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引き裂く川  ウイリアム・モリス『サンダリング・フラッド』
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 ウイリアム・モリスの長篇『サンダリング・フラッド』(中桐雅夫訳 月刊ペン社)は、大河の両岸で引き裂かれた少年少女の成長と冒険を描くファンタジー小説です。

 ウエザメルと呼ばれる農場で育った少年オズバーンは、幼少の頃より詩の才能と戦士としての才能を発揮していました。
 サンダリング・フラッド(引き裂く川)を挟んだ向こう岸に住む美しい少女エルフヒルドと出会ったオズバーンは彼女と相思相愛になりますが、川に阻まれ直接触れあうことはできません。
 ウエザメルを訪れた不思議な男スティールヘッドから魔剣ボードクリーヴァーを授かったオズバーンは近隣の戦いに参加し、その勇猛さで名を馳せます。やがてある戦いを経て帰還したオズバーンは、盗賊によって村が襲われエルフヒルドがさらわれたことを知ります。
 エルフヒルドを取り戻すため、オズバーンは名将ゴッドリック卿の配下になります。戦いを続けながら、エルフヒルドの行方を探すオズバーンでしたが、彼女の消息は依然として知れません…。

 1898年刊行のウィリアム・モリスの遺作であり、北欧文学に強い影響を受けた作品だとのことです。全編を通して主人公オズバーンの戦いが何度も描かれており、その戦闘描写も非常にリアル。盗賊による略奪の様子や、悲惨な人間の死も多く描かれます。
 おそらく超自然的な存在であり主人公を導く役をするスティールヘッドや、彼から授かった魔剣は魔法を帯びた存在なのですが、直接的な魔法の描写はほとんどありません。そもそも魔剣には使っていい時とそうでない時があり、無尽蔵に使えるわけではありません。
 最終的に戦いには勝利するものの、オズバーンも度々傷付き退却を余儀なくされます。仲間の兵士たちの戦死も描かれており、ファンタジー作品とはいいつつ、戦闘とその結果に関する部分はリアルに描かれていますね。

 序盤、いろいろなエピソードを絡めながら、オズバーンとエルフヒルドが愛情を育てていくという部分は非常に読み応えがあります。何より大河をはさんで愛情を育んでいく少年少女というのはイメージ的にも美しいです。
 中盤からは、オズバーンの戦いの描写が前面に出てくるのですが、小競り合いを含め戦闘描写がずっと続くので、読んでいてちょっと疲れてしまうこともあります。
 愛する少女を求めて転戦を繰り返すオズバーンの姿を描く後半は、ペシミスティックな空気がありながらも読み応えがあるだけに、さらわれてからのエルフヒルドを描くパートがかなり駆け足で終わってしまうのはちょっと残念です。

 中世風のロマンスだけに、登場人物たちの性格やキャラクターはそれほど深く描かれないのですが、主人公二人以外で強い印象を残すのは、オズバーンの良き腹心ともいうべき「大食漢スティーヴン」です。大食らいながら知恵者、温和で力もあるというキャラクターで物語に彩りを添えてくれます。

 結末部分は口述筆記がなされるなど、充分な推敲がとれていない作品らしく、作品の構成やつじつまが合わないところなども多少あります。特に主人公の協力者スティールヘッドについては、その来歴や正体などについてほとんど語られないため、消化不良の感もありますね。
 ただ、全体に力強い物語で、読んでいる間はささいな部分は気になりません。<ヒロイック・ファンタジー>の原型といえる作品で、今現在でも非常に面白く読める作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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