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芥川流幻想小説集  澤西祐典/柴田元幸編訳『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』
芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚
 澤西祐典/柴田元幸編訳『芥川龍之介選 英米怪異・幻想譚』(岩波書店)は、文豪、芥川龍之介が高校生のために編んだ英米の英語読本から、怪奇幻想色の強い作品を精選したアンソロジーです。
 本邦初訳か、訳があったにしても珍しい作品を多く含んでいるという、非常に貴重な作品を集めたアンソロジーになっています。厳密には「怪奇幻想」でない作品も混ざってはいるのですが、総じて読み応えがあり、面白いアンソロジーといえますね。
 以下、簡単に主だった収録作について紹介します。

オスカー・ワイルド「身勝手な巨人」
 巨人の庭を舞台に展開される美しい童話作品です。

ダンセイニ卿「追い剥ぎ」
 絞首刑になった、かっての仲間の遺体を救おうとする悪党たちを描いています。

レディ・グレゴリー「ショーニーン」
 そっくりな青年ショーニーンとシェイマスの冒険を描くヒロイック・ファンタジーです。

アンブローズ・ビアス「月明かりの道」
 ある女の死について、多様な解釈が語られる幽霊物語。

M・R・ジェイムズ「秦皮の木」
 館の主人の怪死と、その原因について語られる名作怪奇小説。

ブランダー・マシューズ「張りあう幽霊」
 両親のそれぞれの血縁から領地や爵位を引き継いだ青年が主人公。相続したセーレムの屋敷には、主人以外にしか姿を見せないという幽霊が取り憑いていました。また引き継いだ爵位の方には代々継承者に憑いて回る幽霊がいたのです。
 爵位を継いだ青年が屋敷に戻ると、それぞれの幽霊が張り合いをはじめ屋敷は騒然たる状況になります…。
 どちらの幽霊も主人のために行動するというところがミソです。結婚相手のために幽霊をどうにかしなくてはならなくなった青年の取った秘策とは…?
 終始楽しい雰囲気につつまれたユーモア怪談です。

H・G・ウェルズ「林檎」
 「智恵の実」を手に入れた男を描く寓話的ファンタジー。

アーノルド・ベネット「不老不死の霊薬」
 不老不死の秘薬を売る男を描いた作品。

マックス・ビアボーム「A・V・レイダー」
 人の死期を手相から読み取る男を描いた作品です。
 語り手は、ホテルで出会ったいうイギリス人の男について語ります。その男は、手相を見て死を予測する術を身につけていました。ある時、列車に乗り合わせた別の乗客たちの手相を見ることになった男は愕然とします。
 周りの人間たちがほぼ死期が近づいているようなのです。これは何の予兆なのか…?
 メインとなるお話自体も面白いのですが、その話の信憑性を疑わせるような「信頼できない語り手」を描いてもおり、メタフィクション的な要素もある怪奇作品です。

アルジャーノン・ブラックウッド「スランバブル嬢と閉所恐怖症」
 閉所恐怖症の女性が、旅の途次で出会った恐怖を描いた恐怖小説です。

ヴィンセント・オサリヴァン「隔たり」
 亡き夫を求める未亡人を描いたゴースト・ストーリー。

フランシス・ギルクリスト・ウッド「白大隊」
 戦争で死んだ兵士たちの霊を描いた奇跡譚。

ステイシー・オーモニア「ウィチ通りはどこにあった」
 すでになくなってしまったウィチ通りはどこにあったのか?ということについて酒場で喧嘩が起きたことを皮切りに、様々な人物の運命がそれで変わってしまうという作品。
 非常に奇妙な群像劇で、人を喰ったようなブラック・ユーモア作品です。

ベンジャミン・ローゼンブラット「大都会で」
 都会の幻想を描いた作品。田舎娘がようやく手に入れた百貨店の仕事は、マネキンとしてショーウィンドウの中で微動だにせず座っていることでした…。
 掌編ながら結末が印象的な一篇です。「マネキン」として雇われた田舎娘の姿を幻想的に描いています。

E・M・グッドマン「残り一周」
 娘に死期を知らせるべきかどうか悩む両親と医者の物語。

ハリソン・ローズ「特別人員」
 孫を戦地に送り出した祖母が出会った不思議な事件を描いた作品。

アクメッド・アブダラー「ささやかな忠義の行い」
 アメリカで暮らす中国人実業家の日常をリアルに語った、ハードボイルド風の作品です。解説にも「ノワール」という表現がされていますが、妙な迫力のある作品で読み応えがあります。

 初訳作品の中では、「張りあう幽霊」(ブランダー・マシューズ)、「A・V・レイダー」(マックス・ビアボーム)、「ウィチ通りはどこにあった」(ステイシー・オーモニア)、「大都会で」(ベンジャミン・ローゼンブラット)が特に面白いですね。

 付録として、芥川の翻訳2篇「春の心臓」(ウィリアム・バトラー・イェーツ)、 「アリス物語(抄)」(ルイス・キャロル)、創作作品「馬の脚」も収録されています。
 「馬の脚」は、ある日脳溢血から生還した会社員が、甦る際に足を馬の脚に付け替えられてしまう…というナンセンスな幻想小説です。

 初訳作品がいくつも入っていますし、訳文も上質。怪奇幻想ファンにはお薦めしたいアンソロジーです。怪奇幻想小説ファンだけでなく、文学好きの読者にも楽しめるアンソロジーではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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【2018/12/31 10:42】 | # [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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