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ユーモアと風刺  デーモン・ナイト『ディオ』
ディオ (1982年) (Seishinsha SF series〈2002〉)
 デーモン・ナイトは、アメリカの著名なSF作家にして編集者・アンソロジスト。そして短篇の名手でもあります。
 唯一の邦訳短篇集『ディオ』(大野万紀訳 青心社SFシリーズ)は、テーマはユニーク、ユーモアと風刺がたっぷりで、非常に洗練された作品集です。


「目には目を…」
 その観測衛星では、ラグビーボール型の異星人ゴルゴンの「ジョージ」を実験的に預かり共同生活をしていました。ある日ゴルゴン側は「ジョージ」は恐ろしい罪を犯しており、人類側が「ジョージ」に充分な処罰をしなければ、彼らは人類に対して処罰をするというのですが…。

 人類と異星人とのコミュニケーションの齟齬を描いたユーモアSF作品です。全く概念の異なる異星人とのコミュニケーションは可能なのか? 筆致はユーモラスですが、テーマは意外と本質的なところをついていますね。


「あの火星人をつかまえろ」
 人間が「ゴースト化」されてしまうという事件が頻発していました。犯人は火星人に違いないとにらんだ警官の「俺」は必死で火星人を探しますが…。

 ゴースト化してしまった人間は、物質をすり抜け、現実世界には影響を及ぼせなくなってしまいます。スラップスティック調に展開される作品ですが、相手の火星人の得体の知れなさが強烈で、異星人というよりは幽霊に近い感触です。ホラー味も強い作品ですね。


「四身一体」
 未知の惑星を探検調査に訪れた男女4人は、土着の生物に捕食されてしまいます。しかしその生物は補食した生物の脳を体内に保持するという性質を持っていたのです。やがて四人は異生物の体内で目を覚まします。
 彼らは、仲間の元に戻ろうとする二人と、そのままその星で生きていくしかないとする二人に意見が分かれます。互いに体の主導権争いが始まりますが…。

 異生物に脳だけ取り込まれた男女が身体の主導権争いをするという、とんでもない発想の作品です。その生物には、意思の力で体のパーツを形成する能力があるらしく、腕や足などを作ることができるのです。意見が割れた2つのグループは、互いに相手を屈服させようとします。
 非常にユニークな発想の作品なのですが、展開は飽くまでシリアス。結末では新しい人類の誕生の情景まで描かれ、唖然としてしまいます。これは傑作ですね。


「壷の中の男」
 メング星を訪れた男ヴェインは、ボーイのジミーをだまして壷の中に閉じ込めてしまいます。ヴェインが言うには、この星にはダイヤモンドを作ることのできるマラックという種族がおり、ジミーは隠れ潜んでいるマラックの一員に違いないというのですが…。

 壷に閉じ込めた男と閉じ込められた男の知的なだまし合いが続くというサスペンスフルな作品です。ジミーは本当にマラックなのか? それともヴェインの思い込みなのか? 丁々発止の争いが描かれます。


「時を駆ける」
 タイムマシンを使わないタイムトラベルの手段を発見した男ロッシは、意図せざるタイムトラベルに入ってしまいます。すさまじい速さで時間は経過していき、しかもそこから外れるやり方もわからないのです…。

 時間旅行者はどこに連れていかれてしまうのか? 一方的なタイムトラベルにより一つの宇宙が終わってしまうという壮大なスケールでありながら、どこかユーモラスな要素も感じさせる作品です。ユニークな味わいの時間SF。


「何なりと御質問を」
 人体を改造し教育するのが当たり前になった時代、ある訓練生の少年が何者かに余計な知識を吹き込まれているのに気付いたクリシュは、少年から「ただの線」で出来ているという「訓練装置」の話を聞き出し、それを調べ始めますが…。

 あらゆる質問に答えられる「訓練装置」を利用しようとした男が自縄自縛にはまってしまう…という作品。


「ディオ」
 人体を若い状態に保つ技術のおかげで、人間がほぼ不老不死になった時代、ディオは病気のせいで老化が始まってしまいます。それと同時に素晴らしい仕事をするようになったディオに対し、元恋人のクレアは複雑な気持ちを抱きますが…。

 不老不死になったがために人間は「成熟しない」というテーマを扱った作品。「老い」とは? 「成熟」とは何なのか?という哲学的なSF作品です。


 収録作はどれもスタイリッシュです。オーソドックスなテーマを扱っていてもその扱い方が洗練されているので、非常に面白く読めます。どれも面白いのですが、なんと言っても「四身一体」のユニークさが強烈で、この一篇だけでも元がとれそうな感じです。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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