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虚無の穴  キャシー・コージャ『虚ろな穴』
虚ろな穴 (ハヤカワ文庫NV)

 1991年発表のキャシー・コージャの長篇『虚ろな穴』(黒田よし江訳 ハヤカワ文庫NV)は、何でも飲み込んでしまう謎の黒い穴をめぐって異様な人間関係が描かれてゆくというホラー作品です。

 詩人志望のビデオ店販売員ニコラスと恋人ナコタは、ある日自分が住む安アパートの物置部屋に30センチ大の黒い穴があるのを見つけます。気味悪がるニコラスに対し、ナコタは穴に異様な関心を見せ、様々なことを試そうと考えます。
 色々な物を投げ込んだりしても、穴がどこにつながっているかはわかりません。覗き込んでも何も見えないのです。昆虫やネズミなどを穴のそばに近づけてみると、生き物に異様な変異が起こるのに気付いて二人は驚きます。
 調べていくうちに、ナコタ一人での時には何も起こらず、ニコラスがいるときのみ、穴には何か異変が起こるらしいのです。ニコラスが媒介になっているのだと考えるナコタは、ニコラスに穴に関わるよう諭します。離れかけていたナコタの心が戻ってくるのを感じたニコラスは、嫌々ナコタにつきあいます。
 過去に穴の中を撮影したビデオに異様なものが写っているのを発見したナコタはそれを知り合いに見せますが、それがニコラスの影響力であると考えた彼らは、ニコラスにつきまとうようになりますが…。

 何でも飲み込んでしまう黒い穴、おそらく異空間とつながっているのではないかと思われるその穴が主眼となっており、魅力的なテーマなのですが、実はその穴よりも穴をめぐる登場人物たちの異様な関係性の方がクローズアップして描かれるという、ユニークな作品です。
 穴そのものの秘密については、最後までわずかなことしかわかりません。主人公ニコラスのみが、穴に関して超自然的な現象を起こすことができ、それがために穴に関して何かを求め続ける恋人ナコタとの仲がこじれ、異様な事態を招くことになります。
 穴に触ってしまったニコラスは、超自然的な能力を得る代りに肉体的に異様な変容を来たしてしまうのです。それを見た幾人かの人物は彼を教祖的な人間として崇拝するようにまでなります。

 主人公含め、周りの登場人物たちはみな芸術家志望であり、その意味でエキセントリックな性格の人物が多いのですが、その中でもナコタの人物像は強烈です。穴に過度に執着するナコタは、ニコラスの人間性を軽蔑しながらも、穴に関わらせようと過激な行動を繰り返します。
 ナコタの真意に気付きながらも、ナコタの魅力から離れられず破滅してゆくニコラスの行動が読みどころといっていいでしょうか。
 穴に関する部分も気色が悪く、かなり怖いのですが、それ以上に、穴に関わった人間たちの異様な人間心理と関係性がおぞましいものになってゆくという、そちらの方が怖い作品ですね。これは傑作といっていい作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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