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『翻訳編吟』を読む

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 文学フリマで頒布しているサークル「翻訳ペンギン」さんの『翻訳編吟』は、英米の幻想的な小説作品の翻訳を集めた良質なアンソロジー。感想をまとめておきたいと思います。



『翻訳編吟』

メアリ・ド・モーガン「ナニナの羊」
 羊の世話をしている女の子のもとへ、フルートを吹く少年がやってきて羊をどんどん連れ去ってしまう…という物語。少年が非常に怖いです。

L・デュイックウッド「ニワトリになった女の子」
 タイトル通り、魔法でニワトリにされてしまう女の子の物語です。意識までニワトリになってしまうところが怖いですね。物語のトーンが妙に陽気なのも結末の怖さを引き立てている感じです。

ルクレティア・ピーバディー・ヘイル「塩入コーヒーをおいしく飲む方法」
 間違って塩を入れてしまったコーヒーをめぐるスラップスティックな作品。《ピーターキン一家もの》のシリーズらしいです。



『翻訳編吟2』

M・P・デア「知られざるイタリア人」
 語り手の青年は、神父から不思議な話を聞きます。神父は、ある日泊まった宿に飾られた小さな油彩画に目を留めます。16世紀か17世紀に書かれたのではないかと考える神父に対し、宿の女主人シェリー夫人は、自分が書いた絵だというのです。
 「巨匠」といっていい技術に驚く神父でしたが、夫人は自分に絵など描けないといいます。子供の頃から霊感のあった夫人はいつごろからか絵筆を持ちたい衝動にかられ始め、筆を握った後は手が動くにまかせているというのです。やがて夫人はイタリアの邸宅内で鷲鼻の黒衣の男と出会う夢を見ますが…。
 M・P・デアは、M・R・ジェイムズの影響を強く受けた作家だそうです。夫人の霊能力など、オカルト的な要素が出てきますが、その真相や因果関係については最後まで語られません。小粒ながら、味わいのある作品だと思います。

L・M・モンゴメリ「エリスとエルダーベリー」
 怠け者の父親が死んだ後、父親の悪評のために仕事を見つけることもできない息子を描く物語。彼が唯一手に入れたのは、膨大なエルダーベリー(ニワトコ)を抜く仕事だけでした…。
 努力は報われるという、いい話でした。

スーザン・クーリッジ「二組の目 運の良い者と悪い者」
 いとこ同士の少年ジャンとルイを描く物語。ジャンは、いろいろ幸運な目に会うのに、ルイはそうではない。二人の違いは何なのか?
 一見「教訓物語」に見えますが、実はちょっとシニカルな視線を感じる作品ですね。

メアリ・ド・モーガン「金貨のゆくえ」
 行商人が持ってもいないのに金貨二枚を上げると言い、ロバに荷物を運ばせます。ロバはハエを追い払ったら金貨三枚を払うとカラスを雇います。カラスはイワヒバリを雇い…と、お金を持っていない連中がそれぞれ別の生きものを雇う…という物語。
 楽しい童話です。



『翻訳編吟3』

ジョン・ケンドリック・バングス「ハロビー館の水幽霊」
 ハロビー館には数百年前から女の幽霊が取り憑いていました。クリスマス・イヴの十二時になると、ある部屋に水浸しの幽霊が出るのです。館の歴代の当主は彼女を追い払えずにいました。当代の主はある手段を考えますが…。
 「科学的」に攻める当主の行動が非常に楽しいです。この作品、旧訳が存在しますが(『幻想と怪奇2』ハヤカワ・ミステリ 収録)、本書収録の新訳では、読みやすさもさることながら、作品のユーモラスな味が良く出ていると思います。

ライマン・フランク・ボーム「強盗の箱」
 小さなマーサは屋根裏に何年も置いあった箱に気がつきそれを空けようとします。イタリアからウォルターおじさんが送ってきたものでした。ようやく鍵を探し当て開けてみると、中から3人の男が現れます。彼らは強盗だと言うのですが…。
 箱から突然現れる男たちという、何ともシュールな題材を扱っています。箱や男たちについて何の説明もされず、結末も非常にナンセンス。後を引くような味わいがありますね。

ルーシー・モード・モンゴメリ「クリスマスのひらめき」
 クリスマスの夜、孤独なミス・アレンにプレゼントをしようと思いついた少女たちを描くクリスマス・ストーリー。読後感のいい作品です。

フランク・R・ストックトン「幽霊の転職」
 滞在先の令嬢マデレンに恋をしている「僕」は、彼女の伯父ジョン・ヒンクマンにマデレンとの結婚話を打ち明けるべきか悩んでいました。そんなある夜、まだ生きているはずのジョン・ヒンクマンの「幽霊」が現れます。
 「幽霊」が語るには、幽霊は人間が死ぬ直前にその人間の姿になり、死んだ後にその人物の幽霊になるというのです。死ぬはずのジョン・ヒンクマンが生きながらえてしまったため、「幽霊」はジョン・ヒンクマンの姿のまま彷徨っているというのですが…。
 男女の恋物語と「幽霊」の転職話が同時進行するという楽しい作品。この作品を読むと、当時作者のストックトンが人気があったというのがわかる気がします。ちなみにストックトンは、有名なリドル・ストーリー「女か虎か」の作者ですね。

メアリ・ド・モーガン「小鬼のパン」
 ある日怒りっぽいパン屋の前に現れた小鬼は、かまの中で住まわせてもらう代わりに、パンが上手く焼けるようにしてやると請合います。ただし、そのパンを食べた人間が少し不幸な気分になるというのですが…。
 ブラック・ユーモアも感じられる作品です。何か教訓やひっくり返しがあるのかと思いきや、そのまま終わってしまうのには驚きます。ファンタジー要素の強い童話作品。

A・E・コッパード「過ぎ去りし王国の姫君」
 小さな王国の姫君は、美しい詩人の若者に出会い恋をします。しかし若者は姫君を愛しているとは言ってくれません…。
 作品の色彩が豊かで、イメージの美しさが印象に残ります。



『翻訳編吟4』

M・P・デア「非聖遺物」
 グレゴリー・ウェインは、研究の調査のためフランスのトゥールーズを訪れます。近くのサン・セルナン大聖堂にイングランドの聖人ふたりの聖遺物が保管されていることを聞いたグレゴリーは、そこを訪れることにします。
 現地のサルー神父によると、かって16世紀にアモリ・ド・モワサックなる人物が大聖堂のクリプト(地下祭室)で死者を甦らせるための実験を行ったというのですが…。
 作者のデアは、M・R・ジェイムズの影響を強く受けた作家だとのこと。古い歴史や学術的な描写が積み重ねられていく中で、オカルト的な現象が立ち上がってくる…という流れは、確かにジェイムズに似ていますね。
 後半の「クリプト」内で展開される怪奇現象は視覚的にも強烈なもので、20世紀前半の作家の作品とは思えないほど。日本ではあまり知名度のない作家だと思いますが、これは怪奇幻想小説の名品といっていいのでは。

アンナ・レティシア・バーボールド「騎士バートランド ~呪われた古城での一夜」
 騎士バートランドは、夜に荒野で迷ってしまいます。突如現れた古城に一夜の宿を求めようと考えますが、その城では奇怪な現象が起こっていました…。
 18世紀の作家による、ゴシック小説風の作品です。短めながら、古城、囚われた乙女、悪漢の亡霊など、ゴシック的な要素が揃っているのが特徴です。ゴシックの原型的な作品として研究書でも言及されることのある作品ですが、全体の印象としては「妖精物語」的な印象も強く、今読んでも面白いですね。

ルーシー・モード・モンゴメリ「約束」
 死の床にあったローレンスさんは、若くして亡くなった恋人マーガレットが自分を迎えにきてくれると話します。「私」は庭で見たことのない美しい女性を見かけますが…。
 シンプルながら雰囲気のあるジェントル・ゴースト・ストーリー。「私」ことジャネットが、亡くなったマーガレットの遠縁であり彼女の面影を持っているというのが、物語に彩りを添えています。

フランク・R・ストックトン「最後のグリフィン」
 とある町の古い教会にグリフィンの巨大な石像があることを知った最後のグリフィンは、その像を見るために町にやってきます。案内役をした若い神父を気に入ったグリフィンは彼についてまわり、町の人々を困惑させますが…。
 グリフィンがやってきた町の様子を語るファンタジー作品です。怪物とされるグリフィンがモラルも高く高潔なキャラクターとして描かれるのに対して、町の人々は利己的で愚かな人間として描かれるなど、寓意的な要素も強いですね。
 グリフィンの最期を描くシーンには、非常に味わいがあります。

R・H・モールデン「日没と月の出のあわいに」
 語り手は、神経衰弱になり亡くなった旧友の遺稿から、彼が神経衰弱になった原因と思しき内容の書類を発見します。牧師だった旧友は、よそからやってきて教区内に住み着いたミセス・フリーズに気まずさを感じていました。まるで魔女のような風貌の彼女は、村の人々から敬遠されていたのです。そんなある日、旧友は霧がかった道で奇怪な現象を目撃します…。
 シンプルな作りの怪奇小説なのですが、登場する怪奇現象(悪魔、悪霊?)の因果的な説明が全く加えられないため、不条理感・戦慄度の高い作品になっています。
 旧友の目撃する怪奇現象に非常にインパクトがあります。数十人の人影が半分ぐらいになったり、くっついたり巨大になるなど、このシーンは怖いですね。


分載されていた、ブラックウッド作品についてはまとめて感想を。

アルジャーノン・ブラックウッド「アザーウィング」
 古い屋敷に住む幼い少年が主人公です。夜に自分の部屋をのぞき込む「何者か」が、屋敷の〈別翼〉に住んでいると確信した少年は〈別翼〉を訪れる…という物語。
 舞台となる屋敷の雰囲気が素晴らしく、幼い少年の心理描写も瑞々しい作品でした。
 「怪奇小説」というよりは「ファンタジー」に近い作品だと思いますが、すでに邦訳のあるものだと『ジンボー』とか『妖精郷の囚われ人』に近い雰囲気の作品ですね。原題の"wing"は、作品に登場する「何者か」が「翼」を持っているということと、建物の「翼」をかけたタイトルなのでしょうか。



『翻訳編吟5』

T・W・スペイト「深夜のお迎え」(伊東晶子訳)
 軍人のスタンドリル大尉と結婚し、離れて暮らしていた姉アリスは実家に帰ってきますが、夫と別れた理由を家族に明かそうとはしません。夫からの手紙の影響で体の調子を悪くした姉の容態が悪くなり、医者を呼びにいくことになった妹の「わたし」は、急ぎのためにスケートで運河を横切ることになりますが、スケートで滑っている最中に後ろから何者かが追いかけてくるのに気がつきます…。
 追いかけてくるのは何者なのか? スケートで追いかけてくる幽霊という、面白い趣向のゴースト・ストーリーです。

メアリ・ド・モーガン「小鬼のパン」(澤田亜沙美訳)
 パンの焼き加減に悩んでいた短気なパン屋は、突然現れた小鬼の提案に従うことにします。小鬼をかまの中に入れればちょうど良い焼き加減のパンを作れるようになるというのです。ただし、そのパンを食べた人間は不幸な気持ちになるといいますが…。
 ちょっとブラック、不条理味もある寓話的な童話作品です。

ヘンリー・ドヴィア・スタックプール「まぼろしのチューリップ」(野島康代訳)
 富を得るため、高名な学者ヴァン・ホーテンの提案にしたがって、二人でエジプトに幻のチューリップの球根を探しに訪れたフォン・ドゥンク。何とか目的のものを手に入れた二人でしたが、現地のガイドにだまされて荷物を盗まれてしまいます…。
 これはなかなか捻りの利いた作品。主人公の誠意が報われるというラストも良いですね。お話自体が、娘にお話をねだられた父親の即興話のような形で展開するのも洒落ています。

A・A・ミルン「おとぎ話の現実」(青山真知子訳)
 王国の三番目の王子チャーミングは、カメに変えられた兄を助けたいというビューティー姫の頼みをかなえるため、巨人を殺そうと旅に出ますが…。
 おとぎ話をおちょくるというパロディ的な作品です。定番の設定をことごとくひっくり返すところが面白いですね。

フランク・R・ストックトン「キラキラ光る」(斉藤洋子訳)
 大型客船から、プリマドンナのシニョーラ・ロキータが落としたという高価なダイヤモンドのブレスレット。落とした場所のあたりをつけた潜水夫の「私」は、潜水中に突如サメに襲われてしまいます…。
 落としたブレスレット探しの物語がとんでもない方向へ。まるで「風が吹けば桶屋が儲かる」を物語にしたようなユーモアたっぷりな作品です。

ルーシー・モード・モンゴメリ「訪問者」(大澤聡子訳)
 誰に対しても分け隔て無く善行を施していたスティーブンじいさんは、それゆえに財産をすり減らし、やがては住む土地から追い出されようとしていました。
 財産を作りその村に帰ってきた、かっての無頼漢ベン・バトラーは、昔老人から受けた恩を思い返しますが…。
 善意は報われる…という非常に後味の良いヒューマン・ストーリーです。

アルジャーノン・ブラックウッド「恐喝者たち」(水野美和子訳)
 妻子と順風満帆な生活を送るアレグザンダーのもとに突然現れた恐喝者ローソン。彼はアレグザンダーが過去に書いた手紙を何通も持っているというのです。それらの手紙を小出しにしてお金を請求するローソンでしたが、どう見てもローソンは紳士であり、そのようなことをするような人物には見えないのです…。
 恐喝する方もされる方もどちらも善人だという、面白い設定の物語です。物語がどう動くかわからない心理的なサスペンスは強烈ですね。幽霊物語としてももちろん、「奇妙な味」の物語としても興味深い作品です。



『翻訳編吟6』

イーディス・ネズビット「ごちゃまぜ鉱山」
 難破船から流れてきた箱を拾ったエドワードは、箱の中に入っていた望遠鏡を見つけます。その望遠鏡は、覗きこんだ物を大きくしてしまうという不思議な品物でした。友人になったガスタスとともに、様々な物を大きくして遊ぶエドワードでしたが…。
 見たものを大きくする魔法の望遠鏡を扱ったファンタジー作品です。二人の少年が魔法の効果を検証していく過程がすばらしく面白いです。友人のガスタスが貧しい家庭の出身で、経済的な効果を期待して望遠鏡を使おうとするところも興味深いですね。
 ガスタスのキャラクターが立っていて、将来は泥棒になると宣言するガスタスが本当に泥棒しに忍び込んでくるところに笑ってしまいます。これは傑作。

W・クローク採集、W・H・D・ラウズ再話「かしこい亀 インドの昔話より」
 猟師に捕まったガンを助けようとする亀を描いた物語。欲をかいた猟師がだまされるのが痛快ですね。

ワシントン・アーヴィング「アルハンブラのバラ」
 ムーア人が撤退した後のグラナダ、かってムーア人王女が住んでいたという塔でおばと暮らす娘ハシンタは王妃に仕える小姓ルイス・デ・アラルコンに恋をしてしまいます。
やがて王族たちとともに街を離れてしまったルイスを思い続けるハシンタは、ムーア王女の幽霊に出会いますが…。
 かって恋に破れて死んだムーア人王女の霊の手助けにより恋を成就する娘の物語です。ハシンタが手に入れることになる銀のリュートとそれによって奏でられる音楽が魅力的に描かれています。

W・クローク採集、W・H・D・ラウズ再話「スズメの夫婦 インドの昔話より」
 自分の食事まで食べられたことに怒ったスズメの妻が夫を井戸に落としてしまうことになりますが…。
 スズメの夫婦の仲が壊れそうになるものの、無事に元の鞘に戻るという物語です。騙されることになるネコもそんなに怒ってはいない感じなのが良いですね。

ルーシー・M・モンゴメリ「ダベンポートさんのはなし」
 幽霊話に興じている「ぼく」たちのところにふと現れたダベンポートさんは、自分が体験した実話を話し始めます。それは姪をかわいがっていたダベンポートさんの兄チャールズが死後にその姿を現したという話でした…。
 愛していた姪を救うために死後に姿を現す幽霊を描いた物語。シンプルながら味わいのあるゴースト・ストーリーです。

メアリ・ド・モーガン「風の妖精」
 粉引きの父親に育てられた娘ルーシラは、風の妖精たちから彼らの踊りを習います。しかしそのことを他人に言ってはいけないと諌められます。やがて結婚し二人の子供も授かったルーシラは、お金を稼ぐために、よその王国の王に踊りを見せに出かけます。
 踊りは賞賛されるものの、嫉妬に囚われた王妃の陰謀によりルーシラは捕らえられてしまいますが…。
 風の妖精との約束を守り続けるヒロインが苦難から救われる、というファンタジー作品。ヒロインを襲う災難が不条理かつ苛酷なだけに、結末にはカタルシスがありますね。

W・クローク採集、W・H・D・ラウズ再話「ツグミの話 インドの昔話より」
 知恵者のツグミは手に入れた綿から素敵な服を作ってもらいます。服を身に着けたツグミは王様の前でその姿を見せますが、悪い王はツグミをバラバラにして食べてしまいます…。
 ツグミが服を手に入れるまでの前半も楽しいのですが、食べられてしまったツグミがそれでも不幸を訴え続ける…という後半はなんともシュールな展開で驚かされます。なかなか凝った物語になっていますね。

ラフカディオ・ハーン「オテイの話『怪談より』」
 医者の息子ナガオの恋人オテイは、病により早世してしまいます。しかし死の床でオテイはこの世に再び生まれ変わったら一緒になってほしいと話します…。
 生まれ変わりをテーマとした物語です。外国から見た日本の感覚を表現するために、わざと日本の地名や人名をカタカナ表記にしているとのことなのですが、なかなか味わい深い翻訳になっているように思います。

O・ヘンリー「もう一ラウンド」
 マーフィー夫人の下宿屋に住むマカスキー夫妻は、いつもどおりの夫婦喧嘩を繰り広げていましたが、マーフィー夫人の幼い息子マイクが行方不明だという話を聞くに及び、互いに対し思いやりの気持ちが浮き上がるのを感じます…。
 下宿のおかみの子どもの行方不明事件をきっかけに、授からなかった子どものことを思う夫婦の心情が描かれるという短篇作品です。結末のユーモア感も洒落ていますね。

 どの巻も、上質な訳文と良質なセレクションで楽しめるアンソロジーになっています。文学フリマに足を運ばれる方には購入をお薦めしておきたいと思います。



『翻訳編吟7』

アルジャーノン・ブラックウッド「怪しい贈り物」(青山真知子訳)
 二人の男と部屋をシェアしている、貧乏暮らしのブレイクは、空腹に耐えながら書き物仕事をしていました。部屋に突然訪ねてきた見知らぬ男は、匿名の人間からブレイクに対して大金を預かってきたと言うのですが…。
 現実的な恐怖を扱ったサイコ・ホラー作品といったところでしょうか。突然現れた男の挙動の不気味さが印象的です。オチはちょっと脱力してしまうところではありますが、恐怖度はかなり高い作品ですね。

メアリー・E・ペン「オリエント荘の怪」(伊東晶子訳)
 冬の間ニースに別荘を借りることにしたイギリス人女性たち。誰もいないはずの別荘に、時折現れる外国人女性を不審に思いますが、彼女は別荘の持ち主ヴァレルと別れて既に祖国に帰ったという夫人ではないかと、不動産屋から聞きます。
 マダム・ド・ヴァレルの不可思議な行動を見守るイギリス人女性たちでしたが、ある日突然、家主のヴァレルが現れます…。
 外国人だということもあり、マダム・ド・ヴァレルらしい女性が不審な行動をしていても、彼女が生者なのか死者(幽霊)なのかが微妙なままに物語が進む…というところがポイントでしょうか。
 お話自体は、オーソドックスな幽霊の復讐物語なのですが「ヒロイン」にエキゾチックな特性を与えているところは興味深いですね。

マーク・トウェイン「生きているのか、死んでいるのか」(野島康代訳)
 リヴィエラにやってきた「私」は、リヨンの引退した絹織物業者だというマニャンという老人が、悲しそうな様子をしているのを見て興味を惹かれます。
 知り合いになったスミスという男から、マニャンの過去について聞かされたのは、奇想天外な話でした…。
 これは何とも愉快で珍妙なほら話。タイトルは、スミスが語る話の内容が本当なのか嘘なのか、をあらわしたものでしょうか。現代で言うところの「コン・ゲーム」的なテーマを扱っており、非常にモダンな魅力を持った作品です。

ルーシー・モード・モンゴメリ「オズボーン家のクリスマス」(大澤聡子訳)
 クリスマスの行事そのものに飽きてしまったオズボーン家の子どもたち。彼らのもとを訪れたいとこのマイラは、恵まれない子どもたちにクリスマスのおすそわけをしてみてはと提案します…。
 これは心温まるクリスマス・ストーリー。オズボーン家の子どもたちが、恵まれない子どもたちに対しても偉ぶることなく対等な立場で接する…というところも良いですね。

フランク・R・ストックトン「マジックエッグ」(斎藤洋子訳)
 ローリングは小さな劇場を借り、新機軸の出し物を上演することにします。インドの魔術であるという<マジックエッグ>を披露し、観客はその不思議な魅力にとらわれてしまいます。
 しかし、遅れて劇場に入ってきたローリングの恋人イーディスは、舞台を不審の念を持ったまま眺めていました…。
 ローリングの魔術とはいったい何だったのか…? その結果は、恋人たちの将来をも左右することになるのです。魔術をめぐって、恋人の男と女、それぞれの人生観も明らかになるという、味わい深い作品です。

メアリ・ド・モーガン「池と木」(澤田亜沙美訳)
 荒野の真ん中に立つ木と、その木陰にある小さな池、二人は互いに愛しあっていました。しかし木が珍しい種類のものであることに気づいた人間たちによって、木は掘り起こされ運ばれていってしまいます。
 池は太陽の力を借りて雲となり、木のもとへ向かいます…。
 「木」と「池」の愛を描いた、異色の「恋愛小説」です。自分の姿がどうなっても…という、池の自己献身的な描写も光っていますね。

ルイザ・メイ・オルコット「ドクター・ドーンの復讐」(小椋千佳子訳)
 資産家のメレディスと貧しいマックス・ドーンとの間で揺れていた美しい娘イヴリン。心はマックスに惹かれていたものの、自らの貧しさから結婚を躊躇していました。
 二人のどちらを選ぶのか、女性たちが噂話をしているのを立ち聞きしたイヴリンは、それに影響されてメレディスを結婚相手に選んでしまいます…。
 互いに愛し合いながらも、経済的な理由から別れてしまう恋人たちを描いた悲恋物語です。やがて再会した二人の立場は非常に皮肉なもの。タイトルにある「復讐」がどのような形で訪れるのか、興味深い作品になっています。




テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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