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文明の鏡像  エドガー・パングボーン『オブザーバーの鏡』
オブザーバーの鏡 (創元SF文庫 ハ 12-1)
 地球には数万年前から火星人が住んでいました。人間社会を影から観察する彼らは「オブザーバー」と呼ばれ、人類が成熟するまで監視を続けようというのです。「オブザーバー」の一人エルミスは、可能性を秘めた才能豊かな少年アンジェロを監視するため、人間に化けて彼の近くで生活することになります。
 少年の才能と可能性を伸ばそうとアンジェロに協力するエルミスに対し、人間に失望した元「オブザーバー」ナミールは、アンジェロに悪影響を与えようと暗躍していました…。

 エドガー・パングボーン『オブザーバーの鏡』(中村保男訳 創元SF文庫)は、人間社会を影から観察する火星人が、地球人の少年の人生に関わりあってゆくというシリアスなSF小説です。登場人物たちの人間性が細かく描写されるという、感性豊かな作品になっています。
 基本的に「オブザーバー」たちは、地球人たちに対して露骨な介入は避けています。しかしナミールは、明らかな悪意を持って少年アンジェロの生活に介入してくるのです。エルミスは、ナミールの行動を邪魔しようとしますが、少年の人生はだんだんと不穏なものになっていきます…。

 利発な少年アンジェロだけでなく、そのガールフレンドである少女シャロンや、隣人フォイヤーマンなど、登場人物の心理や心情が細かく描かれていきます。彼らの人間性に惹かれ、感化されたエルミスもまた、熱い思いを抱いて人間社会に介入するようになるのです。
 一方、暗躍を続けるナミールの影響で、人間社会には混乱が起き始めてしまいます。エルミスは人間社会の崩壊を防げるのでしょうか?

 観察者である火星人たちは、高い技術と資力を持ってはいるものの、特別、強大な力があるわけではありません。またルールにより、積極的な介入は禁じられています。
 それゆえ、火星人たちは人間を見守り、せいぜい、いい影響を及ぼそうとする程度の行動しかできないのです。
 数万年もの間成熟に至らない人間社会、救世主かと思われた少年もまた一人の人間に過ぎないのではないか…という展開もまた、現実的かつ皮肉ではあります。

 人間は愚かかもしれないが、善意と愛を持つ人間もまた存在し、これからも存在するだろう…という透徹した認識が、全編を通して感じられます。それゆえ理想主義的なテーマを扱っていながらも「嘘くさく」ならないのです。これは傑作といっていい作品ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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