FC2ブログ
最近読んだ本

みんな行ってしまう (創元SF文庫)
マイケル・マーシャル・スミス『みんな行ってしまう』(嶋田洋一訳 創元SF文庫)

 粒ぞろいのSFモダンホラー短編集。収録作はどれも面白いのですが、特に面白かったのは、「地獄はみずから大きくなった」「猫を描いた男」「バックアップファイル」「いつも」でしょうか。

「地獄はみずから大きくなった」
 あらゆる病気を治療するナノテク装置を目指して研究を続ける、男女三人の科学者。しかし実験の途中で感染した菌で女が死んでしまったことから、研究の目的は別のものにすり替わっていきます。
 亡き女性と話をするために、霊媒の脳を研究し、生理学的に霊と接触できるようにしようというのです。実験は成功しますが、ナノマシンの繁殖力は予想を遙かに超えて、世界中に広がってゆきます。死者が見えるようになった人々はつぎつぎと混乱を来し、世界は終末を迎えようとしていました…。
 死者と接触する能力を、物理的に作り出そうとする発想が秀逸です。普通の作家なら、滅び行く世界で希望を失わない少数者たちの物語にでもなるのでしょうが、スミス作品は圧倒的にペシミスティックです。

「猫を描いた男」
 ある日ふらりと現れた長身の男は絵描きだと名乗り、まるで長年その町にいたように生活にとけ込んでしまいます。彼の描く絵は素晴らしく、飛ぶように売れていきます。画家は、思いを寄せていた人妻と息子に対して夫が暴力をはたらいているのを知ります。
 画家は「自分の一部」を込めて虎の絵を描きますが、激昂した男が絵の前に現れたとき起きたこととは…?
 奇妙な味の作品です。オーソドックスな題材ですが、丁寧な作りで読ませます。不思議な能力を持つよそ者を、超自然には懐疑的な語り手が語るという、これまた伝統的な語りで語った手堅い作品。

「バックアップファイル」
 愛する人を失った男が、家族を蘇らせようとします。その手段とは「バックアップファイル」によるものでした…。
 蘇りが超自然的なものではなく、SF的な設定によってなされるというユニークな作品。ただ、その方法がどのような仕組みになっているのかは一切説明されません。
 男のヴァーチャル空間における幻影なのかと思いきや、読み進むと実体のある存在であることが判明します。下手な説明がないだけに、余計に不気味な雰囲気を出していますね。

「いつも」
 父親がいつもくれるプレゼントの包装があまりに完璧なことから、超自然的な方法が使われているのではないかと、娘は想像します。母の死後、訪れた家で父親は母親の遺体を小さく「包装」しますが…。
 あっけらかんとするほどの雰囲気の中で、ある種不気味な後味を残す、象徴的な作品。失った家族に対する愛がテーマの作品でもあります。



kinseinosenpei.jpg
エリック・フランク・ラッセル『金星の尖兵』(井上一夫訳 創元推理文庫)

 工場経営者ハーパーは、突如頭の中に悲鳴が響くのを聞きます。彼はテレパス能力者だったのです。声の先には警官が倒れており、彼はやがて死亡しますが、第一発見者のハーパーは容疑者としてマークされてしまいます。事件を独自に調べ始めたハーパーは、能力を使い容疑者を絞り込んでいきます。
 やがて犯人らしき女性を特定したハーパーは、その人物にあったとたん、衝動的に相手を射殺してしまいます。ハーパーが捉えた相手の意識は人間のそれではなかったのです…。
 テレパス能力を持つ主人公が、他惑星からの侵略者が人間に化けていることに気付いてしまい、彼らから追われる…という侵略テーマ作品です。時代的なものもあるのでしょうが(1955年発表)、敵方の宇宙人が妥協の余地のない「悪」として扱われています。それだけに「善悪の是非」とか「思想性」などは皆無のエンターテインメントになっており、終始爽快な作品になっています。
 主人公のテレパス能力がかなりご都合主義的に使われている面もないではないのですが、それを差し引いても、痛快な娯楽作として今でも非常に面白い作品です。



脳波 (1978年) (ハヤカワ文庫―SF)
ポール・アンダースン『脳波』(林克己訳 ハヤカワ文庫SF)

 地球の全生物の知能が飛躍的に増大したらどうなるか、というテーマのSF作品です。スケールが大きくなりそうなテーマなのですが、あまりそうならないところが逆に面白いですね。
 ある日、宇宙線によって、生物の知能が飛躍的に増大するという現象が起こります。人間が使い切れていない脳の能力が発揮されるようになったというのです。しかし人間はその知能に適応する者と適応できないものとに分かれてしまいます。
 学者である主人公コリンズと凡人である妻シーラ、もともと知能にかなりの差がある夫婦は、知能の増大によって亀裂を深めていきますが…。
 人間の知能増大によって個人や社会にどんな影響が出てくるのか…という設定を、非常に丁寧に描いた良作です。ただ「人類の進化のヴィジョン」みたいな壮大な話にはならず、飽くまで、小さな範囲での個人や集団の軋轢を中心に描かれていきます。
 オーソドックスな作品ではあるのですが、それだけにSFが苦手な人でも楽しく読める作品ではないでしょうか。



クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))
E・L・カニグズバーグ『クローディアの秘密』(松永ふみ子訳 岩波少年文庫)

 少女クローディアは、弟のジェイミーを伴って家出をすることにします。二人はニューヨークのメトロポリタン美術館に忍び込み、夜はそこで過ごすことになります。折りしも、美術館が購入した天使の像がミケランジェロ作であるかどうかをめぐって議論が交わされていました。
 姉弟は天使の像をめぐって、ある秘密を発見したのではないかと大喜びしますが…。
 家出した姉弟のささやかな冒険を描いた瀟洒な作品です。おおらかな姉と、お金にうるさいながらしっかり者の弟のコンビには味がありますね。この二人、家出しながらもまったくホームシックにかからず、楽しげに暮らしている…というのが面白いところ。
 何より、二人が選んだ住処であるメトロポリタン美術館での生活が非常に楽しげに描かれています。時代物のベッドで寝たり、噴水で水浴びしたり、時には展示品を見て回ります。誰もいない広大な博物館内で子供たちがたった二人。非常に夢見心地になるようなシチュエーションなのです。
 作品自体が枠物語になっているのも面白い趣向です。大枠の物語は、資産家のフランクワイラー夫人が弁護士サクソンバーグにあてて書いた手紙の内容ということになっており、姉妹の物語は、その語りに挟まれる形で描かれていきます。この夫人や弁護士の物語への関わり具合も工夫されていますね。
 タイトルにもある「クローディアの秘密」とは何なのか? シンプルながら考えさせるテーマも含んでいる作品で、名作とされるのもうなずける作品ではありました。
 超自然的なことが起こるわけではないのですが、子供時代のある種の夢と冒険を描いているという意味で「ファンタジー」に近い肌触りの作品です。



孤独な場所で (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ドロシイ・B・ヒューズ『孤独な場所で』(吉野美恵子訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 1950年代に書かれたサイコ・サスペンスの古典的作品です。主人公ディックスは、戦争中に出会って恋仲になった女性が原因で精神のバランスを崩していました。ディックスは刑事になった旧友に再会しますが、彼は世間を騒がせている美女連続殺人について捜査していました。だんだんと不安にかられはじめるディックスでしたが…。
 明言はされないのですが、主人公が犯人であることはうすうすわかるようになっています。主人公の内面が細かく描写されていくという作品で、連続殺人鬼側から描かれたサスペンス小説といっていいでしょうか。ただこの主人公、それほど異常性を感じさせる人物ではありません
 むしろ、一般人が共感できるようなごく普通の内面が描写されていきます。それゆえ主人公に感情移入してしまい、ハッピーエンドを迎えてほしいなと思ってしまうぐらいです。殺人鬼を主人公にしながらも、殺人のときも犯行の様子そのものは全く描写されないという面白い趣向で、もしかしたら事件の犯人は別の人物なのでは…という楽しみもあります。隣に住む女優の元夫の行方がわからなくなっていることが判明するあたりなど、思わせぶりな展開も面白いです。
 精神異常者の犯罪を描く作品ではありますが、現代の作品に比べると非常に地味ではあります。細かい心理描写が積み重ねられて違和感が増していく…というタイプの作品ですが、今読んでも読み応えがありますね。精神分析的な要素をほとんど持ち込まないところも逆に好感が持てます。



イギリスの老男爵 (ゴシック叢書)
クレアラ・リーヴ『イギリスの老男爵』(井出弘之訳 国書刊行会)

 ホレス・ウォルポール『オトラント城』に影響を受けて書かれたというゴシック・ロマンス作品です。
 話としては、貴族の血を引く主人公が、本来の自分の領地と立場を取り戻すという、お決まりのパターンなのですが、その決着がつくのが非常に速い。主人公の立場が確定してから、領地や遺産をどう分配するのかという話題だけで、後半長大なページ数を費やすという構成になっています。
 興味深いのは後半の資産分けの部分です。「有徳の騎士」や「正義漢」であるはずの人たちが、自分たちの権利をいろいろ主張してくるのです。これは化けの皮がはがれたというわけではなく、どうやら当時としては、貴族たちの当然の権利で全くおかしいことではない…という感覚らしいのですよね。
 著者によれば、『オトラント城』の超自然味が大げさすぎるので、自分ならもっと自然な形で物語に溶け込ませてみせる…というのが創作動機だそうです。
 確かに「自然」ではあるのですが、出来上がったものがエンタメとして『オトラント城』より面白いかといえば微妙です。ただ、本来、ロマンティックなはずのロマンスで、現実的な金銭問題を延々とやっているというミスマッチさとその人間臭さ。そういう面から見ると非常に面白い作品ではあります。



魔法使いとリリス (ハヤカワ文庫FT)
シャロン・シン『魔法使いとリリス』(中野善夫訳 ハヤカワ文庫FT)

 魔法を学ぶ青年オーブリーが、師である魔法使いの妻リリスに恋するという物語です。「変身の魔法」が重要なテーマになっていて、それゆえに単純なラブロマンスに終わらないところが素晴らしいですね。リリスの「その愛では足りない」という言葉が印象に残ります。
 師匠の魔法使いグラインレンドンが使う魔法が「変身」であること、最初はグラインレンドンが登場するまで間があることから、もしかして妻のリリスは、グラインレンドンが変身した姿なんじゃ…と早合点してしまったのは秘密です。



黒い羊 他
アウグスト・モンテロッソ『黒い羊 他』(服部綾乃、石川隆介訳 書肆山田)

 メキシコの作家、アウグスト・モンテロッソ(1921-2003)の掌編集です。ショート・ショートと言っていい長さの、幻想的な寓話が集められた作品集になっています。
 主に動物を主人公にした寓話が多いのですが、どれも皮肉とブラック・ユーモアが効いたお話が多いですね。風刺作家になるためにあらゆる動物の本性を知り尽くすという「風刺作家になりたかったサル」、鷲になった夢を見るハエを描いた「夢の中で鷲になるハエ」、黒い羊が銃殺されるたびに像が建てられるという「黒い羊」、哲学者ゼノンのエピソードのパロディ「カメとアキレス」、夢を見たゴキブリがその夢の中でさらに夢を見るという「夢見るゴキブリ」、復活を繰り返すキリストを描く「輪廻転生」、パチンコで鳥を殺したことを後悔する少年の人生を描いた「ダヴィデくんとパチンコ」などが面白いですね。
 どれも短いお話でさらっと読めます。ブラック・ユーモアがあるといっても、そんなに毒のあるものではないので、読後感も悪くありませんね。
 書肆山田からは、モンテロッソの短篇集『全集 その他の物語』という本も出ていて、こちらもお薦めです。こちらは、かなり毒のあるブラック・ユーモア短編が入っています。世界一短い短篇として有名な「恐竜」も収録。短いので「恐竜」の全文を紹介しておきますね。

目を覚ましたとき、恐竜はまだそこにいた。



ネクロフィリアの食卓 (竹書房文庫)
マット・ショー、マイケル・ブレイ『ネクロフィリアの食卓』(関麻衣子訳 竹書房文庫)

 父親になることを上手く受け入れられないライアンは、友人と酒を飲んだ直後に何者かに拉致されてしまいます。気付くと彼は手錠でつながれていました。
 一方、ガソリンスタンドで働く女性クリスティーナは客である老人と老女に襲われ意識を失ってしまいます。
 縛られた状態で目を覚ましたクリスティーナは、目の前に奇怪なマスクをかぶった巨体の男がいることに気がつきますが…。
 殺人鬼夫妻とその息子に監禁された男性と女性の運命を描いていくというホラー小説です。よくあるタイプのホラーといえばそうなのですが、面白いのは焦点が被害者側よりも加害者側に合っているというところです。
 息子が人間離れした力を持つ怪物として描かれるのですが、その実、生まれる前の母親への虐待により障害を持って生まれてきたり、父親から虐待をされて育ったという設定であり、彼自身はあまり「悪」として認定されていません。
 本当の意味での殺人鬼は父親である老人だけなのですが、長年の虐待と洗脳により妻である老女は夫の協力者になってしまっているのです。最初はまともだったこの老女がだんだんと狂っていくという過程がたっぷり描かれるのですが、正直、この部分の方が本筋よりも怖いです。
 肉体的なものよりも精神的な虐待シーンがあったり、結末がかなりアンモラルなこともあり、あんまりホラー慣れしていない人には勧めません。帯の推薦文がショーン・ハトスンであることで、作品の雰囲気がわかる人にはわかるかもしれませんね。



kisekinohukusyuu.jpg
ジョージ・バーナード・ショー『奇跡の復讐』(稲垣博訳 ペガーナワークス)

 奇行を繰り返す風変わりな青年ゼノ・レッグは、枢機卿である叔父からある依頼を受けます。フォー・マイル・ウォーターという村で起こったという奇跡が本物かどうか、密かに調べてきてほしいと言うのです。
 奇跡は、村で不敬なならず者として知られていたブライムストン・ビリーが死んだ後、彼の墓が別の場所に移されていた、というものでした。奇跡を報告してきたヒッキイ神父のもとを訪れたゼノは、神父の姪ケイトの魅力の虜となってしまいますが…。
 皮肉に満ちた奇跡譚です。主人公の青年が頭の箍が外れているキャラクターで、その時点ですでに面白い物語なのですが、その青年がほれ込んだ娘にはすでに恋人がいて、奇妙な三角関係になるという、面白い展開です。
 主人公の青年が何をするかわからないという「トリックスター」的存在で、きわめて人間的な理由で「奇跡」がひっくり返されてしまうという、皮肉に富んだ物語でした。これは面白い作品ですね。



husiginahouseki.jpg
石野重道『不思議な宝石  石野重道童話集』(盛林堂ミステリアス文庫)

 稲垣足穂の盟友であったという石野重道の、新発見の童話を集めた作品集です。稲垣足穂同様、ファンタスティックな香気にあふれた作品集でした。
 少年ヴァイオリン弾きが音楽で狼から逃れるという「ヴァイオリン弾きと狼」、悪魔が悪戯のために作った不思議な石をめぐる「不思議な宝石」、謎の青い染料で大もうけする農夫を描いた「不思議な塔」、病気を治すため星を取ろうと考える少年を描く「セデアとお星様」などが面白いですね。
 「不思議な塔」「セデアとお星様」では、星や月や青空が人の手で届くところに現れたり、物理的に接触できたりと、まるで稲垣足穂の『一千一秒物語』を思わせるようなオブジェ感に満ちています。



nekutaipinn.jpg
石野重道『重道庵夜話 壱阡壱秒譚 ネクタイピン物語』(東都我刊我書房)

 タイトルの「壱阡壱秒譚」からもわかるように、稲垣足穂『一千一秒物語』にも通じる、ナンセンスでファンタスティックなコント集です。
 掌編9篇で構成された「ネクタイピン物語」と短篇「老婆ひとり」が収録されています。
 「ネクタイピン物語」はどれもナンセンスなショートコントで、「ビール瓶の中から月を出すというお話」とか「星に揺り起こされた話」などは、ほとんど足穂と区別がつかない味わいです。
 一番面白かったのは「汽船を懐ろに入れた話」という作品。タイトル通りのお話ですが、遠近法を無視したような発想がすごく楽しいです。
 「老婆ひとり」は、犬を飼う貧しい老婆を描いた小品で、これはこれで味わいがありますね。
 表紙・造本も非常にお洒落で、愛らしい本に仕上がっています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/997-fbcf59dc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する