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空想都市と幻想都市  ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説:都市生成論』
方形の円 (偽説・都市生成論) (海外文学セレクション)
 ギョルゲ・ササルマン『方形の円 偽説:都市生成論』(住谷春也訳 東京創元社)は、ルーマニアの作家による、36の空想都市をテーマにした幻想小説集です。
 現実の都市をモデルにしたらしき都市もあれば、完全に空想上の都市もあり、舞台となる時代も古代から未来まで様々、寓話的な展開もあれば、超技術が扱われたSF的な展開もありと、まさに空想・幻想都市小説(というジャンルがあるかわかりませんが)の決定版ともいうべき作品です。

 基本は都市の概観や描写、その起源や変遷といった、都市そのものが主人公であるような描き方なのですが、時には登場人物が主人公となり、都市を探索する物語のような形で展開されることもあります。
 住民の格差がピラミッド型の都市で表された「ヴァヴィロン 格差市」、再建するたびに滅ぼされてしまう都市を描いた「トロパエウム 凱歌市」、老成し過ぎた住民によって滅亡の危機にさらされるという「セネティア 老成市」、巨大なドーム内で人類がどんどん野生化するという「プロトポリス 原型市」、多数の天才たちによって重層的な都市が建設されるという「ムセーウム 学芸市」、等質な都市から等質な住民が生まれてくるという「ホモジェニア 等質市」、自分たちの都市が宇宙船の内部にあることを発見する「コスモヴィア 宇宙市」、月に都市を建設しようとするも精神的汚染が進んでいることがわかるという「セレニア 月の都」、アトランティス滅亡の瞬間に訪れた時間旅行者たちを描く「アトランティス」、悪夢の中の都市を描く「アルカヌム 秘儀市」などを面白く読みました。

 同じ空想・幻想都市を描いていながらも、幻想小説的なアプローチとSF小説的なアプローチが混ざっているのが興味深いですね。
 例えば「ホモジェニア 等質市」。あまりに等質な都市を作ったがために住民までが等質になってゆく…という作品です。後半の展開が圧巻で、家族制度がなくなったのを手始めに、年齢や性差が消失し、完全に同質になった人間が全て同期する…という、シュールかつ幻想的な展開です。
 この作品のように、SF的な設定で始まりながらも、幻想的な結末を迎える作品もあれば、最初から最後までSF風の作品、寓話的な作品もありと、バラエティに富んだ作品集となっています。

 読んでいて、似たテーマを扱った『見えない都市』(イタロ・カルヴィーノ)を思い出すのですが、直接的な影響はないそうです。制作年代は近いのですが、ササルマンはしばらく後までカルヴィーノ作品の存在は知らなかったそうです。
 『方形の円』には、マルコ・ポーロと大ハーンが登場する「モエビア、禁断の都」なんて『見えない都市』を思わせる作品も収録されています。
 直接的な関係はなくても、カルヴィーノ作品にも通底する名作として、これから語られていくことになるのは間違いないと思います。

 イタロ・カルヴィーノやスティーヴン・ミルハウザー、あるいはアンリ・ミショーなど、架空の事物がカタログのように並べられていくという「博物学的幻想小説」が好きな読者にはたまらない作品で、この手の作品が好きな方には強くお薦めしておきたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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