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奇想・幻想短篇集さまざま
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レオン・ブロワ『薄気味わるい話』(田辺保訳 国書刊行会)
 フランスの作家、レオン・ブロワ(1846-1917)のブラック・ユーモアに満ちた短篇集です。収録作品はどれも短いものながら、人間に対する強烈な呪詛と悪意に満ちています。

 告悔室で自分の母親が煎じ薬に毒を入れたことを知る息子の話「煎じ薬」、利己主義の娘が父親をあっさりと見捨てる「うちの年寄り」、吝嗇な老人が実は何百もの貧しい家族を養っていたことがわかる「ブルール氏の信仰」、外の世界に出ようとするが決して出られない夫婦を描くカフカ的な作品「ロンジュモーの囚人たち」、すべてを同じくするという結社を結成した四人組の一人が恋をしたことから始まる悪夢的短編「陳腐な思いつき」、死んだと思っていた姉が売春婦となってあらわれる「あんたの欲しいことはなんでも」など。

 どれもブラックユーモアと呼ぶにもあまりにも悪意に満ちた作品ばかりです。ブルジョワや貴族など、一部の階級や人間を軽蔑しているというよりも、人間全体を憎悪しているといわんばかりの悪罵が頻出します。
 例えば「ブルール氏の信仰」。けちだと思われていた老人が実は慈善家だったという話なのですが、老人にほどこしを受けていた人間も老人を見下し軽蔑し、そして当の老人自体も著者から軽蔑されているのです。誰一人、著者の悪意を受けないものはないという強烈な一篇。

 作品中に現れる「罵倒語」も、おそらく控えめに訳してあるのでしょう。原文の味わいはかなり強烈なものであることが窺えます。ブロワの作品は、言葉通りの意味で、まさに「残酷物語」。ただそのあまりの身も蓋もなさは、読者を選ぶかもしれません。



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H・C・アルトマン『サセックスのフランケンシュタイン』(種村季弘訳 河出書房新社)
 H・C・アルトマン(1921-2000)はオーストリアの作家。『サセックスのフランケンシュタイン』は、幻想的な要素の強いパロディ小説集です。

 表題作「サセックスのフランケンシュタイン」は、アリスがフランケンシュタインの花嫁にされようとするが果たせず、メアリ・シェリー自身が花嫁になってしまうというナンセンス・ストーリーです。表題作以外の作品は全て、ショート・ショートといってよいぐらいの短い掌編からなっていますね。

 マリー・セレスト号事件を思わせる船客蒸発事件を描く「解けない謎」、上半身のない二本の足だけを見つけた兵士の奇妙な体験「踊り手」、難破船の遭難者を殺して金品を奪った男の悲惨な結末「異常な疫病神」、人肉食者たちの飛行船に乗り込んでしまった記者の運命を描く「危険な冒険」など。

 「コンラッド・トレゲラスの冒険」という、ラヴクラフトのパロディ小説も入っています。あまりにもナンセンスで意味のとりがたい作品もままあるのですが、大部分は奇妙な味のショート・ショートとして楽しめる作品です。

 パロディではありながら、実際に出典元がはっきりしない作品もあるのですが、知らなくても十分楽しめる作品集になっています。全体的にホラーやスリラー、冒険物語といった、大衆小説的な技法を用いていて、そのB級感、安っぽさを逆手にとった作品に才気を感じさせますね。



小型哺乳類館
トマス・ピアース『小型哺乳類館』(早川書房)
 あり得ない状況や奇想を扱いながらも、読後感は限りなく普通小説に近い…という面白い味わいの短篇集です。

 息子から再生された小型マンモスを預けられた母親の困惑を描く「シャーリー・テンプル三号」、恋人が夢の中で結婚している相手に嫉妬を抱き、その相手が実在するのではと疑う男を描く「実在のアラン・ガス」、気球ツアー会社を経営する女性と風変わりな客とのやりとりを描く「おひとりさま熱気球飛行ツアー」、細菌により死亡した弟の遺体が細菌兵器扱いされ、弟の遺体の返還に執着する兄の物語「追ってご連絡差し上げます」などが面白いです。

 明確なオチがある作品はほとんどなく、風変わりな状況に落ち込んだ一般人の人生の断面を切り取る…といった感じの作品が多いですね。全体に妙なユーモアがあり、読み心地は悪くありません。
 紹介文やあらすじから《異色作家短篇集》みたいな作品を期待する人もいると思うのですが、そういう味わいとはちょっと違うので、好き嫌いが分かれる短篇集かもしれません。



夜更けのエントロピー (奇想コレクション)
ダン・シモンズ『夜更けのエントロピー』(嶋田洋一訳 河出書房新社)
 ホラー味の強い短篇を集めた作品集です。どの短篇にも頻出するモチーフがあり、具体的には、吸血鬼、ゾンビ、エイズ、ベトナム戦争、教師などのモチーフがそれ。

 題材的に新鮮味はあまりないのですが、その使い方が、どれも意表をついていて上手いのが特徴です。とくに驚かされるのは「最後のクラス写真」。ゾンビになってしまった子供たちを、なお教えようとする女教師の孤独な戦いを描いたこの作品には、力強いものがありますね。

 一番面白かったのは、表題作「夜更けのエントロピー」です。保険調査員の主人公は、偶然起こる不思議な事故の情報をファイルにまとめています。その事故の事例を挙げるのと並行して、主人公の息子が死んだ顛末が語られます。そして、娘にもいつ何が起こるかわからないという不安…。
 ほんのちょっとした出来事が運命の分かれ目になる。それが起こったあと、人がなぜそうなったのかを納得できず、不条理に苛まれる。そんな人間の根元的な不安をうまく描いている作品です。ある意味、普通小説に近い作品なのですが、ジャンル小説中心の短篇集の中では、逆に意外性がありますね。



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マーティン・H・グリーンバーグほか編『ゴーサム・カフェで昼食を』(白石朗ほか訳 扶桑社ミステリー)
 「異常な愛」をテーマにした書き下ろしホラーアンソロジー。テーマがテーマだけに、超自然的な要素は少なく、「サイコ」的なテーマの作品が多いですね。以下面白かった作品を紹介します。

マイケル・オドナヒュー「サイコ」
 精神病者の狂気じみた行動を脚本形式で描く作品。脚本形式にしたことにより、サイコ的人物の心理が直接描写されず、その行動だけを坦々と追っていくのが効果を出しています。解釈が分かれそうな結末も面白いですね。

ベイジル・コッパー「きらめく刃の輝き」
 ベルリンの下宿に突然現れた謎の下宿人を描く作品。「わたし」という一人称で語られながら、男性であること以外、素性は全く明かされません。殺人を繰り返していることが暗示されるが実際の行為は直接描写されないという、技巧的な短編です。

ロバート・ワインバーグ「ロー・バーグ」
 妻と二人、平凡な生活を送る男性のもとに、クレジット会社から名前を間違えて送られてきたクレジットカード。そのカードを使っているうちに、男は別の人格になり切るようになります。弟と妻の浮気を知ったとき、もう一人の人格は何をするつもりなのか…?
 発端のつかみの上手さを始め、語り口がうまいので、ストーリーの展開がある程度予想できるにもかかわらず最後まで読ませられてしまいます。二重人格テーマの佳品。

リチャード・レイモン「湖の乙女」
 小心者の「ぼく」は、プレイボーイのクラスメイトたちに誘われて湖に行きます。そこには「ぼく」に熱をあげている女の子が待っているというのです。しかし湖には、殺された乙女の霊が出るといううわさがありました。
 ためらっている「ぼく」の前に、向こう岸の女の子が見えます。「ぼく」は島まで泳いでいけるのか…。
 いたずらとしか思えない誘いにのる「ぼく」はどうかしているのではないかと思ってしまうのですが、強烈なひっくり返しが待っています。飄々とした語り口が喜劇的な雰囲気をかもしだす怪作。

エド・ゴーマン「すべての終わり」
 冴えない中年男性の「私」は、事故をきっかけに整形手術を受けます。容姿に自信をもつようになった「私」は、昔憧れていた女性に会いに行きます。女性は相変わらず魅力的でしたが、夫とはうまくいっていないらしいのです。
 しかも、美しい実の娘に対して異常な嫉妬を燃やしているのです。「私」は娘の方に惹かれていきますが、ある日女性の夫が殺され、娘は暴行を受けて障害者になってしまいます。犯行は嫉妬に燃えた女性の犯行なのか…?
 娘と「私」との感動的なラブストーリーになると思いきや、狂気じみた女性の行動がすべてを覆いつくしてしまいます。独占欲が肥大した女性のキャラクターが強烈で、集中随一の力作といっていいのではないでしょうか。

 収録作は玉石混交ではあるのですが、面白い作品も多数です。特にエド・ゴーマン作品の出来が素晴らしく、この短篇を読むためだけに本を買ってもいいのではないでしょうか。



首ざぶとん (角川ホラー文庫)
朱雀門出『首ざぶとん』(角川ホラー文庫)
 華道教室に通うまりかは、母親の代りに先生を務めることになった龍彦に惹かれつつありました。彼の趣味は怪談蒐集であり、蒐集を手伝ううちに、まりかは異様な怪異現象に巻き込まれていくことになります…。

 いわゆる「ゴースト・ハンターもの」といっていい作品なのですが、登場する怪異現象が、非常に風変わりで不条理なところがユニーク。そこはかとなく感じられるブラック・ユーモアも魅力的な作品です。
 4篇を収録する連作短篇ですが、最初の2篇「首ざぶとん」「トモダチ」が特に面白いです。

 「首ざぶとん」は、古来から入ってはいけないといわれていた洞穴に入り出られなくなった、まりかと龍彦の脱出行を描く作品。脱出のルールが民話を思わせる不条理なもので、非常に不気味です。

 「トモダチ」は、電話をする友人同士の通話に突然乱入してくる声の怪異を描いた作品。その声は質問をし、答え方によっては、その人間を全く他人のいない孤独な世界に送り込んでしまうのです。これは相当怖いです。

 怪異に詳しい龍彦も、あくまで少し「詳しい」だけで、本格的な怪異現象に対してはそれほど打つ手がない…というレベルであるのが、逆に怪異の不可思議さを感じさせて、ほど良いポジションだと思います。この本だけで完結しているシリーズのようですが、続きを読んでみたい作品ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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