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現代に生きる神々  ピーター・S・ビーグル『風のガリアード』
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 ピーター・S・ビーグルの第三長篇『風のガリアード』(山田順子訳 ハヤカワ文庫FT)は、現代に生きる神々をモチーフにしたファンタジー作品です。

 現代アメリカ、カリフォルニアの田舎町アビセンナに帰ってきたリュート奏者ファレルは、友人のベンを訪ねます。彼はふくよかな中年女性シアと一緒に暮らしていました。カウンセラーを生業としているシアには不思議な力があるらしく、彼女の住む家にも時折不思議な現象が起こります。
 かっての恋人ジュリーと寄りを戻したファレルは彼女に誘われて、中世人に扮して楽しむという「古代の娯楽を追求する連盟」に参加することになります。ある日ファレルは、連盟の有力会員ガースの娘エフィーが魔方陣から何者かを呼び出す場面を目撃してしまいます。
 現れたのは美少年であり、ニック・ボナーと名乗る少年はエフィーとともに不思議な力を行使し始めます。シアの家に訪れたエフィーとボナーはシアを挑発し始めます。一方ベンは、中世のバイキングらしき存在に憑依され始めていました…。

 結構長い長篇で(文庫本で470ページ超)、登場する要素も多数であり、非常に要約しにくい作品です。簡単に言ってしまうと「善神と悪神の戦い」がメインテーマであり、それに巻き込まれた人間たちを描く作品、といってもいいでしょうか。

 人や土地に縛られない自由人である主人公ファレルが、故郷に戻り旧友や新しい知り合いに出会っていくという前半はつまらなくはないものの、普通小説っぽい展開でちょっと退屈してしまう人もいるかもしれません。
 中世趣味のサークル「連盟」が登場したあたりから作品が動き始めます。とくに少女エフィーが召還したらしい悪魔的な存在ニック・ボナーが現れてからは、俄然物語が面白くなります。ボナーは不思議な中年女性シアと旧知の仲であり、対立する存在であるらしいのです。
 ボナー、そしてシアの正体は何なのか? ファレル、ベン、ジュリーたちは彼らの争いに巻き込まれていくことになりますが…。

 主人公ファレルのキャラクターが独特で、どんな不思議な出来事も普通に受け入れる…という懐の広いキャラになっています。この作品以前に書かれている短篇「ファレルとリラ」の主人公と同じ名前なのでもしかして? と思ったら同じキャラクターのようです。
 実際、作中でも「ファレルとリラ」の内容が言及されています。「ファレルとリラ」では友人ベンもちょこっと登場しますが、こちらはキャラクターがわかるほど登場場面は多くありません。

 動きの少ない日常描写の多い前半に比べ、後半は「魔法合戦」かというぐらいのスペクタクル場面が多くなっており楽しませてくれます。中世騎士に扮した模擬戦の最中に召還された本物の戦士たちに殺されそうになったり、「神々たち」の壮大な魔法の応酬があったりなど。
 クライマックスの舞台となる「別世界」の描写も魅力的です。

 全体に作者の趣味といっていいのか、リュートや古楽、ダンスや古武術など、中世趣味が横溢しており、そうしたモチーフが好きな読者にも楽しめる作品ですね。
 日本趣味もかなり強く、ファレルの恋人ジュリーも日系人ですし、作中に登場する日本武術の話や日本人「ベンケイ」、果ては「観音」まで登場します。そもそもメインとなる「神々」もキリスト教のそれではなく、多神教的な存在なのです。

 前半の日常描写からだんだんと不穏な状況が到来する…という展開はちょっとモダンホラー的で、読後感はファンタジーというよりはホラーに近い印象ですね。
 ビーグルの前二作『心地よく秘密めいたところ』『最後のユニコーン』と比べるとかなり印象の異なる作品なのですが、これはこれで非常に面白い作品かと思います。
 ちょっと趣は違うのですが、ニコラス・コンデ『サンテリア』とか、ジェームズ・ハーバート『魔界の家』が好きなホラーファンは楽しめる作品ではないでしょうか。



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ピーター・S・ビーグルの単行本未収録短篇「ファレルとリラ」(鏡明訳『SFマガジン1976年12月号』早川書房 収録)についても紹介しておきましょう。

 ファレルは、彼の部屋に転がり込み同棲することになった若い女性リラ・ブラウンが人狼であることに気付きます。部屋に戻ってきた狼がリラの姿になるのを目撃したのです。しかしファレルはそれを受け入れ、彼女とつきあい続けることにします。
 しかし、ファレルが友人から預かっていた犬を狼になったリラが殺したことを皮切りに、変身したリラは動物を殺し続けていることをファレルは知ります。一方、リラの正体に気付いたビルの管理人は彼女を恐れていましたが…。

 人狼の女性と普通の人間の男性との恋愛模様を描いた作品です。女性が狼になると理性を失い野生的になるのに対して、相手の男性ファレルが妙に落ち着いた性格に設定されているのが面白いところです。リラが人狼であるのを受け入れるのもそうなのですが、彼女との生活を客観的に見ているようなのです。
 ファレルは友人ベンに対してリラとの関係を赤裸々に話していきます。そこにあるのは情熱的な恋というよりは客観的な観察に近い報告です。やがてファレルはリラに対して「愛情」を感じているわけではないのではないかと自問し始めますが、リラの変身は重大な事態を引き起こそうとしていました…。

 人狼であるヒロイン、リラがユニークなのはもちろん、相手の男性ファレルも奇妙なキャラクターです。二人の間の関係だけでなく、リラとリラの母親との関係もクローズアップされ、何やら精神分析的な解釈も可能であるような、そんな雰囲気もありますね。奇妙な恋愛を描いた「変愛」小説です。



テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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