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<ニュー・ゴシック>の世界
 1990年代に一時的に流行した<ニュー・ゴシック>。<ニュー・ゴシック>は現代におけるゴシック的作品といったテーマのようなのですが、正直コンセプトのわかりにくい概念ではありました。結局、我が国ではあまり普及せずに終息してしまったようです。
 日本では、このテーマのアンソロジーとして『幻想展覧会 ニュー・ゴシック短篇集』『ニュー・ゴシック ポーの末裔たち』の二つのアンソロジーが刊行されました。アンソロジーを通しての一貫したテーマというのは感じ取りにくいのですが、個々の作品にはなかなか面白いものも含まれています。



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パトリック・マグラア、ブラッドフォード・モロー編『幻想展覧会 ニュー・ゴシック短篇集Ⅰ・Ⅱ』(柴田元幸ほか訳 福武書店)

 幻想小説やホラーというよりは、純文学的な作品が多い印象ですね(収録作家も純文学系の人が多いです)。収録作中で一番の傑作は間違いなく、スティーヴン・ミルハウザー「展覧会のカタログ」です。
 19世紀初頭の呪われた画家と周辺の人々の人生を描いた作品です。画家の描いた絵画が展覧会のカタログ風に解説されていき、その中で物語が展開されるという、非常に技巧的な作品です。絵のモチーフも、E・T・A・ホフマンやE・A・ポオの作品が使われていたりと、幻想文学的な要素も強いですね。
 他には、殺した男の死体を飾り立てる女を描いた「硬い砂浜」(エマ・テナント)、悪臭に取りつかれた男を描く「におい」(パトリック・マグラア)、かっての大女優のもとに取材に訪れた青年の体験を描く「影の商人」(アンジェラ・カーター)、精神を病んだ甥と叔父夫婦、その娘の関係を描いた「焔の湖での自己洞察」(マーティン・エイミス)、病的な窃盗癖を持つ男の物語「ナディーヤへの道」(ブラッドフォード・モロー)などが面白いですね。
 「天国」(ピーター・ストラウブ)は、長篇『スロート』の抜粋なのですが、特に事件が起こる部分ではなく、雰囲気的な部分で選ばれているのでしょうか。
 内容がゴシック的というよりは、形式とかスタイルが優先されているような気もします。その点、幻想小説アンソロジーというよりは、前衛的な文学アンソロジー、という印象の方が強いですね。



ニュー・ゴシック―ポーの末裔たち
鈴木晶、森田義信編訳『ニュー・ゴシック ポーの末裔たち』(新潮社)を読了。
 『幻想展覧会』(福武書店)と同時期に出た、コンセプトも同じようなアンソロジーですが、<奇妙な味>の作品集といった感じで、『幻想展覧会』よりも物語性が強い作品が多いですね。

ジョイス・キャロル・オーツ「他者たち」
 スペンスは、ある日見覚えのある顔の男に出会いますが誰だか思い出せません。帰宅後に男はいとこのサンディーだったと思い当たりますが、彼は既に死んでいたのです…。
 既に死んだはずの人間と何度も出会う男の奇妙な物語。これはちょっと怖い作品ですね。

パトリック・マグラア「監禁」
 刑務所職員を目指す「わたし」は、独自の倫理観から非常勤講師のパーキンズを断罪し、彼のことを調べるため家の周りをうろつきますが…。
 おそらく精神に問題を抱えるであろう語り手が、講師をストーキングするという物語です。タイトルの意味がわかる結末は秀逸。

ジーン・リース「懐かしき我が家」
 我が家に帰ってきた女性は、家の変わらぬ部分と変わった部分に当惑を覚えますが…
 茫漠とした雰囲気の中で展開される掌編。切れ味が鋭い作品ですね。

T・コラゲッサン・ボイル「人類退化」
 霊長類センターで働く恋人のジェインが段々と臭い始めてきたことに「わたし」は気付きます。やがて彼女の体からはシラミが出てきますが…。
 段々と野生化していく恋人に当惑する男の物語です。ユーモアたっぷりに描かれる奇妙な味の作品。

アイザック・B・シンガー「敵」
 戦火を逃れアメリカにたどり着いた「わたし」はある日旧友のチャイキンに再会し、彼から奇妙な話を聞きます。船旅をしていたチャイキンは、理由もなく彼に憎悪を向けてくるウェイターと出会ったというのですが…。
 チャイキンの「敵」とは一体何者なのか? そもそも男は実在していたのか? 迫力ある分身テーマ作品です。

ロバート・クーヴァー「暗殺者の夜」
 ヴェネツィアに渡った男の精神的な彷徨を描いた作品です。長篇の一部らしく、事件らしい事件は起こらないのですが、雰囲気はある作品ですね。

メイヴィス・ギャラント「北へ」
 マクラクリンは北へ向かう汽車の中で、幼い子供を連れた母親と出会います。子供は窓から幽霊のようなものを見たというのですが…。
 子供の見たものは何だったのか? 判然としない気味悪さを持つゴースト・ストーリー。

ルイス・スタントン・オーキンクロス「牢窓」
 博物館員のアイリーンはかって捕虜を捕えていたという「牢窓」の展示を強く主張します。やがて博物館内で不思議な事件が多発するようになりますが…。
 事件は霊現象なのか? シャーリイ・ジャクスンを思わせる作品です。

ウイリアム・ゴイエン「幽霊と人、水と土」
 死んだ前夫レイモン・エモンズは、かっての妻の前に幽霊として現れ続けますが…。
 前夫の幽霊を背景に女性の人生が語られるという作品。女性の語りの認識と客観的なそれが異なっているという「信頼できない語り手」ものでもあります。

ジョン・エドガー・ワイドマン「熱病」
 18世紀末、黄熱病が流行するフィラデルフィアの街を舞台に、医師とともに治療に回る黒人男性の意識を追った物語。黒人差別のテーマが見え隠れするほか、人を選ばず殺していく黄熱病の凄まじさもまた描かれるという、迫力ある一篇です。

パトリシア・ハイスミス「ブラック・ハウス」
 叔父と共に暮らす青年ティムは、町の男たちが皆「ブラック・ハウス」についての思い出話で盛り上がるのに気がつきます。しかし、幽霊屋敷のようなその家に実際に行ってみようという者はいないのです。ティムは実際にその家を訪れようと考えますが…。
 「幽霊屋敷」そのものではなく、「幽霊屋敷」をめぐる人々の心の動きをテーマにしたユニークな作品です。超自然現象は全く起こらないながら、非常に「怖い」作品といえますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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