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不思議な玩具の物語  詩野うら『有害無罪玩具』
有害無罪玩具 (ビームコミックス)
 詩野うら『有害無罪玩具』(ビームコミックス)は、SF的・幻想的な要素の濃いマンガ短篇集です。「人間の自由意志はあるのか?」とか「自分は本当に自分なのか?」といった哲学的なテーマがところどころに埋め込まれていて、恐ろしく密度の濃い作品集です。

 なぜか販売が停止された品物を収集する博物館を描く「有害無罪玩具」、止まった時間の中に閉じ込められた女性を描く「虚数時間の遊び」、不死で知性のない人魚をめぐる「金魚の人魚は人魚の金魚」、時間飛行士になった女性が1000年後の世界を訪れ、亡くなったパートナーの魂に出会おうとする「盆に覆水 盆に帰らず」の4篇を収録しています。

 「有害無罪玩具」では、販売中止になった様々な不思議な道具が紹介されていきます。自我のあるしゃぼん玉、0.5秒先の未来が見える眼鏡、未来に自分が描く絵を予知する機械、人によって見える姿が変わる人形、存在しなかったアニメの偽装記憶を植えつける装置など。
 アイディア自体も面白いのですが、さらに面白いのはその道具を使う人間の意識や行動が変わっていく様を描くところです。例えば0.5秒先の未来が見える眼鏡によって、自分の行動に意識的になり上手く動けなくなってしまう…とか。

 見る人をだましてその人の五感にとって好ましいデザインに感じさせるという「万能デザイン人形」のパートでは、その効果を示すために、人形を見ている二人の視点が同時に描かれるという面白い試みがなされています。
 二人には同じ人形が全く違う姿に見えているのですが、その姿を表現する相手の言葉までもが改竄されるので、同じものについて語っているとしか認識されない…というのです。他の道具のパートでも大なり小なりこうした問題意識が描かれており、非常に考えさせる作品に仕上がっていますね。

 「虚数時間の遊び」は、止まった時間の中に閉じ込められた女性を描く作品。無限の時間を過ごすために、主人公は様々な暇つぶしを考えます。あまりの退屈さに「幻の自分」を作り出したり、1億年単位で暇つぶしを考えたりと、ある意味、非常に恐ろしいテーマを扱った作品です。

 「金魚の人魚は人魚の金魚」は、人間が愛玩用に作り出した金魚の人魚が描かれます。不死であるのでどんな環境でも生きられ、しかし知性はないに等しいのでただ回遊するばかりという存在。周りの人間が争ったり、文明が壊滅してさえ、人魚自体は何も変わらないのです。
 やがて宇宙に追放されたり、地球が人間の住めない星になっても、人魚はただそこにいる…という無常観と、愚かな行動を繰り返す人間が対照的に描かれていて、文明批評的な視点もありますね。

 SFでいうところの「センス・オブ・ワンダー」が感じられる作品集で、これはお薦めしておきたいと思います。

テーマ:アニメ・コミック - ジャンル:アニメ・コミック

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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