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不可思議な物語  アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』
千霊一霊物語 (光文社古典新訳文庫)
 アレクサンドル・デュマ『千霊一霊物語』(前山悠訳 光文社古典新訳文庫)は、作者のデュマ自身を語り手に、集まった人々が不思議な話や怪奇譚を語ってゆくという、枠物語形式の怪奇幻想小説です。

 狩のためフォントネ = オ = ローズ市を訪れていたデュマは、女房を殺した男が自分を捕らえてほしいと、市長の家に自首してくる場面に出くわします。その男ジャックマンは、首をはねたはずの妻が口を聞いたと錯乱していました。
 現場検証に付き合うことになったデュマは、ルドリュ市長の自宅に招かれ、訪れていた客たちの話を聞くことになります。市長を初め、客たちの話は皆この世の常識でははかり知れない事件ばかりでした…。

 さまざまな怪奇譚が複数の登場人物から語られてゆくという枠物語なのですが、これらのエピソードが完全に独立しているのではなく、枠物語の大枠の物語と自然な形で溶け込んでいるのが見事ですね。
 単純に超自然を受け入れるのではなく、超自然的な現象が実在するのかどうか、という議論が登場人物間でかわされ、その例証という形でエピソードが語られるという流れが非常に上手いです。
 このあたり、本作でも名前が言及されるホフマンの枠物語『セラーピオン朋友会員物語』の影響もあるのでしょうか。

 冒頭の殺人犯ジャックマンのエピソードから、シャルロット・コルデーの生首のエピソード、そしてルドリュ市長自身が語る革命期の話に至る流れは、ギロチンと断首をめぐる物語、ロベール医師が語るイギリスの判事の話は無実(?)の男を死刑に追いやり、その後霊現象に悩まされるという物語、ルノワール士爵が語るのは、革命期に荒らされた王墓での呪いを描く物語、ムール神父が語るのは救いを求めて死後動き出す泥棒の死体の物語、文人アリエットが語るのは死を超える夫婦愛の物語、グレゴリスカ夫人が語るのはカルパチア山脈における吸血鬼をめぐる物語、になっています。

 様々なテーマの怪奇作品が味わえる、楽しい作品集になっています。特に最後に収められているグレゴリスカ夫人のエピソードでは、超自然的なテーマそのものだけでなく、山の中の古城、憎しみあう父親違いの兄弟、呪われた血、令嬢との秘密の恋などの、ゴシック・ロマンス的な要素が強いです。
 このエピソードでもそうですがストーリーテラーのデュマらしく、他のエピソードでも波乱万丈の展開が楽しめます。
 例えば市長が語るエピソードでも、革命政府から人を逃がそうとする計画が描かれたり、グレゴリスカ夫人のエピソードでも山賊との戦い、兄弟の争いなど、ハラハラドキドキ感が強烈です。

 エピソードを語る登場人物たちもそれぞれ個性がありますが、特に目立つのは市長のルドリュと文人のアリエット。
 ルドリュは超自然現象に対して一面で受け入れ、また一面では批判的だったりと、非常に懐の広い人物。殺人犯ジャックマンに対しても同情的だったりと、人間味の深い人物でもあります。
 アリエットの方は、ジャック・カゾットを信奉する神秘主義者で、嘘か真かなんと数百年も生きていると豪語するのです。

 このデュマの『千霊一霊物語』、確かマルセル・シュネデール『フランス幻想文学史』(国書刊行会)のデュマの項目に言及があったはず…と思い本を開いてみるとありました。
 デュマの項目自体が「ホフマンの名による変奏曲」と題された章にあるのを見ると、『千霊一霊物語』もホフマンの影響下で書かれた作品といってもいいのでしょうか。
 シュネデールの記述によると、ロベール医師が語るイギリスの判事が霊現象に悩まされるというエピソードは、シャルル・ラブー「検察官」という作品の焼き直しの感が強いとのことでした。

 幸いこの作品は邦訳があるので読んでみました。
 シャルル・ラブー「検察官」(加藤民男訳 窪田般彌、滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選1』(白水社)です。
 ドサルー検事は自らの権勢欲のために、無実と思しいピエール・ルルーという男を死刑にしてしまいます。
 その直後に血まみれのルルーの首が現れるのを目撃したドサルーは精神を病んでしまいます。病が癒えたころ、美しい花嫁をもらいうけたドサルーは、眠り込んだ花嫁のそばにルルーの首が横たわっているのに気がつきます…。

 超自然現象が起こったのか、罪の意識によって精神を病んだ男の妄想なのか、どちらとも取れるようになっている作品です。非常に暗いテーマの話でありながら、全体の記述はコミカルに描かれており、この作品自体もどこか「ホフマン的」です。

 シャルル・ラブー(1803-1871)はフランスの作家で、バルザック作品の補筆をしたことでも知られています。邦訳は他に、亡くなった母の魂をヴァイオリンに封じ込めるという幻想小説「トビアス・グワルネリウス」(川口顕弘訳『19世紀フランス幻想短篇集』国書刊行会 収録)があります。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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