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生き延びろ!  ニック・カッター『スカウト52』
スカウト52 (ハヤカワ文庫NV)
 ニック・カッターの長篇『スカウト52』(澁谷正子訳 ハヤカワ文庫NV)は、少年たちのサバイバルと感染パニックを組み合わせたホラー作品です。

 本土から離れた小さな島にキャンプにやってきたボーイスカウト第52隊。指導員一人と五人の少年たちは楽しく時を過ごしますが、やがて無人のはずの島にやせ細った奇怪な男が現れます。食欲に取り憑かれているらしい男は、食物ばかりか草や土まで貪ります。
医者でもある指導員ティムは男を診察しますが、彼は何かのウィルスに感染しているようなのです。やがて男の体から出てきたのは想像もできないものでした…。

 無人島でキャンプをしているボーイスカウトたちが、感染によってパニックになってゆく…というホラー作品です。この感染元がかなりグロテスクなので、読む人は気をつけた方がいいかもしれません。
 真っ先に感染してしまった指導員が動けなくなり、五人の少年たちは自分たちだけで島を脱出することを考えます。しかし諸々の事情で脱出は難しく、その間にも少年たちの間に感染が広がってゆくのです。

 五人の少年たちはそれぞれの性格、特技を持った少年たちなのですが、力関係やプライド、嫉妬などによって協力も上手くいきません。しかも、サイコパス的な少年が本性を現すことにより、やがて殺し合いに近いまでの争いが起こることになるのです。

 感染の原因は人為的な実験にあることが示され、少年たちの動きを描くパートの他に、新聞記事やインタビュー、調査委員会の報告書などがドキュメンタリータッチで挟まれるのが特徴です。これらのパートは事件が収束してからの出来事らしく、一連の事件が悲劇的に終わるだろうことが、途中の段階で読者にはわかるようになっています。この構成は、スティーヴン・キングの『キャリー』にならったものだと、著者あとがきで書かれていますね。

 ホラー一辺倒の描写ではなく、少年たちが生き延びるために行うサバイバル部分や、少年同士の友情を描くシーンもあります。後半、食物を求めて亀を捕らえるシーンがあるのですが、ここでは思春期の少年の瑞々しい感性が描かれていて読み応えがあります。
 五人の少年たちの性格も上手く描き分けられていて読みやすいです。リーダー格のケント、短気なイーフ、冷静なマックス、とらえどころのないシェリー、世話焼きのニュートン…。事態の推移に応じて主導権が入れ替わったりと、少年たちの関係性が変わってゆくのも読みどころですね。

 著者のカッターはカナダの作家。キングを始めとするホラー小説のファンということで、好きな作品として、ブラッティ『エクソシスト』、シャーリイ・ジャクスン『丘の屋敷』、マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』、クライヴ・バーカー『血の本』などが挙げられています。
 解説で触れられているカッターの最新作も面白そうな内容です。物忘れが激しくなる謎の病気が地球的規模で進行する…という内容だそうで、こちらも気になりますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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