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奇妙な味の物語  ウイリアム・ハリスン『ローラーボール』
ローラーボール (ハヤカワ文庫NV)
 ウイリアム・ハリスンの短篇集『ローラーボール』(小鷹信光ほか訳 ハヤカワ文庫NV)は、純文学と〈奇妙な味〉の中間のような味わいの作品集です。

 近未来、試合内で殺人までが許されるようになったスポーツを描く「ローラー・ボール」、傭兵として世界を遍歴した男の計画について語られる「戦士」、人気のない辺境に住み着いた老人と雑貨店主との心の交流を描く「世捨て人」、超自然的な能力を持つ青年が魔術として活躍する「青い穴の中へ」、おばに導かれて食べることに官能的な魅力を見出す男を描く「暴食の至福」、大家族を養う父親の生活を子供の目線から語るノスタルジックな「ピンボール・マシン」、キャッチフレーズにより成り上がった男がその人生を語る「惹句王」、資格の勉強をする夫を養うため厨房で働く若い妻と中年の料理人の奇妙な恋の行方を語った「ある料理人の話」、火事の現場で何度も幻覚と遭遇する消防士を描く「よろこびの炎」、禁煙療法を実践するための船でタバコを密売する男を描いた「良き船、エラズムス」、女好きの鉛管工の幻想を描く「床の下」、飛び抜けた実力を持つ砲丸投げ選手の青年を描く「涅槃と神々の黄昏と砲丸投げ」、天候をコントロールできると信じている気象観測官を描く「気象観測官、ある神学的独白」を収録しています。

 純文学的な作品と、異色短篇、いわゆる〈奇妙な味〉的な作品とが入り交じったような、不思議な味わいの作品集です。
 「世捨て人」「ピンボール・マシン」「ある料理人の話」などは明らかに純文学的なスタイルで描かれているのですが、そこには妙な「くせ」があるのですよね。
 一方、異色短篇的な「青い穴の中へ」「暴食の至福」「よろこびの炎」「良き船、エラズムス」「気象観測官、ある神学的独白」なども、妙なわかりにくさがあって、一概に「こういう話」と要約できないような難しさがあります。
 解説ではこのあたり、ハリスンの作風について「知的なショッカー」「テーマのない寓話」という言い方をしていて、なるほどという感じではありますね。
 映画化された表題作「ローラー・ボール」にしても、派手な題材を扱ってはいるものの、「殺人スポーツ」という目立つところにはスポットがあまり当たらず、主人公であるスター選手の心理描写がメインに描かれていくという作品です。

 超自然的な力で別の空間「青い穴」に隠れることができる青年を描いた「青い穴の中へ」や、火事の現場に行くたびに怪しい幻覚を見続ける消防士を描いた「よろこびの炎」、禁煙療法が実践されている船の中でタバコを売り歩く男を描いたブラック・ユーモア味の濃い「良き船、エラズムス」などは、エンターテインメントとしても非常に面白い作品です。
 美食家のおばに導かれた男がやがてあらゆる物質に食欲を抱くようになるという「暴食の至福」や、超人的な身体能力を持つ砲丸投げ選手の男がひたすら砲丸を投げ続けるという「涅槃と神々の黄昏と砲丸投げ」などは、シュールな味わいがあって、これはこれで捨てがたいですね。

 この短篇集の収録作は主に1970年代前半に書かれています。短篇のいくつかは、1970年代に「ミステリマガジン」に掲載されていて、その当時にはいわゆる「異色短篇」的な惹句がついていたように思います。ただ今読むとハリスンの作品は、それらとはちょっとベクトルが異なる作品のようです。
 とにかく、かなり風変わりな作品集なのは間違いないので、変わった小説を読みたい方にはお薦めしておきましょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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