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教授たちの不思議な事件  エドワード・ヘロン・アレン『紫サファイア クリストファー・ブレア博士の事件簿』
紫サファイア : クリストファー・ブレア博士の事件簿

イギリスの作家、エドワード・ヘロン・アレン(1861-1943)の『紫サファイア クリストファー・ブレア博士の事件簿』(BOOKS桜鈴堂訳)は、コスモポリ大学の事務局長クリストファー・ブレアが、同僚や自分自身の不思議な体験を発表したという体裁の怪奇小説集です。

 所有者に不幸を持たらす呪われた紫サファイアを描く「紫サファイア」、金星の美女との交信に成功した男を描く「アアリラ」、過去の映像を写す鏡をめぐる「記憶する鏡」、悪臭を放つ霊を扱った「臭うモノ」、古代ローマの幻影に入り込んだ男を描く「紫昼夢」、手を象った不思議な御守をめぐる「万神の手」、不思議な力を持った青いゴキブリを描いた「青いゴキブリ」、瀕死の状態から回復した女性が豹変してしまうという「悪霊」、手の幽霊を描いた「読書室の怪」、古代の生命を含んだ奇怪な物質をめぐる「宇宙塵」の10篇を収録しています。

 物語は毎回、架空のコスモポリ大学の教授たちの不思議な体験をつづった手記という体裁で語られていき、なかには事務局長クリストファー・ブレア自身の手記も現れます。大学を舞台にしているとはいっても、そこで語られる事件は様々。幽霊が登場する話もあれば、SF風の話もありと、バラエティに富んでいます。
 ある意味ジャンルが決まっていないので、次のエピソードはどんな展開になるのかまるでわからない…という意味でのワクワク感があります。過去の事件の顛末が別の短篇で描かれたり、前に登場した人物が別の作品で再登場したりと、エピソード間のつながりも面白いですね。

 一番面白かったのは、表題作の「紫サファイア」。呪いの宝石が所有者に不幸を持たらす…というある種オーソドックスなテーマなのですが、この呪いのしつこさがすごくて、宝石を受け継いだ人々に連鎖的に不幸をもたらしていく様が耽々と描かれていて印象深いです。
 呪いを防ごうとして子孫に指示をしたり、銀行の金庫に預けたり、売り払おうとしたりと、所有者たちが行う対策がこれでもかとばかりに描かれますが、どうやっても呪いは防げません。「呪いのアイテムもの作品」(という言い方はないかもしれませんが)の名作でしょう。

 嗅覚を刺激する霊現象という珍しいテーマを扱った「臭うモノ」や、惚れ薬的な効果を持つゴキブリ(!)を扱った「青いゴキブリ」、古代の生物が閉じ込められた物質を描く「宇宙塵」あたりは、非常にユニークな作品です。

 純恐怖小説的な点では「悪霊」が優れているでしょうか。
 社交界の女王だった優雅な女性シンシアが、ならず者として名高いカーライオンと結婚してから数年後、不治の病にかかってしまいます。死の先刻を受けたシンシアはもぐりの医者クエイルの治療を受けることになります。
 だまされているのではないかという周りの反応をよそに、思いもかけず回復したシンシアでしたが、彼女の人格は豹変を遂げていました…。
 女性の豹変の秘密が後半で仄めかされるのですが、ここは非常に怖いです。

 ジャック・サリヴァン編『幻想文学大事典』(国書刊行会)によると、エドワード・ヘロン・アレンはイギリスの科学者で多くの著書がある人らしいです。怪奇小説はクリストファー・ブレアの筆名で発表され、その正体が明かされたのは著者の死後のことだとか。
 SF的な発想の作品も多いのですが、ジャンルがまだ未分化だったころの作品ならではというべきか、その混沌とした作風が今読むと非常に面白いです。

 『紫サファイア クリストファー・ブレア博士の事件簿』は電子書籍オリジナル作品です。Amazonの以下のページから購入できます。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B0190I9KT4/ref=dbs_a_def_rwt_hsch_vapi_tkin_p1_i6

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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