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運命と魔法  ピーター・S・ビーグル『完全版 最後のユニコーン』
完全版 最後のユニコーン
 ピーター・S・ビーグル『完全版 最後のユニコーン』(金原瑞人訳 学研)は、1968年発表、最後のユニコーンをめぐるモダン・ファンタジーの名作です。

 ある森に一人で住む雌のユニコーンは、自分が世界で最後のユニコーンになってしまったのではないかと不安になり、仲間を探す旅に出ます。旅の連れになったのは、才能を持ちながらもそれが発揮できない魔術師シュメンドリックと盗賊の一員だった奔放な女性モリー。
 旅の途次で耳にした「赤い雄牛」の噂をたどるうちに、彼らは狂った王ハガードが支配する呪われた町ハグズゲイトに辿りつきますが…。

 ユニコーンの造形が素晴らしい作品です。不死に近い生き物で、非常に美しい姿をしていますが、それを信じられない人間が見てもただの馬にしか見えないという存在。そして人間的な感情とは隔絶しているために、人間といっしょに旅をしながらも完全に打ち解けることはありません。
 しかし旅の途中で「赤い雄牛」に襲われたことから、魔術師シュメンドリックの魔法でユニコーンはある姿に変身させられてしまうことになります。新たな姿で新しい感情を手に入れたユニコーンと周りの登場人物たちの関係がどうなっていくのか…というのも読みどころの一つですね。

 登場人物にも深みがあり、それぞれの魅力が感じられます。魔術の才能を持ちながらもそれが発揮できない魔術師シュメンドリック、盗賊一味から抜け出し旅の連れとなる奔放で裏表のない女性モリー、何かを追い求めるかのような憑かれた王ハガード、その息子の英雄リーア王子…。
 特にシュメンドリックはこの作品の主人公といってもいい存在であり、自分ではコントロールできない彼の魔法が、要所要所で物語の鍵となっていきます。しかしシュメンドリックの魔法は自らの意思で発動するというよりは、来るべきときに来るべき形で発揮される…というように、運命的・宿命的なものとして描かれています。

 物語全体にもそういう空気があって、登場人物たちが自らの運命を切り開いていくというよりは、宿命的な定めにしたがって物語が動いていく…という感覚が強いのです。
 それを象徴するように、物語内でシュメンドリックやリーア王子は、自らが物語の登場人物であることを意識しているかのような、メタフィクショナルな発言を繰り返します。そのあたり非常に面白いですね。

 解説にも書かれていますが、従来のファンタジー小説的な魅力に加え、知的遊戯としての一面、そして恋愛小説的な一面もあります。象徴的な部分も多いので、読む人によって様々な感想が生まれるであろう多様性もありますね。これは本当に名作といっていい作品だと思います。

 従来出ていたハヤカワ文庫版の内容に加え、この「完全版」では2005年に書かれた続編となる中篇「ふたつの心臓」が収録されています。こちらでは本編のおそらく数十年後が舞台になっています。村の少女スーズが、人をさらう怪物グリフォンの退治を英雄リーア王に依頼するという話です。
 シュメンドリックとモリー、リーア、そしてユニコーンが再登場する作品で、単体で面白い作品ではあるのですが、本編が綺麗に完結しているので、続編としてはどうかな…という面がないではありませんね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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