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神秘と想像力  アルジャナン・ブラックウッド『万象奇譚集』
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 アルジャナン・ブラックウッドの短篇集『万象綺譚集』(渦巻栗訳)は、本邦初訳のブラックウッドの短編を6篇収録した作品集です。

「いにしえの光」
 土地調査事務署員の男が調査のために入り込んだ森は、異界のものの溢れる場所でした…。
 森の異界感が強烈で、迷ってしまうのはもちろん、元の場所に戻ってしまったり、目の前で木や門が動いてしまうなど不思議な現象が頻発します。一番すごいのは、人間が立っていると思い話しかけると、それが木や影の錯覚に過ぎなかったのがわかる…というくだり。錯覚だとわかった後にさらにその影がしゃべっている様に聞こえる、というところはぞっとさせますね。

「サイモン・パーキュナートの奇行」
 堅物である元教授サイモン・パーキュナートは、売られている鳥籠の鳥を見た瞬間、衝動的にその鳥を買取り空に逃がしてしまいます。その直後、体の調子を崩して寝込んでいるサイモンの前に〈世界警官〉を名乗る男が現れます。
 彼は鳥を逃がしてあげた代価に、サイモンも「外に逃がして」あげようと話しますが…。
 何やら偉大な力を持つらしい〈世界警官〉の力により、肉体を離れ精神を遊ばせることになった男を描く物語です。精神が飛び回るヴィジョンは、ブラックウッドらしく得意とするところで、描写も冴えていますね。
 精神だけが宇宙を遊離する…というパターンの作品はブラックウッドにはよくありますが、この作品のそれは他作品に比べ優しさが感じられます。
 鳥を初めとして、登場する生物に暖かい目が注がれているのも特徴で、クライマックスの、大量の鳥を子供たちとともに空に逃がすシーンは非常に魅力的です。

「五月祭前夜」
 合理主義者である「わたし」は、老いた民俗学者の友人を田舎まで訪ねることにします。迷信深い友人を論破してやろうと考えていたのです。しかし山中で遭遇した自然現象に強烈な印象を受けた「わたし」は考えを改め始めます。
 友人の家の途中にあるトム・バセットの小屋を見つけた「わたし」は、その家の中が光にあふれ、このような場所にいるはずのない大量の男女が集まっているのを目にします。しかも彼らは普通の人間ではないようなのです…。
 五月祭前夜、魔のものに遭遇した合理主義者の男が超自然の世界に足を踏み入れる…という物語。それを一時の錯覚とせず、友人とともに輝きを増した世界に踏み込んでゆく…というラストも美しいですね。

「通い路」
 ノーマン青年は、魅力的な女性ダイアナ・トラヴァースの招きに応じて彼女のおじであるディグビー卿の館を訪れますが、その近くには<通い路>と呼ばれる道がありました。そこは魔のものが現れる場所であり人々から恐れられていたのです。
 <通い路>では、過去に何人もの人間が消えており、ダイアナの母親もそこで失踪したというのです。自身もまた魔的なものに惹かれているというダイアナは、自分は行くべきなのか留まるべきなのかわからない、とノーマンに話しますが…。
 この作品でも異教的な別世界が描かれます。異界に惹かれている愛する女性を、主人公は守ることができるのか? 結末は皮肉に満ちており、かなりブラックです。

「海憑き」
 マルコム・リース医師と砲手のリース少佐、主人のエリクソン船長は、ある夏の夜席を共にして歓談していました。情熱的なエリクソン船長は、異教の神々は未だ生きており、崇拝者は死と引き換えに神々と合一できる、という自説を展開します。
 時を同じくして、海は荒れ果て、興奮したエリクソンは外に飛び出していってしまいますが…。
 異教的な海の神々を扱った、神話的な香りのする作品です。畏怖と同時に、神との合一による精神的な法悦感が描かれる一篇。

「想像力」
 創造的な想像力の持ち主ジョーンズは、創作活動に行き詰っていました。そんなある夜、彼のもとを浮浪者のような、しかし、生命力にあふれた奇妙な男が訪れます…。
 想像力の化身というかメタファーというか、そうした存在が作家のもとを訪れる、という寓話的な作品です。
 使われているイメージが「ケンタウロス」なのも、ブラックウッドの同名長篇との関係も思わせて、興味深いですね。

 本書は2019年5月、文学フリマ東京で販売され、後に増補版が通信販売で販売されたものです。訳文も上質で非常に読みやすいです。続刊を期待したいところですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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