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大自然と妖精  ユリヨ・コッコ『羽根をなくした妖精』
羽根をなくした妖精 (必読系!ヤングアダルト)
 フィンランドの作家ユリヨ・コッコ(1903-1977)の長篇小説『羽根をなくした妖精』(渡部翠訳 晶文社)は、戦乱に明け暮れる人間世界と、自然と共に生きる妖精たちの世界が対比的に描かれた幻想的なファンタジー小説です。

 森のトロールであるペシは、虹から降りてきたという美しい妖精イルージアと友人になります。しかしイルージアの父親イルージョンに嫉妬するオニグモによって羽根を切られてしまったイルージアは、家に帰れなくなってしまいます。二人は力を合わせて生き抜こうと考えますが…。

 羽根をなくしてしまった可憐な妖精イルージアと彼女を守ろうとするトロール、ペシの二人を主人公とする物語なのですが、彼ら二人の動向が直接描かれる部分の合間に、動物や植物など自然界を描いた部分、そして戦乱の世の中となっている人間世界の描写がはさまれていきます。

 この作品で一番精彩があるのは、自然の動物や植物たちが描かれる部分です。動物たちは擬人化されており、人間のように行動したり話したりします。しかし彼らが生きる自然界自体は非常にハードに描かれているのが特徴で、生き物たちの死がはっきり描かれるなど、甘さ一辺倒なおとぎ話ではないところが面白いところです。
 特に印象に残るのは、カッコーに託卵されてしまったシロビタイジョウビタキの夫婦を描くエピソードです。何も知らないイルージアに、不幸な結末に終わるのがわかりながらも手をださないようにと話すペシの態度には、自然界の掟を破るべきでないとする作者の思想が現れているようです。

 もちろんペシとイルージアの生活にも困難は訪れます。羽根を切られてしまったことを皮切りに、外敵に襲われたり怪我に倒れたりと、いろいろな困難を二人は切り抜けていきます。しかしそうした中にも、自然の美しさや生きる喜びといったきらめくような瞬間が時折訪れるのが、この作品の良さでしょうか。
 種族を超えた愛の結晶が生まれるというクライマックスのビジョンには、ある種の感動がありますね。

 この作品の初版は1944年ということで、まさにソ連との戦乱のさなかに描かれており、作中には戦争の描写や人の死も描かれています。そんな時代に描かれていてもペシミズムに陥ることなく、自然と共に生きる喜びを描いているのが魅力といえるでしょうか。。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
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