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歪んだ家  マーク・Z・ダニエレブスキー『紙葉の家』
紙葉の家
 多重の語り、多彩なタイポグラフィ、混沌に満ちた物語…。マーク・Z・ダニエレブスキーの長篇『紙葉の家』(嶋田洋一訳 ソニーマガジンズ)は、造本を含めて重厚な印象を与える問題作であり、「幽霊屋敷」テーマのメタフィクショナルなホラー小説でもあります。

 ジョニー・トルーアントは、友人のアパートで孤独死した盲目の老人ザンパノの部屋で大量の原稿を発見し持ち帰ります。それは『ネイヴィッドソン記録』と題されたドキュメントでした。
 著名なフォト・ジャーナリストであるウィル・ネイヴィッドソンがある家について残した短編映像作品「ネイヴィッドソン記録」、それについてザンパノが注釈や資料をつけたものが『ネイヴィッドソン記録』なのです。
 メインとなるのは、ネイヴィッドソンが移り住んだ奇怪な家についての物語です。そこは突然それまでなかったドアや部屋が出現するなど、次々と姿かたちを変えゆく家だったのです。ある日出現した廊下はだんだんと長くなり始め、やがては巨大な地下迷宮のようなものまでもが出現します。
 ネイヴィッドソンは弟のトム、友人のレストンとともに廊下の奥を探索しますが、そのあまりの広さに探索を諦め、探検のプロを招聘することになります。招かれた探険家ホロウェイは二人の仲間とともに探索を開始しますが、予定の期日を過ぎても彼らは帰ってきません…。

 だんだんと拡がり姿を変えていく奇怪な家の内部を探索してゆくという魅力的な物語なのですが、素直にその物語は進んでくれません。ザンパノによる一見関係のないような注や説明、さらにそのザンパノの原稿にジョニー・トルーアントが編集を加えているため、物語が何度も中断されるのです。
 ジョニー・トルーアントに至っては、注において自伝的な物語を語り始め、それが数ページにわたって続くなど、非常にユニークな構成になっています。その混沌とした物語に合わせるかのように、本そのもののレイアウトも非常に破天荒。
 小さな注が何ページにもわたってページを覆ってしまったり、一行だけのページになったり、文字がページ内を躍ったり斜めになったりのタイポグラフィも多用されていきます。

 本筋の物語の他に「ネイヴィッドソン記録」に関する世間の反応や評論、ネイヴィッドソン夫婦の過去や生育事情に関する文章、著名人のインタビューなど、様々な文章が入り乱れていきます。
 「著名人」の中にはスティーヴン・キングやアン・ライス、キャサリン・ダンなどといった作家たちも登場するのは著者の遊び心といっていいのでしょうか。
 注を含め全ての文章に目を通すのは難しく、思わず読み飛ばしてしまう部分も多数あるのですが、解説によれば、読み飛ばしも著者の意図するところらしいのです。そもそも全ての文章がちゃんとつながっているわけでもなく、最後まではっきりとした事実はわからないのです。

 そもそもザンパノやジョニー・トルーアントの語りに非常に怪しいものがあり、その意味で彼らは「信頼できない語り手」なのです。「ネイヴィッドソン記録」の映像が本当にあったのかどうか、すべてはザンパノの捏造なのではないかという解釈も可能なようになっています。

 何と言っても、ネイヴィッドソンらによる迷宮探索部分が非常に面白いです。入り乱れた文書にもかかわらず、この中心となる物語の魅力が、分厚い本を読み進む原動力になりますね。
 「迷宮」に関しては、疑似科学的であったりオカルト的であったりと、一応の説明がされますが、結局真実はわかりません。それだけに不気味さと得体の知れない魅力があります。

 この作品、造本・レイアウトを含めた総合的な「本」としての完成度が高いです。ごく一部の文字が色を変えて印刷されているなど、印刷にも凝っています。とにかく、ユニークな読書体験のできる本であるのは間違いのないところでしょう。
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テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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