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戦争と幻想  ロード・ダンセイニ『戦争の物語』
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 ロード・ダンセイニ『戦争の物語』(稲垣博訳 西方猫耳教会)は、第一次世界大戦時に情報部に務めていたというダンセイニの、戦争をテーマにした作品を集めた短篇集です。
 全体に物語らしい物語は少なく、戦争の情景を描いた短めのスケッチ的な作品が多くなっています。また当時の敵国ドイツに対するプロパガンダ的な要素も強めです。それでも時折現れる叙情的な自然描写、幻想的な光景など、ダンセイニならではの魅力が感じられるところもありますね。

 ドイツに対する主戦的な視点、特にドイツ皇帝ヴィルヘルム二世に対する当たりは強烈です。作品内で何度も非難されたり風刺的に描かれるなど、ひどい扱いをされています。
 「戦争の罪」という作品は特に強烈です。魂だけになった皇帝が亡霊に引き連れられ、自身のせいで不幸になった家庭の情景を数千軒も見させられるという物語。希代の犯罪者扱いなのです。
 他にも、皇帝の特徴的な「カイゼルひげ」をモチーフに、理髪師に戦争の原因を求めるという風刺的な「戦争の起源と原因」、戦争で息子を失った老夫婦の皇帝に対するうらみを描いた「シュニッツエルハーザー家の一夜」など、様々な形でドイツ皇帝は断罪されていてます。

 上記にあげたようにプロパガンダ文学的な面が強いのは確かなのですが、ダンセイニらしい幻想的・叙情的な作品も垣間見られます。戦争に巻き込まれた男たちが故郷の村の記憶を残そうとする「デルスウッドの祈り」、集中砲火の中故郷を思い出す兵士たちを描いた「故郷を想って」、かっての美しい光景が荒野と化すという「雑草と鉄条網」、言葉を話せるゴリラを描いた風刺的な「野蛮なる者」、銃弾に倒れた兵士の最後の幻想を描いた「最後の光景」などが面白いですね。

 一番印象に残るのは「デルスウッドの祈り」でしょうか。小さいながら幸福な村だったデルスウッド。召集され男たちが次々と戦死していきます。故郷デルスウッドの思い出を語り継ぐために、皆から村の話を聞いた一番若い男に降伏させ、彼が村の記憶を語り継げばいいのではないかという提案がなされます。
 しかし若者たちは自分だけ降服することを拒否します。相談していた男たちは塹壕の中で大きな石灰岩を見つけます。その石にナイフで村の記憶を書き残そうではないかと思い付きますが…。
 人々の思いを打ち砕くような結末が待ち構えています。戦争の残酷さ、もしくは人の記憶のはかなさを描いた作品といってもいいのでしょうか。詩的な発想の非常にダンセイニらしい作品です。

 ダンセイニの違った一面の見られる味わい深い作品集ではあるのですが、代表作に見られるようなファンタジーとユーモアに満ちた作品を期待すると、ちょっと違うな…となってしまうと思います。代表的なダンセイニ作品を読んだ後に触れてみるのが、一番良い読み方ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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