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新感覚のホラー作品集  似鳥鶏『そこにいるのに』
そこにいるのに
 似鳥鶏のホラー小説集『そこにいるのに』(河出書房新社)は、アイディアの工夫された作品が集められた短篇集です。なかでも実話怪談や都市伝説風味の作品に味がありますね。

 強盗に殺された娘の日記を読むことになった記者を描く「六年前の日記」、田舎で撮った何気ない風景に移った人影の恐怖を語る「写真」、帰り道の二階の窓の人影にまつわる奇妙な現象を描く「おまえを見ている」、子供にだけ見えるある人物を描いた「陸橋のあたりから」、Y字路の先に現れるという「Y字路おじさん」の恐怖を描く「二股の道にいる」、エゴサーチで見つけたのは撮られた覚えのない自分の画像だった…という「痛い」、帰宅時にたびたび起こる自分への警告の謎を描く「なぜかそれはいけない」、初老の女性が出会った奇妙な女の子の正体とは…「帰り道の子供」、一人暮らしの女性を見守り続けるある存在の物語「随伴者」、ある子供の失踪事件をめぐる「昨日の雪」、記憶の中に突然現れたナース服の女の恐怖を描く「なかったはずの位置に」、ストリートビューをテーマにした奇談「ルール(Googleストリートビューについて)」、父の失踪の謎を追う兄弟の探索を描いた「視えないのにそこにいる」の13篇を収録。
 軽い掌編から本格的なホラー小説まで、バラエティに富んだセレクションになっています。

 アイディアに優れた作品が多いです。特に面白く読んだのは「二股の道にいる」「痛い」「なぜかそれはいけない」「なかったはずの位置に」「視えないのにそこにいる」などでしょうか。

 「二股の道にいる」は、Y字路の先に現れる「Y字路おじさん」の恐怖を語った都市伝説風の作品です。どういうY字路にその「Y字路おじさん」が現れやすいのかとか、おじさんに捕まらないためにはどうしたらよいか、などのルールが細かく記されます。
 主人公の少年が、冒険のつもりで立ち入ったものの、どんどん追い詰められていく過程はサスペンスフル。描かれる迷路風の町並みが非常に不条理で、魅力的です。

 「なぜかそれはいけない」は、帰宅時にたびたび頭にひらめく警告に不審の念を抱く女性が主人公。細かな動きをするたびに、具体的に指示される警告には何の意味があるのか?
 それまでの伏線が明かされる結末は非常に鮮やかです。

 「なかったはずの位置に」は、あるとき突如記憶の中に現れたナース服の女の恐怖を語る作品。子供のころに襲われた恐怖の記憶に突如思い至った女性は、思い出を探るうちに、何度もその女に遭遇していたことを思い出していきます。なぜあれほどの恐怖を感じた体験を今まで忘れていたのだろうか…?
 アイディアに満ちたSF風味のホラーストーリーです。これは結構怖いですね。

 巻末の「視えないのにそこにいる」は集中で一番長い作品ですが、内容的にもこれが一番読み応えのある作品でしょう。
 仕事人間だった刑事の父が失踪し、父が使っていた部屋を訪れた兄弟は、父が隠していたノートを発見します。そこには父が追っていた謎の殺人事件に関する情報が載っていました。
 父の体の一部のみが見つかったという、北関東の山間にある久賀和里村。その場所では他の人間の遺体も大量に見つかっていました。ここに事件の真相があると感じた兄弟は久賀和里村に向かいますが…。
 都市伝説、オカルト、心霊…。いろいろな要素を匂わせながら、怪異の正体をぼかしつつ進行する序盤の展開は非常に魅力的です。人知を超えた存在と遭遇した兄弟は生き残ることができるのか…? かすかにクトゥルー神話テイストもあり、このジャンルのファンにもお薦めできる快作ですね。

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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