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ファンタジー風SF作品集  グレッグ・ベア『タンジェント』
タンジェント (ハヤカワ文庫SF)
 グレッグ・ベア『タンジェント』(山岸真編 ハヤカワ文庫SF)は、SFというよりは、ファンタジーに近い作品が集められた短篇集です。いわゆるSF的な題材やガジェットを使っていても、ファンタジーのような雰囲気が強いのは、この作家の資質と言うべきなのでしょうか。

 探査計画の失敗により父親を亡くした娘が、小惑星を占拠して地球への墜落を計画するという「炎のプシケ」、孤独なオールドミスの女性が、辞書を使って理想の男性を生み出すという「ウェブスター」、何らかの力によってさまざまな時空からの生命体が集められてしまうという「飛散」、世界を構成していた要素が消失した後の不安定な世界を、中世ヨーロッパ風の世界観で描いた「ペトラ」、お話を語る謎の老夫婦との出会いにより、自らも物語を創造する少年を描く「白い馬にのった子供」などが収録されています。
 とくに印象に残るのは、遺伝子操作を描いた「姉妹たち」、次元テーマの「タンジェント」、童話的味わいの「スリープサイド・ストーリー」でしょうか。

「姉妹たち」
 子供たちの大部分が、遺伝子を操作され、美しい容貌と優れた能力を持つようになった未来、遺伝子を操作されなかった自然体の少女は、彼らに対して劣等感を感じていましたが…。
 遺伝子操作が当たり前になった世界を、学園を舞台に描いた作品です。
 ただでさえ感じやすい思春期の少女が、遺伝子操作された友人たちを見て、自分も遺伝子操作されて生まれてきたかったと訴えます。従来なら優れた能力を評価されるべき少女も、彼らに比べると凡人なのです。しかし、優れた能力の代償か、遺伝子操作された子供たちには恐るべき疾患が隠れていたのです。そんな中、少女の考えも変わっていきますが…。
 生まれつきの能力の長短が全てではない…という、ヒューマニズムにあふれた作品です。

「タンジェント」
 優れた才能を持ちながら、自らの性癖のため、不遇な生活を送っている初老の数学者は、近所に住む韓国人の少年と出会います。少年は別次元を見ることができる能力を持っていました。やがて別次元の知的生命体を見つけた少年は、彼らの世界へと姿を消してしまいますが…。
 自らの居場所を居心地悪く感じている男と少年が、別世界を見つけるという物語。男を支える作家の女性が、脇役としていい味を出しています。

「スリープサイド・ストーリー」
 純真無垢な若者は、母親を助けるため、悪名高い娼婦の館に囚われの身となります。しかし噂とは異なり、娼婦は悪人ではないと知った若者は、彼女に惹かれていきますが…。
 魔法によって美しさと若さを保ち、何人もの夫を持ったという伝説の娼婦。美しい容貌と莫大な富がありながら、彼女は幸福ではないのです。彼女が求めるのは無償の愛。若者は家族の元に帰りたいという思いと、娼婦への思いの間で葛藤します。
 おとぎ話的な雰囲気を持つ作品です。〈美女と野獣〉を反転させたというコンセプトだそうですが、元の作品よりも数段ダークに仕上がっています。というのも、現在も娼婦であることを含め、ヒロインが、かなりの暗い過去と罪を持っているからです。若者はそんな彼女を救うことができるのか? 結末は多少ご都合主義な感じもありますが、非常に読み応えのあるファンタジーです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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