FC2ブログ
怪奇のひそむ城  シェリィ・ウォルターズ『砂の館』
sunanoyakata.jpg
 シェリィ・ウォルターズ『砂の館』(小泉喜美子訳 角川文庫)は、長篇ゴシック・ロマン作品です。身寄りのない美女、広壮な館、謎の紳士、不審な女医、閉鎖的な一族、失われた記憶、そして過去の大量殺人事件…。雰囲気に満ちたエンタメ性の高い作品になっています。

 養父母を亡くし、身寄りのない若い女性ティビイは画家を生業としていました。ある日、ティビイの絵に目を留めた紳士ヴィクターから、彼の所有する屋敷<ザ・デューンズ>を保養施設として売り出すにあたり、広告となる絵を描いて欲しいと依頼されます。
 ヴィクターとともに<ザ・デューンズ>を訪れたティビイは、なぜか自分が屋敷に来たことがあるような錯覚に囚われます。彼女は養父母に引き取られる前の幼時の記憶がなかったのです。屋敷に惹かれながらも、過去に屋敷で起こった大量殺人事件の噂を聞いたティビイは不審の念を抱きます。
 屋敷は、大富豪の一族に連なるホートン・デ・ウィンターが建てたものでした。ある時、脱走した囚人たちに襲われた屋敷の住人は皆殺しにされたというのです。その事実をヴィクターはティビイに話していませんでした。
 古くからの住民であり、使用人として働く閉鎖的なボガー一族、謎の研究に打ち込む女医マーナ・クリー博士、そして何かを隠しているらしいヴィクター、ティビイはヴィクターたちには何か他の目的があるのではないかと考え始めますが…。

 解説の文章を借りて、この作品を簡単に表わすなら「怪奇のひそむ城に迷いこんだ若き美女の冒険」ということになるでしょうか。まさにそのとおりの作品なのですが、翻訳の上手さもあり、語り口が非常に上手く、全篇飽きさせません。
 屋敷に滞在しているうちに、何らかの計画を隠しているらしいヴィクターの意図に気付いたティビイが、彼の意図を探っていくようになります。街の人間が話す殺人事件の被害者数と、ヴィクターが話すそれとが異なるのはなぜなのか? やがてティビイ自身の過去にかかわる秘密もまた明らかになります。

 過去の殺人事件の因縁、背後にいる大富豪一族の陰謀、閉鎖的な一族の夫婦と障害のあるその娘、ヒロインの秘められた過去、かっての屋敷の主の秘密など、物語を面白くする要素のてんこ盛りで、「型」にはまりがちなこのジャンルの作品としては、非常に色鮮やか、動きのある物語になっています。
 ムードのある作品で、まさに現代風「ゴシック・ロマンス」といった雰囲気の作品です。ヒロインの推理がひっくり返されたりと、ミステリ的な興味もありますね。かなりの秀作といっていい作品ではないでしょうか。

 小泉喜美子さんの解説にも力が入っています。「ゴシック・ロマン」について、ウォルポール『オトラントの城』から現代に受け継がれているジャンルだということを語る合間に、現代日本の遊び心のなさについて嘆いている部分もあります。
 小泉喜美子流の現代ゴシック・ロマンというべき作品『ダイナマイト円舞曲』について、ろくな反応をもらえなかった…とも書いていますね。
 『砂の館』は本当に面白い作品なので、ぜひ何らかの形で復刊してほしいです。今ならもっと読者がつくと思うのですが。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

そそる・・・と思って調べましたが、図書館には軒並みなかったです。
今までの私なら相互貸借トライするのですが、今、事情(仕事)があり、図書館に自由に行けないので
トライもできない・・・
(涙)

トライできる日が早くきますように・・・
追伸:ゴシック・ロマン→あのビクトリア・ホルトの絶版も解消してほしい・・
【2019/02/18 21:23】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
この本、古書でもなかなか見ないのですよね。ネットでの感想もほぼ見ないので、やっぱり入手は難しくなっているのかと思います。でもすごく面白くて、これはぜひ復刊して欲しい本です。
ビクトリア・ホルトも昔は古書でよく見ましたが当時はあまり興味がなくてスルーしていました。最近はちょっとこのジャンルにも興味があって、やっぱり買っておけば良かったかな、と思ってます。
【2019/02/18 23:06】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/881-5f207d8d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する