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光彩ある物語  ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』
言葉人形 (ジェフリー・フォード短篇傑作選) (海外文学セレクション)
 ジェフリー・フォード『言葉人形 ジェフリー・フォード短篇傑作選』(谷垣暁美編訳 東京創元社)は、現代アメリカの幻想作家フォードによる13篇を収める傑作選です。どの短篇も非常に密度が濃く、短篇ひとつだけでも、まるで長編を読んだような満足感が得られます。

 儀式によって「人間」を創造してしまった少年の物語「創造」、著名なファンタジー作家の小説世界にその助手が入り込むという「ファンタジー作家の助手」、呪われたチェスセットをめぐる奇談「〈熱帯〉の一夜」、光を操る巨匠ラーチクロフトをインタビューに訪れるという「光の巨匠」、湖底の下の洞窟を訪れた少年少女の物語「湖底の下で」、分身だけでなく分身の分身が現れるという「私の分身の分身は私の分身ではありません」、農作業に従事する子供のために作られたという人形をめぐる「言葉人形」、星々と光の謎を解き明かそうとする科学者を描く「理性の夢」、当てられると現実が変容してしまうという風をめぐるファンタジー「夢見る風」、切った相手を珊瑚に変えてしまう魔剣を持つ男を描くヒロイック・ファンタジー「珊瑚の心臓」、怪物マンティコアの魔力と人間の物語「マンティコアの魔法」、ある日巨人にさらわれた女性の冒険を描く「巨人国」、王妃の死により憂鬱に陥った王を救おうとする臣民たちを描く「レパラータ宮殿にて」を収録しています。

 正直どれも傑作といってもいいぐらいの、恐ろしくレベルの高い短編集です。個人的に面白く読んだのは、「創造」「〈熱帯〉の一夜」「光の巨匠」「私の分身の分身は私の分身ではありません」「言葉人形」「夢見る風」「巨人国」「レパラータ宮殿にて」などでしょうか。

「創造」
 儀式によって人間もどきの「人間」を創造してしまった少年。彼は「人間」にキャヴァノーという名前をつけますが、姿を消してしまったキャヴァノーに対し罪の意識を抱きます…。
 神を信じないながら愛情あふれる少年の父親がとてもいいキャラクターで、「キャヴァノー」をめぐって父子間の関係性も描かれていくという、繊細かつ情感あふれる作品です。

「〈熱帯〉の一夜」
 語り手はふと出会った少年時代の知り合いレニンから話を聞きます。ごろつきだったレニンは仲間とともに、ある老人の家に盗みに入ります。老人は純金製の高価なチェスセットを持っており、それを盗もうというのです。しかしその盗難事件は彼らに不幸をもたらしていきます…。
 語り手が間接的に話を聞く…というフォーマットにしてから怪しげな雰囲気です。レニンたちの不幸が、本当にチェスセットのせいなのかも明確には描かれないところが特徴。レニンが最後にどうなったのかも含めて、リドル・ストーリー的な味わいが強いです。

「光の巨匠」
 光を操る巨匠ラーチクロフトの元を訪れた記者オーガスト。屋敷を訪れたオーガストは、現れた首だけのラーチクロフトの姿を見て驚愕しますが…。
 序盤のラーチクロフトの屋敷や魔術的な演出の描写も非常に魅力的ですが、ラーチクロフトが思念で創造したという若い男「使者」のエピソードが出てきてからは、想像もつかない展開になっていきます。まるでボルヘスを思わせるモチーフで、しかも物語が入れ子になり絡み合っていくという複雑な構成です。

「私の分身の分身は私の分身ではありません」
 「私」はしばらく前から、自分の分身が存在し、別の場所で生活していることを認識していました。ある日現れた分身は、分身にも更に分身が生まれており、その男は「私」のせいで生み出されたと言います。
 しかもその男は邪悪であり、早々に始末する必要があるとも…。
 異色の分身小説。「分身」が当たり前のように存在する世界を舞台にした、ブラック・ユーモアあふれる作品です。分身は本体と全く同じでなく、性格までも異なっているというのがユニーク。分身同士でシェアハウスをしているという設定もおかしいです。

「言葉人形」
 ある日「私」は通りがかった「言葉人形博物館」という看板を見つけ、関心を惹かれます。館長である老婦人は「言葉人形」について語り始めます。それは農作業に従事する子供たちが仕事中の慰めとして、頭の中で遊ぶための人形でした。
 人形には名前や職業、経歴さえあるのです。想像の中で成長した言葉人形はその人が大人になっても消えないというのです。牧師の妻は、不良少年として知られるエヴロンに罰の意味を込めて「刈り取り人」の言葉人形を与えてしまいますが…。
 民俗学的なモチーフを持つ幻想小説です。非常に想像力を刺激する物語で「罰を与えられた」少年の境遇が恐怖感を持って迫ってきます。ホラー味も強く、集中でも完成度の高い作品ですね。

「夢見る風」
 リパラの町の住民たちは毎年訪れる<夢見る風>を恐れていました。その<風>は、人間、動物、植物まであらゆる物を変容させてしまうのです。<風>が去れば、物事は元に戻るのが常でしたが、たまに元に戻らないものもあったのです。
 しかしその年、<風>は町を訪れませんでした。住民たちはどこか淋しさを感じるようになりますが…。
 突拍子もない被害を起こす<夢見る風>、しかし<風>が人々に与えるものは被害だけではなかった…という物語。ファンタジー的なモチーフを扱いながらも、主眼はそこにないという面白い作品です。どこかブラッドベリを想起させますね。

「巨人国」
 高速道路から巨人につかまえられ、鳥籠に入れられてしまった二人の男と一人の女。男たちは、女を説得して巨人の妻にしてやる代わりに自分たちを助けろと、巨人との交渉を始めますが…。
 おとぎ話風に始まり、その世界観で進むのかと思いきや「現実世界」を往還したりと、融通無碍に展開する物語です。読んでいる最中は、唐突な急展開があったりと、まとまりがないように思えるのですが、それらがいろんな伏線になっています。一度読んだだけでは把握が難しい複雑な構成の作品ですね。

 「レパラータ宮殿にて」
 レパラータは特異な王国でした。王のインゲスは、世間のはみだし者たちを集め、それぞれに役職を与えて宮廷を作っていたのです。ジョゼット王妃の逝去により沈み込む王を心配した家臣たちは、王を慰めようとしますが…。
 物乞いや泥棒、娼婦などのはみだし者たちが幸せに暮らす夢のような王国、しかし夢は長くは続かなかった…という物語。ハッピーエンドではなくても、登場人物たちにある種の救済が訪れる結末も好印象です。夢のような王国の崩壊と癒しをテーマとしたファンタジーです。

 魔剣を持つ男を描く「珊瑚の心臓」や、怪物マンティコアをモチーフとした「マンティコアの魔法」などは、いわゆる「ハイ・ファンタジー」的な要素が濃く、ダンセイニ作品を思わせます。ただフォードの作品はダンセイニよりも細部の設定に凝っており、いわば「濃口のダンセイニ」といった感じですね。

 とにかく短篇一つ一つが濃厚です。一篇に長篇級の要素が複数盛り込まれた作品もあり、物語世界に没入させてくれます。それだけに短篇を連続して読むのが難しいほどで、少しづつ読んでいくのが、この本の楽しみ方としては良いのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ジェフリー・フォード短編集をもっと読みたい!
「白い果実」を装丁に惹かれて読んでみた時に理解出来なかったので不安でしたが、短編集は大丈夫でした。熱帯の一夜が良かった。チェスセットは地獄の魔導師のパズルボックス並みにヤバイ代物。スタンドバイミーみたいな読後感もあります。レニンは悪人ですが可哀想な面もあって来世は幸せな側に生まれ変われたら良いのに。
【2019/01/19 14:12】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


「〈熱帯〉の一夜」、いいですよね。いわゆる「呪いの道具」ものですが、フォードらしい肉付け加減が魅力です。確かに「ヘル・レイザー」っぽさもありますね。過去に何があったのか? とか想像させる余地があるのも楽しいです。
【2019/01/19 15:05】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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