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扇情的エンターテインメント  『慄然の書 ウィアードテールズ傑作集』
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 『慄然の書 ウィアードテールズ傑作集』(渡部桜訳 荒俣宏解説 継書房)は、アメリカの怪奇小説専門誌<ウィアード・テールズ>から怪奇小説を集めたアンソロジーです。

 行方不明の父親を探しに訪れた沼には怪物が潜んでいた…という「沼の怪」(ウィル・スミス)、さらわれた三人の男が恐ろしい体験をする「最後の戦慄」(エリ・コルター)、精神を病んだ友人の恐ろしい体験を描くサイコ・スリラー「黒い箱」、脳移植を扱った「ラオコーン」(バシット・モーガン)、かっての双子の片割れの手が体に生えてくるという「寄生手 バーンストラム博士のメモより」(アンソニー・M・ラッド)、オーソドックスな吸血鬼物語「蝙蝠の鐘楼」(オーガスト・ダーレス)、新婚夫婦が死んだ東洋人の霊に出会うという「黄色い妖怪」(ヴァンダー・ヴィル)、動物と人間の精神を入れ替える薬を扱った「幻想の薬」(A・W・カプファー)、酒屋の主人が語る恐怖に満ちた過去を描く「ティ・ミッシェル」( W・J・スタンパー)、新婚夫婦が購入した家には魔物が住み着いていたという「ローマン荘の怪」(フラビア・リチャードスン)、人々が類人猿のような怪物に襲われるという「ゴルフ・リンクの恐怖」(シーベリ・クイン)の11篇を収録しています。

 基本的にアンソロジーのトーンはB級で、かつショッキングな題材の作品が多いです。あまりひねりはないのですが、現代では書けないような臆面もない怪奇小説が多く、その意味で非常に楽しいアンソロジーになっています。
 露骨に人種差別的なテーマが描かれた「最後の戦慄」(エリ・コルター)とか「黄色い妖怪」(ヴァンダー・ヴィル)などは、まず現代では問題になるような作品だと思いますが、その大時代な発想が逆に面白く読めます。

 物語の面白さという点で言うと、「ラオコーン」(バシット・モーガン)、「寄生手 バーンストラム博士のメモより」(アンソニー・M・ラッド)、「幻想の薬」(A・W・カプファー)が特に優れているように思います。
 「ラオコーン」は、脳移植を専門とする教授が、不治の病に苦しむ愛弟子の要望で大海蛇に弟子の脳を移植する…という話。
 「寄生手 バーンストラム博士のメモより」は、生まれるときに青年の体に吸収されてしまった双子の片割れが、何年もしてから活発化し、脇腹からその手が生えてくる…という物語。グロテスクながら面白い話です。
 「幻想の薬」は、精神入れ替わりを扱った物語。インドの原住民から動物と精神を入れ替える薬を入手した「私」は親友ロドニーとともに薬を試してみます。すると「私」は象、ロドニーは虎の体の中に入っていました。しかし時間が経つうちに獣の精神の影響力が強くなっていきます…。

 このアンソロジーだけなのか、この時代のパルプホラーがそうなのか何ともいえませんが、人体改造や精神交換といったテーマを扱った作品が多いですね。B級に徹したアンソロジーで、屈託なく楽しめる好作品集でした。

 昭和50年刊行のこの本、解説によるとマーケット・リサーチと称して、収録された怪奇短篇の一部をばらばらにした文章をハガキに書き込み、何千人かに送付したということです。警察に通報がいったりと話題にはなったようですが、売り上げに寄与したかどうかは定かではありません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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