FC2ブログ
怪異のアヴァンギャルド  ジョン・メトカーフ『死者の饗宴』
死者の饗宴 (ドーキー・アーカイヴ)
 ジョン・メトカーフ『死者の饗宴』(横山茂雄、北川依子訳 国書刊行会)は、ジョン・メトカーフ(1891-1965)の怪奇幻想小説を集めた短篇集です。解釈が難しい作品が多いのですが、そのユニークなアイディアと、どこかが狂ったような異様な空気感はこの作家ならではですね。

 ビルマで盗まれた宝石の呪いが悪夢を引き起こすという「悪夢のジャック」、謎の〈島〉に取り憑かれた提督の運命を描く「ふたりの提督」、狂ったイギリス人の医師が手術したインド人船員の足が災いを起こす「煙をあげる脚」、湯治場にやってきた男が邪悪な土地を感じ取るという「悪い土地」、影響を受けやすい下宿の女主人が超常的な力を手に入れるという「時限信管」、結婚したばかりの妻が亡き邪悪な夫の影響力を受け続けるという「永代保有」、招待した覚えもないかっての上司の息子が自宅に現れるという「ブレナーの息子」、生者とも死者ともつかぬ謎の存在に憑かれた少年の物語「死者の饗宴」の8篇を収録しています。

 どの作品でも明確な怪異現象が起こるものの、その原因ははっきりしないことが多いです。更に言うなら現象として何が起こっているのか、結局登場人物たちに何が起こったのかすら、わからない場合もあります。

 精神を病んでいたというメトカーフの経歴がそうさせるのか、作中明確に精神を病んでいると描写されていない語り手や登場人物たちにも、どこか狂気じみたものを感じる作品が多いです。
 例えば「悪い土地」では、ある家に邪悪なものを感じ取った語り手はその家を破壊してしまおうという衝動に囚われますが、その感覚が客観的に正しいものであるかどうかはわからないのです。
 また「ブレナーの息子」では、旅路で出会ったかっての上司の息子が、ある日突然家に現れ混乱を引き起こします。結末においては語り手が狂気に陥っていることが示唆され、結局この「息子」が実在するのかどうかもはっきりしないのです。
 「時限信管」では、物事を信じ込みやすい下宿の女主人が、有名な霊媒の真似をしたところ、超能力らしきものを発揮してしまいます。しかしその心が壊されてしまったとき、悲劇が起こってしまうのです。

 メトカーフ作品では、霊現象、呪い、ドッペルゲンガーなど、様々な怪奇現象が取り扱われますが、それに巻き込まれる登場人物たちの心の隙や心理などが、物語の進行に重要な役割を果たしているようです。その意味で超自然小説というだけでなく、サイコ・スリラー的な味わいも強くなっていますね。

 収録作中でも特に強い印象を残すのは「ふたりの提督」「煙をあげる脚」「死者の饗宴」でしょうか。

 「ふたりの提督」は、常に視界の隅に現れる謎の「島」の正体を探るために、友人と共に海に出た男が描かれます。彼らの前に近づいてきた船の正体とは…。
 いわゆる「分身テーマ」作品なのですが、多様な解釈が可能で、読み方によっては「パラレルワールドSF」とも解釈できる、奥行きのある作品です。

 「煙をあげる脚」では、僻地で暮らす奇人の英国人医師が、怪我をしたインド人水夫の少年に足の手術を施します。やがて少年の乗った船はどれも火災で沈没を繰り返すようになりますが…。
 非常にナンセンス味の強い作品で奇想度も高いです。<異色作家短篇集>のアンソロジー巻に既訳が収録されているのですが、この叢書にふさわしい味わいといってもいいと思います。

 巻末に収められた「死者の饗宴」は、オーガスト・ダーレスによって発掘されたという中篇作品。
 母親を亡くして傷心の少年デニスは、ふと知り合ったフランスの資産家ヴェニョンの家に遊びに行くことになりますが、そこが気に入り何度も訪問を繰り返していました。
ある日息子がヴェニョン家で世話になっていたという男ラウールが現れ、自宅に住み着いてしまいます。人に不快感を起こさせるラウールに不信感を抱く父親の「わたし」は、彼を追い出そうと口論をしている最中に、目の前から消えてしまったのに驚きますが…。
 謎の男ラウールの正体が徐々に判明してくる後半の展開は実にスリリング。吸血鬼テーマとも幽霊テーマともつかない異様な雰囲気の作品です。集中でも怪奇度の最も高い、本格的な超自然小説です。

 メトカーフは、もともと怪奇小説をまとめた作品集が本国でも出ていなかったこと、彼の怪奇小説が間歇的にしか発表されていなかったこと、などから評価がなかなか定まらなかった作家といえるようです。
 今回まとめられた作品を読む限り、なみなみならぬ力量の作家であり、ユニークな作品を残した作家であることは間違いないようです。アイディアのユニークさ、狂気に彩られた語り口、異様な空気感…。怪奇幻想ジャンルにおいて再評価の進むべき作家ではないでしょうか。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/932-0142438d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する