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愛と憎悪  パトリシア・A・マキリップ『妖女サイベルの呼び声』
妖女サイベルの呼び声 (ハヤカワ文庫 FT 1)
 パトリシア・A・マキリップの長篇小説『妖女サイベルの呼び声』(佐藤高子訳 ハヤカワ文庫FT)は、氷のような心を持った魔女が愛と憎しみを知るようになるという、流麗なファンタジー作品です。

 父祖から受け継いだ魔法の力と幻獣たちに囲まれてエルド山に暮らすサイベルは、ある日コーレンと名乗る若者の訪問を受けます。彼は彼女の血縁だという赤子タムローンを預かってくれないかというのです。
 タムローンを育てる過程でサイベルは彼に対する愛情を覚えますが、ドリード王が実の息子であるタムローンを求めていることを知り、タムローンのために彼を王のもとに返すことを決心します。
 やがて再会したコーレンに恋するようになったサイベルでしたが、コーレンが属する一族はドリードと敵対していました。サイベルもまた彼らの争いに巻き込まれていくことになりますが…。

 王の血を引くタムローンをめぐって権力争いが描かれますが、物語の中心はあくまでサイベルの心の移り変わりに置かれています。最初は人間世界とは隔絶した孤独な生活を送っていたサイベルが赤子を育てることにより愛情を知り、またコーレンと出会うことによって恋を知ります。
 しかし政争に巻き込まれてしまったサイベルは、タムローンとコーレン、どちらかが苦しむ状況を作り出してしまい、悩み苦しむことになります。その過程で、彼女は憎しみと絶望も知ることになるのです。

 絶大な魔法の力を持ちながらも、人間的な感情を知った魔女の揺れ動く繊細な心理を丁寧に描いた作品で、ファンタジーの名作と言っていい作品だと思います。
 サイベルを守るように存在する魔法の獣たちの存在も印象的です。知性あふれる猪サイリン、王にふさわしい隼ター、黄金のライオンであるギュールス、巨大な黒猫モライア。そして死をもたらす謎の存在ブラモア…。

 王位と権力をめぐる争い、獣たちの力と魔法の存在、そしてヒロインの繊細な心理描写と、非常に厚みのある物語世界が構築されています。ファンタジー小説ジャンルの一つの極致に達している作品といっていいのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
岡野玲子先生のコーリングも素晴らしい!
読んだのは大昔ですが、とにかく幻獣たちが魅力的で、さらっと語られるエピソードからスピンオフが何冊も書けそうです。ファンタジー小説の夢のような美しさを教えてくれた作品でした。同じ作者の「イルスの竪琴」も大好きです。
【2019/10/04 20:31】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


マンガ化作品で知った人もいるみたいですね。こちらもいずれ読んでみたいです。
幻獣たちは魅力的ですよね。シリーズにしてもいいぐらいのふくらみがところどころにあって、何とも贅沢な作品でした。
【2019/10/06 18:38】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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