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幻想のショーケース  恒川光太郎『白昼夢の森の少女』
白昼夢の森の少女
 恒川光太郎『白昼夢の森の少女』(KADOKAWA)は、様々な媒体に発表された作品が集められており、バラエティに富んだ幻想小説集になっています。

 一人のときにしか見えないという幻の巨人を描く「古入道きたりて」、突如焼け野原で目覚めた記憶喪失の男を描く「焼け野原コンティニュー」、ある日襲ってきた蔦により半植物化してしまった少女を描く「白昼夢の森の少女」、乗ったら二度と故郷には戻れないという船を描く「銀の船」、椰子の実から生まれたと話す奇妙な女を描く「海辺の別荘で」、毬に変身してしまった少年の物語「オレンジボール」、命令されるとその通りに動かされてしまうという謎の人形をめぐる「傀儡の路地」、突然「平成のスピリット」から電話を受け取ると言う「平成最後のおとしあな」、少年時代の不思議な体験を語るという民話風の奇談「布団窟」、生まれつき視力が悪い代りに人には見えないものが見える少年を描く物語「夕闇地蔵」の10篇を収録しています。
 どれも面白いのですが、特に印象に残ったのは「焼け野原コンティニュー」「白昼夢の森の少女」「銀の船」「傀儡の路地」などでしょうか。

 「焼け野原コンティニュー」は、気付けば記憶を失い、焼け野原に立っていた男が主人公。何が起こったのか生存者を探しますが…というお話。「破滅SF」を一ひねりした設定が面白く、物悲しさのあるお話です。

 「白昼夢の森の少女」は、突然現れた蔦に襲われた人々が半植物化してしまうという物語。そこから切り離されると死んでしまうのですが、その代わりに植物化した人々は夢の世界を共有し、普通の人間より長生きできるということがわかります。
 殺人を犯して逃亡していた少年が植物化して夢の世界に侵入したことが判明し、警察は彼らを調査に訪れますが…。
 単純に「いい話」にならないところがまた魅力的ですね。

 「銀の船」は、特定の人にだけ見え、ある年齢までにその船にたまたま出遭えた人だけが乗れるという、空を飛ぶ船を扱った物語。主人公の少女は船に出会い選択を迫られます。同時に乗れるのは一人だけだというのですが、少女はその時妊娠していたのです…。
 「人生の選択」や「過去の後悔」などについて考えさせてくれる、寓意に富んだ物語です。最後に明かされる、船のオーナーの真意もこの著者らしい皮肉が出ていますね。

 「傀儡の路地」は、命令されるとその通りに行動してしまうという人形を持つ女「ドールジェンヌ」をめぐる都市伝説風の物語。
 引退して散歩を楽しんでいた主人公は、殺人事件に巻き込まれてしまいますが、犯人は自分の意思ではなく「ドールジェンヌ」がやらせたのだと話します。
 直後に「ドールジェンヌ」と遭遇した主人公は、ほかにも被害者がいるのでないかと考え、ネットで仲間を集めますが…。
 超自然的な存在「ドールジェンヌ」をめぐって展開される物語なのですが、どんどんと予想外の方向に行ってしまうのが非常に面白い作品です。この作品集の中では一番の面白さですね。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
長編も良いけど短編集はもっと良い。
どれも「いい話」だけでは終わらない不思議な美しさと切なさを併せ持っています。装丁の少女の顔が樹に隠れて見えないのが想像を掻き立てる。「銀の船」に乗ったからといって幸せな天国が待っている訳ではないのですね。「海辺の別荘で」のトーストが印象に残りました。6ページの短い話ですが一番好きです。
【2019/09/08 16:45】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
どれも一抹の影があって、そのあたりも魅力的な作品集ですよね。「海辺の別荘で」も短めですが、面白い話でした。
【2019/09/08 17:04】 URL | kazuou #- [ 編集]

「白昼夢の森の少女」読みました。
私は「平成最後のおとしあな」が好きです。一本取られました。
「銀の船」「オレンジボール」と3話が印象的でした。

…いちばん好きな話が、結構分かれますね(笑)。
【2019/12/18 21:25】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
バラエティ豊かな作品集だけあって、好みもそれぞれですね。「平成最後のおとしあな」もちょっとぶっとんだ発想で面白く読みましたよ。
【2019/12/19 19:40】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
2019年10月に作成した「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を盛林堂書房さんで通信販売中です。
2019年12月に同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を刊行予定(盛林堂書房さんで通販予定です)。



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