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変り種のアンソロジー  カービー・マッコーリー編『恐怖の心理サスペンス』
恐怖の心理サスペンス―ゾクッ!とする楽しみをあなたに (ワニ文庫)
 カービー・マッコーリー編『恐怖の心理サスペンス』(矢野浩三郎訳 ワニ文庫)は、モダンホラーの名作アンソロジー『闇の展覧会』の編者として知られるマッコーリーのホラー小説アンソロジーの邦訳です。ただ、出版元の意向なのか、無理やり怪奇実話テイストのレイアウトで出版されたという、変り種の本です。

 目次を見ると完全に怪談実話のようで、どう見ても小説のアンソロジーだとは思えない作りになっています。それぞれの短篇の扉部分も、当然のごとく作者名は入っておらず、小説作品という感じではありません。原題名が英語で入っているので、かろうじて翻訳と分かる程度です。
 一応、巻末に収録作品の作者名・作家名と解説が入っているので、最後まで目を通すと邦訳アンソロジーだとわかるようにはなっています。
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 肝心の収録作品ですが、結構いい作品が入っていて、普通に面白いアンソロジーだと思います。全体に、同じ編者の『闇の展覧会』と比べても怪奇味が強いですね。

マクナイト・マーマー「嵐の夜」
 予定より早く自宅に帰ってきた人妻が、地下室で死体を発見しますが…。
 殺人犯が潜んでいるのか、それとも不在の夫の仕業なのか…? 女性の焦燥感あふれる語りのサスペンスホラー。

ポール・アンダースン&カレン・アンダースン「白い子猫」
 実業家の夫がエジプト学者の妻に出ていかれてしまい、その直後から白い子猫が周りに現れ始めます…。
 猫は実在しているのか、それとも夫の幻覚なのか…? 魔術を扱ったオカルト・ホラー作品。

ブライアン・ラムレイ「不気味な囁き」
 電車のコンパートメントで異臭を放つ小男が車掌に囁いた言葉で、ベントンは追い出されてしまいます。ことある毎に出会う小男の囁きは、人間を従わせる力があるようなのですが…。
 不気味な小男の恐怖を描くホラー。エスカレートする小男の行動が不気味です。

ラムゼイ・キャンベル「恐怖の遊園地」
 あるカーニバルを訪れたストーンは、メリー・ゴー・ラウンドに乗るうちに子供時代の記憶に囚われ始めますが…。
 象徴性の強い作品です。語り手の男を誘うものは何なのか…? 雰囲気のある作品。

デニス・エチソン「真夜中のハイウェイ」
 妻を後部座席に乗せて車でモハーベ砂漠のハイウェイを走っていたマックレイは、いつまでも目的地に着かないのに不審の念を抱きます。ようやくたどり着いたパーキングエリアには、なぜか人が見当たらないのですが…。
 起こっている事態が現実なのか、それとも超自然的なものなのかもはっきりしません。様々な解釈が可能な作品で、不気味さは集中でも一番です。

ロバート・ブロック「スカラブの呪い」
 エジプトでの研究から帰還したハートレーは、憔悴して老け込んでいました。ミイラを持ち出した彼は呪いにかかっているというのですが…。
 シンプルかつショッキングな結末が印象的な作品です。ブロックらしい怪奇味の効いたショッカー作品。

ウイリアム・F・ノーラン「死者からの電話」
 真夜中の電話に出たフランクは、相手が死んだばかりの親友レンだと名乗るのを聞いて驚きます。レンはフランクの陥っている苦境について話し、いい解決法があると提案してきますが…。
 ショート・ショートといってい短さの作品。切れ味鮮やかな作品です。

デイヴィス・グラッブ「ヒトラーを撃った男」
 「ぼく」の祖父ゲイリー・フラワーズは妙な信念を持っていました。その信念とは、世界はすべてウェスト・バーニジアの8つの郡の中にあるというもの。彼にとってヨーロッパなどという場所はありえないのです。
 親友ソルの家族が、ヒトラーによって収容所に入れられているという話を聞いたゲイリーは、ヒトラーを殺しに行くと出かけていきますが…。
 妄想癖のある祖父は実は…というファンタジー作品。これは面白いですね。ユニークな発想の作品。

ゲイアン・ウィルソン「アーネス博士の遺書」
 天才科学者アーネス博士は、不老不死の研究を進め、ついにそれを完成させます。しかしその研究には副作用がありました。時間の感覚が何倍にもなってしまうのです…。
 お話の展開の仕方が実にユニークで楽しい作品。ブラック・ユーモアにあふれた一篇です


 他の本でも読めるのは、ロバート・ブロックとゲイアン・ウィルソンの作品ぐらいでしょうか。収録作はどれも面白く、怪奇アンソロジーとしては水準以上のものだと思います。挿入されている余計な文章を除けば、訳文も普通に読みやすいです。
 『別冊幻想文学 モダンホラースペシャル』(アトリエOCTA)に、矢野浩三郎さんのインタビューが載っていて、ここに『心理サスペンス』についての記述がありました。ちょっと引用しますね。

 これはカービー・マッコーリー編纂の『Frights』の版権をとって、それを翻訳するつもりだったんです。
 あれは新しいものがかなり入っていたわけで、当時はモダンホラーという明確な括り方があったわけではないけれども、SF的なものも入れて、その新しい感じを出そうとしていたんです。ところが出版社が、読んでいて作品の内容が分からないって言うんです。
 「何が書いてあるのかわからんから書き直してくれ」と。翻訳というのは、原文そのままではなくて書き換えるのだという考え方はあるけれども、そういう翻訳論的なことではなくて、基本的に翻訳というものを理解していなかったわけですよ。仕方がないので、最初に企画していたものをバラバラにして、わかりやすいものをと入れ換えていったら、古いものが入って来ちゃった(笑)。だからかなり中途半端で、出さなきゃ良かったと思っているようなものです。カービー・マッコーリー編のものを再現するつもりが、もとのものとは違うアンソロジーになってしまったわけですから。


 矢野さんの文章を読むと、わかりやすい作品を残したということでしょうか。それでも、ラムゼイ・キャンベルやデニス・エチソンらの作品が入っているあたり、意欲的な部分も残したアンソロジーではありました。
 ちなみに、序文はフリッツ・ライバーが書いています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

こんにちは、お久しぶりです。最近は模型作りにはまってしまい本読みはご無沙汰状態です(だけどこのブログは毎回楽しみにしております)。
今回の本、昨日Amazonで見てみたら千円くらいで購入できるようだったので後で買おうと思ってたら、今は5千円以上の値がついてしまってます。このブログで取り上げられたせいでしょうかね(笑)。
kazuouさんの、「無理やり怪奇実話テイストのレイアウトで出版さたという」、が気になり蔵書を探ってみたら『心理サスペンス』という本がありました。
カバーは違いますが同じ本です。まだ読んでませんが挿し画がいい感じですね。
【2019/01/27 19:02】 URL | つくばの蝦蟇 #17ClnxRY [ 編集]

>つくばの蝦蟇さん
つくばの蝦蟇さん、こんにちは。ご無沙汰しています。

この本、B級テイスト満載で、訳者の矢野さんはご不満だったようですが、これはこれで面白い本ですね。何度か形を変えて出版されているようなので、お持ちの『心理サスペンス』と同じ本だと思います。
体裁はともかく、内容はちゃんとしたホラー小説集で面白いですよ。
【2019/01/27 23:56】 URL | kazuou #- [ 編集]

FrightSについて
FrightSの内容については素晴らしいのですが、翻訳(文章ではなく、やり方)については、はっきり言って不満が大きいですね。なぜなら、巻頭の最高傑作ラッセル・カークの中編が訳されていないこと。これはなぜだか不明。また訳書は全体の3分の2ほどで、他の作品は別のアンソロジーに入れる(エイクマンなど)など、プロの仕事都合で出され、原著の良さを引き出せてないと以前から思ってました。
現在、ナイトランドQ誌では次のコラムのために1回お休みをいただいてますが、その次からは「アンソロジーの楽しみ」を始めたいと思って準備中。この作品も思い出したので、その際にはラッセル・カークも取り上げるかもしれません。いつも、このブログは楽しみにさせていただいてます^^
【2019/01/30 23:29】 URL | Hitoshi Yasuda #SFo5/nok [ 編集]

>Hitoshi Yasudaさん
安田均さん、コメントありがとうございます! ブログも見ていただいているとのこと、ありがとうございます。
安田さんのお仕事は昔から翻訳でお世話になっていたり、『ナイトランド』の連載も楽しみに読ませていただいていました。

マッコーリーのアンソロジー、抄訳とは書いてありましたが、結構重要な作品がもれてるのですね。ラッセル・カークといえば、『闇の展覧会』 で「ゲロンチョン」が入っていた作家ですよね。邦訳を他に読んだことがないのであまりよく知らない作家なのですが、お話を聞く限りとても面白そうです。

次の連載はアンソロジーがテーマなのですね。僕も大好きなテーマですので、こちらも楽しみにしています。
【2019/01/31 18:50】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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