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脳髄の幻想  夢野久作『ドグラ・マグラ』
ドグラ・マグラ (上) (角川文庫) ドグラ・マグラ(下) (角川文庫)
 夢野久作の長篇『ドグラ・マグラ』(角川文庫)、長年の懸案の作品でしたが、ようやく読むことができました。非常に要約が難しく、「奇書」としかいいようのない作品です。

 九州帝国大学の精神病科の独房で目を覚ました青年は、自らに記憶がないことに気付きます。隣の独房では何やら少女が泣き叫んでいました。やがて現れた若林博士は、青年がある殺人事件に関係しており、その詳細を知るためにも記憶を取戻してほしいと語ります。
 青年は、天才と言われた精神病科教授の正木博士が提唱した「狂人の解放治療」計画の重要な対象患者でしたが、正木博士は1ヶ月前に自殺してしまったといいます。若林博士の話、そして正木博士が残した資料を読み進むうちに、青年は、過去の殺人事件には恐るべき因縁が潜んでいることに気がつきます…。

 基本は、青年が博士から聞く話と関連資料とから成っているのですが、途中で正木博士が書いたという論文「胎児の夢」「脳髄論」「キチガイ地獄外道祭文」などが挿入されます。これらの資料があまりにも饒舌かつ読みにくいのです。
 青年が成したであろう殺人には真犯人がいるのではないか? という疑問が途中で提出され、読者としてはその謎が気になるのですが、その間に正木博士の長い文章が挟まれてしまい、物語の流れを何度も中断してしまいます。
 ただ、文庫版にして上巻を超えるあたりから、物語が本格的に動き出し、多少読みやすくなります。一族に伝わる絵巻物の因縁と由来が登場してからは、一気に伝奇色が濃くなり、その面白さで最後まで読めるかと思います。

 ものすごく大雑把に要約すると、先祖の精神病質の遺伝によって現代において惨劇が起こる…というちょっとゴシックっぽい話です。そこに人の手が加わり、独自の思想や哲学が肉付けされていくという感じでしょうか。しかも「語り」が作中で自己否定されたりするので、非常にややこしくなってくるのです。
 日本ミステリの三大奇書の一つとされる作品ですが、これをミステリだと思って読むと、読み切るのは難しいのではないかと思います。幻想小説だと割り切って読む方が読みやすいのではないでしょうか。

 これから読もうと思っている人に一つアドバイスしておきたいと思います。読み始めてしばらくしてから出てくる「キチガイ地獄外道祭文」、「チャカポコ」のフレーズで有名な部分です。ここで挫折してしまう人が結構いると思うのですが、正直ここは読み飛ばしても、物語を読み取るのにそうそう影響はないと思います。ここで挫折してしまうよりは、読み飛ばしてでも話を先に進めた方がいいのじゃないかなと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
2回だったかな。
読みましたよ。ぐいぐい引き込まれる面白さで、長さを感じさせませんでしたね。チャカポコの部分も、飛ばさずに読めました。
【2019/07/16 18:27】 URL | Agitation Free #ugTHG0r2 [ 編集]

>Agitation Freeさん
初読で全部楽しめたのはすごいですね。個人的には、読みどころが難しい初読よりも、感覚が何となくわかった二回目、三回目の方が楽しめる作品かもしれないな…と思いました。
【2019/07/16 19:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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