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夢幻の情景  高原英理『エイリア綺譚集』
エイリア綺譚集
 高原英理『エイリア綺譚集』(国書刊行会)は、非常に純度の高い幻想小説集。ただ「美しい」だけでなく、残酷さ、退廃趣味など「負」のモチーフをも併せ持つその作風は懐が広いです。

 夢を物質化する装置を描く「青色夢硝子」、林檎料理をめぐる幻想的な「林檎料理」、双子の姉を介護する少女と彼女の憧れる男の月夜の出会いを描く「憧憬双曲線」、体が石化する奇病にかかった少年の物語「石性感情」、猫人の血を引く主人の経営する書店の由来を語る「猫書店」、地下都市に移り住んだ人類の末裔の兄妹を描く「ほんたうの夏」、退職後の落ち着いた生活がだんだんと不穏になっていくという「出勤」、伝染する悪夢を描いた「穴のあいた顔」、夢見の力をネットで拡散させようとする女性の物語「ブルトンの遺言」、人間が若死にしてしまうディストピア社会を舞台にした「ほぼすべての人の人生に題名をつけるとするなら」、事故により死んだ女性が時間を遡り澁澤龍彦に会いに訪れるという「ガール・ミーツ・シブサワ」の11篇を収録しています。

 どれも独自の美意識に貫かれた作品で面白く読んだのですが、特に印象に残ったのは「青色夢硝子」「憧憬双曲線」「ほんたうの夏」「出勤」「ブルトンの遺言」などでしょうか。

 「青色夢硝子」は、ある科学者の残した、夢を物質化する装置を動かそうと、装置のもとに集まった少年たちを描く作品。稲垣足穂風のモチーフを持ったファンタスティックな作品ですが、結末のヴィジョンは非常に壮大です。

 「憧憬双曲線」は、奇病に冒された双子の姉を介護する妹娘が主人公。身よりもいなくなった少女は、月夜のみ家の前に現れる男に憧れを抱きますが…。あとがきに「中井英夫風」を目指したとありますが、確かに中井英夫、あるいは江戸川乱歩風のモチーフが感じられる、完成度の高い作品です。

 「ほんたうの夏」は、荒廃した地上を逃れ、人類が地下都市に逃れ住むようになった未来社会が舞台。時を経て人類の末裔は兄と妹の二人だけになっていました。彼らは「本当の夏」を見るため、代々伝わるいくつかのパスワードを持って地上に向かいます…。
 荒廃した未来、地下都市に暮らす人類…。それほど珍しいテーマではないにもかかわらず、集中でも非常に魅力の感じられる作品です。地上はどうなっているのか? パスワードの秘密とは? 作品の背景にある謎が奥行きを感じさせます。壮大な作品のプロローグとも思える作品で、長編化したら面白そうです。

 「出勤」は、体を壊して会社を退職した男が主人公。落ち着いた町で、家賃のいらないいわくつきの家を見つけた男は、そこで平穏な暮らしをしていましたが…。静かな日常生活を描いているのかと思いきや、ところどころで妙な場面や現象がはさまれ、読んでいてどきっとさせられます。
 これは「モダンホラー」といってもいいでしょうか。何が起こっているのかを明確に描かず、読者の想像力の余地が多分にあるところが魅力的ですね。古本屋の描写も本好きにはたまりません。

 「ブルトンの遺言」は、夢とネットをテーマにした作品。ネット上にある迷宮のようなサイト「ビルトラウム」、そしてかってブルトンに会ったことがあるという全身不随の老齢の女性。この2つの話がどのように結びついていくのか? 短いながら非常に密度の濃い作品です。

 書下ろしの「ガール・ミーツ・シブサワ」は、澁澤龍彦をモチーフに描かれた作品。かってゴスロリ少女だった編集者の女性は、車にはねられてしまいます。気がつくと18歳当時のゴスロリファッションの姿で立っていました。
 案内人によると、死んだ人間は生涯で一番思い入れの強い時期の姿になるというのです。また「幽霊」であるために、自分の生まれる100年前ぐらいまでなら、時代を移動することができるというのです。ただし人々に干渉することはできません。女性は憧れだった澁澤龍彦のもとを訪れようと考えますが…。
 澁澤龍彦と三島由紀夫との出会いや、他の著名人との出会いなど、澁澤龍彦の生涯における重要な場面を主人公は訪れます。それと同時に主人公の語りを通じて、著者の澁澤龍彦論とでもいうべきものが語られるという、ある種、私的な作品でもあります。
 澁澤龍彦という人物に対して手厳しい部分もあるのですが、彼の著作を読んだことのある人や興味のある人は面白く読めるのではないでしょうか。

テーマ:読書 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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