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猫と魔術  リン・トラス『図書館司書と不死の猫』
図書館司書と不死の猫
 イギリスの作家、リン・トラスの長篇小説『図書館司書と不死の猫』(玉木亨訳 東京創元社)は、ブラック・ユーモアにあふれたミステリアスな怪奇幻想小説です。

 ケンブリッジの図書館を定年退職したアレックは、愛妻を亡くし失意の底に沈んでいました。そんな彼のもとに届いたメールには、奇妙なファイルが添付されていました。そこには、突然失踪した姉ジョアナを探す男ウィギーの手記と、彼が遭遇した、人語を話す不死の猫ロジャーの半生が収められていたのです。
 彼らに関心を抱いたアレックが調査を進めていくうちに、猫の周辺で次々と人間が死んでいることがわかります。そして愛妻メアリーもまた事件に巻き込まれて殺されたのではないかという疑いを抱くようになりますが…。

 人語を解する不死の猫をめぐって展開される、サスペンスたっぷりの怪奇幻想小説です。 主人公が受け取った不死の猫に関する奇妙なメール。それを追っていくうちに浮かび上がる殺人と黒魔術の謎。不死の猫ロジャーは味方なのか敵なのか?

 序盤は、姉の失踪を調べるうちにロジャーと出会った男ウィギーの手記と、彼がロジャーから聞き取った情報が描かれていきます。長い時を生きており高い知性を持つロジャーに対し、どこか間の抜けた男ウィギーの描写が非常にユーモラスです。
 ウィギーのメール内容を読んでいるアレックが、ウィギーの行動にツッコミを入れるなど、ユーモアにあふれた語り口が楽しいですね。
 構成も面白いです。最初はウィギーからのメールの内容をアレックが一方的に読んでいくのですが、やがて独自に調査を始めたアレックが逆にウィギーへメールで連絡を送ったり、連絡のとれなくなった両者の一方的なメールが記されるなど、構成にも工夫が凝らされています。

 猫のロジャーが自らの半生を語る部分は伝奇的な面白さがあり楽しめます。その語りの中で、ロジャーを不死にした先輩猫である「キャプテン」が登場し、彼の恐るべき力も明かされます。一連の事件の影に潜んでいるのは「キャプテン」なのか?

 基本はホラータッチで描かれる作品なのですが、ところどころに挟まれるユーモア(ブラックなものが多いですが)が非常に楽しい作品です。メインテーマとなっている猫たちだけでなく、主人公アレックの飼っている愛犬ワトソンも活躍するなど、動物のキャラクターも立っています。

 M・R・ジェイムズを始め、著者が愛読しているという怪奇幻想作品のエッセンスも感じられ、怪奇幻想小説ファンにはお勧めしたい作品です。著者によるあとがきでは、喋る猫の登場するサキの短篇「トバモリー」の影響にも言及されており、本文と合わせて読むと興味深いですね。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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