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深夜の祝祭  トンマーゾ・ランドルフィ『月ノ石』
月ノ石 (Modern & Classicシリーズ)
 イタリアの作家トンマーゾ・ランドルフィ(1908-1979)の長篇『月ノ石』(中山エツコ訳 河出書房新社)は、怪物や幽霊めいたものたちが跳梁しながらも、どこか愉悦感の感じられる不思議な作品です。

 大学生ジョヴァンカルロは、避暑のため叔父一家が住む村を訪れます。そこで近くに住むという美しい娘グルーと出会いますが、グルーの足が山羊のものになっているのに気づき驚きます。叔父たちに訴えても、彼らにはその足が見えないようなのです。
 ジョヴァンカルロはやがてグルーと恋仲になりますが、かって見た山羊の足はそれから目にすることはできません。ある夜グルーに誘われたジョヴァンカルロは、山の中で不思議な体験をすることになりますが…。

 簡単に言うと、青年のイニシエーションを魔術的・幻想的なタッチで描いた作品、といっていいでしょうか。何やら秘密を持っているらしい美女グルーに誘われて、主人公ジョヴァンカルロは様々な不思議なものを目にすることになるのです。
 「山羊の足」というモチーフからも想像されるように、グルーが案内するのは異教的であり、魔女のサバトのような会合です。亡霊や怪物などが現れ主人公を翻弄するのですが、不思議にそこには恐怖感や罪の意識などは少なく、むしろ恍惚とした悦楽、そして祝祭感さえあるのです。

 その「祝祭」と連動するように大自然の風景が前面に現れてくるのも面白いですね。やがて青年は自然の「象徴」と出会うことにもなります。
 大自然を背景にクライマックスで展開される情景は、オカルティックでありながらも色彩豊か。どこかブラックウッドが描く情景にも似ていますね。

 イタリアの作家ということもあるのでしょうが、例えばイギリスやドイツの作家が描く似たテーマの作品に比べても、かなり異質な印象を受ける作品です。言い方はおかしいかもしれませんが、こうした魔術的・呪術的な題材を描くにあたって「後ろめたさ」みたいなものがほとんど感じられないのですよね。
 その意味ですごく「明るい幻想小説」で、妙な高揚感を与えてくれるという、面白い作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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