税 [本邦初訳]

本邦初訳も多く、ヴェルヌファンは入手しておいた方がよさそうですね。

イヴァン・レピラは、初紹介の作家のようですが、『深い穴に落ちてしまった』の紹介文はなかなか魅力的です。「名も年もわからない兄弟が穴に落ちて出られなくなってしまった。素数で構成された章番号や文章に隠された暗号の意味とは。読後に驚愕と強い感動をもたらす大人のための寓話。」

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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



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