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ファンタスティック・ロマンス  フランシス・マリオン・クロフォードの長篇幻想小説を読む
 フランシス・マリオン・クロフォード(1854-1909)は、19世紀アメリカで絶大な人気を誇った作家です。主にエキゾチックな歴史小説やロマンス小説で人気を博しました。イタリアで生まれ、さまざまな国に住んだだけあって、その作品には異国情緒があふれています。
 没後は生前ほどの人気はなくなってしまいましたが、「上段寝台」「血は命の水だから」「泣きさけぶどくろ」など、 短篇怪奇小説のいくつかは名作として今でも読まれています。
 長篇では、幻想的要素の強い『プラハの妖術師』『妖霊ハーリド』が邦訳されており、日本語でも読むことができます。

 それでは、この長篇2作を見ていきましょう。


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『プラハの妖術師』(木内信敬 国書刊行会)

 プラハの街で暮らす美女ユノーナは、生まれつき催眠術で相手を操る能力を持っていることから「妖術師」と噂されていました。ユノーナは、盟友であるアラビア人キーヨルクとともに、高齢の老人を催眠術で生きながらえさせ、不死の研究を続けていました。
 ある日プラハを訪れた「旅びと」を自らの運命の恋人と認識したユノーナは、彼の心を捕らえようと試みます。しかし「旅びと」は、生き別れになったかっての恋人ベアトリーチェを探し続けており、ユノーナの思いを受け入れません。
 キーヨルクから、ベアトリーチェがすでに死んでいるということを聞いたユノーナは、自らの術を使って「旅びと」の心を捕らえようとします。一方、ユノーナの崇拝者イスラエル・カフカは彼女に愛を告白しますが、ユノーナは彼を邪魔者とし憎悪さえ感じていました…。

  プラハを舞台として、不思議な能力を持つ美女と運命の恋人を描く幻想的な恋愛小説です。「プラハの妖術師」ユノーナが、かっての恋人の面影を消し去り「旅びと」の心を捕らえることができるのか? というのが物語のメイン。そこにユノーナに思いを寄せる青年イスラエル・カフカ、ユノーナの協力者でありながら自らの利益のために動くアラビア人キーヨルクが絡んできます。
 「主人公」ユノーナのキャラクターが非常に魅力的です。やろうと思えば簡単に人の心を操れる能力を持ちながらも、自らの意思で自分を愛してほしいという思いから、思い人の心を手に入れることができず悩み続ける姿は実に可憐。
 恋が上手くいかずに憔悴したユノーナは、崇拝者イスラエル・カフカに残酷な対応をしてしまいます。その現場を目撃されたことから「旅びと」に軽蔑されてしまうことになり、ユノーナの苦しみはさらに増してしまうのです。

 基本は「恋愛小説」なのですが、作品全体に神秘的・超自然的な色彩が濃く現れています。ユノーナの能力や、キーヨルクの研究自体にオカルト的な色彩が既に濃いのですが、それに加えて、登場人物たちの恋愛模様はどこか「神話的」な色彩を帯びています。
「旅びと」とベアトリーチェの恋、ユノーナが「旅びと」に寄せる恋、イスラエル・カフカがユノーナに寄せる恋、そのどれもが命を賭けた恋であるということが描かれていきます。肉体的な愛というよりは、精神的な愛。言うならば「天上の恋愛」といってもいいでしょうか。

 前半は少しだれる部分もあるのですが、中盤ユノーナとイスラエル・カフカの間に事件が起こり、事態が急展開を迎えてからはサスペンスが盛り上がります。最終的に恋が成就しない人物もあるわけですが、彼らにも「救済」が訪れます。後半に登場するユノーナの「決断」には、ある種の感動がありますね。

 主要な登場人物のうち、「旅びと」のみが具体的な名前を与えられず「旅びと」と表現されるのもユニークです。「旅びと」とは、この作品を読む読者それぞれ…という意味合いもあるのかもしれませんね。

 解説は富山太佳夫氏によるものですが、いろいろと示唆に富むことが述べられています。クロフォードはゴシック・ロマンスの伝統を継承しながらも、そのロマンス(「恋愛物語」)部分を強調していった作家であり、娯楽小説の一つの範型を作り上げた、というのです。
 また『プラハの妖術師』において「漂白の旅人」というモチーフが使われているが、これはマチューリンの『放浪者メルモス』とも響きあうものがある。メルモスが放浪を強いられたものであるのに対して、クロフォード作品では旅びとは愛を求めるものとして登場する。『プラハの妖術師』は、ゴシック・ロマンスから恋愛物語への移行を示すものといっていいのではないか…。なるほどと、うなずけるところです。
 同じく著者の長篇『妖霊ハーリド』においてもそうだったのですが、確かにクロフォード作品においては作中、ゴシック要素よりも恋愛・ロマンス要素の比重がかなり大きくなっています。そういう意味では、過渡期的な作家であるといっていいのかもしれません。
 なお、巻末にクロフォードの年譜が載っていたのですが、興味を引く部分があったので、ご紹介しておきますね。

 1904年-フランスの幻想作家マルセル・シュウォッブが別荘を訪問、しかし話はあわなかったようである。



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『妖霊ハーリド』(船木裕訳 ハヤカワ文庫FT)
 
 妖霊(ジン)であるハーリドは、スルタンの娘である美女ジフワー姫の婚約者の王子が不信仰者であることを知り、王子を殺害します。勝手に人の命を奪った罪で、ハーリドは天界を追放され、地上で人間として転生させられることになります。
 人間としてジフワー姫の愛を手に入れることができたなら、ハーリドの魂は救われるというのです。地上に降り立ったハーリドは、スルタンに気に入られ、ジフワー姫の婿になることに成功します。しかしハーリドがいかに手柄を立てようとも、姫はハーリドに愛情を示そうとはしません…。

 〈アラビアン・ナイト〉風の世界で展開される、幻想的なロマンス小説です。主人公の目的が「富」や「栄光」ではなく、愛する女性の「愛情」のみという、異色のヒロイック・ファンタジーともいえるでしょうか。主人公のハーリドは元精霊だけに、その知識や力は人間になっても強大なものを持っており、それらを使って国をまとめたり、敵国を滅ぼしたりします。
 しかし、いかに手柄を立てようとも、姫はハーリドに丁重に従うものの、愛情を示そうとはしないのです。敵国のスルタンのハーレムから美女を連れてきても、嫉妬も見せることはありません。やがて敵国スルタンの寵姫だった、キリスト教徒の美女アルマスタは、ハーリドに愛情を示し始めます。
 ジフワー姫以外の女性に興味を示さないハーリドに対して、やがてアルマスタは憎悪を抱き始めます…。

 非常に雰囲気のあるファンタジイ作品で、西洋の作家が東洋を描く際に見られるとんちんかんな描写がないのは、著者クロフォードがコスモポリタンな作家であったせいでしょうか。
 人間になったばかりのハーリドが、人間の食物や寿命に対してよく知らずに死にそうになってしまうなどの描写が面白いです。普通の人間以上の力を持っていながらも、肉体的には人間と変わらないハーリドが、危険を避けながら戦っていく…という展開には、なかなかサスペンスがあります。
 しかしハーリドの目的はあくまで姫の「愛」にあり、勇猛果敢で誠実な男でありながらも、それが愛情につながらないことに悩んでしまうのです。
 姫の愛情はどうしたら得られるのか?中盤からは異教徒の娘アルマスタを挟んで奇妙な三角関係も生まれていき、非常に読ませる物語になっていますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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