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夢の中で生きる男  半村良『夢中人』
夢中人 (祥伝社文庫)
 半村良『夢中人』(祥伝社文庫)は、夢をテーマにした幻想的な連作長篇です。どこからどこまでが夢なのかわからないという、不思議な雰囲気が味わえます。謳い文句の「長編奇想小説」が楽しいですね。

 孤独を愛する小説家の「私」は新しく出来たホテルの常連客となり、家にも帰らずホテルにこもっていました。ある夜見たことないホテルマンから常連客だけに案内するというオーナーズ・バーに招待されますが、そこから「私」は不可思議な現象に出会うことになります…。

 小説家の「私」が夢に関わるいろいろな事件に遭遇する…という話なのですが、各エピソードの語り手が本当に「私」なのか、そもそもエピソード同士に関わりがあるのかどうかもはっきりしません。
 夢をテーマにした話らしく、「私」の固有名詞も出てこず、登場する他のキャラたちも一部を除いて代名詞で著されるなど、非常にもやもやした物語になっています。とはいえ、面白く読めるのはやはり著者の筆力でしょうか。

 最初は個々の現象に出会う連作という感じなのですが、中盤から「私」の甥の会社で発生した毒殺事件がクローズアップされ、その事件の謎が追及されるという展開になっていきます。ただ夢の話であるので、その「捜査」も夢の中を歩くよう。そもそも殺人が本当に起きたのか夢なのかもわからないのです。
 夢の中の犯罪を取り締まる「夢中署」とその刑事が登場するのもユニークです。刑事は本当に存在するのか、それとも「私」の夢なのか?

 「信頼できない語り手」というモチーフがありますが、この作品では語り手自身、自分で自分が信用できないのです。
 夢の中に閉じ込められ同じ夢を繰り返すという悪夢めいたエピソードがあるかと思えば、夢の中で二人に分裂した「私」が夢の中の女性をめぐって争うというユーモラスなエピソードもありと、登場するモチーフも多種多様。
 夢という曖昧模糊としたイメージを上手くエンタメ作品に仕上げた作品です。

 著者の半村良には「夢の底から来た男」「 夢たまご」「夢あわせ」など、「夢」をテーマにした作品が結構あります。著者お気に入りのテーマだったのかもしれませんね。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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