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不可視の山  ジョーン・リンジー『ピクニック・アット・ハンギングロック』
ピクニック・アット・ハンギングロック (創元推理文庫)
 オーストラリアの作家、ジョーン・リンジー(1896-1984)の幻想的な長編小説『ピクニック・アット・ハンギングロック』(井上里訳 創元推理文庫)は、少女たちの失踪事件を描いた、つかみどころのない不思議な作品です。

 1900年、オーストラリアのバレンタインデー、アップルヤード女学院の女子生徒たちは、ハンギングロックのふもとのピクニック場にピクニックに出かけます。
 生徒たちの中でもひときわ目立つ少女ミランダ、アーマ、マリオン、そしてイーディスの4人は岩山をよく見ようと皆から離れて山を登りますが、イーディス以外の3人は何の形跡も残さずに行方不明になってしまいます。
 時を同じくして、教師のマクロウも失踪していたことがわかり、警察は必死の捜索を行いますが、彼女らの行方はわかりません。
 一方、ピクニックの際に同じ場所に居合わせていた貴族の息子マイケルは、目撃したミランダの美しさが忘れられず、独自に捜索をしようと考えます。友人のアルバートと共にハンギングロックに向かうマイケルでしたが…。

 神秘的な失踪事件がメインテーマになっている作品で、その失踪の謎を追いかけていく物語かと思いきや、失踪事件に関しては作中の登場人物たちが必死で捜索を行うものの、ほとんど何もわかりません。
 むしろその事件によって、学院の教師や生徒たちなど、周囲に及ぼす影響や彼らの行動が描かれていくという意味で「群像劇」といってもいいような作品になっています。事件が超常的・幻想的な色彩を帯びているだけに、周りの人間たちの周囲も不穏な雰囲気につつまれていきます。
 残された生徒たちがヒステリーのような状態になったり、学院の将来を心配する校長の心理が描かれたりと、全体にサスペンスが横溢しており、劇的な展開はあまりないものの飽かせずに読ませます。

 様々な登場人物が描かれますが、特に中心的に描かれるのが、貴族の青年マイケルとその友人アルバート。
 直接的なつながりはないものの、失踪直前にふと見かけたミランダの美しさが忘れられないマイケルは、独断で捜索を開始します。世間知らずの友人を心配したアルバートは彼につきあうことになりますが、マイケルの行動が事件の展開を進ませる要因にもなるのです。

 ジャンル分類不能といっていい独自の作風なのですが、非常にユニークな魅力のある作品です。解説によると、編集者の提案で最終章が削除されて刊行されたとのことです。それによって事件の不可解性が増していて、奥行きのある作品になっていますね。
 作中で起こる様々な事件の原因や関連性が全く説明されないため、非常に不条理な感覚が強くなっています。超常現象を肯定も否定もしないため、厳密には怪奇幻想小説とは言えないのですが、この不穏な読後感からは、この作品を怪奇幻想小説といってもよいのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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