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穏やかな怪異  エドムンド・ジル・スウェイン『バッチェル牧師の世にも奇妙な教区録』
バッチェル牧師の世にも奇妙な教区録
 イギリスの作家、エドムンド・ジル・スウェイン(1861-1938)の『バッチェル牧師の世にも奇妙な教区録』(BOOKS桜鈴堂訳)は、ローランド・バッチェル牧師が出会う様々な怪奇現象を描いた短篇集です。

 学究肌で人の良いバッチェル牧師が、自分の教区ストーングラウンドで出会う怪奇現象を描いていくという連作短篇になっています。
 写真に写った人物がどんどん動いていくという「銀塩写真」、かっての前任者の蔵書が牧師の行動を指し示すという「深夜の納骨」、家にいるはずのふいご師が放牧場で何度も目撃されるという「放牧場の怪」、焼け落ちた領主館に現れる付議な人影を描く「東の窓」、空間を越えて現れる女性の物語「ルブリエッタ」、牧師が引き抜いたのは魔の物が封じられた杭だったという「楡の杭」、その傘をつけてランプを点けると鏡に異様なものが映る不思議なランプ傘をめぐる「インド土産のランプ傘」、謎の二人組が残した香炉をめぐる「宝の行方」、教会の使丁が教会の中で出会った「おばけ」を描く「御堂おばけ」の9篇を収録しています。

 著者のスウェインは怪奇小説の巨匠の一人M・R・ジェイムズの友人であり、影響を受けているとのこと。自身も牧師という経歴から、ジェイムズ同様、好古趣味に溢れた怪談集になっています。
 M・R・ジェイムズほどの「怖さ」はないのですが、その代わり、スウェインには、くだけたユーモアと穏やかな雰囲気があり、読んでいると妙な心地よさがあります。怪異現象に関しても、人の命が失われるような深刻なケースはなく、穏やかに事態が収束することが多いのです。
 主人公のバッチェル牧師にしてから、堅い職業ではあるものの、融通性に富んだ人物であり、時折お茶目な面も見せるなど魅力的な人物として描かれています。怪異現象に遭遇しても、柔軟にその現象を受け入れてしまうのです。

 ただ、バッチェル牧師は事件を解決する「ゴースト・ハンター」ではないので、彼の力で事件が解決する…というパターンはほとんどありません。例えば「楡の杭」では牧師は邪悪なものを解き放ってしまうものの、特に何もせず終わってしまったりと、ちょっと人を喰った味わいもありますね。

 過去の時代の遺物や遺骨を通して幽霊が現れる…というオーソドックスな怪奇小説のほか、写真という当時としては新しいガジェットを使った「銀塩写真」、インドにいるはずの女性が牧師の目の前に現れるというSF的な「ルブリエッタ」、完全にユーモア怪談として描かれている「御堂おばけ」など、非常にバラエティに富んだエピソードも多く含まれています。

 日本ではあまり有名でない作家だと思いますが、これはすごく良い味わいの怪談集ですね。ちなみに『バッチェル牧師の世にも奇妙な教区録』は電子書籍オリジナル。Amazonで購入できます。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00O781F82/ref=ppx_yo_dt_b_d_asin_title_o02?ie=UTF8&psc=1 …

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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