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日常と異界  澤村伊智『ひとんち 澤村伊智短編集』
ひとんち 澤村伊智短編集
 澤村伊智『ひとんち 澤村伊智短編集』(光文社)は、比嘉姉妹シリーズで知られる著者のノンシリーズのホラー短篇集です。収録作はそれぞれ工夫が凝らされた作品揃いで、非常に面白く読めます。

「ひとんち」
 学生時代のバイト仲間で現在は主婦である香織の家に、共通の友人とともに遊びに来ることになった歩美。話をしている内に、家によって独自のルールがあることに話が及びますが…。
 普通の友人だと思っていた存在が実は…という、身近な人間の恐ろしさを語るホラー作品。自分は当たり前だと思っていることが他人から見るとおかしい…という気づきを上手く作品化していて秀逸です。

「夢の行き先」
 小学五年生のあるクラス内で同じ悪夢を見る子供たちが続出します。それは奇怪な老婆に追いかけられる夢でした。子供同士で話し合った結果、その夢は3日ごとに子供たちの間を移動していることがわかりますが…。
 移動する悪夢を描いた作品です。得体の知れない現象に独自のルールがあることが判明していく過程はサスペンスフル。アイディアが非常に面白い作品です。

「闇の花園」
 クラスメイトともろくに口を聞かない黒ずくめの少女、沙汰菜を心配した教師の吉富は、彼女の母親が異常者であり、娘は母親に洗脳されているのではないかと疑います…。
 妄想に憑かれたかに見えた人間が実は…という、ある意味ベタな怪奇作品。ストレートなオカルトネタが楽しい作品です。

「ありふれた映像」
 スーパーでパートとして働く主婦の「わたし」は、ある日スーパーで流れる販促映像に奇妙な死体のようなものが写っているのに気がつきます。その映像を撮った監督は行方知れずになっているというのです。ひょんなことから新しい販促映像に「わたし」は出演することになりますが…。
 映像に異様なものが映り込んでしまう…という作品。映像そのものも、それを撮った人間の目的や因果関係もはっきりせず、不条理度の高い作品になっています。

「宮本くんの手」
 出版社で働く澤田は、同僚である宮本の手が荒れてぼろぼろになっているのに気がつきます。手の荒れはやがてエスカレートしていきますが…。
 ぼろぼろになった手は何かの前兆なのか? 奇妙な味の作品です。

「シュマシラ」
 食玩を集めていた「私」は熱心なコレクター、柳の訪問を受けます。彼はある食玩シリーズに含まれていた「シュマシラ」なる存在を調べているというのです。それらの話を聞いた「私」の同僚でオカルト好きの川勝は、独自に「シュマシラ」を調査している過程で失踪してしまいます。
 柳と共に川勝の跡を追った「私」はある動物園にたどり着きますが…。
 謎の妖怪を求める内に異界へと紛れ込んでしまうというホラー作品。異界の描写は得体が知れなくてかなり怖いです。

「死神」
 ある日友人の日岡からペットを預かってほしいと頼まれた植松は、鉢植えと昆虫飼育ケース、水槽とハムスターなどを預かります。しかし預かったペットは次々と死んでしまい、それに伴って語り手には記憶が飛んでしまうという不思議な現象が起こり始めます。
 日岡と以前付き合っていたという女の話では、友人はペットなど飼っていなかったというのですが…。
 水槽に潜んでいるのは何なのか? 怪物の正体を終始明かさないところが怖いですね。謎の怪物、記憶とアイデンティティー、そして「不幸の手紙」。多様なテーマをミックスしたユニークな作品です。

「じぶんち」
 スキー合宿から帰ってきた卓也は、自宅に家族がいないことに気づきます。不安にかられた卓也は父親に電話をしますが、父親は異様な反応を示したために電話を切ってしまいます。やがて卓也は部屋の中の不自然さに気付きますが…。
 SF的なテーマの恐怖小説です。一体何が起こっているのか、なかなかはっきりしないのですが、異様な不安感があります。「怖さ」では集中でも一番なのではないでしょうか。少年が急にひとりぼっちになってしまう怖さと淋しさとがよく出ていますね。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
コンスタントに作品を出しておられて凄い!
表題作が一番ぞっとしました。ミイくんって最悪にマズいカレーの稔くんなのでしょうか?「闇の花園」はエコエコアザラクの映画を思い出しました。菅野美穂さんが素敵でした。
【2019/05/25 13:01】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


「闇の花園」は、確かに「エコエコアザラク」っぽい感じでしたね。もしかしたら意識しているのかも。
【2019/05/25 17:21】 URL | #- [ 編集]

「ひとんち」読みました。
私は「夢の行き先」が一番好きです。怪奇現象に見舞われても、「(自分は)死にはしない」「もっとひどい目に会う人がいる」とわかっていると、若干心の余裕があるのが面白いです。この話だけ登場人物のセリフが関西弁なのが、しっくり来ます。

 表題作について水を差す様ですが、「ある種の人間」を隔離して動物の様に扱う、という習慣は、国内でも、地域によっては半世紀ほど前まで残っていたらしいです。私の非常に身近な現役世代の人間でも、「そういう話があった」人がいます。表題作は確かに面白いのですが、半世紀前には紛れもない「現実」だったと思います。
…「ミイくん」は別ですが。
【2019/06/23 09:17】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
「夢の行き先」は面白いですね。事件に巻き込まれているのが自分だけではない…というところが、登場人物たちにとっても読者にとっても余裕になっている、という面はありますよね。

「ひとんち」に関しては、僕もbear13さんと同じような感想を持ちました。その意味では、この短篇集中ではちょっと落ちるかな…という気がしないでもないかなと。
【2019/06/23 21:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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