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唐突な変調  ディーノ・ブッツァーティ『現代の地獄への旅 ブッツァーティ短篇集Ⅱ』
現代の地獄への旅 (ブッツァーティ短篇集)
 『現代の地獄への旅 ブッツァーティ短篇集Ⅱ』(長野徹訳 東宣出版)は、イタリアの異色作家ディーノ・ブッツァーティの中・後期から15作品を収録した作品集。1巻同様、収録作はほぼ本邦初訳ながら、そのレベルの高さに驚きます。これは「拾遺」ではなく「全盛期」のブッツァーティといってもいいのではないでしょうか。

 卵探しのイベントに無断で入り込んだ母娘を描く「卵」、人間と庭に住むものたちとの夜を対比させた「甘美な夜」、虫を惨殺した家族が復讐されるという「目には目を」、ゴルフコースにおける奇跡と変身を描く「十八番ホール」、諍いをする夫婦をカタストロフが襲う「自然の魔力」、老人を襲う若者たちを描く「老人狩り」、中年男性を手玉に取る小悪魔のような女を描く「キルケー」、終身刑の受刑者がスピーチによって解放される権利が与えられるという「難問」、高級車を欲しがる男が手に入れた車の秘密を描く「公園での自殺」、天国の画家が自らの回顧展を訪れるという「ヴェネツィア・ビエンナーレの夜の戦い」、不誠実な男との付き合いに悩む娘を象徴的に描いた「空き缶娘」、友人や知人が亡くなるたびに庭に瘤が増えていくという「庭の瘤」、瞬間移動能力を手に入れた男の悩みを描く「神出鬼没」、母親との思い出を自伝的に描いた「二人の運転手」、ミラノの地下鉄工事で発見された「地獄」を取材に訪れた記者を描く中篇「現代の地獄への旅」を収録しています。

 最初に収録されている「卵」にしてから、強烈なインパクトのある作品です。子供たちのために開かれた卵探しのイベントには、高価なチケットが必要でした。女中のジルダは幼い娘を連れて無断でイベントに入り込みます。侵入がばれてしまったジルダは娘とともに追い出されそうになりますが、怒りのあまり、ある能力を発揮することになります…
 主人公が「能力」を発揮するのも唐突なのですが、その後、エスカレートする展開には開いた口がふさがりません。ほとんどSF短篇といった趣の作品ですね。

 ブッツァーティには、この「唐突な変調」が登場する作品が結構あって、この短篇集でも「十八番ホール」「自然の魔力」などは、そのタイプの作品ですね。

 「十八番ホール」は、娘や友人とともにゴルフをしていた父親が、突然ゴルフが上手くなるというのを皮切りに、とんでもない結末に至ります。この作品を序盤から読んでいてこの結末を予測できる人はいないんじゃないでしょうか。

 「自然の魔力」は夜遅く帰宅した妻に夫が怒りをぶつけ、諍いになりますが、それを無化してしまうような破局が襲う…という、これまた破天荒な作品です。

 ブッツァーティお得意の「不安」を描く作品も見逃せません。「難問」「庭の瘤」「神出鬼没」などがそのタイプの作品でしょうか。

 「難問」は、終身刑の受刑者が外界の人間に向かってスピーチを行う権利を与えられ、拍手が起きれば解放される、という話。
 ただその機会は一生に一度だけであり、失敗したら後がないのです。しかも受刑者によってその機会はいつ来るかわかりません。明日なのか、数十年後なのかさえわからない…という、代表作『タタール人の砂漠』を思わせるシチュエーションです。

 「庭の瘤」では、友人が亡くなる度に庭に奇怪な瘤が増えていく、という物語。自分と身近だったものほど瘤が大きくなるらしいのです。庭を歩き瘤にぶつかるたびに、かっての知人を思い出させられる…という寓話的作品。

 「神出鬼没」は、ある日突然、思い浮かべただけで好きな場所に移動できる瞬間移動能力を身につけた男を描く物語。富も名声も思いのままだと夢想するも、急に常識的に考え直す男の姿がブラック・ユーモアたっぷりに描かれます。他の作品とは形は違えど「不安」がテーマの作品だといっていいでしょう。

 「現代の地獄への旅」は中篇作品。ミラノの地下鉄工事でふとしたことから発見された「地獄」。編集長の要請で取材に訪れることになった記者は、その場所が現実世界のミラノとほとんど変わらないことに気付き驚きます。記者は、魅惑的な「悪魔夫人」とその部下に案内してもらうことになりますが…。
 高齢者を邪険に扱う家族たち、薬の効果でサディスティックに振舞うようになってしまう主人公など、現実世界をデフォルメしたような日常生活が描かれるのが特徴です。「地獄」は「現実世界」の裏返しなのだ…という寓話的要素の強い作品といっていいでしょうか。

 短篇集第3集として『怪物』(仮題)も予定されており、こちらも楽しみにしたいと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
twitter上でも活動しています。アカウントは@kimyonasekaiです。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」も主宰してます。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド 増補版』『奇妙な味の物語ブックガイド』『海外怪奇幻想小説ブックガイド1・2』『謎の物語ブックガイド』『海外ファンタジー小説ブックガイド1・2』『奇想小説ブックガイド』『怪奇幻想映画ガイドブック』を刊行。「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」も作成しました。



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