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悲恋の山  マリアンヌ・マイドルフ『魔女グレートリ アルプスの悲しい少女』
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 マリアンヌ・マイドルフ『魔女グレートリ アルプスの悲しい少女』(種村季弘・田部淑子訳 牧神社)は、魔女裁判にかけられた少女を描く作品で、救いのない、ゴシック小説的な味わいの作品です。

 アルプスの山腹にある村トリーゼンベルク、この村では資産家であるシュテース一家の世話になっている少女グレートリは、かって母親を魔女として殺された過去を持っていました。成長したグレートリは、兄妹として育った青年アロイスに思いを寄せ、アロイスもまた彼女を愛していたのです。
 一方、これも資産家であるヨス・リュディとアロイスの父ヤーコブは、アロイスとヨスの娘スティーナ・リュディを結婚させることに決めていました。スティーナもまたアロイスを憎からず思っていたのです。
 しかし、アロイスがグレートリを愛していることを知ったスティーナは嫉妬のため、グレートリが魔女だという噂を流してしまいます…。

 清純で思いやりの深いヒロインが悲劇的な結末を迎えるという、かなり救いのない物語です。死にかけていた子供を看病したことが逆に子供を呪い殺したとされてしまったり、身分違いであるアロイスとの恋の成就がまた複雑な事態を引き起こしてしまったりと、悪いめぐり合わせの連続なのです。

 前半、グレートリが領主の息子を助けるエピソードがあり、これが後半で彼女を救うのかと思いきや、それさえもが結末の悲劇性を際立たせているという強烈さ。またヒロインを陥れるスティーナも本来は彼女の友人であり、グレートリを悪く言う子供を叱ったりと、本質的には善人なのです。
 グレートリの養い親であるシュテース夫婦もまた、彼女を実の子供のようにかわいがりながらも、村での立場から、グレートリを見捨てる形になってしまいます。本質的には善人である人々のせいで善人の少女が罪に問われてしまう、という物語なわけで、これは本当に救いがないです。

 災害を起こす精霊や伝説、予知能力など、超自然的な要素も少しながら登場しますが、物語の主要な登場人物たちは基本的に「魔女」の存在を信じていない…というのも面白いところです。

 作者のマリアンヌ・マイドルフに関しては、解説にもほとんど情報が載せられていないので詳細がわからないのですが、19世紀後半生まれのスイスの作家のようです。そういえばこの本、原題も発表年の表示もないのですよね。
 ネットで調べたかぎり ≪Die Hexe vom Triesnerberg. Eine Erzahlung aus Liechtensteins dunklen Tagen≫というのが、この作品の原題のようで、そうだとすると、1908年発表の作品のようです。解説には19世紀半ばに書かれたとあるのですが、作者のマイドルフの生年が1871年となっているので、訳者の勘違いかなあと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
魔女に白い花束を
曽祢まさこ先生の「魔女に白い花束を」という漫画で、この作品を知りました。端正な正統派の少女漫画の絵にトラウマを植え付けられました。トーベルホッカーという単語が記憶に焼き付きました。嫉妬に道を踏み外したスティーナよりグレートリの処刑を娯楽として楽しむ村人達の顔の方が恐ろしかった。
【2019/05/05 23:02】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

辺獄のシュヴェスタ
再レスすみません。「辺獄のシュヴェスタ」を初めて読んだ時に養母アンゲーリカの悲惨な最期に、グレートリの境遇が重なりました。魔女の娘として虐げられながらもエラには信頼できる仲間と、命をなげうって手掛かりを遺した先輩がいたのですね。エラ本人の能力も卓越していますが。グレートリは無力で健気な少女としてアロイスの思い出に残るでしょうが、エラには同志はいても恋人はいないような。
【2019/05/05 23:41】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
僕も漫画化作品があることは最近知りました。
魔女狩りがテーマになった作品だと、集団の狂気を描く、といった形が多いように思いますが、この作品だと、それらが普通の日常の続きとして表現されているところが怖いなと思います。

「辺獄のシュヴェスタ」は、魔女狩りテーマ作品としては、逆に異色ですよね。現代日本の作品だということを差し引いても、主人公が鉄の意志で進む「魔女狩り」テーマ作品は他に読んだことがありません。
主人公の恋人的なポジションのキャラが出てこなかったのも面白いところです。
【2019/05/06 08:52】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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