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現実と空想の旅  ロード・ダンセイニ『夢源物語 ロリーとブランの旅』
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 ロード・ダンセイニの長編小説『夢源物語 ロリーとブランの旅』(稲垣博訳 Penaga Lost Works)は、夢見がちな青年ロリーと相棒ブランの、現実と空想が交錯する旅を描いた長編小説です。

 夢見がちで少し頭の弱い青年ロリーは、牛飼いを生業とする両親から用事をいいつかります。それはグルトナルーナの市まで十二頭の牛を連れていくというものでした。ロリーを心配する両親は、旅の相棒にブランを同行させることにします。
 人を信じやすいロリーは、やがて旅の途中で有り金と牛を巻き上げられてしまいますが…。

 心優しい青年ロリーと相棒ブランが、道中に様々なトラブルにあいながらも、やがて幸せな結末を手に入れる…というロードノベル的な物語です。
 明確に超自然的な出来事は起こらないものの、全体を通して空想的でファンタスティックな空気感に満ちています。

 主人公ロリーは空想がちで騎士道物語のファンであり、現実世界の出来事には疎い青年です。旅の途次で自分を騎士に見立てて空想に耽ったりなどしてしまいます。
 ロリーだけでなく、彼らが旅の途中で出会う人々もまた、ロリーに輪をかけて現実離れした人物たちであるというのも、作品の空想的な雰囲気を醸成するのに寄与しているようです。
 ロリーの持ち金や牛を巻き上げようとする香具師めいた騎手ファーガン、自分をアイルランドの国王だと主張するオハリガン、魔法の力を信じる鋳掛け屋「瓶の船」、そしてロリーの想い人であるライアン家の娘「麗しのオリアナ」…。

 登場人物たちはどれもユニークですが、とくにロリーを全面的にバックアップすることになる鋳掛屋に関しては、物語中でも重要な人物として描かれています。鋳掛屋はロリーの空想を否定せず、魔法の存在そのものを肯定するというキャラクターになっています。
 この鋳掛屋とロリーとの掛け合いは非常にファンタスティックな香気に満ちています。特に、鋳掛屋の眠っている飼い犬に対して彼が話すセリフは印象的です。

 「いや、まだ眠っておる。起こさん方が良いじゃろう。どんな夢を見ているか解らんからな。奴は今、玉座に座る王かも知れん。今起こせば一国を抹消させることにもなりかねん。…」

 犬が夢の中で別の人生を生きているかも…という何ともファンタスティックな空想に満ちたセリフで、とても魅力的です。

 騎手やオハリガンなどに持ち物や牛を巻き上げられても、ロリーは持ち前の空想癖と楽観主義からまったくめげることがありません。牛を売るための旅であるのに、牛を全頭失ったまま旅を続けることになるのです。
 やがてロリーの想い人オリアナが助けを求めてきたとき、ロリーは「仲間」たちとともに助けに向かうことになります。ロリーの純真な性質、そして「仲間」たちの「狂気」がオリアナを助けるために役に立つ…という展開は、そこまで作品を読んできた読者にとって非常に説得力があり感動があります。
 ロリーを始め、狂気に囚われたり、頭のねじがちょっと緩んでいるような登場人物たちが、ただそれだけで切り捨てられるのではなく、彼らなりの役割を発揮するというのも面白いところですね。

 空想の世界に生きていたロリーが「愛」の力で現実の世界に戻ってくるというのも興味深いところです。かといって彼が空想の世界を失ったわけではない、というのは結末でも示されます。
 空想の世界と現実の世界、両方の美しさが描かれています。空想と現実、どちらかを否定するのではなく、どちらもが人生には共存する…というような非常にバランスのとれた作品です。劇的な事件はあまり起こらないものの、詩心あふれるタッチで描かれた作品です。

 相棒であるブランが所々で存在感を放ちながらも、作中一つもセリフがないというのもユニークかつ面白い試みですね。

 ファンタスティックではありながらも「ファンタジー小説」とは言い切れないところもある作品で、その意味で読者を選ぶところもあるのですが、ダンセイニ作品の変遷を考える上で重要な意味を持つ作品ではないでしょうか。

 『夢源物語 ロリーとブランの旅』は、稲垣博さんの主宰する<Pegana Works ペガーナ・ワークス >から購入できます。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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