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悪魔のサービス  木犀あこ『美食亭グストーの特別料理』
美食亭グストーの特別料理 (角川ホラー文庫)
 木犀あこ『美食亭グストーの特別料理』(角川ホラー文庫)は、グルメ業界で噂の店「美食亭グストー」を舞台に、悪魔的な料理長が奇怪な料理を出すという作品です。

 食に人一倍執着のある大学生の一条刀馬は、上手い料理を求めて、グルメ界隈で有名な店「美食亭グストー」を訪れます。店長である荒神羊一に気に入られた刀馬は店で働くことになりますが、荒神が手がけるのは表の店ではなく、地下の「怪食亭グストー」でした。
 「怪食亭グストー」を訪れるのは、食事だけでなく人間的にも問題を抱えた客ばかり。刀馬は、荒神とともに様々な客と料理に出会うことになりますが…。

 悪魔的な料理人、荒神とその助手になった青年刀馬が、様々な客と出会い、美食・珍食を手がけていくという連作短篇になっています。

 「第一話 フォーチュン・オイスター」は、妻と娘が父親にサプライズとして特別料理を振舞う…というお話。ブラック・ユーモアが効いていますね。

 「第二話 極楽至上の熟成肉」は、著名な美食家が古い本で知った熟成肉の再現を依頼してくるが…という物語。依頼者の本当の目的を探る過程は実にスリリングです。このエピソードに登場する料理は、作中でも一番美味しそうですね。

 「第三話 水曜まずいもの倶楽部」は、まずい料理を積極的に味わおうというサークルを主宰する男性がその信念から他の会員と軋轢を起こす…という物語。「まずさ」に関する心理的な考察が興味深いです。

 「第四話 すっぽんのスープ」は、幼い頃自分を世話してくれた老夫婦が作ってくれたすっぽんのスープの味が忘れられない女性が、その味を再現してほしいと依頼してくる…という物語。事件の真相が明かされる部分は背筋が寒くなります。

 どのエピソードでも、奇怪な料理やおかしなコンセプトの料理が登場しますが、表面のグロテスクさをかき分けると、その裏にあるのは、それを食べたがる人間の過去でありトラウマであるのです。
 偽悪的なポーズをとりながらも、荒神は客に対する「サービス」を忘れず、またその荒神の姿に刀馬は惹かれていくことになります。
 また、客だけでなく荒神自体の秘められた過去と家族との軋轢、彼と似た環境を持つ刀馬の背景とが、全篇を通して描かれてもいきます。

 奇食・珍食が趣向だけでなく、しっかり物語の内容、登場人物の造形に結びついており、奥行きのある物語になっています。料理の例えを用いるなら非常に「コクのある」作品といってもいいでしょうか。ホラー文庫というレーベルではありますが、ホラーが苦手な人にも読んでみてほしい作品です。

 ちなみに「第四話 すっぽんのスープ」では、パトリシア・ハイスミスの恐怖短篇「すっぽん」が重要なモチーフになっていますので、その筋のファンにもお薦めしておきたいと思います。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
牡蠣とスッポン
1話目で田中啓文先生の「牡蠣喰う客」を思い出しました。「タフの方舟」のナモールの壺牡蠣もそうですが、牡蠣の不気味な姿と唯一無二の美味しさが奇談と相性が良いのですね。2話目は「寺内ジモンの取材拒否の店」の肉回の蘊蓄を見ているよう。あと店長が偽悪的で実は面倒見が良く慕われるのが平山夢明先生の「ダイナー」を思わせます。
【2019/06/04 00:30】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
食べ物や料理をテーマにした作品は名作が多くて、読んでいるといろいろフラッシュバックしたりしますね。
【2019/06/04 18:45】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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