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復讐の夢  レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』
どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)
 レオ・ペルッツの長篇『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』(垂野創一郎訳 ちくま文庫)は、復讐に燃える元捕虜が革命直後のロシアを駆け巡るという冒険小説です。
 他のペルッツ作品にあるような幻想性はないものの、違った意味で不思議な印象を受ける作品です。

 オーストリア陸軍少尉ゲオルク・ヴィトーリンは、ロシアの捕虜収容所から解放されウィーンに戻ってきます。かって収容所で司令官セリュコフから受けた屈辱を晴らすため、仲間とともにロシアに戻ることを誓ったヴィトーリンでしたが、仲間たちは帰還した途端に、一時の気の迷いとして計画から抜けていってしまいます。恋人や家族、有望な仕事を残してヴィトーリンはひとりロシアに向かいますが…。

 革命直後の内戦状態のロシアを舞台に、信念を持った男の復讐を描いた物語なのですが、主人公ヴィトーリンの執念は尋常ではありません。仇敵の行方がわからなくなっても諦めずにしつこく追っていくのはもちろん、そのために自分の命が危機にさらされようとお構いなしなのです。
 赤軍の兵士となって活動したり、日雇い労働者になったり、はたまたヒモになったり、捕虜にされることも度々。波瀾万丈な冒険が続くのですが、仇敵セリュコフの行方は杳として知れません。

 信念を持つ誇り高い男の物語というと聞こえはいいのですが、ヴィトーリンの行動はむしろ「狂気」に近いほどで、彼の無鉄砲な行動のせいで、周りの人間にもかなりの被害が及びます。捕らえられたり処刑されてしまう人間も出てくるのです。
 後半におけるヴィトーリンの行動は憑かれているといっていいほどで、その意味で非常に迫力に満ちています。彼の復讐は成就するのでしょうか?

 波乱万丈な冒険譚でありながら、実のところあまり爽快感はありません。主人公の行動原理が復讐のみに特化しており、それ以外のものを切り捨ててしまうからです。しかもその復讐がうまく運んでいくのかといえばそういうわけでもありません。
 後半、主人公は自身のそれまでの行動について振り返り自問することを余儀なくされます。そしてその結果は必ずしも良い結果ではないのです。しかしそれを否定せず受け入れる…という展開には、奇妙な明るさがあり余韻があります。

 全く違う内容の作品ではあるのですが、このペルッツ作品を読み終えて想起したのはホーソーンの短篇「デーヴィッド・スワン」でした。「デーヴィッド・スワン」は青年が眠っている間に、人生の幸福や不幸が通り過ぎていく…という物語です。
 ペルッツ作品では自身の通ってきた人生・体験が一時の夢であった…とでもいうような不思議な雰囲気があり、そのあたりがシニカルでありながらも、奇妙な明るさを感じるひとつの要因にもなっているように思います。
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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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