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幻想郷の音楽  ピーター・S・ビーグル『ユニコーン・ソナタ』
ユニコーン・ソナタ
 1996年発表のピーター・S・ビーグルの長篇『ユニコーン・ソナタ』(井辻朱美訳 早川書房)は、不思議な音楽に導かれ、異世界<シェイラ>と現実世界を往復する少女ジョーイを描いたモダン・ファンタジー作品です。

 ロサンゼルスにあるパパス楽器店に入り浸っていた13歳の少女ジョーイは、ある日店にやってきた見知らぬ少年と出会います。インディゴと名乗った少年は見たこともない角笛を吹きますが、そこから流れてくるのはこの世ではありえないようなメロディーでした。
 少年は、楽器店の主人パパスに角笛を売りたいと話しますが、その交換条件は大量の黄金でした。手持ちの黄金では足りないと言われたパパスは必死で黄金をかき集め始めます。
 一方、ジョーイはある日、街角から異世界に入り込んでしまいます。<シェイラ>と呼ばれるその世界では、<大老>と呼ばれるユニコーン達を始め、様々な不思議な種族たちが暮らしていました。その世界にはインディゴが奏でていたのと同じような音楽が流れていたのです。
 やがて<シェイラ>でインディゴと再会したジョーイは、彼にある目的があることを知りますが…。

 現実との<境>からつながる異世界<シェイラ>、そこは不老不死に近いユニコーン族をはじめ、フォーンやドラゴンなど、伝説的な生き物たちが住む世界なのです。ふとしたことからその世界に入り込んだ少女ジョーイは滞在するうちに、その世界の虜となります。
 非常に美しく完璧な世界といっていい<シェイラ>にも問題がありました。ユニコーンたちは原因不明の病に襲われ、大部分のものが目が見えなくなっていたのです。
 一方、<シェイラ>からやって来た少年インディゴは、そんな完璧に近い世界に嫌気がさし、現実世界で暮らしたいと考えていました。ジョーイには完璧に見える世界が、インディゴにとってはつまらない世界であるという皮肉が面白いですね。

 非常に魅力的な異世界が描かれる作品なのですが、それが単純な現実否定になっていないのが興味深いところです。インディゴによる異世界<シェイラ>の相対化というのもそうですし、ジョーイ自身もいくら魅力的だと言っても、現実世界から移住しようとまでは考えないのです。

 異世界には異世界の素晴らしさがあるし、現実世界にも現実世界の素晴らしさがある。そして魔法は完全に消えてしまうわけではなく、いつかまたたどり着ける可能性がある…。そうした透徹しながらも希望は失わないという視点が作品のところどころに感じられ、非常に奥行きのある物語になっています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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