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夢幻の冒険  ウィリアム・モリス『世界のかなたの森』
世界のかなたの森 (ウィリアム・モリス・コレクション)
 ウィリアム・モリスの長篇『世界のかなたの森』(小野二郎訳 晶文社)は、モダン・ファンタジーの父モリスによる、純度の高いファンタジー小説です。

 不実な妻との結婚生活に疲れた若者ウォルターは、未知の冒険を求めて航海の旅に出ます。ウォルターは旅立つ直前に見かけた三人組に目を引かれます。彼らは、絶世の美女である貴婦人、清純な侍女、邪悪そうな小人の奇妙な三人組でした。
 航海中、父の急死と妻の実家が攻撃を繰り返していることを知ったウォルターは急遽引き返そうとしますが、その直後に発見した「裂け目」から不思議な森に足を踏み入れることになります。そこはかって出会った三人組の一人である貴婦人が支配する場所でした。
 侍女と愛を誓いあったウォルターは彼女を助け出すために、貴婦人に魅了されたふりをしますが…。

 主人公の青年ウォルターの冒険の旅を描くファンタジー小説です。いくつかの冒険が描かれるのですが、メインとなるのは貴婦人<女王>の支配する森での冒険です。<侍女>と愛を誓い合ったウォルターは彼女を助けるために<女王>に惹かれたふりをしますが、<女王>の美貌には少なからず魅了されてしまいます。
 <女王>の先の恋人である<王の子>との対立、そして暗躍する邪悪な<小人>の妨害をはねのけて、ウォルターは<侍女>を救い出すことができるのか?

 ウォルター以外の主要な登場人物が代名詞で表されるのが面白いです。それもあって全体に寓意的な雰囲気を帯びた作品になっています。ウォルターにとっての別世界である<女王>の支配する場所以前、航海が始まる前からしてすでに夢幻的な雰囲気が漂っており、まさに夢見心地になるような作品です。

 ところどころで困難は発生するものの、基本的にはウォルターは難なく危機を乗り越えて進んでいきます。その意味で「ハラハラドキドキ」感はあまりないのですが、その代わり読んでいて何ともいえない「心地よさ」があります。
 おそらくそれは作者モリスの意図するところで、「小説」というよりは「伝説」に近い感じの物語なのですよね。実際、登場人物たちもそれほど複雑な性格は与えられておらず、それぞれのエピソードはわりとシンプルです。
 その中でいちばん「複雑」な人物として描かれているのが<女王>で、悪役として登場しながらも愛情深い一途な面があったりと、多面的な描かれ方がされています。

 筋立てはシンプルながら力強い推進力があり、今読んでもその瑞々しさは失われていません。現代ファンタジー小説の原型的な作品という意味でも、名作といっていい作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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