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神々と人間の物語  ロード・ダンセイニ『ダンセイニ戯曲集』

ダンセイニ戯曲集
 ロード・ダンセイニ『ダンセイニ戯曲集』(松村みね子訳 沖積舎)は、象徴的・寓話的な作品が集められた戯曲集です。小説作品と同様、ファンタスティックなモチーフやテーマが多く扱われていますね。松村みね子による訳文も流麗で美しいです。

「アルギメネス王」
 かって王だったアルギメネスは、ダルニアックに王位を簒奪され奴隷の身分に落とされていました。課された労働の最中に、地中から剣を見つけたアルギメネスは、その剣を使い王位を取り戻そうと反乱を起こしますが…。
 かっての王が奴隷となり、また現在の王もまた王位を追われてしまう…という無常観に満ちた作品です。

「アラビヤ人の天幕」
 砂漠の先の土地にあこがれる王は、一年の約束で旅に出てしまいます。やがて砂漠で出会った流浪民の恋人とともに王国へ帰ってきた王でしたが…。
 外の世界に憧れる若き王を描いたロマンティックな作品。乞食と王が入れ替わってしまう…という趣向も面白いですね。

「金文字の宣告」
 王国の扉に少年が金で描いた落書きの言葉は、王国中で騒ぎを引き起こします。落書きが「星の言葉」であると考えた王は、その意味を解くように家臣に命令しますが…。
 子供が何の気なしに書いた言葉を意味深にとらえてしまう大人たち。しかもそれが詩的な雰囲気を持って語られるところがまたロマンティックです。

「山の神々」
 乞食のアグマアは、ある日仲間の乞食たちとともに山の神々のふりをして国に入り、食べ物や酒をせしめようと考えます。彼が本当に神であるのか半信半疑の人々でしたが、やがて山の神の像がいなくなっていることがわかります…。
 乞食でありながら知恵者であるアグマアの行動が印象的です。自分たちが神であることを納得させるために口に出される言葉や行動に実に説得力があるのです。やがて神のふりをしたものたちに罰がくだることになりますが…。
 本物の神々が間接的にしか登場しないところが面白いです。乞食たちの結末が示されることで、人々は乞食たちが本物の神だったと思い、また読者には、本物の神々がいたことがわかるという仕組み。これは傑作ですね。

「光の門」
 死んでしまった泥棒のビルは気が付くと門の前に立っていました。門のそばには昔馴染みですでに死んだ別の泥棒ジムがいました。ジムはここには希望は全くないとあきらめていますが、ビルは門の向こうには希望があるはずだと考え、門を開けようとします…。
 死んで後も希望を失わないビルと、希望を失ってしまったジム、二人の泥棒が対照的に描かれます。どこかリリカルな世界観で展開される作品なのですが、どこからか神々(創造主?)の笑いが聞こえてくるようなナンセンス味かつ残酷な味もあり、集中でも印象深い作品です。

「おき忘れた帽子」
 家の前に立っている紳士は、道行く人を捕まえては、理屈をつけて家の中から帽子を取ってきてくれないかと頼みます。断る人々ばかりのなか、詩人の話を聞いた紳士は気を変えますが…。
 労働者、店員、詩人と、次々に人が入れ替わっていくのが楽しいです。結局、空想力豊かな詩人に紳士は心を動かされることになりますが…。

「旅宿の一夜」
 インドの石像から宝石を盗み出した泥棒一味は追い詰められていました。3人の僧侶たちが彼らを追いかけてきており、すでに何人かの仲間は殺されてしまったのです。一味の中の知恵者トッフは、追手を始末する方法を考えますが…。
 これは開幕からサスペンスに満ちた展開の作品。泥棒一味の作品が上手くいったかと思いきや、意外な結末が待っています。ファンタジー味も強い作品です。ボルヘスがアンソロジー<バベルの図書館>のダンセイニの巻に選んでいた作品でもありますね。

「女王の敵」
 女王の招きに応じて集まった彼女の「敵」たち。彼女の企みを疑う人々でしたが、女王の真心あふれる言葉に、「敵」たちは警戒を解いていきます…。
 「いい話」かと思いきや、意外な結末が待ち構えています。女王のキャラクターが印象に残りますね。

「神々の笑い」
 家臣たちの願いに応じて、カアノス王は美しい藪の市テックに都を移します。しかし家臣の妻たちは買い物もろくにできない町に嫌気がさし、元の都バアバル・エル・シャアナックに帰りたいとこぼします。家臣たちは予言者の弱みを握り王が元の都に帰りたがるよう偽の予言をさせますが…。
 自分たちの望みのため予言を利用する人間たちの物語。神託を信じるような人々のいる世界が舞台になってはいるものの、そこで展開される人々のやりとりは、極めて人間くさいドラマになっています。
 それだけに結末も現実的なものになるのかと思いきや、そこはやはりダンセイニ、ファンタスティックな結末が待ち構えています。

 収録作品では、「乞食」や「泥棒」といったアウトローたちが活躍する作品が多いのが特徴です。ダンセイニ世界の中で重要な役割を担う「王」や「詩人」に劣らず、彼らは重要な役割を与えられているようです。特に「山の神々」に登場する乞食アグマアは強烈な存在感がありますね。
 多くの作品で「神々」が登場しますが、登場する神々は総じて残酷です。「山の神々」「旅宿の一夜」「神々の笑い」といった作品では、神々を侮辱したがために人間が痛い目に合うという解釈もできるのですが、「光の門」における神はそうではありません。 神々は、登場人物たちを絶望に落とし込むためだけに残酷な行為を行っているように見え、その「気まぐれさ」が印象に残ります。
 また神々を多く登場させながらも、人間化された神、あるいは人格を持つキャラクターとして登場する神は皆無で、物語の背景から存在感を放つ…といったタイプの神が多いですね。特に「光の門」の神は、まったく姿を現さないながらも、強烈な存在感があります。



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 ついでに、ダンセイニ研究誌『PEGANA LOST vol.8』に収録されたダンセイニの単行本未収録の戯曲も紹介しておきましょう。


「もしもあの時」(松村みね子訳『PEGANA LOST vol.8』収録)

 妻のメリイと子供たちともにささやかながら幸せに暮らしていたジョン・ビイルは、ある日アリという東洋からの客人の訪問を受けます。ジョンはアリが破産したときに会社を通して少しばかりの金を融通してやったというのです。そのお礼にと、アリは不思議な水晶を差し上げようと言い出します。
 その水晶に願うと、自分の望みの過去に戻ることができ、そこで過去に行ったのとは違う選択をすることができるというのです。そしてそこから一日経つと、過去が変わった状態で現在に戻ってくるのだと。
 ジョンはかって駅員のせいでロンドン行きの列車に乗れなかったことを腹立たしく思っており、それについて正してきたいと考えます。メリイは自分たちとの出会いがなかったことになるのではないかと心配しますが、ジョンは会う相手が結局約束をすっぽかしていたのだから問題はないと話します…。

 過去をやり直すというファンタスティックな設定で、非常に読ませる作品になっています。一本の列車に乗れたか乗れないかで、一人の男の運命が変わってしまうのです。列車の中で出会った妖艶な女性ミラルダに惹かれたジョンは、彼女の相続を助けるために、遠くペルシャの地にまで行くことになります。
 従来あったはずの平和な生活が、血と暴力に満ちた陰謀劇になってしまうという、その対比が面白いですね。最初はただ不遇な目にあっている可憐な女性と思われたミラルダが、サディスティックな性質を露にしてくるという展開も刺激的です。その点「宿命の女」的要素もありますね。

 同じく松村みね子訳を集めた『ダンセイニ戯曲集』収録作と比べても、かなり長めの作品なのですが、物語に推進力があり、読ませる力がすごいです。ループを描くかのような結末の処理も洗練されていて、非常に完成された作品といえますね。
 SFで言うところの「歴史改変もの」で、1921年という発表年を考えると、かなり先駆的な作品といっていいかと思います。

 この手のテーマだと、主人公が重大な選択を後悔していてそれをやり直したいというパターンが多いのですが、この作品の場合、主人公は今の生活に基本満足しています。ただ腹立たしく思っていた過去の不満をはらそうとするだけなのです。
 しかしそんな些細な動機があっさりと運命を変えてしまいます。このあたり、人間が人生を切り開くというよりも、むしろ「運命」に翻弄されてしまう…という、ダンセイニ独自の視点が感じられますね。


「カボチャ」(未谷おと訳『PEGANA LOST vol.8』収録)
 軽いタッチのユーモア喜劇。農夫から買ったカボチャで巨大な力が引き出せると豪語する科学者をめぐるスラップスティックな作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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